115 / 207
七将編(氷獄の魔女セレナ)
第7話 氷結の痕跡を調べる勇者
しおりを挟む
凍てつく村を後にし、三人は雪原の外れに小さな野営地を作った。
風よけになる岩壁に背を預け、積もった雪を踏み固めて座る場所を作る。
リオネルが手慣れた動きで焚き火を準備し、エルザは荷から食糧袋を取り出して整理していた。
火はすぐに点いた。
だが、焚き火の熱はまるで空気に吸い込まれるように弱まっていく。
周囲を包む寒気が異常なのだ。
「……火って、こんなに頼りなかったっけな」
悠が焚き火に両手をかざす。炎は確かに燃えているのに、暖かさが薄い。
「氷獄に近づくほど、空気そのものが“熱を拒否”してる感じだ。」
「勇者様、これを。」
リオネルが丁寧に布包みを広げた中には、先ほど村で拾った“魔力を含む氷片”があった。
淡い青い光を内に閉じ込め、冷気を纏っている。
悠はそれを火の光に照らしながら言った。
「ただの氷じゃねぇよな、これは。」
「調べてみます。」
リオネルは腰の袋から、小さな金属製の道具を取り出した。
細い針のような形をしており、魔力の流れに反応する“魔力鑑定針”だった。
針を氷片に触れさせると――
チリ……ッ
青白い光が針の表面を走り、火の色を奪うような冷たい影を作る。
「反応が強い……やっぱり、普通の氷じゃないんだな。」
悠が目を細める。
「はい。魔力の質が独特です。」
リオネルが真剣な顔で続ける。
「冷却、拘束……そして精神干渉。三つの属性が同時に含まれています。」
「精神干渉?」
悠は眉をひそめた。
「魂まで凍らせる、あの気味の悪い感じか。」
エルザが小さく震える。
「じゃあ……あの村の人たちは……心まで……?」
「残念ですが、その可能性が高いです。」
リオネルの声は静かだった。
「これは“瞬間凍結”。高度な魔術師でも、準備なく使える代物ではありません。」
静寂が落ちた。
焚き火の音さえ、どこか遠い。
悠は氷片を太陽光にかざしてみた。
光が反射し、内部に何か模様が揺らめく。
「……これ、見ろ。」
氷の中に、複雑に絡み合う線――魔法陣の残滓があった。
まるで雪の結晶のような幾何学模様。
自然現象ではありえない緻密さだ。
「こんな細工……自然に出来るはずねぇな。」
リオネルが息を呑む。
「勇者様。この紋……間違いありません。」
彼女の声は普段より少し硬かった。
「魔女セレナが使う氷結魔法の特有印です。」
エルザが顔を上げる。
「じゃあ……あの村は……魔女が……?」
悠は静かに息を吐いた。
冷たい空気に白い煙が広がる。
「魔女本人か、その近くにいる手下か……どっちにしろ、俺たちは“近づいてる”ってことだ。」
その言葉は、恐怖ではなく、確かな覚悟の響きを持っていた。
エルザは唇を噛みしめる。
「だったら……お父さんを探すためにも、
進まなきゃね。」
「そういうことだ。」
悠は小さく笑った。「面倒だがな。」
その時――
グルゥ……ッ
低い唸り声が雪原の奥から響いた。
風の音ではない。
獣が喉を鳴らすような、生き物の気配。
「……今の聞こえたか。」
「はい。」
リオネルが即座に立ち上がり、剣に手をかける。
「氷獄の獣かもしれません。魔女の魔力に汚染された動物が変異した……」
「つまり、また面倒ってことだな。」
悠も立ち上がり、剣の柄を握る。
エルザは荷袋を抱え、たじろぎながらも後ろへ下がった。
雪原の向こう、白い霞の中で何かが動いている。
影が揺れ、足音が雪を砕く。
ドン、ドン、ドン……
重い足取り。
普通の狼のそれではない。
次の瞬間――
ガアアアアッ!!
白い霧を裂き、巨大な影が姿を現した。
氷を纏った白狼。
全身の毛は凍りついた氷柱のようで、牙は青白く光っている。
瞳には魔力の闇が宿っていた。
「氷牙の狼……」
リオネルが呟く。
「これは……魔女の魔力によって変異した獣です!」
「来るぞ!!」
悠が叫び、剣を構える。
エルザは思わず悲鳴をあげたが、ソリを守るため雪の影に膝をついて後退する。
氷牙の狼が雪煙を巻き上げながら突進してくる。
その体躯は馬ほどもあり、地響きが足元に伝わる。
「……いいぜ。氷の次は狼か。」
悠は剣を引き抜き、足を踏み締めた。
「面倒だが、倒すしかねぇ!」
刹那――
氷の獣が飛びかかる。
戦いの幕が、白銀の雪原でいよいよ上がった。
風よけになる岩壁に背を預け、積もった雪を踏み固めて座る場所を作る。
リオネルが手慣れた動きで焚き火を準備し、エルザは荷から食糧袋を取り出して整理していた。
火はすぐに点いた。
だが、焚き火の熱はまるで空気に吸い込まれるように弱まっていく。
周囲を包む寒気が異常なのだ。
「……火って、こんなに頼りなかったっけな」
悠が焚き火に両手をかざす。炎は確かに燃えているのに、暖かさが薄い。
「氷獄に近づくほど、空気そのものが“熱を拒否”してる感じだ。」
「勇者様、これを。」
リオネルが丁寧に布包みを広げた中には、先ほど村で拾った“魔力を含む氷片”があった。
淡い青い光を内に閉じ込め、冷気を纏っている。
悠はそれを火の光に照らしながら言った。
「ただの氷じゃねぇよな、これは。」
「調べてみます。」
リオネルは腰の袋から、小さな金属製の道具を取り出した。
細い針のような形をしており、魔力の流れに反応する“魔力鑑定針”だった。
針を氷片に触れさせると――
チリ……ッ
青白い光が針の表面を走り、火の色を奪うような冷たい影を作る。
「反応が強い……やっぱり、普通の氷じゃないんだな。」
悠が目を細める。
「はい。魔力の質が独特です。」
リオネルが真剣な顔で続ける。
「冷却、拘束……そして精神干渉。三つの属性が同時に含まれています。」
「精神干渉?」
悠は眉をひそめた。
「魂まで凍らせる、あの気味の悪い感じか。」
エルザが小さく震える。
「じゃあ……あの村の人たちは……心まで……?」
「残念ですが、その可能性が高いです。」
リオネルの声は静かだった。
「これは“瞬間凍結”。高度な魔術師でも、準備なく使える代物ではありません。」
静寂が落ちた。
焚き火の音さえ、どこか遠い。
悠は氷片を太陽光にかざしてみた。
光が反射し、内部に何か模様が揺らめく。
「……これ、見ろ。」
氷の中に、複雑に絡み合う線――魔法陣の残滓があった。
まるで雪の結晶のような幾何学模様。
自然現象ではありえない緻密さだ。
「こんな細工……自然に出来るはずねぇな。」
リオネルが息を呑む。
「勇者様。この紋……間違いありません。」
彼女の声は普段より少し硬かった。
「魔女セレナが使う氷結魔法の特有印です。」
エルザが顔を上げる。
「じゃあ……あの村は……魔女が……?」
悠は静かに息を吐いた。
冷たい空気に白い煙が広がる。
「魔女本人か、その近くにいる手下か……どっちにしろ、俺たちは“近づいてる”ってことだ。」
その言葉は、恐怖ではなく、確かな覚悟の響きを持っていた。
エルザは唇を噛みしめる。
「だったら……お父さんを探すためにも、
進まなきゃね。」
「そういうことだ。」
悠は小さく笑った。「面倒だがな。」
その時――
グルゥ……ッ
低い唸り声が雪原の奥から響いた。
風の音ではない。
獣が喉を鳴らすような、生き物の気配。
「……今の聞こえたか。」
「はい。」
リオネルが即座に立ち上がり、剣に手をかける。
「氷獄の獣かもしれません。魔女の魔力に汚染された動物が変異した……」
「つまり、また面倒ってことだな。」
悠も立ち上がり、剣の柄を握る。
エルザは荷袋を抱え、たじろぎながらも後ろへ下がった。
雪原の向こう、白い霞の中で何かが動いている。
影が揺れ、足音が雪を砕く。
ドン、ドン、ドン……
重い足取り。
普通の狼のそれではない。
次の瞬間――
ガアアアアッ!!
白い霧を裂き、巨大な影が姿を現した。
氷を纏った白狼。
全身の毛は凍りついた氷柱のようで、牙は青白く光っている。
瞳には魔力の闇が宿っていた。
「氷牙の狼……」
リオネルが呟く。
「これは……魔女の魔力によって変異した獣です!」
「来るぞ!!」
悠が叫び、剣を構える。
エルザは思わず悲鳴をあげたが、ソリを守るため雪の影に膝をついて後退する。
氷牙の狼が雪煙を巻き上げながら突進してくる。
その体躯は馬ほどもあり、地響きが足元に伝わる。
「……いいぜ。氷の次は狼か。」
悠は剣を引き抜き、足を踏み締めた。
「面倒だが、倒すしかねぇ!」
刹那――
氷の獣が飛びかかる。
戦いの幕が、白銀の雪原でいよいよ上がった。
10
あなたにおすすめの小説
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる