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七将編(剛腕将軍グラドン)
第9話 嘆願される勇者
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領主の館の前にある広場。
冬の冷たい風が吹き抜ける石畳の上に、次々と人々が集まってきていた。鐘の音が高らかに鳴らされ、兵士たちが呼びかけるたびに、痩せこけた男や疲れ切った女、幼い子を抱いた母親たちが広場へと足を運ぶ。
最初はまばらだったが、やがて数十人が百人となり、二百人となり――気づけば広場は埋め尽くされていた。
皆の顔には、長い恐怖と飢えの影が濃く刻まれている。目の下には隈があり、衣服は埃にまみれ、声は枯れてかすれていた。それでも、人々の視線はただ一人の男へと向けられていた。
壇上に立った領主は、震える声で告げる。
「勇者殿が……勇者殿が、この鉱山都市に来てくださった!」
一瞬、広場は水を打ったように静まり返った。
そして、次の瞬間。
「勇者様だ!」
「本当に……勇者様が!」
割れるような歓声が広場を揺らした。
その声には、これまで押し殺されてきた恐怖と絶望が、一気に解き放たれたような切実さがあった。
「助かった……!」
「これで都市は救われる!」
「勇者様……勇者様……!」
人々は口々に叫び、涙を流しながら手を伸ばした。
だが、当の勇者・篠原悠は壇上の横で腕を組み、あからさまに顔をしかめていた。
群衆の熱気を前に、彼はため息を吐き、ぼそりと呟いた。
「……またこのパターンか」
その声は小さく、隣にいたリオネルしか聞き取れなかった。
だが悠の露骨な不機嫌さは、表情から誰の目にも明らかだった。
群衆の中から、一人の母親が泣き叫びながら前へ飛び出した。
「勇者様! どうか、どうか私の息子を助けてください! 鉱山に入ったきり、戻ってこないのです!」
その声に呼応するように、別の女が続いた。
「夫を助けてください! 働きに出て、もう三日も……三日も帰らないのです!」
さらに別の老人が膝をつき、杖を落としながら声を震わせる。
「わしの孫を……。まだ十八にもならぬ子なのです。どうか……!」
そのたびに悠は眉をひそめ、視線を逸らした。
「……はぁ」
だが、懇願は止まらない。
人々は涙と共に勇者の足元に縋りつこうとし、兵士たちが必死に押しとどめる。
そして――。
小さな影が人垣をすり抜け、悠の前に立った。
それは少女だった。顔は涙と泥でぐしゃぐしゃになり、細い手が震えながら勇者の服をぎゅっと掴んだ。
「……お父さんを……助けてください」
その言葉に広場全体が息を呑む。
押し殺した嗚咽があちこちから漏れ、母親たちは子を抱き寄せ、老人たちは祈るように両手を合わせた。
悠は苦々しく顔を歪め、目を逸らした。
「……泣かれるのが一番苦手なんだよな」
その仕草は心底面倒そうであったが、民衆には「勇者が心を動かされた」と映った。
「勇者様ならきっと!」
「どうか鉱山の呪いを打ち払ってください!」
「この都市を救ってください!」
広場は祈りと懇願の声で埋め尽くされ、空気は熱を帯びていた。
兵士たちでさえ拳を握り、勇者を見上げている。
リオネルは群衆を前に、声を張り上げた。
「勇者様が必ず、この異変を解決してくださいます!」
その言葉に広場は再び歓声に包まれた。人々は涙を流し、勇者の存在を讃え、希望を取り戻そうと必死だった。
一方で悠は、頭を抱えてぼやく。
「……これ、断った方が静かじゃね?」
リオネルは慌てて前に出て、再び群衆へ向き直る。
「勇者様は、この都市を見捨てることは決してありません!」
その声は確かに力強く響いた。だが同時に悠の耳には、勝手に約束を取り付けられたようにしか聞こえなかった。
「……勝手に決めんなよ」
悠は心底うんざりした声で呟いた。
だが、広場に集まった誰もが信じて疑わなかった。
「勇者様が来てくださった」という事実が、絶望に沈んでいた人々に光を差し込んだのだ。
悠が渋い顔をすればするほど、それは「覚悟の表れ」だと解釈されていく。
「勇者様が……決意してくださったんだ!」
「これで都市は救われる!」
歓声と涙と祈りが夜空へと響き渡り、都市を覆っていた暗い絶望をほんの少し押し返していった。
悠はただ一つ、心の中でぼやく。
「……静かに寝たいだけなのに」
だが、そのめんどくさがりの背中に、都市全体の希望が押し寄せていた。
冬の冷たい風が吹き抜ける石畳の上に、次々と人々が集まってきていた。鐘の音が高らかに鳴らされ、兵士たちが呼びかけるたびに、痩せこけた男や疲れ切った女、幼い子を抱いた母親たちが広場へと足を運ぶ。
最初はまばらだったが、やがて数十人が百人となり、二百人となり――気づけば広場は埋め尽くされていた。
皆の顔には、長い恐怖と飢えの影が濃く刻まれている。目の下には隈があり、衣服は埃にまみれ、声は枯れてかすれていた。それでも、人々の視線はただ一人の男へと向けられていた。
壇上に立った領主は、震える声で告げる。
「勇者殿が……勇者殿が、この鉱山都市に来てくださった!」
一瞬、広場は水を打ったように静まり返った。
そして、次の瞬間。
「勇者様だ!」
「本当に……勇者様が!」
割れるような歓声が広場を揺らした。
その声には、これまで押し殺されてきた恐怖と絶望が、一気に解き放たれたような切実さがあった。
「助かった……!」
「これで都市は救われる!」
「勇者様……勇者様……!」
人々は口々に叫び、涙を流しながら手を伸ばした。
だが、当の勇者・篠原悠は壇上の横で腕を組み、あからさまに顔をしかめていた。
群衆の熱気を前に、彼はため息を吐き、ぼそりと呟いた。
「……またこのパターンか」
その声は小さく、隣にいたリオネルしか聞き取れなかった。
だが悠の露骨な不機嫌さは、表情から誰の目にも明らかだった。
群衆の中から、一人の母親が泣き叫びながら前へ飛び出した。
「勇者様! どうか、どうか私の息子を助けてください! 鉱山に入ったきり、戻ってこないのです!」
その声に呼応するように、別の女が続いた。
「夫を助けてください! 働きに出て、もう三日も……三日も帰らないのです!」
さらに別の老人が膝をつき、杖を落としながら声を震わせる。
「わしの孫を……。まだ十八にもならぬ子なのです。どうか……!」
そのたびに悠は眉をひそめ、視線を逸らした。
「……はぁ」
だが、懇願は止まらない。
人々は涙と共に勇者の足元に縋りつこうとし、兵士たちが必死に押しとどめる。
そして――。
小さな影が人垣をすり抜け、悠の前に立った。
それは少女だった。顔は涙と泥でぐしゃぐしゃになり、細い手が震えながら勇者の服をぎゅっと掴んだ。
「……お父さんを……助けてください」
その言葉に広場全体が息を呑む。
押し殺した嗚咽があちこちから漏れ、母親たちは子を抱き寄せ、老人たちは祈るように両手を合わせた。
悠は苦々しく顔を歪め、目を逸らした。
「……泣かれるのが一番苦手なんだよな」
その仕草は心底面倒そうであったが、民衆には「勇者が心を動かされた」と映った。
「勇者様ならきっと!」
「どうか鉱山の呪いを打ち払ってください!」
「この都市を救ってください!」
広場は祈りと懇願の声で埋め尽くされ、空気は熱を帯びていた。
兵士たちでさえ拳を握り、勇者を見上げている。
リオネルは群衆を前に、声を張り上げた。
「勇者様が必ず、この異変を解決してくださいます!」
その言葉に広場は再び歓声に包まれた。人々は涙を流し、勇者の存在を讃え、希望を取り戻そうと必死だった。
一方で悠は、頭を抱えてぼやく。
「……これ、断った方が静かじゃね?」
リオネルは慌てて前に出て、再び群衆へ向き直る。
「勇者様は、この都市を見捨てることは決してありません!」
その声は確かに力強く響いた。だが同時に悠の耳には、勝手に約束を取り付けられたようにしか聞こえなかった。
「……勝手に決めんなよ」
悠は心底うんざりした声で呟いた。
だが、広場に集まった誰もが信じて疑わなかった。
「勇者様が来てくださった」という事実が、絶望に沈んでいた人々に光を差し込んだのだ。
悠が渋い顔をすればするほど、それは「覚悟の表れ」だと解釈されていく。
「勇者様が……決意してくださったんだ!」
「これで都市は救われる!」
歓声と涙と祈りが夜空へと響き渡り、都市を覆っていた暗い絶望をほんの少し押し返していった。
悠はただ一つ、心の中でぼやく。
「……静かに寝たいだけなのに」
だが、そのめんどくさがりの背中に、都市全体の希望が押し寄せていた。
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