『総理になった男』

KAORUwithAI

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第1部:序章 - 無名の挑戦

第48話 週刊誌の記者に追われる

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夕暮れ時の議員会館を後にした坂本健人は、鞄を肩に掛けながら、冷たい風を胸いっぱいに吸い込んだ。国会での会議を終えて外に出ると、すっかり日が落ちかけ、霞ヶ関のビル群の間を行き交う人々の影が長く伸びていた。
 真田と田島も一緒にいた。三人で夕食にでも行こうかと話していた矢先――健人の背筋に、ふと冷たい視線が突き刺さった。

「……健人、あれ」
 田島が低い声でささやく。
 視線の先、街灯の下に立つ男がいた。黒いコートにカメラを抱え、首からは記者証らしきものがぶら下がっている。レンズは明らかに健人たちを狙っていた。

 男は迷うことなく近づいてくる。人混みをすり抜け、数メートル先で立ち止まった。
「無所属の新人議員さん。ちょっとお時間よろしいですか?」
 声は礼儀を装っていたが、目は獲物を逃がさぬ猛禽のように光っていた。

「スポンサーはどちらです? 裏で支えている団体があるんじゃないですか?」
「資金源は? ご両親の援助だけでは到底足りないでしょう」
「女性関係は? 選挙中に支援者と親密な関係があったという話も――」

 畳みかけるような質問の連打に、健人は思わず足を止めた。
「……いません。資金も、裏も、ないです」
 声を振り絞ったが、記者は意に介さず、さらに近寄ってくる。

 真田がすぐに間に入り、記者に向かって冷静に言った。
「ご質問があるなら、正式に申し込みをしてください。突然押しかけての取材はご遠慮いただきたい」
 しかし男はにやりと笑い、「正式にしていたら答えてもらえませんからね」と返す。

 そのやり取りを見ていた通行人が、ひそひそと囁き合う。
「誰? 芸能人?」
「議員らしいよ。カメラに追われてる」
 スマホを向ける人まで現れ、あっという間に小さな騒ぎになった。

「行こう!」
 田島が健人の腕をつかむ。三人は早足で駅前へと歩き出す。しかし記者も執拗に追ってきた。カメラのフラッシュが連続して光り、健人の目が一瞬、白く焼かれる。

「無所属の希望、なんて言われてますけどね! 本当はどうなんです? 理想だけでやっていけるんですか?」
 声が背後から突き刺さる。健人は振り返らず、必死に歩いた。

 やがて人通りの多い交差点に差しかかると、田島が小声で言った。
「こっちだ、裏路地に入るぞ!」
 三人は角を曲がり、細い路地へと駆け込む。人波を抜け、コンビニの脇道をすり抜け、ようやく記者の姿が見えなくなった。

 ビルの陰で足を止めた健人は、膝に手をつきながら荒い息を吐いた。
「……これが、有名税ってやつか」
 吐き出した声には、苦笑とも諦めともつかぬ響きがあった。

 だがその夜、事態はさらに悪化する。

 週刊誌のネット記事に大きな見出しが踊った。
――「無所属新人議員・坂本健人、資金疑惑か?」
 添えられた写真には、駅前で走る健人の姿。苦悶の表情が切り取られていた。記事の中身は根拠のない憶測と噂ばかり。それでもSNS上では瞬く間に拡散されていった。

「やっぱり裏があったんだろ」
「応援してたけど、これは怪しい」
「でも、信じたい」
 賛否入り乱れるコメントが飛び交う。

 事務所には電話が殺到した。
「健人さんを信じてます!」という声もあれば、「説明責任を果たせ!」という怒号もある。
 スタッフは対応に追われ、疲労で顔を青ざめさせていた。

 机に積まれた抗議と応援の手紙を前に、健人は両手を握りしめた。
「……正直にやってきた。それでも疑われるんだ」
 呟きは、まるで自分自身を責めるようでもあった。

 真田がそっと言葉をかける。
「だからこそ、潔白を示し続けるしかありません。言葉ではなく、行動で」

 田島も肩を叩き、笑ってみせる。
「大丈夫だ。俺たちは見てきた。お前がどれだけ汗を流してきたか、知ってるから」

 夜更け、健人はノートを開き、一行を書き記した。
――「追われてもいい。俺は逃げない。真実で戦う」

 ペン先が震えていたが、その文字は力強く紙に刻まれていた。




”噂は追いかけてくる。
だが真実から逃げなければ、
必ず光は見えてくる。“
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