『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第73話 限界突破の怪物と勇者

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瓦礫と血の匂いが混ざり合う、地獄のような坑道。
 蒼い光がゆらりと揺れ、静寂がわずかに戻りつつあった。

 ――だが、その沈黙は終わりの合図ではなかった。

 低い唸りが地の底から響き、砕けた岩が震えた。
 リオネルが反射的に剣を構える。
「ま、まだ……動くのか……!」

 土煙の奥で、何かが脈動している。
 赤黒い光が、心臓の鼓動に合わせるように断続的に明滅した。
 その中心に――グラドンがいた。

 全身が裂け、筋肉が破裂し、骨が軋む音が響く。
 皮膚の下で何かが膨張し、異様な影が肉の中を蠢いていた。
 もはや人間でもオーガでもない。
 ただ“化け物”という言葉だけが似合う姿だった。

「……貴様……」
 悠が静かに呟く。
「まだ立つのか。どんだけタフなんだよ」

 返事の代わりに、耳を裂く咆哮が坑道を貫いた。

「うおぉぉぉぉぉおおおおおッ!!!」

 それは怒号でも雄叫びでもなかった。
 狂気そのもの。
 意思すら飲み込まれた、破壊の声だった。

 赤黒い血が噴き上がり、それが空気中で蒸発して黒煙となる。
 体がさらに膨れ上がり、筋肉が岩のように隆起する。
 血管は赤く光り、裂けた皮膚から蒸気が立ちのぼった。
 地を踏みしめた足跡が、焼けたように焦げついていく。

 グラドンの体は、かつての二倍に膨れ上がっていた。
 背中からは魔力の炎が吹き上がり、床を溶かす。
 その圧力だけで、周囲の瓦礫が浮き上がるほどだ。

「七将の名にかけてぇぇぇぇぇ!!!」

 吠えた瞬間、魔力の奔流が炸裂した。
 天井が崩れ、落石が雨のように降り注ぐ。
 炎と煙が交錯し、坑道全体が紅に染まる。

 兵士たちが悲鳴を上げ、リオネルが指揮を取る。
「全員、壁際へ退避! 崩れるぞ!」

 だが、退避の叫びも追いつかない。
 足場が一瞬で砕け、複数の兵士が落下していく。

「うわあああああッ!!」
「助け――!」

 その瞬間、風が逆流した。
 蒼い残光が閃き、落ちる兵士たちの体がふわりと宙に止まる。

 悠が、片手で全員を引き上げていた。

 軽く手を振ると、兵士たちは安全な足場の上に降ろされる。
 彼は一度も振り返らず、ただ小さくため息をついた。

「……人助けばっかりだな。俺、何しに来たんだっけ」

 リオネルが思わず声を上げる。
「勇者様、命の恩人です! ですが――!」

 彼の言葉を遮るように、轟音が響いた。
 グラドンが、地面に斧を叩きつけたのだ。

 衝撃で大地が割れ、巨大な亀裂が走る。
 熱風が吹き上がり、溶岩のような光が足元で揺れた。
 坑道の下層が崩れ落ち、さらに深い闇が姿を見せる。

「ははっ……やりすぎだろ」
 悠は笑いながらも、目だけは鋭く細める。

 グラドンの瞳はもはや焦点を失っていた。
 赤黒く濁った光が、悠だけを見据えている。
 理性はもう、どこにも残っていない。

 それでも、声だけは届いた。
「おぉおおおおおおお……人間よォォォォ……!!」
「この身が……滅びても……七将の誇りは……消えん!!!」

 悠は静かに呟いた。
「またそれか。何回目だよ、その台詞」

 グラドンの咆哮が応える。
 赤黒い光が奔り、拳を振り上げる。
 その一撃は空気を裂き、空間を歪ませた。

 悠が拳を構える。
 蒼光が走り、風が吹き荒れる。

 拳と拳が交錯――轟音が坑道を貫いた。
 岩壁が波打ち、砂煙が天を突く。
 その衝撃で地上の街までもが揺れ、建物の窓が震えた。

 地上では、再び鐘が鳴る。
 領主が祈るように空を見上げ、民が膝をつく。
 「勇者様……どうか……」
 その声が、遠く地下にいる悠の心に、わずかに届いた気がした。

 ――だが、戦いは終わらない。

 グラドンが、再び突進した。
 全身から血を撒き散らし、怒りのままに突き進む。
 赤黒い残光を引きながら、獣のように吠える。

 悠が踏み込む。
 拳が再び蒼光に包まれる。

「……次で決める」

 拳と拳が再び激突。
 爆風が走り、視界が白く染まる。
 風が砂を巻き上げ、瓦礫を吹き飛ばした。

 だが、その中央に立つ二人の姿は、まだ崩れていない。
 互いの拳を押し合い、魔力と肉体のぶつかり合いが続いていた。

 リオネルは祈るように手を組んだ。
「勇者様……どうか……ご武運を……!」

 悠は小さく笑う。
「運ってやつは、使い切ってもまた湧いてくるんだよ」

 その声が終わるより早く、再び爆発が起こった。
 坑道の奥で、紅と蒼の光が渦を巻く。

 崩壊は止まらない。
 しかし、勇者は一歩も退かなかった。

 地の底で、光と闇が再びぶつかり合う。
 限界を超えた怪物と、どこまでも静かな勇者。
 その戦いの果てに待つのは――勝利か、滅びか。
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