『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI

文字の大きさ
41 / 188
Mission7: 医学を広めよ

第1話 再び病に倒れる者

しおりを挟む
大きな魔物を退け、村には束の間の安堵が広がった。だがその余韻は長く続かなかった。
 数日後、防衛戦で負傷した者の傷口が赤黒く腫れ上がり、熱を出す者が次々と現れたのだ。

 「父ちゃんが……息が荒いんだ」
 「切り傷が膿んで……手が動かせなくなってる」

 村人たちの声は日に日に切迫していった。井戸水があっても、食事が改善されても、人は病に倒れる。戦っても守れない命がある。その現実が村を再び暗く覆った。

村人は慌てて薬草を持ち寄った。乾かして保存してあった葉や根をすり潰し、あるいは煎じて飲ませる。だが知識はあまりに断片的だった。

 「この葉は熱に効くって聞いたことがある」
 「いや、それは毒草かもしれない!」

 意見は分かれ、言い争いが起きる。子供の熱が下がらず、泣き叫ぶ声が夜通し響くたびに、母親は必死に神棚に手を合わせた。

 やがて村人は「薬草が駄目なら神に祈るしかない」と古い風習にすがった。
 病人の枕元に集まり、神に捧げる歌を唱える。すすり泣きが混じる声は悲痛で、悠真の胸を締め付けた。

悠真は祈祷の輪を遠くから見守りながら、強い無力感に襲われていた。
 ――こんなやり方で病が治るはずがない。
 現実世界で彼は会社員に過ぎなかったが、最低限の医学知識はある。擦り傷に消毒が必要なこと、熱には原因があること。
 だが、この世界には消毒液も薬もない。ただ曖昧な言い伝えと祈りが残っているだけだった。

 悠真の脳裏に、防衛戦の最中に見た負傷者の姿がよみがえる。血に染まった腕を押さえて歯を食いしばる若者。家族を心配しながら倒れた父親。彼らを見殺しにはできない。

悠真は拳を握りしめた。
 「もう祈りに頼るだけじゃ駄目だ。治すための知識が必要なんだ」

 井戸を掘った時のように。
 畑を耕した時のように。
 ――今度は、医学を村に広める番だ。

 この世界には病気も怪我も、現実以上に人の命を奪う。だが、知識さえあれば防げる死は多いはずだ。
 悠真は強く心に誓った。

防衛戦の余韻がまだ残る村。井戸の水も食料も、少しずつ安定してきたはずなのに、今度は「病」が人々を蝕もうとしていた。発熱した者、咳が止まらぬ者……。
 悠真は思った。戦いで傷を負っても、病で倒れても、どちらも命は失われる。ならば次に整えるべきは「医学」だ。

その夜、悠真はランプの明かりを頼りに、板の机に腰を下ろした。
 「医学 薬草 効能」――キーワードを入力すると、ワールドサーチの画面には古代から伝わる漢方や生薬の記録が、まるで図鑑のページのように次々と表示されていった。

 「熱には解熱作用のある葉……煎じて飲む。下痢には根茎。傷には葉を直接貼る方法も……」
 指でページをめくるようにスクロールしながら、炭筆を走らせる。文字だけでなく、草花の形や色、葉脈の流れまで図にして描き込んでいく。

 数時間が過ぎ、机の上には紙束が積み重なった。村の周囲で見かける草も多く載っており、悠真は「これならいける」と深く頷いた。

翌朝、村人たちを広場に集める。
 「今日は新しい知識を伝える。生き延びるための、大切な知恵だ」
 悠真が広げたのは、夜を徹して描いた「薬草リスト」。そこには効能と見分け方、採取場所が簡潔に書かれていた。

 「例えばこの草。森の入口に多い。葉を煎じれば熱を下げる。形はこの絵の通りだ」
 「この根は腹痛に効く。ただし、似た草には毒があるから注意が必要だ」

 最初は村人たちも懐疑的で、「草なんかで病が治るのか?」と眉をひそめていた。だが悠真が実際に葉を擦り潰し、匂いを嗅がせると、「確かに薬草独特の匂いがするな……」とざわめきが広がった。

ユナは真剣に耳を傾け、紙を覗き込みながら小さな声で言った。
 「これなら、子供でも覚えられるね。遊びながら探せるよ」

 悠真はその言葉に頷き、子供たちにこう呼びかけた。
 「遊びのついででいい。見かけた草を覚えて、どこに生えていたかを教えてくれ」

 子供たちは「分かった!」と目を輝かせて走り出す。
 その姿を見て、村の大人たちも「じゃあ俺たちは森の奥を探すか」「女たちは乾燥棚を作るか」と少しずつ動き始めた。ユナは自然と子供たちをまとめ、草の名前を繰り返し教える姿はまるで小さな先生だった。

 数日後、広場には籠いっぱいに薬草が並び始めていた。
 「これは……?」「解熱用の葉っぱです!」子供たちが胸を張って答える。
 老人たちは「昔も似た草を使った記憶がある」と懐かしげに頷き、若者たちは森で根を掘り、ユナがまとめて乾燥棚に並べていく。

 自然と「薬草採取班」と呼ばれる集団が生まれ、彼らは毎日のように森や草原へ足を運ぶようになった。

広場には干された草束が並び、煎じる香りが漂う。
 それを見た村人たちは口々に言った。
 「薬があるってだけで安心するもんだな」
 「神頼みだけじゃないんだ……」

 人々の表情から、不安がほんの少しずつ薄れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...