『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第70話 決着の予感と勇者

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地の底が震えていた。
 岩盤の奥で生まれた力が暴れ狂い、空気を裂く。
 熱気と瘴気が渦を巻き、まるで地獄そのものが口を開けたようだった。

 かつて鉱夫たちが汗を流したこの坑道は、今や戦場。
 崩れた祭壇の間で、悠とグラドン――二つの巨影が、なおも立っていた。

 グラドンの体は限界に近い。
 裂けた筋肉からは黒い血が流れ、呼吸は荒く、肩で息をしている。
 それでも、その眼光は燃え尽きていなかった。

「……勇者……ッ!」
 声を絞り出すたび、血泡が唇からこぼれる。
「お前を砕くまで、俺は――倒れんッ!!」

 咆哮。
 それはもはや怒りではなく、己の存在を証明するための咆哮だった。
 傷つき、折れ、崩れながらも、彼は立ち上がる。

 悠は肩をすくめた。
「いや、もう十分だろ。しつこいのは嫌われるぞ」

 その軽い口調とは裏腹に、空気は一瞬で張り詰めた。
 悠の拳がわずかに光る。
 蒼白く、静かで、それでいて恐ろしいほどの密度を持つ光。

 グラドンが斧を構えた。
 全身から赤黒い魔力が噴き出し、床の岩が砕ける。
 その圧力だけで、周囲の兵士たちは通路の奥まで吹き飛ばされそうになった。

 リオネルが叫ぶ。
「勇者様! お下がりください! このままでは――!」

 だが悠は動かない。
 むしろ、一歩、ゆっくりと前へ出た。

「……もう、引くほどの余力もないんでな」

 蒼と紅。
 二色の光が交錯し、坑道全体を照らす。
 まるで昼と夜が同時に訪れたような、異様な光景だった。

 グラドンの巨体が動く。
 轟音を伴い、斧が振り上げられた。
 その軌跡を追うだけで、空気が裂ける。

「これで……終わりだァァァァッ!!!」

 振り下ろされる一撃。
 その重みは山を砕き、国を沈める。

 だが悠は、微動だにしなかった。
 拳を構え、低く呟く。

「……寝たいんだよ、いい加減」

 ――ドンッ!

 光と音が世界を呑み込んだ。
 拳と斧が激突し、坑道全体が爆ぜる。
 蒼い光が紅を喰らい、紅が再び膨れ上がる。

 岩壁が砕け、天井が崩れ、地鳴りが地上にまで届く。
 街の人々が悲鳴を上げながら空を見上げた。
 領主が広場で声を張る。

「恐れるな! あれは――勇者殿が戦っておられる証だ!」

 兵士も、民も、子どもも、誰もが祈った。
 「勇者様、どうか……」
 その声が、地の底の悠へ届くはずもない。

 だが、不思議なことに――悠の口元が、ほんのわずかに緩んだ。

「……勝手に盛り上がってんな」

 拳を押し込む。
 蒼光がさらに強く輝く。
 爆風が巻き起こり、岩石が空を飛び、崩れた壁が砂塵と化した。

 グラドンが呻き声を上げる。
「ぬ、ぅぅぅぅうううっ!!」
 その体に、亀裂が走った。
 血が噴き出し、魔力が暴発する。

 リオネルが祈るように呟いた。
「勇者様……どうか、この戦いを……」

 しかし悠は淡々と呟く。
「……まだだ。こいつ、倒れてねぇ」

 グラドンがぐらつきながら立ち上がる。
 血走った瞳が悠を見据えていた。

「人間……お前……何者だ……!」

 悠は首を回し、面倒くさそうに答える。
「勇者。名前覚えとけ」

 グラドンの口元が歪む。
「ふ、ふはははは……そうか……ならば誇れ……勇者よ……」

 その目は、もはや敗北の色ではなかった。
 滅びゆく者の、誇りと憎悪を抱いた輝きだった。

「俺の名は……剛腕将グラドン……七将の一角……」
「……あーはいはい、長いな。まとめてくれ」

 悠が軽口を叩く間にも、地面が震えた。
 グラドンの体から赤黒い光が再び溢れ出す。
 それは血と肉を焼くような熱量を帯び、天井の岩盤が溶け落ちていく。

 悠が一歩下がる。
 拳に蒼い光が宿り、空気が変わった。

「……まだ出せるのかよ。どんだけ体力あるんだ」

 グラドンは叫んだ。
「この身が砕けても構わぬ! 我が誇りは……滅びぬッ!!!」

 赤黒い光が爆ぜた。
 斧が灼熱のように輝き、周囲の岩石を燃やしながら振り上げられる。

 悠は拳を構え、短く息を吐く。
「……決着、つけるか」

 次の瞬間、二人の姿が掻き消えた。

 爆発。
 閃光。
 衝撃波。

 すべてが混ざり合い、地の底が再び揺れる。
 音も光も、すべてが限界を超えていた。

 地上では、教会の鐘が鳴り、人々が広場でひざまずいた。
 領主が目を閉じ、静かに呟く。
「勇者殿……どうかこの地をお救いください……」

 地鳴りが止んだのは、それからしばらくしてのことだった。

 粉塵が舞う。
 崩れた坑道の奥で、悠の姿が浮かび上がる。
 全身が土と血で汚れ、服は破けている。

 それでも、その目はまだ生きていた。

「……っはぁ。終わってねぇな、まだ」

 瓦礫の中から、低い唸り声が響く。
 見ると、グラドンの巨体が、ゆっくりと持ち上がろうとしていた。
 体は崩れ、片腕は垂れ下がっている。
 それでも――立ち上がる。

「人間……この俺を……ここまで追い詰めるとは……」
 血を吐きながら、グラドンが呟く。

 悠は額に手を当て、ため息をついた。
「お前、ほんと頑丈だな。面倒にも程がある」

 しかしその声音には、わずかな敬意が滲んでいた。
 死に瀕しながらも闘志を失わぬ相手に、彼はわずかに目を細める。

 そして――。

 空気が再び震えた。
 グラドンの全身に、異様な赤黒い脈動が走る。
 瓦礫が浮き上がり、壁が波打つ。

 リオネルが息を呑む。
「まさか……さらなる魔力解放……!?」

 悠は、拳を握り直しながら呟いた。
「……そういう展開、嫌いじゃねぇけどな」

 蒼い光が再び灯る。
 赤と蒼。
 光と闇。

 ふたつの力が、再び衝突の瞬間を迎えようとしていた。
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