花鳥見聞録

木野もくば

文字の大きさ
4 / 20

第四話 海と泉

しおりを挟む

「うまい! 椿つばきの花のみつって、何でこんなに美味うまいんだよ」

「モクは椿つばきが本当に好きだよね。一応、メジロだもんね」

 海辺うみべ近くの森の中で、豪快ごうかいに花のみつをついばむモクのとなりでルイは椿つばきの花びらにりかかり、ほんのり甘い匂いをかいでいました。

 すると、近くからだれかの歌声と篠笛しのぶえ音色ねいろが聞こえてきます。

「……キレイな歌と音色ねいろ

「向こうの泉の方から聞こえるな。気になるなら行ってみるか?」

「うん。ありがとう」

 ルイがモクの背に乗り、歌声と笛の主を探していると、ちょうど泉の中央にいる二人の少年を見つけました。
 藍色あいいろかみ橙色とういろの瞳の少年が吹く笛の音色に合わせて、銀色のかみと金色の瞳の少年が歌っています。
 やがて演奏と歌を終えると、ルイが思わず拍手はくしゅをして、モクがめたたえるように少年たちの頭上をグルグル飛びまわりました。

「すごいな! 思わず聞きれたぜ」
 
「素敵な演奏と歌」

 それを聞いた二人の少年は、お互いの顔を見合わせると笑い出します。

「ははは。かわいい観客が来てくれてうれしいな。そうだよね、ミヅハ?」

 藍色あいいろかみの少年が照れくさそうに話します。

「ははは。かわいい観客が来てくれてうれしいな。そうだよね、イソラ?」

 銀色のかみの少年が照れくさそうに話します。

「お前たち双子ふたごか? かみと瞳の色は違うけど、そっくりだな」

『ちがうよ。自分だけど自分じゃない存在かな?』

 モクの問いに、二人の少年は同時に答えました。

「うーん。何を言ってるかよく分からんが、今まで会ってきたヤツらも変なヤツばかりだったし、気にするだけ時間の無駄むだか」
 
「何か失礼で口の悪い鳥だな。なんか焼き鳥が食べたくなってきたぞ。そうだろ、ミヅハ?」

「口が悪いのは、お前も一緒だよ。同意しないよ、イソラ」

「性格は違うみたいだな。なあ、ルイ? おい、ルイ!?」

 ルイが頭をおさえて苦しがっていることに気付き、モクがあわてふためきます。
 その様子を見たイソラが、モクとルイに一瞬いっしゅんで近付き両腕に優しく抱えこみました。

「何だ、この力がみなぎるような感じは? いや、それよりルイ……」

 苦しそうに顔をゆがめていたルイの表情もおだやかになっていきます。

「あ、あれ? 楽になってきた」
 
「よかった! 急にどうしたんだ?」

「イソラとミヅハを見てたら急に頭が……。私、無くした記憶を探してるの。もしかして何か知ってる?」

 ルイがそうたずねると、やはり一瞬いっしゅんのうちにルイとモクの目の前に移動したミヅハが、一人と一羽を暗い瞳で見つめながらつぶやきます。

「君は、いや君たちは……」

 そんなミヅハの言葉をさえぎるようにイソラが口を開きます。

「ボクたちは何も知らないよ。そうだよね、ミヅハ?」

 ミヅハは、ハッとしたような表情になり、しばらくだまり込んだ後に静かに言葉を続けます。

「ボクたちは何も知らないよ。そうだよね、イソラ?」

 何を聞いても無駄むだだと言わんばかりの様子の二人にモクとルイは、それ以上なにも聞けませんでした。

 しばらくの沈黙ちんもくの後、イソラが自分の腕の中にいるモクとルイに語りかけます。

「おい、鳥と妖精。海に連れて行ってやるよ。すぐに元気になるから」

「へっ?」

「えっ?」

 一瞬いっしゅんの間、周りの景色が動いたと思ったルイとモクの目の前に海が広がっていました。

「どうだ? 力がみなぎるだろ。さっきの焼き鳥発言は言い過ぎたから、びに力を貸してやる」

「ああ。たしかに力がみなぎる気がする」

「うん。体がもっと楽になってきた」

 それを聞いたイソラがニコニコと笑顔になります。

「そういえばミヅハは? 一緒にいなくていいの?さっき少しだけ様子がおかしい気がしたんだけど……」

 ルイが心配そうに確認すると、イソラは悲しげな表情で答えます。

「ミヅハは、あの泉から動けない。あの泉は、多くの生贄いけにえささげられてきた。行き場のない怨念おんねんけがれがミヅハにからみついているんだ……」

「もしかして、さっきの歌は生贄いけにえたちのために?」

「ああ、何のなぐさめにもならないかもしれないが。……怨念おんねんけがれからのろいが生まれないように」

「……のろい」

 その言葉にルイの脳裏のうりに何かが思い浮かびそうになっていましたが、それを打ち消すような痛みが頭に走り、けっきょく思い出すことが出来ませんでした。





(水の少年たち)
  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

二十五時の来訪者

木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。 独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。 夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...