『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第34話 共闘の契約を結ぶ勇者

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 氷の城は、静まり返っていた。

 嵐が去ったあとの静寂。
 それは安堵ではなく、整理された空気に近い。

 荒れ狂っていた氷精霊たちの気配は落ち着き、
 城内を満たす寒気は、ただの北の冷たさへと戻っている。

 悠は、ゆっくりと歩いていた。

 氷の牢を出てから、拘束はされていない。
 だが、自由でもない。

 敵ではなく、
 侵入者でもなく、
 ――客人。

 その扱いが、すべてを物語っていた。

「……ずいぶん変わったな」

 悠は、城内を見回しながら呟く。

 同じ氷でできた城だが、
 あのとき感じていた圧迫感はない。

 拒絶のための城から、
 守るための城へ。

 その境目が、確かに存在していた。

 足音が、前方から響く。

 軽く、だがはっきりとした足取り。

 悠は、立ち止まった。

 白銀の髪。
 蒼い瞳。

 セレナが、正面から現れた。

 距離は、まだある。
 触れ合えるほど近くはない。

 それでも、
 これまでで最も近い位置だった。

「……あなたは」

 セレナは、淡々とした声で言った。

「敵ではない」

 断定だった。

 悠は、驚かない。

「それで十分だ」

 礼も言わない。
 勝ち誇りもしない。

 事実を、受け取っただけだ。

 セレナは、僅かに目を細める。

「随分と、あっさりしているのね」

「面倒なことは嫌いでな」

 悠は肩をすくめる。

「話ができるなら、それでいい」

 沈黙が落ちる。

 だが、これは対立の沈黙ではない。

 交渉の沈黙だった。

「……魔王の影が、北に及んでいる」

 セレナが、口を開く。

 これまで、はっきりと語られることのなかった存在。

「あなたが感じた通りよ。
 あれは、外から力を加えた存在」

 悠は、頷くだけで応じる。

「私の孤独に、付け込んだ」
「心を凍らせることで、安定を与えたつもりだったのでしょう」

 自嘲はない。
 言い訳もない。

 事実として、語られている。

「……倒す、つもりか?」

 悠が、静かに聞く。

 セレナは、首を振った。

「いいえ」
「切り離す」

 その言葉に、悠は僅かに目を細める。

 同じ結論だ。

「共闘するなら、条件がある」

 セレナの声は、冷静だった。

 感情ではなく、理性で語っている。

「条件①」
「北の地と、精霊に直接的な被害を出さないこと」

 当然の条件だ。

 悠は、無言で頷く。

「条件②」
「私を、従わせる存在として扱わないこと」

 その言葉には、過去の痛みが滲んでいた。

「命令される関係は、もう二度とごめんよ」

「……了解だ」

 悠は、即答した。

「俺は、誰かを従わせる趣味はない」

 セレナは、その答えを見極めるように見つめる。

「条件③」
「この共闘は、信頼によるものではない」

 はっきりと、線を引く。

「必要だから、並ぶ」
「それ以上でも、それ以下でもない」

 悠は、少しだけ考えたあと、口を開いた。

「……俺も、条件がある」

 セレナの眉が、僅かに動く。

「言って」

「誰も、独りにしない」

 短い言葉。

 だが、真っ直ぐだった。

「北の民も」
「精霊も」

 そして――

「……あんた自身もだ」

 その瞬間、
 氷精霊たちの気配が、ざわめいた。

 拒絶ではない。
 驚きに近い反応。

 セレナは、しばらく黙っていた。

 感情が揺れたわけではない。
 だが、判断に時間を要している。

「……それは、契約条件としては曖昧ね」

「そうだな」

 悠は、苦笑する。

「でも、これが俺だ」

 しばしの沈黙。

 やがて、
 氷精霊の一体が、静かに光を放った。

 それは、
 契約の承認だった。

 精霊たちは、この共闘を認めた。

 セレナは、深く息を吸う。

「……分かった」

 そして、はっきりと言う。

「条件付きで、共に戦う」

 剣は交わされない。
 血も流れない。

 だが、
 確かに契約は結ばれた。

 悠は、静かに頷いた。

「よろしく頼む」

 セレナは、一瞬だけ視線を逸らし、

「……必要な間だけよ」

 そう答えた。

 それで、十分だった。

 氷の城は、もう敵の城ではない。
 だが、完全な味方でもない。

 それでも――
 並んで立つことはできる。

 北の地に、
 新たな関係が、静かに根を下ろした。

 次に待つのは、
 共闘としての最初の戦場。

 氷狼軍団。

 勇者は、初めて魔女と並び、
 戦場へ向かうことになる。
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