『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第23話 氷槍の雨を受け止める勇者

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 セレナの杖が、静かに床を打った。

 キン——。

 その澄んだ音を合図に、謁見の間の天井が不穏な唸りを上げる。
 氷柱が軋み、空間そのものが圧縮されていく感覚が、肌を刺した。

 悠は、反射的に前へ出ていた。

「……来るぞ」

 言葉よりも早く、直感が警鐘を鳴らす。

 天井に、無数の魔法陣が浮かび上がった。
 青白い光が幾重にも重なり、まるで星座のように空間を埋め尽くす。

「防がなければ、死ぬわ」

 セレナの声は、淡々としていた。
 忠告でも、脅しでもない。
 事実の提示だ。

 次の瞬間——

 降った。

 氷の槍が、雨のように。

 一本一本が、人を容易く貫く太さと速度を持ち、床、柱、壁を粉砕しながら突き刺さる。
 爆音が連なり、謁見の間は一瞬で戦場と化した。

「——ッ!!」

 悠は剣を振るった。

 斬る。
 弾く。
 受け流す。

 氷槍が砕け散り、破片が肌を裂く。
 それでも止まらない。

 悠は、背中を向けた。

 エルザと、リオネルの前に立つ。

「下がれ! 動くな!」

 第一波を凌ぎ切る前に、第二の槍が迫る。
 斜め、背後、死角。

「くそ……数が……!」

 剣が追いつかない。
 判断が遅れれば、後ろが貫かれる。

 悠は歯を食いしばった。

 ——だったら。

「全部……受ける!」

 回避を捨てる。
 迎撃を、防御に切り替える。

 氷槍が、肩をかすめた。
 痛みが走る。

 次の一本が、太腿に突き刺さる。

「……っ!!」

 血が、氷の床に散る。
 だが、悠は倒れない。

「勇者様ッ!!」

 エルザの悲鳴が、背後から聞こえる。

 リオネルが前へ出ようとするが、見えない圧力が彼の足を縫い止めた。

「……っ、動け……!」

 だが、動けない。

 セレナの魔力が、この場を完全に支配している。

 守れるのは、悠だけ。

 第二波。

 密度が、さらに増した。

 氷槍は、もはや隙間を探す必要すらない。
 空間そのものを埋め尽くし、逃げ場を奪う。

 悠は、剣を横に構えた。

 斬るのではない。
 盾として。

 氷槍が剣に叩きつけられ、衝撃が腕を砕くように伝わる。

「ぐ……っ!」

 剣が弾かれ、氷槍が、肩に突き立った。

 鈍い音。
 鋭い痛み。

 血が、凍りつく前に床へ落ちる。

 それでも、悠は一歩も退かなかった。

 足を踏みしめ、背中を丸め、後ろを覆う。

 第三波。

 もはや、数える意味はない。

 槍が、脚を貫く。
 脇腹を抉る。
 背中に、衝撃が走る。

「……っ、は……っ……!」

 呼吸が乱れる。
 視界が、赤く滲む。

 それでも、悠は立っていた。

 膝が震える。
 腕が痺れる。

 それでも。

 背後から、微かな温もりを感じる。

 エルザだ。
 震えながらも、逃げずに、そこにいる。

 リオネルも、歯を食いしばり、剣を握っている。

 ——守るべきものが、そこにある。

 セレナの瞳が、細まった。

「……なぜ、立つ?」

 氷槍は、なおも降り注いでいる。
 悠の身体は、限界を超えている。

 それでも、立つ理由。

 悠は、血を吐くように言った。

「……後ろに……守るもんが……ある……」

 その一言が、空間を震わせた。

 氷槍の軌道が、わずかに乱れる。

 セレナの表情に、初めて理解できないものを見る眼が宿った。

「……」

 次の瞬間。

 氷槍の雨が、止んだ。

 音が、消える。

 謁見の間に、静寂が戻る。

 悠は、ゆっくりと膝をついた。

 剣を、床に突き立てたまま。
 離さない。

 血と氷が、床で混じり合う。

「……っ……」

 息をするのも、やっとだった。

 だが、悠は顔を上げた。

 セレナを、見据える。

 セレナは、しばらく無言で悠を見ていた。

 やがて、杖を軽く鳴らす。

「……殺すつもりだったわ」

 その言葉に、エルザが息を呑む。

「でも、やめた」

 セレナは、淡々と告げる。

「あなたは、折れなかった」

 悠は、かすかに笑った。

「……それだけが……取り柄でな……」

 視界が、暗くなる。

 意識が、遠のく。

 最後に聞こえたのは、セレナの声だった。

「連れて行きなさい」

 冷たく、しかし、どこか違う響きを帯びた命令。

 勇者は、倒れなかった。

 だが——
 自由も、勝利も、まだ与えられてはいなかった。

 次に彼が目を覚ます場所は、
 凍土の牢。

 氷獄の試練は、まだ終わらない。
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