『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

文字の大きさ
137 / 207
七将編(氷獄の魔女セレナ)

第29話 セレナの孤独を聞く勇者

しおりを挟む
 氷の牢に、これまでとは違う気配が満ち始めた。

 冷気ではない。
 精霊の囁きでもない。

 ――人の気配だ。

 悠は、壁にもたれたまま目を開いた。
 足音は聞こえない。
 扉が開く音もない。

 それでも、そこにいると分かった。

「……北の地を、凍らせた理由を」

 声が、氷壁を伝って響いた。

 澄んでいて、冷たい。
 だが、これまでよりも、わずかに近い。

 セレナの声だった。

「知りたいのでしょう」

 悠は、すぐに答えなかった。

 問い詰める気も、裁く気もない。
 だからこそ、言葉を選ぶ必要がなかった。

「……聞く」

 それだけで、十分だった。

 しばしの沈黙。

 やがて、セレナは静かに語り始めた。

「この地は、最初から氷に覆われていたわけじゃない」

 氷壁の奥に、気配が揺れる。

「北は緑豊かな土地だった……
 そこでは、人々が暮らしていた」

 悠は、黙って耳を傾ける。

「私は、彼らを助けた」
「精霊と共に、作物を育て、冬を越えさせた」

 それは、かつて見た映像と重なっていた。

「……感謝もされた。
 祈りも、捧げられた」

 声に、感情はない。
 事実を並べているだけだ。

「でも、長くは続かなかった」

 ほんの僅か、間が空く。

「力は、恐怖を生む」
「違いは、猜疑を生む」

 人々の視線が変わっていった日のこと。
 言葉の端々に、それが滲む。

「異端」
「魔女」
「いつか災いをもたらす存在」

「……裏切られたのか?」

 悠が、静かに言う。

「ええ」

 セレナは、否定しなかった。

「捕らえられ、精霊は傷つけられ……
 私を守ろうとした存在ほど、犠牲になった」

 氷壁の向こうで、気配が歪む。

「でも」

 セレナは、そこで言葉を切った。

「それが、すべての理由ではない」

 悠は、眉をひそめる。

「……どういうことだ」

「裏切りよりも」

 声が、ほんの少しだけ、低くなる。

「孤独の方が、深く刺さった」

 その言葉は、氷よりも冷たかった。

「誰も、いなくなった」
「人も、信頼も、居場所も」

 残ったのは、精霊だけ。

「精霊は、優しい」
「けれど……同じではない」

 その意味は、悠にも分かった。

 どれほど寄り添われても、
 **“人ではない”**という隔たりは消えない。

「……誰にも、触れられなかった」

 その声に、初めて、かすかな揺れが混じる。

「呼びかけても、返るのは風と氷だけ」
「怒りも、悲しみも、分かち合えない」

 孤独。

 それは、裏切りよりも、
 痛みよりも、
 ゆっくりと心を削る。

「その時――」

 セレナは、しばらく黙った。

 そして、ようやく口を開く。

「声が、聞こえた」

 悠の呼吸が、わずかに止まる。

「慰める声」
「理解する声」

 氷壁の向こうで、気配が濃くなる。

「『守らなくていい』」
「『傷つかなくていい』」
「『凍らせれば、誰も近づけない』」

 その言葉は、
 かつての彼女にとって、救いだった。

「……それが、魔王か」

 悠は、確信に近い直感で呟く。

 セレナは、否定しない。

「名前を知ったのは、ずっと後よ」

 声は、淡々としている。

「でも、その時の私は……
 それが悪だとは、思えなかった」

 理解できてしまう。
 悠は、そう感じた。

 孤独の底で、
 差し伸べられた“肯定”。

 それが罠だと、
 気づけるほど、心は強くなかった。

「私は……凍らせた」

 自分も、
 世界も。

「近づく者を拒み、
 傷つく可能性を、すべて閉じ込めた」

 氷精霊たちは、その感情を受け取り、
 守ろうとした。

「……だから、ここは氷獄になった」

 長い沈黙が落ちる。

 悠は、ゆっくりと息を吐いた。

「……あんたは、支配者じゃない」

 その言葉に、気配が揺れる。

「囚われてたんだ」

 沈黙。

「……同情は、いらない」

 セレナの声が、少しだけ強くなる。

「私は、選んだ」
「凍らせることを」

 悠は、首を振らなかった。

 肯定もしない。

 ただ、言う。

「選ばされた、ってこともある」

 その言葉は、責めでも擁護でもなかった。

 事実として、置かれただけだ。

 セレナは、答えない。

 だが、氷の牢の冷気が、ほんのわずか、和らいだ。

「……だから私は、もう誰も近づけない」

 最後の言葉は、壁のようだった。

 悠は、すぐには返さなかった。

 言葉で崩せるほど、
 この孤独は薄くない。

「……分かった」

 それだけ、答える。

 否定しない。
 説得もしない。

 ただ、受け取る。

 それが、今できることだった。

 氷の牢に、再び静寂が戻る。

 だが、その沈黙は、
 これまでとは違っていた。

 凍りついた心の奥で、
 小さな、揺らぎが生まれている。

 悠は、確信する。

 ここから先は、
 戦いではない。

 時間と、温度の話だ。

 次に待つのは、
 凍りついた世界の中に残る――

 小さな花。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...