『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第84話 北の民に送られる勇者

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 夜が、終わろうとしていた。

 雪原に静かな光が差し始める。
 星の瞬きが薄れ、空の色がゆっくりと変わっていく。

 悠は、結界の外から戻ってきた。

 祝福を受けた右手――手の甲には淡く光る六芒の氷紋章。
 まだ微かに温もりのような力が残っている。

 結界の中では、セレナが静かに立っていた。
 剣を手に、周囲を警戒している。

 悠の足音に気付き、振り向く。

「……おかえり」

「ああ」

 短いやり取り。

 だが、どこか安心した空気が流れる。

 悠は結界の中へ戻ると、肩を回した。

「見張り、ありがとな」

 セレナは小さく首を振る。

「当然よ。あなたがいない間、守るのは私の役目」

 そう言いながらも、悠の様子を観察している。

「……何があったの?」

 悠は少し考え、右手を差し出した。

「これ」

 手の甲。

 六芒の氷紋章が淡く光る。

 それを見た瞬間――

 セレナの瞳が揺れた。

「……まさか」

 ゆっくり近づく。

 指先が震える。

「氷精霊女王に……会ったの?」

 悠は少し驚く。

「知ってるのか?」

 セレナは頷いた。

「えぇ……私も、昔――祝福を受けたことがある」

 悠が目を細める。

「そうなのか」

「でも……」

 セレナは紋章を見つめる。

「あなたのとは……違う」

 静かな声。

「こんな強い紋章……見たことがない」

 悠は苦笑する。

「そんな大したもんでもねぇよ」

「違う」

 セレナははっきり言った。

「悠は、氷精霊女王に認められた」

 少しだけ微笑む。

 どこか誇らしそうに。

「……嬉しい」

 小さな言葉。

 悠は少し照れたように目を逸らす。

「……そうかよ」

 そのまま二人は並んで座る。

 静かな夜。

 精霊たちが漂う。

 やがて――

 空が明るくなってきた。

 夜が終わる。

 朝が来る。

 テントの中から、もぞもぞと音。

 リオネルが顔を出す。

「……朝、ですか」

 エルザも続いて起きる。

「寒くない……」

 結界の温もり。

 穏やかな朝。

 やがて四人は野営の片付けを始めた。

 テントを畳み、荷物をまとめ、結界を解除。

 冷たい空気が戻る。

 だが――

 もう、凍てつく寒さではない。

 悠は空を見上げる。

 淡い光。

 遠くの雪原。

「……行くか」

 四人は歩き出す。

 向かう先――北の民たち。



 村に到着すると、すぐに人々が集まってきた。

 悠とセレナの姿を見ると――

 ざわめき。

 だが恐れではない。

 期待。

 祈り。

 悠は一歩前へ出る。

 そして、はっきり言った。

「……もうすぐ、ここに春が来る」

 静寂。

 風が止まる。

 民たちの視線が――セレナへ。

 セレナは静かに前へ出た。

 そして、小さく頷く。

「……えぇ」

 それだけ。

 だが――

 その一言で、すべてが伝わった。

 涙を流す者。

 笑う者。

 手を合わせる者。

「ありがとう……」

「ありがとう……!」

「春が……戻る……」

 民たちは悠に頭を下げた。

 深く。

 何度も。

 悠は困ったように頭をかく。

「俺だけじゃねぇよ」

 セレナを見る。

 セレナは少し驚き――そして微笑んだ。

 やがて。

 悠は言う。

「……俺たちは一度、王都へ戻る」

 民たちは頷く。

 止めない。

 分かっている。

 勇者には、進むべき道がある。

 四人は歩き出す。

 振り返らない。

 だが――

 後ろから声。

「勇者様ー!」

 手を振る子供たち。

 民たちも。

 何度も。

 何度も。

 悠たちが見えなくなるまで。

 ずっと。

 手を振り続けた。

 春を連れてきた者たちへ。

 希望をくれた者たちへ。

 静かな雪原。

 だが――

 もう、氷の大地ではない。

 街道に立って居る木の根元から花の芽が            
 見えて居る。
 やがてここに、春が来る。

 悠は歩きながら、小さく呟いた。

「……次だな」

 魔王へ。

 その道は、まだ続く。
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