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序章
第3話 報酬すら面倒がる勇者
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ゴブリンの集落を壊滅させてから数日後の昼下がり。
悠は宿屋の柔らかなベッドに大の字で寝転がり、至福の時間を味わっていた。
陽だまりのような温もりに包まれて、心地よくまぶたが閉じていく。
――が、その静寂を無遠慮に叩く音が響いた。
「勇者様! 勇者様! ギルドマスターがお呼びです!」
宿屋の扉を叩きながら叫ぶリオネルの声。悠は眉をひそめ、布団を頭までかぶった。
「……はぁ、またかよ。呼び出されるのが一番面倒なんだよ……」
抵抗する彼の腕を、従者リオネルがぐいっと引っ張る。
「勇者様、仕方ありません! ギルドマスター直々のお達しです、さすがに無視は……」
「……無視して寝ちゃダメ?」
「ダメです!」
結局、悠は布団からずるずると這い出し、寝癖のまま渋々ギルドへ向かうことになった。
ギルド本部、会議室。
重厚な扉を押し開けると、空気が一変する。
円卓の周囲にはギルドマスターと幹部数名が並び、机上には報告書や地図が整然と広げられていた。
まるで軍議のような張り詰めた雰囲気に、悠はげんなりと肩を落とす。
「……なんか思ったより重苦しいな。帰りたいけど」
悠が椅子に腰を下ろすや否や、盛大なあくびが一つ。
幹部の何人かが苦虫を噛み潰したような顔をした。
マスターは咳払いをして声を発した。
「篠原悠殿。先日の件について、正式に報酬を伝えねばならん」
「いや別に……報酬とかいらないんだけど。呼び出された時点で迷惑だし」
気のない返事に、受付嬢とリオネルが青ざめる。
だがマスターは表情を崩さず、淡々と話を続けた。
「近頃、王都周辺ではゴブリンの出現報告が異常に多かった。
本来なら調査クエストを発行し、部隊を派遣する予定だった。
だが君は、たった一人でその脅威を根こそぎ排除してしまった」
「ふーん」
悠は片手で頬杖をつき、興味なさそうに視線を泳がせる。
「その功績に対し、ギルドとして正式に報酬を支払う。討伐分、調査費の節約分、さらに勇者殿に掛けた迷惑料も含め――」
マスターが部下に顎で合図を送ると、重い袋が机の上に置かれた。
革袋の口から、金色の輝きがちらりとのぞく。
「……金貨五百枚だ」
会議室がざわめいた。
受付嬢は小さく声を上げ、リオネルは息を呑む。幹部の一人などは思わず身を乗り出した。
「ご、ごひゃく……!? 一介の冒険者が数十年掛けても稼げぬ額だぞ……!」
「迷惑料まで含めたとしても、これは……」
だが、当の悠は眉をひそめ、心底うんざりした顔をした。
「……いや、そんなに貰っても困るんだけど。持ち歩くのも重いし、いちいち保管場所とか考えるの面倒じゃん」
室内が一瞬で静まり返った。
幹部たちは信じられないという顔をし、受付嬢は頭を抱え、リオネルは半ば腰を抜かしかけていた。
数秒の沈黙の後――ギルドマスターは腹の底から豪快に笑い声を上げた。
「フハハハッ! 勇者殿、やはり只者ではない! 常識の枠に収まらぬ御仁よ! だが……こればかりはギルドの面子、受け取ってもらわねばならん!」
悠はため息をつきながら袋を受け取る。
その仕草は、まるで不要な荷物を押し付けられたように投げやりで、手の中の金貨の重みを鬱陶しげに振って見せた。
「……ほんと、世の中って面倒なことばっかだな」
会議室の全員が呆然と見守る中、悠はあくびを噛み殺しながら立ち上がった。
金貨五百枚という大金を手にしたにもかかわらず、その背中は「面倒くさい」の一言で片付けられるほど気だるげだった。
ギルド会議室で金貨五百枚を受け取った数日後。
王都の街中は、ある噂で持ちきりだった。
「聞いたか? たった一人でゴブリンの集落を壊滅させた勇者がいるらしいぞ!」
「しかも、ギルドから金貨五百枚の報酬をもらったって話だ!」
「えっ……五百!? 凄腕冒険者でも滅多に手にできない額だぞ……」
酒場では冒険者たちが目を輝かせ、露店では商人が客にその話を持ち出し、街の子供たちまでもが「勇者さまー!」と口にする。
――もちろん、悠本人は全く喜んでいなかった。
「……勝手に盛り上がってんじゃねぇよ。外歩くのも面倒になったじゃんか」
宿の窓から外を覗き、うんざりと溜め息を吐く。
だが、さらに厄介なのは冒険者たちだった。
夕方、宿を出ようとした悠を、数人の粗暴そうな男たちが路地で取り囲む。
「よう勇者サマ。噂は聞いてるぜ」
「金貨五百枚も持ってるんだってな? 少し分けてくれよ」
「俺たち貧乏冒険者に寄付ってやつだ。なぁ?」
にやにやと笑いながら手を伸ばしてくる冒険者たち。
悠は眉をひそめ、頭をかきながら呟いた。
「……はぁ。こういうバカが絶対出てくると思ったんだよな」
「なんだと!」
一人が胸ぐらを掴もうとした瞬間――。
バチッ、と空気が震え、次の瞬間には全員が路地裏の石畳に沈んでいた。
気を失い、泡を吹いて転がる冒険者たち。
悠はため息をつきながらその場を離れる。
「英雄扱いされるのも、絡まれるのも、どっちも面倒だな……」
こうしてまた一つ、勇者を巡る“面倒ごと”が街中に広まっていくのだった。
悠は宿屋の柔らかなベッドに大の字で寝転がり、至福の時間を味わっていた。
陽だまりのような温もりに包まれて、心地よくまぶたが閉じていく。
――が、その静寂を無遠慮に叩く音が響いた。
「勇者様! 勇者様! ギルドマスターがお呼びです!」
宿屋の扉を叩きながら叫ぶリオネルの声。悠は眉をひそめ、布団を頭までかぶった。
「……はぁ、またかよ。呼び出されるのが一番面倒なんだよ……」
抵抗する彼の腕を、従者リオネルがぐいっと引っ張る。
「勇者様、仕方ありません! ギルドマスター直々のお達しです、さすがに無視は……」
「……無視して寝ちゃダメ?」
「ダメです!」
結局、悠は布団からずるずると這い出し、寝癖のまま渋々ギルドへ向かうことになった。
ギルド本部、会議室。
重厚な扉を押し開けると、空気が一変する。
円卓の周囲にはギルドマスターと幹部数名が並び、机上には報告書や地図が整然と広げられていた。
まるで軍議のような張り詰めた雰囲気に、悠はげんなりと肩を落とす。
「……なんか思ったより重苦しいな。帰りたいけど」
悠が椅子に腰を下ろすや否や、盛大なあくびが一つ。
幹部の何人かが苦虫を噛み潰したような顔をした。
マスターは咳払いをして声を発した。
「篠原悠殿。先日の件について、正式に報酬を伝えねばならん」
「いや別に……報酬とかいらないんだけど。呼び出された時点で迷惑だし」
気のない返事に、受付嬢とリオネルが青ざめる。
だがマスターは表情を崩さず、淡々と話を続けた。
「近頃、王都周辺ではゴブリンの出現報告が異常に多かった。
本来なら調査クエストを発行し、部隊を派遣する予定だった。
だが君は、たった一人でその脅威を根こそぎ排除してしまった」
「ふーん」
悠は片手で頬杖をつき、興味なさそうに視線を泳がせる。
「その功績に対し、ギルドとして正式に報酬を支払う。討伐分、調査費の節約分、さらに勇者殿に掛けた迷惑料も含め――」
マスターが部下に顎で合図を送ると、重い袋が机の上に置かれた。
革袋の口から、金色の輝きがちらりとのぞく。
「……金貨五百枚だ」
会議室がざわめいた。
受付嬢は小さく声を上げ、リオネルは息を呑む。幹部の一人などは思わず身を乗り出した。
「ご、ごひゃく……!? 一介の冒険者が数十年掛けても稼げぬ額だぞ……!」
「迷惑料まで含めたとしても、これは……」
だが、当の悠は眉をひそめ、心底うんざりした顔をした。
「……いや、そんなに貰っても困るんだけど。持ち歩くのも重いし、いちいち保管場所とか考えるの面倒じゃん」
室内が一瞬で静まり返った。
幹部たちは信じられないという顔をし、受付嬢は頭を抱え、リオネルは半ば腰を抜かしかけていた。
数秒の沈黙の後――ギルドマスターは腹の底から豪快に笑い声を上げた。
「フハハハッ! 勇者殿、やはり只者ではない! 常識の枠に収まらぬ御仁よ! だが……こればかりはギルドの面子、受け取ってもらわねばならん!」
悠はため息をつきながら袋を受け取る。
その仕草は、まるで不要な荷物を押し付けられたように投げやりで、手の中の金貨の重みを鬱陶しげに振って見せた。
「……ほんと、世の中って面倒なことばっかだな」
会議室の全員が呆然と見守る中、悠はあくびを噛み殺しながら立ち上がった。
金貨五百枚という大金を手にしたにもかかわらず、その背中は「面倒くさい」の一言で片付けられるほど気だるげだった。
ギルド会議室で金貨五百枚を受け取った数日後。
王都の街中は、ある噂で持ちきりだった。
「聞いたか? たった一人でゴブリンの集落を壊滅させた勇者がいるらしいぞ!」
「しかも、ギルドから金貨五百枚の報酬をもらったって話だ!」
「えっ……五百!? 凄腕冒険者でも滅多に手にできない額だぞ……」
酒場では冒険者たちが目を輝かせ、露店では商人が客にその話を持ち出し、街の子供たちまでもが「勇者さまー!」と口にする。
――もちろん、悠本人は全く喜んでいなかった。
「……勝手に盛り上がってんじゃねぇよ。外歩くのも面倒になったじゃんか」
宿の窓から外を覗き、うんざりと溜め息を吐く。
だが、さらに厄介なのは冒険者たちだった。
夕方、宿を出ようとした悠を、数人の粗暴そうな男たちが路地で取り囲む。
「よう勇者サマ。噂は聞いてるぜ」
「金貨五百枚も持ってるんだってな? 少し分けてくれよ」
「俺たち貧乏冒険者に寄付ってやつだ。なぁ?」
にやにやと笑いながら手を伸ばしてくる冒険者たち。
悠は眉をひそめ、頭をかきながら呟いた。
「……はぁ。こういうバカが絶対出てくると思ったんだよな」
「なんだと!」
一人が胸ぐらを掴もうとした瞬間――。
バチッ、と空気が震え、次の瞬間には全員が路地裏の石畳に沈んでいた。
気を失い、泡を吹いて転がる冒険者たち。
悠はため息をつきながらその場を離れる。
「英雄扱いされるのも、絡まれるのも、どっちも面倒だな……」
こうしてまた一つ、勇者を巡る“面倒ごと”が街中に広まっていくのだった。
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