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第十五話 お祖母さんと時計③
しおりを挟む二人が婚約してから、一カ月ほど経ったある日、アオキの部屋にユウスケが娘のミドリを連れて遊びに来ていた。
正確には、下の階のミヤコの部屋へ、カヤコと一緒に行ったまま戻って来ないハギちゃんを待っているところだった。
「お菓子渡すついでに、少しだけ話してくるって言ってから二時間たったな」
「……そうだな」
「アオキ! こうなったら、俺たちも行こう」
「ちょうど俺たちの愚痴で盛り上がってるとこだったらどうする?」
「うわー、やだー、ありそう~」
「カヤコさんたちの息抜きにもなってるだろうし、ジャマしようとすんなって」
「は~い。わーかりました」
「パーパ。パパ!」
「はいよー。ミドリ~、パパだよーん」
ユウスケは、仰向けで寝ころびながら、自分のお腹の上にミドリを乗せている。ミドリも父の上で仰向けで寝ころびながら、手作りのホタテのぬいぐるみで遊んでいた。
「……なあ、ユウスケ」
「何だ? 今、ミドリとラッコの親子ごっこしてるからジャマすんな」
「……ゴロゴロして、なまけているようにしか見えないぞ」
「え~、じゃあ、こうしよう。ミドリ、アオキおじちゃんが遊んでくれるって」
「お前な……」
「やー、ぶー、パパ!」
「なぜかミドリちゃん、俺には懐いてくれないんだよな。……やっぱり、お前が一緒に遊んでやれ」
「ちゃんと一緒に遊んでるのにウルサイおじちゃんでちゅね~。子育ては適度に力抜くことが大事なんだよ。うちの嫁さんが育児について考え込み過ぎるところがあるから、俺がこうやってバランスとってんの」
「……考え込み過ぎるか。なあ、お前の奥さんってマリッジブルーになったりしたか?」
「マリッジブルー?」
「結婚前に不安になって気持ちが暗くなったりするやつのこと」
「どうだったかな~。俺たちの場合、出会って付き合って半年で結婚して、そのうちミドリが産まれて悩むヒマもなかったような」
「そっか……」
「……カヤコさん、えーと、お前の奥さんになる予定のカヤコさんがそのマリッジブルーなのか?」
「……たぶん。何かボンヤリして元気がないことが多くなったというか食欲も落ちてて心配なんだよな」
そう話したアオキは、カヤコのお祖母さんとの約束を思い出していた。
『とても美しいデザインの指輪ね。特に、つがいの鳥が……。きっと喜ぶから大丈夫よ』
『カヤちゃんは、誰よりも繊細な子なの。私の夫、あの子の大好きだったお祖父ちゃんが亡くなった時に、ご飯を食べれなくなった時期があって。でも本人に自覚がなくてね』
『ガマンしてばかりで自分の中だけで物事を飲み込むことがクセになっていたのね。一度、悩みだすと誰の言葉も耳に入らない。信じてくれない。どんどん痩せていくカヤちゃんを助けてって、毎日のように夫に願ったわ』
『しばらくしてから、思いつめた表情のカヤちゃんが誕生日に私の古びた時計が欲しいって言い出してね。私は悩んだわ。どちらかが先に死んだら時計をしまって自分だけの人生を精いっぱい歩むようにって夫との約束があったから』
『その日の晩、夢の中に夫が現れて言ったの。カヤコのことは任せてくれって。驚いて目が覚めて時計を見たら深夜一時で、ちょうど夫が亡くなった時間だったの』
『不思議な話でしょ? あなたたちから二十五時のホトトギスの話を聞いた時はビックリしたわ。やっぱり夫の仕業だと思うのよ。だって、何でホトトギスなのかも分かったもの。あの人、洒落も好きだったから。ねえ、“時鳥”さん。……ふふふふ、なーんてね』
『結婚前のカヤちゃんに、この話を絶対にしないでね。結婚した後に話してあげて。これも夫との不思議な約束なの。……えっ? あらあら、ごめんなさいね。少し気が早いこと言っちゃって。でも、ちゃんと受け取ってくれるはずよ』
『……アオキ君。カヤコをよろしくね』
(あの後、すぐだった。お祖母さんが亡くなったのは……)
「お~い。お前のスマホが鳴ったぞ。どうした? ボーとして」
ハッと我に返ったアオキが、慌ててスマホを確認した。
「カヤコさんのお父さんからだ」
「お、お義父さん!?」
「ああ、カヤコさんの元気が出る方法を探すために色々とリサーチしてて。あと、お母さんと弟さんと妹さんにも。挨拶に行った時、連絡先を交換しててよかった」
「なんて言うか、お前って根暗そうに見えて、行動力がすごいよな」
(カヤコさんのご両親は、本当にカヤコさんを大切に思ってる気がした。どちらの再婚相手もすごく良い人たちだった。弟さんも妹さんも。だからこそ、なんだろうな……)
(嫌いになれないから弱音も不満も言えなくてガマンするしかなかったのかな。好きなのに複雑な気持ちがジャマして苦しかったのかな)
「俺には、カヤコさんの本当の気持ちは分からないけど、結婚って間違いじゃないよな」
「うん、間違いではないな。少なくとも俺は幸せだし。お前たちも、そう思うから結婚するんだろ? 未来なんて自分たちで作るもんだし、先のこと気にしてもしょうがないしな。少しでも人生に後悔がない道を選び続けることしかできないさ」
「……そうだな」
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