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第13話 警察官の極道
極道とは、その道を極めた者のことを言う。
昨今では「極道」と聞けば、誰もが眉をひそめて“ヤクザ”を想像する。
だが、本来の意味はまるで違う。
刃物を振り回し、威圧と暴力に物を言わせる者のことではない。
己で選んだ道に、一切の妥協なく身を投じ、
ただひたすらに磨き続ける者——その生き様こそが極道である。
料理人ならば包丁を極め、
職人ならば技を極め、
武の者ならば心と体を極める。
道の数だけ極道が存在する。
だが、現代日本ではその本義は忘れ去られ、
極道といえば反社会の象徴のように扱われてきた。
白石龍臣は、警察署の前に立っていた。
今回のテーマは
「市民を守る極道」——警察官。
警備員、医師、声優……
多くの“極道”を取材してきたが、
“命と社会秩序の最前線”に立つ仕事へ踏み込むのは初めてだった。
編集長は言った。
「警察官にもいろんな奴がいる。
だが、本物の極道が一人だけいる。
名前は——大河内 慎(おおこうち しん)。
捜査一課の刑事だ」
大河内慎、43歳。
凶悪犯罪を何十件も解決し、
現場の刑事たちが“鬼慎(おにしん)”と呼ぶ男。
龍臣は緊張しながら取材室へ入った。
そして、思わず息を呑んだ。
彼はそこにいた。
落ち着いた黒いスーツ、
傷の残る頬、
低く静かな眼光。
まるで警察官というより、
“戦場を知る男”だった。
龍臣が挨拶を終えると、大河内は淡々と言った。
「警察官の仕事は単純だ。
市民を怯えさせない世界を作ること。
犯罪者の都合に、この街を支配させないことだ」
「怯えさせない……」
「人は恐怖によって簡単に自由を奪われる。
夜道を歩けない。
鍵を閉めても安心できない。
子どもを一人で学校に行かせられない。
そんな世界を作るのは“悪”じゃない」
大河内は拳を握った。
「悪を放置することだ。
だから俺たちは……絶対に折れちゃいけない」
その胸の奥には“怒り”ではなく、
“覚悟”があった。
大河内は龍臣を連れて、署内の会議室へ案内した。
壁には事件の資料が貼られ、地図には赤いピンが刺されている。
「刑事の仕事はな……“嘘”を探すことだ」
「嘘……?」
「どんな犯罪者も、どこかで嘘をつく。
アリバイの時間、
顔の動き、
呼吸、言葉の選び方……」
大河内は少年のように静かに笑った。
「俺は人の嘘が聞こえるんだよ。声に出さなくてもな」
——天職。
だが、それは天才の才能ではなく、
血の滲む経験によって積み重ねられた“技術”だった。
その時、無線が鳴り響いた。
《強盗犯、逃走中! 黒いパーカー、刃物所持の疑い!》
大河内の目が鋭くなる。
「白石、来るか?」
「……え?」
「“極道の現場”を見せてやる。
安全は守る。俺の後ろにいろ」
その言葉の強さに、龍臣は頷いた。
パトカーがサイレンを鳴らし、
街へ飛び出す。
逃走犯は繁華街の裏路地に紛れたらしい。
大河内はわずかな足跡、
自転車の倒れ方、
店の監視カメラの角度を見ただけでルートを判断する。
「東に逃げてる。あの角だ」
龍臣は思った。
——推理じゃない。
——“現場を読む力”だ。
そして見つけた。
黒いパーカーの男が震えながら刃物を握っている。
若い。
まだ十代かもしれない。
「近づくなッ!! 来たら刺す!!」
男は必死に叫ぶ。
周囲の人々が悲鳴を上げ、逃げ惑う。
大河内はゆっくり歩き出した。
「刺さねぇよ、お前は。
震えてるのは寒いからじゃねぇ。
罪の重さに気づいたからだ」
少年の目が揺れた。
「こっちに来んな!!」
「来てほしいんだろ。
本当は、ここで終わりにしたいんだろ」
少年の腕が震え、刃物が落ちた。
大河内はその瞬間、電光石火の動きで少年を押さえ込んだ。
「……よく頑張ったな」
少年はその場で泣き崩れた。
パトカーで署へ戻る途中、龍臣は問う。
「大河内さん……どうしてあの少年にあんな言葉を?」
大河内は静かに答える。
「犯罪者は悪だ。
だが……“人間を憎んで”逮捕するのは警察官じゃない」
「……」
「俺たちの仕事は、
罪を止めることであって、人を憎むことじゃない。
憎しみをぶつけたら、それはただの暴力になる」
龍臣は深く息を呑む。
——警察官という仕事の矜持。
署に戻ったときだった。
入り口の壁にもたれ、
黒いコートの男が煙草を吸っていた。
桐生 遼。
「……遼さん?」
龍臣が驚くと、大河内は苦笑した。
「相変わらず、人の仕事場に勝手に入るな」
遼は煙を吐き、静かに言った。
「お前の逮捕術は相変わらずだな、慎」
どういう関係なのか?
龍臣は聞かずにいられなかった。
「大河内さんと桐生さん……知り合いなんですか?」
大河内は苦い顔で言う。
「昔、ある事件でこいつに助けられてな」
遼は肩をすくめる。
「警察は嫌いだが……あんたは別だよ。
あんたは“市民のために怒れる男”だ」
大河内はうつむき、わずかに笑った。
「褒められる覚えはねぇよ。
だが……ありがとうよ、遼」
遼が再登場し、
また“二人だけの過去”が匂わされた。
取材を終え、龍臣はノートに記した。
「極道とは、悪意に屈せず、市民の恐れを取り除く者である。」
警察官は暴力を使うのではなく、
人間の心を読み、
嘘を見抜き、
孤独な犯罪を止める。
時には、社会に嫌われながら。
その姿は、
**まさに“秩序を守る極道”**だった。
龍臣は署を出るとき、
もう一度振り返った。
そこには、
夜の街を守る最後の砦——極道たちがいた。
昨今では「極道」と聞けば、誰もが眉をひそめて“ヤクザ”を想像する。
だが、本来の意味はまるで違う。
刃物を振り回し、威圧と暴力に物を言わせる者のことではない。
己で選んだ道に、一切の妥協なく身を投じ、
ただひたすらに磨き続ける者——その生き様こそが極道である。
料理人ならば包丁を極め、
職人ならば技を極め、
武の者ならば心と体を極める。
道の数だけ極道が存在する。
だが、現代日本ではその本義は忘れ去られ、
極道といえば反社会の象徴のように扱われてきた。
白石龍臣は、警察署の前に立っていた。
今回のテーマは
「市民を守る極道」——警察官。
警備員、医師、声優……
多くの“極道”を取材してきたが、
“命と社会秩序の最前線”に立つ仕事へ踏み込むのは初めてだった。
編集長は言った。
「警察官にもいろんな奴がいる。
だが、本物の極道が一人だけいる。
名前は——大河内 慎(おおこうち しん)。
捜査一課の刑事だ」
大河内慎、43歳。
凶悪犯罪を何十件も解決し、
現場の刑事たちが“鬼慎(おにしん)”と呼ぶ男。
龍臣は緊張しながら取材室へ入った。
そして、思わず息を呑んだ。
彼はそこにいた。
落ち着いた黒いスーツ、
傷の残る頬、
低く静かな眼光。
まるで警察官というより、
“戦場を知る男”だった。
龍臣が挨拶を終えると、大河内は淡々と言った。
「警察官の仕事は単純だ。
市民を怯えさせない世界を作ること。
犯罪者の都合に、この街を支配させないことだ」
「怯えさせない……」
「人は恐怖によって簡単に自由を奪われる。
夜道を歩けない。
鍵を閉めても安心できない。
子どもを一人で学校に行かせられない。
そんな世界を作るのは“悪”じゃない」
大河内は拳を握った。
「悪を放置することだ。
だから俺たちは……絶対に折れちゃいけない」
その胸の奥には“怒り”ではなく、
“覚悟”があった。
大河内は龍臣を連れて、署内の会議室へ案内した。
壁には事件の資料が貼られ、地図には赤いピンが刺されている。
「刑事の仕事はな……“嘘”を探すことだ」
「嘘……?」
「どんな犯罪者も、どこかで嘘をつく。
アリバイの時間、
顔の動き、
呼吸、言葉の選び方……」
大河内は少年のように静かに笑った。
「俺は人の嘘が聞こえるんだよ。声に出さなくてもな」
——天職。
だが、それは天才の才能ではなく、
血の滲む経験によって積み重ねられた“技術”だった。
その時、無線が鳴り響いた。
《強盗犯、逃走中! 黒いパーカー、刃物所持の疑い!》
大河内の目が鋭くなる。
「白石、来るか?」
「……え?」
「“極道の現場”を見せてやる。
安全は守る。俺の後ろにいろ」
その言葉の強さに、龍臣は頷いた。
パトカーがサイレンを鳴らし、
街へ飛び出す。
逃走犯は繁華街の裏路地に紛れたらしい。
大河内はわずかな足跡、
自転車の倒れ方、
店の監視カメラの角度を見ただけでルートを判断する。
「東に逃げてる。あの角だ」
龍臣は思った。
——推理じゃない。
——“現場を読む力”だ。
そして見つけた。
黒いパーカーの男が震えながら刃物を握っている。
若い。
まだ十代かもしれない。
「近づくなッ!! 来たら刺す!!」
男は必死に叫ぶ。
周囲の人々が悲鳴を上げ、逃げ惑う。
大河内はゆっくり歩き出した。
「刺さねぇよ、お前は。
震えてるのは寒いからじゃねぇ。
罪の重さに気づいたからだ」
少年の目が揺れた。
「こっちに来んな!!」
「来てほしいんだろ。
本当は、ここで終わりにしたいんだろ」
少年の腕が震え、刃物が落ちた。
大河内はその瞬間、電光石火の動きで少年を押さえ込んだ。
「……よく頑張ったな」
少年はその場で泣き崩れた。
パトカーで署へ戻る途中、龍臣は問う。
「大河内さん……どうしてあの少年にあんな言葉を?」
大河内は静かに答える。
「犯罪者は悪だ。
だが……“人間を憎んで”逮捕するのは警察官じゃない」
「……」
「俺たちの仕事は、
罪を止めることであって、人を憎むことじゃない。
憎しみをぶつけたら、それはただの暴力になる」
龍臣は深く息を呑む。
——警察官という仕事の矜持。
署に戻ったときだった。
入り口の壁にもたれ、
黒いコートの男が煙草を吸っていた。
桐生 遼。
「……遼さん?」
龍臣が驚くと、大河内は苦笑した。
「相変わらず、人の仕事場に勝手に入るな」
遼は煙を吐き、静かに言った。
「お前の逮捕術は相変わらずだな、慎」
どういう関係なのか?
龍臣は聞かずにいられなかった。
「大河内さんと桐生さん……知り合いなんですか?」
大河内は苦い顔で言う。
「昔、ある事件でこいつに助けられてな」
遼は肩をすくめる。
「警察は嫌いだが……あんたは別だよ。
あんたは“市民のために怒れる男”だ」
大河内はうつむき、わずかに笑った。
「褒められる覚えはねぇよ。
だが……ありがとうよ、遼」
遼が再登場し、
また“二人だけの過去”が匂わされた。
取材を終え、龍臣はノートに記した。
「極道とは、悪意に屈せず、市民の恐れを取り除く者である。」
警察官は暴力を使うのではなく、
人間の心を読み、
嘘を見抜き、
孤独な犯罪を止める。
時には、社会に嫌われながら。
その姿は、
**まさに“秩序を守る極道”**だった。
龍臣は署を出るとき、
もう一度振り返った。
そこには、
夜の街を守る最後の砦——極道たちがいた。
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