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第1部:序章 - 無名の挑戦
第24話 支持者からの批判
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事務所の机の上に、束ねられた封筒が積まれていた。演説を重ねるごとに届くようになった市民からの手紙である。応援や激励、時に感想、時に要望。その日も健人は、疲れた体を椅子に預けながら一通ずつ開封していた。
「応援しています」――最初の一行に胸が温かくなる。だが次の一文に目が止まった。
「けれど、最近の演説は焦点がぼやけている気がします」
健人は息を呑み、手紙を持つ指先がわずかに震えた。敵や無関心な人間からの批判ならば、痛みはあっても耐えられる。だが、応援してくれている人からの苦言は重い。胸の奥に鈍い痛みが広がる。
真田が横から顔を覗き込み、言葉をかけた。
「成長のための声ですよ。支持しているからこそ、厳しい言葉を送ってきたんです」
「でも……俺は期待を裏切ってるんじゃないのか」
健人は思わず呟いた。答えを求めているわけではない。ただ、弱音が口をついて出てしまったのだ。
その日の演説後。人混みの中から一人の年配男性が近づいてきた。手には健人のビラを握りしめている。
「頑張ってほしいがな、全部に手を出そうとすると結局何もできんぞ」
鋭い視線に射抜かれ、健人は言葉を失った。口を開けば何かを言い返せたかもしれない。だが、言葉が喉につかえて出てこない。ただ小さくうなずき、うつむくしかなかった。
夜。スマホを開けばSNSにも同じような声が並んでいた。
「応援してるけど、もう少し具体策を」
「熱い気持ちは伝わる。けど、それでどう変えるんだ?」
支持と批判が混じり合ったコメントの数々。画面をスクロールするたびに、健人の迷いは深くなる。
事務所に戻ると、ボランティアの若者が励ますように声をかけてきた。
「批判もされるってことは注目されてる証拠ですよ。無関心よりずっといい」
その言葉はまっすぐだったが、健人の表情は晴れなかった。心の奥に沈殿する不安を振り払うことができなかった。
深夜、反省会。机の上に広げられたホワイトボードには、政策の断片的なキーワードが並んでいる。真田がペンを置き、健人に向き直った。
「支持者だからこそ厳しく言ってくれるんです。耳をふさがず、誠実に応えるしかない」
「でも……全部に応えられるのか?」
健人は頭を抱えた。教育も、雇用も、年金も、医療も。あれもこれもと背負おうとすればするほど、自分が小さく無力に思えてしまう。答えは出なかった。
翌朝。健人は演説台に立ち、深く息を吸った。いつもと同じ駅前。通行人の冷たい流れの中で、彼はあえてこう切り出した。
「最近、批判の声が届いています」
ざわめきが起こる。だが健人は逃げなかった。
「俺は完璧じゃありません。全部を背負いきれるわけでもない。けれど皆さんの声に耳を傾け、少しずつでも変わっていきたいんです」
その誠実さが、一部の聴衆の胸に響いた。立ち止まる人の目が変わり、うなずく姿がちらほらと見える。
その中に――先日手紙を送った支持者の姿があった。腕を組み、厳しい表情で演説を見つめている。最後まで言葉を聞き終えたあと、その人物はゆっくりと手を叩いた。大きな拍手ではなかった。だが確かに、その掌は健人へ向けられていた。
健人は気づいた。目の奥に熱いものが込み上げる。
「届いた……」
事務所に戻ると、また新しい手紙が届いていた。封を切ると、そこにはこう書かれていた。
「真剣に受け止めてくれてありがとう。あなたなら変わっていけると信じます」
健人は長く息を吐き、静かに手紙を胸に押し当てた。悟ったのだ。
――支持とは賛美だけではない。時に批判も含めて、共に歩むための道しるべなのだと。
”応援の声だけが支えじゃない。
批判こそが、共に歩むための道しるべだ。“
「応援しています」――最初の一行に胸が温かくなる。だが次の一文に目が止まった。
「けれど、最近の演説は焦点がぼやけている気がします」
健人は息を呑み、手紙を持つ指先がわずかに震えた。敵や無関心な人間からの批判ならば、痛みはあっても耐えられる。だが、応援してくれている人からの苦言は重い。胸の奥に鈍い痛みが広がる。
真田が横から顔を覗き込み、言葉をかけた。
「成長のための声ですよ。支持しているからこそ、厳しい言葉を送ってきたんです」
「でも……俺は期待を裏切ってるんじゃないのか」
健人は思わず呟いた。答えを求めているわけではない。ただ、弱音が口をついて出てしまったのだ。
その日の演説後。人混みの中から一人の年配男性が近づいてきた。手には健人のビラを握りしめている。
「頑張ってほしいがな、全部に手を出そうとすると結局何もできんぞ」
鋭い視線に射抜かれ、健人は言葉を失った。口を開けば何かを言い返せたかもしれない。だが、言葉が喉につかえて出てこない。ただ小さくうなずき、うつむくしかなかった。
夜。スマホを開けばSNSにも同じような声が並んでいた。
「応援してるけど、もう少し具体策を」
「熱い気持ちは伝わる。けど、それでどう変えるんだ?」
支持と批判が混じり合ったコメントの数々。画面をスクロールするたびに、健人の迷いは深くなる。
事務所に戻ると、ボランティアの若者が励ますように声をかけてきた。
「批判もされるってことは注目されてる証拠ですよ。無関心よりずっといい」
その言葉はまっすぐだったが、健人の表情は晴れなかった。心の奥に沈殿する不安を振り払うことができなかった。
深夜、反省会。机の上に広げられたホワイトボードには、政策の断片的なキーワードが並んでいる。真田がペンを置き、健人に向き直った。
「支持者だからこそ厳しく言ってくれるんです。耳をふさがず、誠実に応えるしかない」
「でも……全部に応えられるのか?」
健人は頭を抱えた。教育も、雇用も、年金も、医療も。あれもこれもと背負おうとすればするほど、自分が小さく無力に思えてしまう。答えは出なかった。
翌朝。健人は演説台に立ち、深く息を吸った。いつもと同じ駅前。通行人の冷たい流れの中で、彼はあえてこう切り出した。
「最近、批判の声が届いています」
ざわめきが起こる。だが健人は逃げなかった。
「俺は完璧じゃありません。全部を背負いきれるわけでもない。けれど皆さんの声に耳を傾け、少しずつでも変わっていきたいんです」
その誠実さが、一部の聴衆の胸に響いた。立ち止まる人の目が変わり、うなずく姿がちらほらと見える。
その中に――先日手紙を送った支持者の姿があった。腕を組み、厳しい表情で演説を見つめている。最後まで言葉を聞き終えたあと、その人物はゆっくりと手を叩いた。大きな拍手ではなかった。だが確かに、その掌は健人へ向けられていた。
健人は気づいた。目の奥に熱いものが込み上げる。
「届いた……」
事務所に戻ると、また新しい手紙が届いていた。封を切ると、そこにはこう書かれていた。
「真剣に受け止めてくれてありがとう。あなたなら変わっていけると信じます」
健人は長く息を吐き、静かに手紙を胸に押し当てた。悟ったのだ。
――支持とは賛美だけではない。時に批判も含めて、共に歩むための道しるべなのだと。
”応援の声だけが支えじゃない。
批判こそが、共に歩むための道しるべだ。“
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