『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第5話 雪原の盗賊を退ける勇者

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 風が唸っていた。
 雪面がえぐられ、粉のような氷片が顔に叩きつけられる。
 北へ進むほど、空は暗く、風は荒れる。
 勇者一行の足跡は、吹雪に消されながらも確かに続いていた。

「……氷の魔女より、この風の方が人殺しだな。」
 悠がマフラーを引き上げ、うんざりしたようにぼやく。
 ソリを引く肩が軋むたび、荷物の金具が小さく鳴った。

「この環境で活動できるのは、訓練された兵か――」
 前を行くリオネルが淡々と答える。
「あるいは、狂気に取り憑かれた者くらいです。」

「……ろくでもねぇな。」
 悠がそう呟いた、その時だった。

 ――カン。

 風の合間に、金属がぶつかる音がした。
 刃と刃が擦れるような、乾いた響き。
 雪の向こうからもう一度。

「……嫌な音だ。」
 悠が足を止める。リオネルも気づいていた。
 手信号で静止を指示し、耳を澄ませる。
 確かに、人の叫び声が混じっている。

 エルザが息を飲んだ。
「誰か、戦ってます……!」
「行ってみるか。」
 悠はそう言いながら、ほんの一瞬だけため息をつく。
「……また面倒なやつだな。」

 三人は雪丘を駆け上がる。
 吹き荒ぶ風の向こう――そこでは、
 粗末な布で顔を覆った盗賊たちが、荷を抱えた商人二人を取り囲んでいた。
 雪の中でもわかる。動きは素早く、迷いがない。
 寒さよりも、生存のための必死さが滲んでいた。

「助けましょう!」
 エルザが叫ぶ。
「おいおい、命知らずな善意だな……」
 悠は苦笑しながら剣の柄を握った。
「――けど、放っとけねぇか。」

 次の瞬間、雪を蹴った音が響く。
 悠が斜面を駆け下り、リオネルがその背を追う。
 エルザは慌ててソリを止め、荷の上からたいまつを抜き取った。
 風で火が揺れ、橙色の光が白銀の世界ににじむ。

「おい、止まれ!」
 悠の声が吹雪を裂く。
 盗賊たちが一斉に振り返る。
 その数――十。
 武器は曲がった刃や錆びた槍。防寒布を巻いた、氷原の生存者たちだった。

「なんだお前ら!」
「金なら――」
「要らねぇ。命を置いてけ。」

 リオネルが前に出て剣を構える。
 悠が低く言った。
「殺すな。追い払え。」

 剣が光る。
 リオネルの一撃が、盗賊の刃を弾き飛ばした。
 雪煙の中で姿勢を崩した相手の脇に、悠が滑り込む。
 氷面を蹴って体を回転させ、剣の腹で三人まとめて弾き飛ばした。
 風が裂け、雪が舞い上がる。

「リオネル、左だ!」
「了解!」
 二人の動きは息が合っていた。
 悠が攻め、リオネルが守る。
 そのわずかな隙間を、エルザがたいまつを掲げながら走り抜ける。

「こっちです、早く!」
 倒れていた商人の腕を掴み、雪の陰に引きずる。
 顔は蒼白、手は凍えて震えていた。
「しっかりしてください!」
 エルザは荷袋から毛布を取り出し、男の体に掛ける。

 その間にも戦いは続いていた。
 雪上で足を取られた盗賊が転び、リオネルの剣がその手から武器を弾く。
 悠がもう一人を蹴り飛ばし、刃を振るった。
 鋭い音が響き、残る者たちが後ずさる。

「くそっ、やめろ! 俺たちだって……生きたいんだよ!」
 頭目らしき男が叫んだ。
 頬には古傷、目は濁っていた。
 その声には、恐怖と怒りが混じっている。

「生きたいなら、他人を凍らせるな。」
 悠の声が、雪の音よりも冷たく響く。
「お前らのやり方じゃ、誰も助からねぇ。」

 男は息を荒げ、剣を雪に突き立てた。
「……北の洞窟だ。奴らが……いる。氷の影が!」
「氷の影?」
「行くな……! 見たら……終わりだ!」

 そう吐き捨て、男は背を向けて走り去った。
 残りの盗賊たちも、風の中へ散っていく。
 残されたのは、雪の上に残る足跡と、静寂。

 エルザがゆっくりと立ち上がる。
「勇者様……あの人たち、本当に盗賊なんですか?」
「生き延びるために誰かを襲う。……境目なんて曖昧だ。」
 悠は剣を鞘に戻し、短く息を吐く。
「けど、ああいうのを放っといたら、どっちも死ぬ。だから止める。」

 リオネルが周囲を見回し、警戒を続ける。
「勇者様。“氷の影”という言葉が気になります。魔女セレナの使徒かもしれません。」
「そうだな。どのみち、確かめるしかねぇ。」
 悠はソリのロープを引き直し、荷を確認する。
「商人たちは?」
「軽い怪我です。動けるようになれば南へ戻れるでしょう。」
「なら上等。」

 エルザがたいまつを高く掲げる。
 火が雪に反射し、彼女の瞳が揺れた。
「……人間まで、こんなふうになるなんて。」
「寒さが続くと、心まで凍る。あいつらも被害者だ。」
 悠が肩をすくめる。
「けど、止めなきゃ次の犠牲が出る。……面倒だがな。」

 風が再び吹きつけた。
 雪が渦を巻き、空気が鳴る。
 遠く、北の方角に黒い影のような雲が見えた。
 その下――洞窟が口を開けているように見える。

「行くぞ。どうせ次も面倒だ。」
「はい、勇者様。」
 リオネルが頷き、エルザがたいまつを握り直す。

 三人は雪の中へと歩き出した。
 足跡が風に消え、残るのはただ吹雪の音。
 けれどその先に待つものが、魔女の領域であることを――
 彼らはまだ知らなかった。
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