『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第106話 高校生たちの政策提案

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朝の議員会館。
 コーヒーの香りと、ノートパソコンの通知音が重なった。
 真田が眉をひそめながらモニターをのぞき込む。
 「先生、またDMが届いています」
 健人は書類から顔を上げた。「また批判か?」
 「いえ……これは、少し違います」

 真田は画面を回した。
 そこには、整った文体の長文メッセージがあった。
 ――“私たちは高校三年生です。
  テレビで先生の演説を見て、政治に興味を持ちました。
  相談したいことがあります。”

 送り主は地方の公立高校に通う三人の生徒たち。
 「地域の清掃や高齢者支援の活動をしているが、制度の壁が多くて続けられない。
  ボランティアをもっと学校単位で支援してもらえるようにしたい」
 ――そう綴られていた。

 田島が後ろから覗き込み、ニヤリと笑う。
 「すげぇな、高校生が政治家にDMしてくる時代か」
 「夢見がちだな……って言いたいけど」
 健人は読み返しながら呟いた。
 「“制度を変えたい”って言葉、重いな。彼らなりに現場を見てる」
 真田が小さく頷く。
 「若い声ほど、まっすぐです。先生、一度お話してみては?」
 「……いいね。直接聞こう」


 その日の夜。
 会館の小さな会議室にノートパソコンを置き、オンライン通話を繋いだ。
 画面に映ったのは、緊張した面持ちの男女三人。
 代表の少女が自己紹介した。
 「愛知県立南ヶ丘高校の三年、美咲です。今日は時間を取っていただきありがとうございます!」
 隣にはメガネの少年と、髪を結んだ運動部風の男子。三人とも制服のままだ。

 「最初は、ただ文句を言いたかっただけなんです」
 と、美咲が少し照れ笑いを浮かべた。
 「町でゴミ拾いをしたいって言っても、許可が必要とか、保険がないとか言われて……。
  それで“政治が決めるから仕方ない”って先生に言われたんです。
  でも、動画で坂本さんの話を見て、“変えられるかも”って思って」

 健人は静かに頷きながら聞いていた。
 彼女の言葉は、かつての自分に重なった。
 “仕組みの中に居場所がない”と感じていたあの頃。
 変えたいと願う気持ちは、誰よりも理解できた。

 「俺も昔、同じだったよ」
 健人は微笑みながら言った。
 「働きたいのに働けない。やりたいのに、制度が邪魔をする。
  でも文句を言っても何も変わらない。
  だから、“提案”をするんだ」
 高校生たちは一斉に頷き、メモを取り始めた。


 数日後。
 健人のもとに、PDFファイルがメールで届いた。
 件名は「高校生による地域提案制度の構想」。
 A4で十数ページ。
 冒頭には、美咲たち三人の名前と学校名が記されていた。

 内容は驚くほど緻密だった。
 ・地域ボランティアを単位認定に組み込む仕組み
 ・自治体と学校の共同事務局設置案
 ・学生リーダー育成プログラムの提案
 図表まで添付され、現実的な運用モデルまで書かれている。

 健人はページをめくるたびに唸った。
 「……本気だ、こいつら」
 真田も珍しく笑みを浮かべた。
 「見事です。理念ではなく、構造を変えようとしている」
 田島は腕を組んで言った。
 「これ、記者会見で出したら反響あるぞ」
 健人は迷いなく頷いた。
 「よし。彼らの想いを世に出そう」


 翌週、記者クラブで小さな会見が開かれた。
 健人はテーブルの上に、三人の高校生の提案書を置きながら語った。
 「これは、政治に失望していない若者たちの声です。
  “変えられない”と言われても、彼らは考え、形にした。
  この国の希望は、まだここにあります」

 記者たちは次々にペンを走らせた。
 ある女性記者が質問した。
 「先生、その提案は実際に国会に持ち込むおつもりですか?」
 「はい。私は、この声を形にするための通訳者でありたい」

 翌日のニュースサイトにはこう書かれた。
 《無所属議員、若者と共に政策を作る》
 一方で、“人気取りだ”“パフォーマンス政治”というコメントも飛び交った。

 だが、健人はそれを気にしなかった。
 それよりも届いたメールの一通に目が留まった。
 ――“私たちの声を拾ってくれて、ありがとうございます。
  これからも信じて行動します。”

 送り主は美咲たち三人だった。


 その週末。
 高校の体育館で、生徒会主催の全校集会が開かれた。
 壇上には美咲たちが立ち、スクリーンには健人とのオンライン会話の様子が映し出されていた。
 「政治って、私たちが手を出しちゃいけないものだと思ってた。
  でも、違いました。話を聞いてもらえる人が、ちゃんといたんです!」
 拍手が湧き起こる。
 地元新聞の記者が取材に訪れ、翌日の地方欄にはこう書かれた。
 《高校生が政策提案。坂本議員が応援》


 一方、国会では――
 「高校生と政策?」「選挙対策だろ」
 与党議員の一部から冷ややかな声が上がった。
 健人は気にせず、机に向かって資料をまとめていた。
 「いいじゃないか、誰が笑っても。
  声を出した若者が一人でも増えたなら、それで十分だ」
 真田が穏やかに言った。
 「先生、次の質疑で“若者の政治参加”をテーマにしますか?」
 「頼む」
 健人は強く頷いた。


 夜、議員会館の窓辺。
 街の灯が滲む中、健人はノートを開いた。
 《若者が声を上げる社会を作る》
 その一行を書き留めると、ペンを止めてつぶやいた。
 「政治は、“誰かのためにやる”じゃなく、“誰と一緒にやるか”だ」

 田島がコーヒーを差し出しながら言った。
 「お前さ、だんだん国会議員ってより、先生とかリーダーみたいになってきたな」
 健人は笑った。
 「それでいいんだよ。政治家が一番学ばなきゃいけないのは、“聞くこと”だから」
 「……立派だな」
 「立派じゃない。ただ、俺を信じて声を上げてくれた奴らに、応えたいだけさ」


 数日後、健人のSNSに新しい動画が投稿された。
 タイトルは《高校生が政治を動かした日》。
 冒頭には、彼らの提案書の表紙と、笑顔で手を振る3人の姿。
 「この国の未来は、誰かが作るものじゃない。
  あなたが動けば、変わるんです」

 動画は瞬く間に拡散し、コメント欄には無数のメッセージが並んだ。
 《うちの学校でもやりたい》《政治って遠くないんだ》《俺も声を上げたい》

 それを見つめながら、健人は静かに微笑んだ。
 彼が目指した“市民政治”は、もう動き始めていた。



“政治は、遠くの誰かが動かすもの
じゃない。声を上げた瞬間、
その人はもう、この国を変える
一員になっている”
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