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七将編(氷獄の魔女セレナ)
第9話 氷像の村人を見た勇者
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吹雪を突き抜けて、三人は森へ駆け込んだ。
雪原では容赦なく叩きつけてきた風も、木々が壁のように立ち並ぶ森の中では幾分弱くなる。
しかしその代わり、木々の間に漂う冷気は不自然なほど重く、息を吸うたび胸が冷えていくような感覚があった。
「……あの声、罠じゃなけりゃいいが。」
悠は走りながらぼそっと呟いた。
「こっちが来るのを待ってるなんて展開、面倒極まりねぇ。」
「ですが、生存者の可能性があります。無視はできません。」
リオネルが前方の足跡を確認しながら応じる。
「……分かってるよ。」
悠は肩を竦めつつ、足を止めることはしない。
面倒だと言いながら、彼が躊躇することは一度もない。それが、エルザには頼もしく見えた。
「勇者様、こちら……!」
エルザが木々の隙間を指さす。
そこには小さな小屋の残骸があった。
壁は半壊し、屋根の一部は雪の重みで崩れ落ちている。
散乱した荷物、折れた荷車の車輪、裂けた麻袋――商隊が避難し、そして襲われた痕跡は明らかだった。
「誰か、いますかーっ!」
エルザが声を張り上げる。だが返事はなく、森の静寂だけがこだまする。
「足跡が……増えています。」
リオネルが雪を手で払ってしゃがみ込んだ。
「商隊の人数だけではありません。別の足跡も混じっています。」
「盗賊か?」
「いえ、それよりも……歩幅が不自然です。重心が歪で、普通の人間の動きではない。」
悠が剣に手を掛けた。
その直後だった。
「ゆ、勇者様……っ」
エルザの声が震えた。
彼女が指さした先――
木の陰に、ひとりの“人影”が佇んでいた。
「……おい。」
悠が慎重に近づき、声をかける。
「怪我してるなら動くな。こっちは――」
だが、人影は微動だにしない。
距離が縮まるにつれ、その異様な姿が露わになる。
人影は――
氷の像 だった。
顔には、生前の驚愕と恐怖が刻まれたまま。
伸ばしかけた腕は凍りつき、その指先の先には、助けを求めるような空虚な空間が残っている。
「……まただ。」
悠が低い声で呟いた。
リオネルは氷像の表面に手袋越しで触れ、すぐに手を離した。
「魂ごと凍らされています……村と同じ現象です。」
「つまり――魔女の魔法が、この森まで及んでるってことか。」
悠は深く息を吐いた。
「面倒な話だな。」
氷像の足元には、革製の帳簿や、すり減った取引記録が散らばっている。
ページをめくると、商隊が“北の洞窟を越えれば安全だ”と記していた。
「安全どころか、地獄の入り口だったってわけか……」
悠がページを閉じた瞬間――
バサッ……!
森の奥で何かが倒れる音がした。
三人は一斉に振り返る。
「誰だ!」
悠が前に出ると、木の影からひとりの男が雪の上へ崩れ落ちた。
「た、助け……」
男は凍傷に侵され、唇も青く、まともに言葉が出ない。
だが、生きている。確かに息をしている。
「エルザ、布だ!」
「は、はいっ!」
エルザは慌てて荷袋から毛布を取り出し、男にかける。
雪と冷気で奪われた体温を、少しでも戻そうと必死だった。
「大丈夫だ、おっさん。もう安全だ。」
悠が膝をついて言うと、男は震える指で森の奥を指さした。
「む……向こうに……仲間が……まだ……」
「向こう?」
悠が視線を向ける。
「魔……女の……手が……近くに……いる……っ」
男はそこで意識を失った。
呼吸は浅いが、かすかに胸が上下している。まだ間に合う。
エルザが不安そうに顔を上げる。
「勇者様……仲間って……まだ生きているんでしょうか……?」
「生きてる“可能性”があるってだけで十分だ。」
悠は立ち上がり、剣を握り直した。
「面倒でも助ける。それが俺たちの仕事だ。」
「はい!」
「了解しました、勇者様。」
吹雪の音が遠くでうなる。
森の奥はさらに冷気が濃く、何かが潜んでいる気配があった。
しかし三人は、恐怖よりも決意の方が強かった。
氷像になった村人、震えながら倒れた商人――その姿が彼らの背を押していた。
「行くぞ。」
悠が一歩を踏み出す。
雪が舞い、白い闇が前方へ開く。
その奥で、氷獄の魔女が残した“さらなる痕跡”が、彼らを待ち構えていた――。
雪原では容赦なく叩きつけてきた風も、木々が壁のように立ち並ぶ森の中では幾分弱くなる。
しかしその代わり、木々の間に漂う冷気は不自然なほど重く、息を吸うたび胸が冷えていくような感覚があった。
「……あの声、罠じゃなけりゃいいが。」
悠は走りながらぼそっと呟いた。
「こっちが来るのを待ってるなんて展開、面倒極まりねぇ。」
「ですが、生存者の可能性があります。無視はできません。」
リオネルが前方の足跡を確認しながら応じる。
「……分かってるよ。」
悠は肩を竦めつつ、足を止めることはしない。
面倒だと言いながら、彼が躊躇することは一度もない。それが、エルザには頼もしく見えた。
「勇者様、こちら……!」
エルザが木々の隙間を指さす。
そこには小さな小屋の残骸があった。
壁は半壊し、屋根の一部は雪の重みで崩れ落ちている。
散乱した荷物、折れた荷車の車輪、裂けた麻袋――商隊が避難し、そして襲われた痕跡は明らかだった。
「誰か、いますかーっ!」
エルザが声を張り上げる。だが返事はなく、森の静寂だけがこだまする。
「足跡が……増えています。」
リオネルが雪を手で払ってしゃがみ込んだ。
「商隊の人数だけではありません。別の足跡も混じっています。」
「盗賊か?」
「いえ、それよりも……歩幅が不自然です。重心が歪で、普通の人間の動きではない。」
悠が剣に手を掛けた。
その直後だった。
「ゆ、勇者様……っ」
エルザの声が震えた。
彼女が指さした先――
木の陰に、ひとりの“人影”が佇んでいた。
「……おい。」
悠が慎重に近づき、声をかける。
「怪我してるなら動くな。こっちは――」
だが、人影は微動だにしない。
距離が縮まるにつれ、その異様な姿が露わになる。
人影は――
氷の像 だった。
顔には、生前の驚愕と恐怖が刻まれたまま。
伸ばしかけた腕は凍りつき、その指先の先には、助けを求めるような空虚な空間が残っている。
「……まただ。」
悠が低い声で呟いた。
リオネルは氷像の表面に手袋越しで触れ、すぐに手を離した。
「魂ごと凍らされています……村と同じ現象です。」
「つまり――魔女の魔法が、この森まで及んでるってことか。」
悠は深く息を吐いた。
「面倒な話だな。」
氷像の足元には、革製の帳簿や、すり減った取引記録が散らばっている。
ページをめくると、商隊が“北の洞窟を越えれば安全だ”と記していた。
「安全どころか、地獄の入り口だったってわけか……」
悠がページを閉じた瞬間――
バサッ……!
森の奥で何かが倒れる音がした。
三人は一斉に振り返る。
「誰だ!」
悠が前に出ると、木の影からひとりの男が雪の上へ崩れ落ちた。
「た、助け……」
男は凍傷に侵され、唇も青く、まともに言葉が出ない。
だが、生きている。確かに息をしている。
「エルザ、布だ!」
「は、はいっ!」
エルザは慌てて荷袋から毛布を取り出し、男にかける。
雪と冷気で奪われた体温を、少しでも戻そうと必死だった。
「大丈夫だ、おっさん。もう安全だ。」
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「む……向こうに……仲間が……まだ……」
「向こう?」
悠が視線を向ける。
「魔……女の……手が……近くに……いる……っ」
男はそこで意識を失った。
呼吸は浅いが、かすかに胸が上下している。まだ間に合う。
エルザが不安そうに顔を上げる。
「勇者様……仲間って……まだ生きているんでしょうか……?」
「生きてる“可能性”があるってだけで十分だ。」
悠は立ち上がり、剣を握り直した。
「面倒でも助ける。それが俺たちの仕事だ。」
「はい!」
「了解しました、勇者様。」
吹雪の音が遠くでうなる。
森の奥はさらに冷気が濃く、何かが潜んでいる気配があった。
しかし三人は、恐怖よりも決意の方が強かった。
氷像になった村人、震えながら倒れた商人――その姿が彼らの背を押していた。
「行くぞ。」
悠が一歩を踏み出す。
雪が舞い、白い闇が前方へ開く。
その奥で、氷獄の魔女が残した“さらなる痕跡”が、彼らを待ち構えていた――。
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