48 / 179
第1部:序章 - 無名の挑戦
第48話 週刊誌の記者に追われる
しおりを挟む
夕暮れ時の議員会館を後にした坂本健人は、鞄を肩に掛けながら、冷たい風を胸いっぱいに吸い込んだ。国会での会議を終えて外に出ると、すっかり日が落ちかけ、霞ヶ関のビル群の間を行き交う人々の影が長く伸びていた。
真田と田島も一緒にいた。三人で夕食にでも行こうかと話していた矢先――健人の背筋に、ふと冷たい視線が突き刺さった。
「……健人、あれ」
田島が低い声でささやく。
視線の先、街灯の下に立つ男がいた。黒いコートにカメラを抱え、首からは記者証らしきものがぶら下がっている。レンズは明らかに健人たちを狙っていた。
男は迷うことなく近づいてくる。人混みをすり抜け、数メートル先で立ち止まった。
「無所属の新人議員さん。ちょっとお時間よろしいですか?」
声は礼儀を装っていたが、目は獲物を逃がさぬ猛禽のように光っていた。
「スポンサーはどちらです? 裏で支えている団体があるんじゃないですか?」
「資金源は? ご両親の援助だけでは到底足りないでしょう」
「女性関係は? 選挙中に支援者と親密な関係があったという話も――」
畳みかけるような質問の連打に、健人は思わず足を止めた。
「……いません。資金も、裏も、ないです」
声を振り絞ったが、記者は意に介さず、さらに近寄ってくる。
真田がすぐに間に入り、記者に向かって冷静に言った。
「ご質問があるなら、正式に申し込みをしてください。突然押しかけての取材はご遠慮いただきたい」
しかし男はにやりと笑い、「正式にしていたら答えてもらえませんからね」と返す。
そのやり取りを見ていた通行人が、ひそひそと囁き合う。
「誰? 芸能人?」
「議員らしいよ。カメラに追われてる」
スマホを向ける人まで現れ、あっという間に小さな騒ぎになった。
「行こう!」
田島が健人の腕をつかむ。三人は早足で駅前へと歩き出す。しかし記者も執拗に追ってきた。カメラのフラッシュが連続して光り、健人の目が一瞬、白く焼かれる。
「無所属の希望、なんて言われてますけどね! 本当はどうなんです? 理想だけでやっていけるんですか?」
声が背後から突き刺さる。健人は振り返らず、必死に歩いた。
やがて人通りの多い交差点に差しかかると、田島が小声で言った。
「こっちだ、裏路地に入るぞ!」
三人は角を曲がり、細い路地へと駆け込む。人波を抜け、コンビニの脇道をすり抜け、ようやく記者の姿が見えなくなった。
ビルの陰で足を止めた健人は、膝に手をつきながら荒い息を吐いた。
「……これが、有名税ってやつか」
吐き出した声には、苦笑とも諦めともつかぬ響きがあった。
だがその夜、事態はさらに悪化する。
週刊誌のネット記事に大きな見出しが踊った。
――「無所属新人議員・坂本健人、資金疑惑か?」
添えられた写真には、駅前で走る健人の姿。苦悶の表情が切り取られていた。記事の中身は根拠のない憶測と噂ばかり。それでもSNS上では瞬く間に拡散されていった。
「やっぱり裏があったんだろ」
「応援してたけど、これは怪しい」
「でも、信じたい」
賛否入り乱れるコメントが飛び交う。
事務所には電話が殺到した。
「健人さんを信じてます!」という声もあれば、「説明責任を果たせ!」という怒号もある。
スタッフは対応に追われ、疲労で顔を青ざめさせていた。
机に積まれた抗議と応援の手紙を前に、健人は両手を握りしめた。
「……正直にやってきた。それでも疑われるんだ」
呟きは、まるで自分自身を責めるようでもあった。
真田がそっと言葉をかける。
「だからこそ、潔白を示し続けるしかありません。言葉ではなく、行動で」
田島も肩を叩き、笑ってみせる。
「大丈夫だ。俺たちは見てきた。お前がどれだけ汗を流してきたか、知ってるから」
夜更け、健人はノートを開き、一行を書き記した。
――「追われてもいい。俺は逃げない。真実で戦う」
ペン先が震えていたが、その文字は力強く紙に刻まれていた。
”噂は追いかけてくる。
だが真実から逃げなければ、
必ず光は見えてくる。“
真田と田島も一緒にいた。三人で夕食にでも行こうかと話していた矢先――健人の背筋に、ふと冷たい視線が突き刺さった。
「……健人、あれ」
田島が低い声でささやく。
視線の先、街灯の下に立つ男がいた。黒いコートにカメラを抱え、首からは記者証らしきものがぶら下がっている。レンズは明らかに健人たちを狙っていた。
男は迷うことなく近づいてくる。人混みをすり抜け、数メートル先で立ち止まった。
「無所属の新人議員さん。ちょっとお時間よろしいですか?」
声は礼儀を装っていたが、目は獲物を逃がさぬ猛禽のように光っていた。
「スポンサーはどちらです? 裏で支えている団体があるんじゃないですか?」
「資金源は? ご両親の援助だけでは到底足りないでしょう」
「女性関係は? 選挙中に支援者と親密な関係があったという話も――」
畳みかけるような質問の連打に、健人は思わず足を止めた。
「……いません。資金も、裏も、ないです」
声を振り絞ったが、記者は意に介さず、さらに近寄ってくる。
真田がすぐに間に入り、記者に向かって冷静に言った。
「ご質問があるなら、正式に申し込みをしてください。突然押しかけての取材はご遠慮いただきたい」
しかし男はにやりと笑い、「正式にしていたら答えてもらえませんからね」と返す。
そのやり取りを見ていた通行人が、ひそひそと囁き合う。
「誰? 芸能人?」
「議員らしいよ。カメラに追われてる」
スマホを向ける人まで現れ、あっという間に小さな騒ぎになった。
「行こう!」
田島が健人の腕をつかむ。三人は早足で駅前へと歩き出す。しかし記者も執拗に追ってきた。カメラのフラッシュが連続して光り、健人の目が一瞬、白く焼かれる。
「無所属の希望、なんて言われてますけどね! 本当はどうなんです? 理想だけでやっていけるんですか?」
声が背後から突き刺さる。健人は振り返らず、必死に歩いた。
やがて人通りの多い交差点に差しかかると、田島が小声で言った。
「こっちだ、裏路地に入るぞ!」
三人は角を曲がり、細い路地へと駆け込む。人波を抜け、コンビニの脇道をすり抜け、ようやく記者の姿が見えなくなった。
ビルの陰で足を止めた健人は、膝に手をつきながら荒い息を吐いた。
「……これが、有名税ってやつか」
吐き出した声には、苦笑とも諦めともつかぬ響きがあった。
だがその夜、事態はさらに悪化する。
週刊誌のネット記事に大きな見出しが踊った。
――「無所属新人議員・坂本健人、資金疑惑か?」
添えられた写真には、駅前で走る健人の姿。苦悶の表情が切り取られていた。記事の中身は根拠のない憶測と噂ばかり。それでもSNS上では瞬く間に拡散されていった。
「やっぱり裏があったんだろ」
「応援してたけど、これは怪しい」
「でも、信じたい」
賛否入り乱れるコメントが飛び交う。
事務所には電話が殺到した。
「健人さんを信じてます!」という声もあれば、「説明責任を果たせ!」という怒号もある。
スタッフは対応に追われ、疲労で顔を青ざめさせていた。
机に積まれた抗議と応援の手紙を前に、健人は両手を握りしめた。
「……正直にやってきた。それでも疑われるんだ」
呟きは、まるで自分自身を責めるようでもあった。
真田がそっと言葉をかける。
「だからこそ、潔白を示し続けるしかありません。言葉ではなく、行動で」
田島も肩を叩き、笑ってみせる。
「大丈夫だ。俺たちは見てきた。お前がどれだけ汗を流してきたか、知ってるから」
夜更け、健人はノートを開き、一行を書き記した。
――「追われてもいい。俺は逃げない。真実で戦う」
ペン先が震えていたが、その文字は力強く紙に刻まれていた。
”噂は追いかけてくる。
だが真実から逃げなければ、
必ず光は見えてくる。“
2
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる