『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第11話 氷の結界を破る勇者

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 吹雪の壁へ飛び込んだ瞬間、世界は白一色に塗りつぶされた。
 雪が舞っているのではない。刃のように細かく尖った氷の粒が、無数の矢のように横殴りに襲ってくるのだ。

「クソッ……これは本気で拒んでる風だな……!」
 悠は腕で顔を覆いながら、前だけを見据えて足を進める。

 横を歩くリオネルの外套は、氷の粒で所々裂けていた。
 エルザは悠の服を掴み、必死について来る。
 彼女の頬にも小さな切り傷ができ、そこから流れる血が瞬時に凍って白く光っていた。

「勇者様……! 前方から強力な魔力反応……!」
 吹雪の中でリオネルが叫ぶ。

「分かってる! 風があそこから出てきてる!」
 悠が吠えると、突風が返すように彼の声をかき消した。

 しかし、その中でも悠にははっきり見えていた。
 吹雪の核心――
 白い霧の奥に、淡く光る“壁”のようなものがある。

 それは自然の気配をまるで持たない、人工の“冷たい意思”だった。

「勇者様、あれを……!」
 エルザが怯えた声で指さす。

 視界を遮る吹雪が薄らぐ一瞬、その全容が浮かび上がった。

 ——半透明の氷の膜。
 ——揺らめく青白い魔力の筋。
 ——表面を走る、複雑な魔法紋。

 森の奥を完全に塞ぐ巨大な結界だった。

「これ……全部、魔力で?」
 エルザがその異様な光景に目を見開く。

「間違いありません。」
 リオネルが鑑定針を結界へ向けると、針は激しく震え、青い光を散らした。
「高度な氷結結界……しかも、魔女セレナが維持している反応です!」

「つまり……魔女が“ここより先へ進むな”って言ってるってことか。」
 悠は息を吐き、剣の柄に手を置いた。

 結界は脈動していた。
 内側から吹雪を吐き出し、侵入者を押し返すように鼓動している。
 その冷気は、生き物の息遣いのようにさえ思えた。

 悠が壁に近づき、そっと手を伸ばした瞬間――

 バチィッ!!

「……ッくそ……」
 手の甲が弾かれ、まるで槌で叩かれたような痛みが走る。

「勇者様! 触れただけでこの反発力……!」
 リオネルが驚愕する。
「この密度……普通の攻撃では破れません!」

「じゃあ、どうすんだよ。」
 悠は痛む腕を振りながら、結界の奥を見つめた。
 その先に、商隊の生存者がいる可能性が高い。
 あの倒れた男が指し示した方向は、まさにこの結界の向こうだ。

「勇者様……」
 エルザが不安げに結界を見る。
「仲間が……まだいるかもしれないんですよね……?」

 悠はそれに答えなかった。
 ただ短く息を吸い、結界へ歩み寄った。

 そして剣を抜く。

「おいおい……まさか本気で壊すつもりですか?」
 リオネルが呆れた声を出す。

「壊すしか道がねぇんだろ。」
 悠は軽く肩を回し、切っ先を構える。
「面倒だけどな。」

 結界表面を吹雪がうねりながら滑り、風が凶器のようにぶつかってくる。
 だが、その中心に悠はしっかりと立っていた。

「……行くぞ。」

 その瞬間、悠は地を蹴り、一気に間合いを詰めた。

 剣が振り下ろされる。

 ガァァァァン!!

 衝撃で吹雪が四散し、雪面が波紋のように揺れる。
 結界には大きな亀裂が走った。

「うそ……割れた……!」
 エルザが息を飲む。

「いや、まだだ。」
 悠は剣を握り直した。
 結界は軋みながらも自己修復を始めている。
 青い筋が破損箇所へ集まり、ひび割れを塞ごうとしていた。

「勇者様! 結界の魔力が再構築されています!」
 リオネルが叫ぶ。
「次はもっと強く反発が来ます!」

「だったら――」

 悠は体勢を低くし、風の流れを読むように足を開いた。

「壊れるまで叩くだけだ!」

 吹雪が雄叫びを上げる。
 結界が抵抗するように光を発する。
 しかし悠は迷わなかった。

 第二撃。
 第三撃。
 剣閃が白い空気を裂き、結界に鈍い悲鳴が走る。

「……ッおおおおおッ!!」

 全身の力と意志を叩き込んだ最後の一撃が、結界の中心へ突き刺さる。

 ——バキィィィィィィン!!!

 青白い破片が四散し、吹雪が一瞬で止んだ。
 風が消え、雪が落ち着き、あたりには静寂が訪れる。

 まるで、森そのものが息を呑んだかのように。

「……やった……本当に壊れた……!」
 エルザは目を輝かせる。

「勇者様……お見事です。」
 リオネルが深く息を吐いた。

 悠は剣を軽く回し、納刀した。
「行くぞ。まだ生きてる奴がいる。」

 彼の声は、吹雪のあとに訪れた静寂の中で凛と響いた。
 三人は結界の破片を踏み越え、森の奥へと歩みを進める。

 そこには、魔女の魔力がさらに濃い“領域”が広がっていた。
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