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七将編(氷獄の魔女セレナ)
第25話 氷の女王と取引する勇者
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凍土の牢は、相変わらず静かだった。
時間の流れが曖昧になるこの場所では、眠ったのか、起きていたのかすら分からなくなる。
悠は壁にもたれ、浅い呼吸を繰り返していた。
身体の痛みは、少しずつ鈍ってきている。
治癒というより、凍結による固定。
悪化もしないが、回復もしない。
(……よくできた牢だ)
そう思った、その時だった。
コツ――
氷を踏む、はっきりとした足音。
看守の精霊とは違う。
意志と重みを伴った歩調。
悠は目を開けた。
氷の扉が、ゆっくりと開く。
冷気が流れ込み、空間の温度がさらに下がった。
そこに立っていたのは――
セレナ。
氷獄の魔女。
そして、この地の女王。
蒼いドレスの裾が、凍土に触れることなく揺れている。
氷の杖を携え、視線は上から下へと悠を捉えた。
憐れみはない。
敵意もない。
ただ、評価する目。
悠は、ゆっくりと立ち上がろうとし、途中でやめた。
無駄に体力を使う必要はない。
「……よう、女王様」
かすれた声でも、皮肉は忘れない。
「わざわざ牢屋まで来るなんて、暇なのか?」
セレナは答えない。
一歩、近づく。
それだけで、空気が張り詰めた。
悠は、迷わず聞いた。
「……リオネルと、エルザはどうした」
一瞬の間。
セレナの表情は、まったく変わらない。
「別の場所で、大人しくしてもらっている」
それだけだった。
「……それだけか?」
「それ以上の説明は、不要でしょう」
きっぱりと、遮る。
悠の奥歯が、きしんだ。
(生きてはいる……と信じるしかねぇな)
問い詰めたところで、答えは出ない。
それは、最初から分かっている。
セレナは、悠から視線を外し、牢の壁に刻まれた紋様を眺めた。
「あなたは、不思議な存在ね」
唐突な言葉。
「殺す理由は、いくらでもあった」
「それでも、私はそうしなかった」
悠は鼻で笑う。
「……気まぐれか?」
「いいえ」
即答。
「合理よ」
氷のように冷たい言葉。
「あなたは、処刑するには惜しい」
その言い回しに、悠は眉をひそめる。
「随分な評価だな」
「誤解しないで」
セレナは淡々と続ける。
「強さの話ではない」
蒼い瞳が、悠を射抜く。
「あなたは、折れない」
「視線でも、言葉でも、殺意でも」
悠は黙ったまま、その言葉を受け止める。
「だから――」
セレナは、はっきりと言った。
「取引を持ちかける」
その言葉が、牢に響いた。
「取引?」
「ええ」
セレナは一歩引き、女王としての距離を取る。
「あなたを、敵として処理しない」
「捕虜としても、扱わない」
悠の目が、細くなる。
「じゃあ、何だ」
「条件付きの存在」
冷たいが、曖昧ではない言葉。
「あなたには、選択権がある」
セレナは告げる。
「この牢で終わるか」
「私の提示する試練を受けるか」
悠は、すぐには答えなかった。
逃げ場のない選択。
だが、選択肢が与えられているだけ、まだ“殺される段階”ではない。
「……試練、ね」
「ええ。氷獄の試練」
セレナの声が、わずかに低くなる。
「それを越えたなら――」
ここで、言葉を切る。
沈黙。
悠は、その先を促さない。
「……自由を、与える」
セレナは、静かに言った。
ただし。
仲間については、一言も触れない。
その沈黙が、重くのしかかる。
悠は、理解した。
(人質じゃねぇ……だが、カードではある)
圧力として、十分だ。
「拒否した場合は?」
「この牢で、時が止まる」
処刑よりも、残酷な答え。
悠は、短く息を吐いた。
「……面倒な話だ」
セレナは、何も言わない。
悠は、顔を上げた。
「だがな」
「逃げる気は、ねぇ」
視線が、真っ直ぐに交わる。
「条件次第、なんて言うつもりもない」
「どうせ、選択肢は一つだ」
セレナの瞳が、わずかに揺れた。
「……理解が早いわね」
「生き残るのに、無駄な遠回りはしない主義でな」
悠は、はっきりと言った。
「取引に、乗る」
その瞬間。
牢の紋様が、淡く光る。
拘束が、少しだけ緩むのを、悠は感じ取った。
「いいでしょう」
セレナは踵を返す。
「では――」
扉の前で、足を止める。
「第二の牢で、目を覚ましなさい」
振り返らず、そう告げる。
「そこからが、本当の試練」
氷の扉が、再び閉じる。
静寂。
悠は、凍土の牢に一人、立っていた。
仲間はいない。
剣もない。
だが――
道は、閉ざされていない。
「……まったく」
小さく、笑う。
「女王様の取引は、相変わらず冷てぇな」
それでも。
「……やるしか、ねぇか」
こうして――
次に始まるのは、
敵でも捕虜でもない立場で挑む
時間の流れが曖昧になるこの場所では、眠ったのか、起きていたのかすら分からなくなる。
悠は壁にもたれ、浅い呼吸を繰り返していた。
身体の痛みは、少しずつ鈍ってきている。
治癒というより、凍結による固定。
悪化もしないが、回復もしない。
(……よくできた牢だ)
そう思った、その時だった。
コツ――
氷を踏む、はっきりとした足音。
看守の精霊とは違う。
意志と重みを伴った歩調。
悠は目を開けた。
氷の扉が、ゆっくりと開く。
冷気が流れ込み、空間の温度がさらに下がった。
そこに立っていたのは――
セレナ。
氷獄の魔女。
そして、この地の女王。
蒼いドレスの裾が、凍土に触れることなく揺れている。
氷の杖を携え、視線は上から下へと悠を捉えた。
憐れみはない。
敵意もない。
ただ、評価する目。
悠は、ゆっくりと立ち上がろうとし、途中でやめた。
無駄に体力を使う必要はない。
「……よう、女王様」
かすれた声でも、皮肉は忘れない。
「わざわざ牢屋まで来るなんて、暇なのか?」
セレナは答えない。
一歩、近づく。
それだけで、空気が張り詰めた。
悠は、迷わず聞いた。
「……リオネルと、エルザはどうした」
一瞬の間。
セレナの表情は、まったく変わらない。
「別の場所で、大人しくしてもらっている」
それだけだった。
「……それだけか?」
「それ以上の説明は、不要でしょう」
きっぱりと、遮る。
悠の奥歯が、きしんだ。
(生きてはいる……と信じるしかねぇな)
問い詰めたところで、答えは出ない。
それは、最初から分かっている。
セレナは、悠から視線を外し、牢の壁に刻まれた紋様を眺めた。
「あなたは、不思議な存在ね」
唐突な言葉。
「殺す理由は、いくらでもあった」
「それでも、私はそうしなかった」
悠は鼻で笑う。
「……気まぐれか?」
「いいえ」
即答。
「合理よ」
氷のように冷たい言葉。
「あなたは、処刑するには惜しい」
その言い回しに、悠は眉をひそめる。
「随分な評価だな」
「誤解しないで」
セレナは淡々と続ける。
「強さの話ではない」
蒼い瞳が、悠を射抜く。
「あなたは、折れない」
「視線でも、言葉でも、殺意でも」
悠は黙ったまま、その言葉を受け止める。
「だから――」
セレナは、はっきりと言った。
「取引を持ちかける」
その言葉が、牢に響いた。
「取引?」
「ええ」
セレナは一歩引き、女王としての距離を取る。
「あなたを、敵として処理しない」
「捕虜としても、扱わない」
悠の目が、細くなる。
「じゃあ、何だ」
「条件付きの存在」
冷たいが、曖昧ではない言葉。
「あなたには、選択権がある」
セレナは告げる。
「この牢で終わるか」
「私の提示する試練を受けるか」
悠は、すぐには答えなかった。
逃げ場のない選択。
だが、選択肢が与えられているだけ、まだ“殺される段階”ではない。
「……試練、ね」
「ええ。氷獄の試練」
セレナの声が、わずかに低くなる。
「それを越えたなら――」
ここで、言葉を切る。
沈黙。
悠は、その先を促さない。
「……自由を、与える」
セレナは、静かに言った。
ただし。
仲間については、一言も触れない。
その沈黙が、重くのしかかる。
悠は、理解した。
(人質じゃねぇ……だが、カードではある)
圧力として、十分だ。
「拒否した場合は?」
「この牢で、時が止まる」
処刑よりも、残酷な答え。
悠は、短く息を吐いた。
「……面倒な話だ」
セレナは、何も言わない。
悠は、顔を上げた。
「だがな」
「逃げる気は、ねぇ」
視線が、真っ直ぐに交わる。
「条件次第、なんて言うつもりもない」
「どうせ、選択肢は一つだ」
セレナの瞳が、わずかに揺れた。
「……理解が早いわね」
「生き残るのに、無駄な遠回りはしない主義でな」
悠は、はっきりと言った。
「取引に、乗る」
その瞬間。
牢の紋様が、淡く光る。
拘束が、少しだけ緩むのを、悠は感じ取った。
「いいでしょう」
セレナは踵を返す。
「では――」
扉の前で、足を止める。
「第二の牢で、目を覚ましなさい」
振り返らず、そう告げる。
「そこからが、本当の試練」
氷の扉が、再び閉じる。
静寂。
悠は、凍土の牢に一人、立っていた。
仲間はいない。
剣もない。
だが――
道は、閉ざされていない。
「……まったく」
小さく、笑う。
「女王様の取引は、相変わらず冷てぇな」
それでも。
「……やるしか、ねぇか」
こうして――
次に始まるのは、
敵でも捕虜でもない立場で挑む
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