アリスノート

二歩りむ

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第1話 恐れにバイバイ!

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「あの、、ちょっと…やめっやめてください!!」

「へへっいいじゃんよぉ??暇してるんだろ、ちょっと構ってくれよぉぉ?」

「いい加減に、、、きゃっ」

半ば強引に男性が女性の腕を引く。女性の声は栄えた都心の中では響くことは無い。気づかれても面倒くさそうな、冷たい視線のみが向けられるだけだった。

「ちょっ、警察呼びますよ!」

「お嬢ちぁあん立場が分かってないみたいだねぇ??とりあえずこっちいこうかぁ?」

「いやっ、誰か助け…」

筋肉質な男性の前では、細身の女性の抵抗は虚しく、男性の思うままに路地裏へと連れられていく。触れなくていい、そういうものなのだ。
しかし僕は何故かそんな光景の一部になる事が出来ず、つい口走ってしまったのだった。

「あっっっっ、、、あの、、」

「あぁん???なんだぁ兄ちゃん」

「その、、、嫌がってるし、、えっと、、」

袖を掴み、よそ見しながら男性に訴えかける。

「なぁ、ボソボソ話してちゃぁ分かんねぇなぁ??」

「だから、、その、やめた方が…いいと思うん…ですけど、、」

「んだよ、文句つけようってか!!あぁん??」

唐突な大きい声に体がビクッと反応してしまう。

「ああっ、いえ、その…何でも、、、ないです」

ガタイのいい男性に睨みつけられたら、その人を目で追うことすら出来ない。所詮は俗に言う陰キャ。声の大きさは虫の音。助けようと思った女性にも笑われたような、そんな気がして街中で一人立ち尽くした。ダサすぎる。

「…あぁ、、何がしたかったんだろうな」

もういいさ、いいんだ。今後女性がどうなるかなんて知らない。助けることを放棄した僕には彼女の身を案ずる事さえ許されない。ははっ、、いつもこうなんだ、、受験の時だって無理だと決めつけて…部活だって、、こうやっていつも物事を諦めて…

『ねぇ、、ねぇ!聞こえる??そこのネガティブ思考な君!そう君!あのね、今ならまだ間に合うよ?』

「っっ誰だよ、、もう僕にできることなんて何もないんだ。ほっといてくれ」

『うんうん…怖いよね、でもそれでいいのかな』

「よくないさ。いいわけが無い。でもどうせ僕は…同じ過ちを繰り返す。そんな醜態を晒すくらいなら、これが最善の策なんだ」

『そっか、、じゃあ君は目の前のノートも所詮はゴミと。そうやって諦めて、開かないのかな』

視界を下に向ける。するとそこには薄汚れたノートが一冊、さっきまでなかったはずなのに。

「ノートって、、、このコンクリートに落ちてるやつか?」

『うん!それそれ!君にピッタリのノートだと思う!!』

「こいつを開けば、、変われるのか…」

『それは君次第、でも少し今の君とは真逆な、刺激的な日々を過ごせるかもね』

「ははっ、、そんな事で変われるなら、いくらでも開いてやるさ、こんな僕はもう…嫌なんだ」

屈んでノートを手にする。瞬間、それは黄色に神々しく光輝いて、視界をぼやけさせた。
恐る恐るページをめくる。するとノートはくるりくるりと回転し、ページがパラパラとめくれていく。その後、花吹雪のように千切れて人体を形成していった。
すると数秒後には美しい、まるで童話に出てくるお姫様のような、金髪の少女が目の前に現れたのであった。

「えっ、、えっ、、」

あまりの超常現象に口をパクパクさせることしかできない。そんな僕に少女は微笑んで見せ、口を開いた。

「私は楽観のアリス。これからよろしくね!秀一くん!」

「アリス…?えっ…???ど、どういう??」

するとプクッと少女は顔を膨らませた。

「ううぅ、なんだよー!こんなに可愛い美少女が幻想的に飛び出して来たんだから、ありがとうの一言くらいあってもいいじゃないか!あ、もしかして見惚れてて言葉も出ないのかも…そうに違いない!」

「え、、あ、なんだよこれ…」

「ってそんなことどうでもいいんだ!!早くしないと女の子、どっか行っちゃうよ?」

「そっそうだった!!…でも、、でも僕にどうこうできる事じゃ、、」

そう言うと彼女は得意げに答えた。

「ふっふっふっ、、出来るとも君の中に少しでもその女性を助けたいという思いがあるならね。よし!!それじゃあ、少し右手を僕の頭に乗せて?」

「えっと…こ、こうかな…」

「うん、うん、えへへ、、なんか撫でられてるみたいで照れちゃうね…」

何故か頬を赤く染める少女。僕も少し歯がゆく感じてしまう。

「うぅ、これになんの意味が…」

「ちょっと待ってねー…ふむふむほぅほぅ、、よし!それじゃあ君の中にある"恐れ"の感情を貰っちゃうね?」

「えっ、どういう」

「いくよ??1、2、3」

「ちょっ、まっ…」

「ドーーーーーーーーン!!!!」

キーンという音が響く。視界が白く包まれて、何も考えられなくなる。宇宙空間を漂うような、、、意識が朦朧としていて、とろけていくような、、、
そうして、気づいた時には…既に体は動いていた。

「…おい」

「ん?なんだぁ…ってさっきのやろうか??こっちは忙しいだよぉ???さっさと失せろって言ってんだよ」

「離せよ」

「あぁん?聞こえねぇな、、調子乗ってんじゃねぇぞクソ眼鏡野郎が、仏の顔も…あー何度までだったっけか。まぁいい、次止めようもんなら分かってんだろーなって……ぐぁ!!」

僕は男に持っていたハンドバックで殴りかかり、倒れ込んだ隙に女性の手を引いて男性から振りほどく。

「逃げて」

「えっ、、あっ、、ええ??」

不思議そうな表情を浮かべる女性。状況が理解出来ていないのか。

「僕が気を逸らすから早く逃げて」

「えっと、、その、、」

「だから早くしないと、、、」

「いや違っ、あの…プ、プロデューサーさーーん!」

「えっ?」

そう女性が叫ぶと、カットー!!との叫び声と同時にスーツの男性が名刺を出しながら話しかけてきた。

「あはは…ごめんね、君…これ実はフィクションなんだ」

「フィクション????」

「あ、えっとね、、アダルトビデオって分かるかな」

「えっ、あっ、えっ???」

「だからさ、撮影なんだ…その、少しくらいハプニングあったらリアリティが増すかなって思って止めなかったんだけど。ほら下見てよ」

「下…あっ、、」

そこには当たり所が悪かったのだろうか、完全に伸びきってしまっている男性がいた。

「さすがに止めないとまずいかな…って、、いゃあまさかこんなことになるなんてね、はは」

「あー、、、」

「でも困ったなーこのままじゃ大熊さんもダメそうだし、、あっそうだ!君良かったらそういうの興味ある??巻き込んじゃったお詫びもあるしさぁ、、」

「あー、、いやそういうのは…」

「いやそう言わずに、、何事も経験って言うじゃない…」

「い、いや、その、す、すいませんでしたぁぁぁぁあああ!!」

そう言って僕は呼び止める声を振り払い、一目散に現場を後にした。きっと逃げる速度は今まで生きてきた中で一番早かっただろう。ギャグ漫画なら足に渦巻きが出来ているほどに。

『…ぷっ!ぷぷぷ!!キャハハハ!!!おもしろーい!!!えへへ~実は全部知ってたんだけど、、でも本人が知らないで後悔するよりは何倍もいいよね!!これで少しは前に進めたかな、いや進めているに違いない!!だって僕がいるんだもん!!ふふーん!!!!』

「うぅ、、なんだってこんな目に…」

その後僕は恥ずかしさでベットに潜り込み寝てしまった。
そして居なくなっていた少女の代わりに、例の黄色いノートがバックに入っていることに気づくのは、明日の話…


















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