『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第132話 支持率が政党を上回る

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 その日の朝、健人はいつもより早く目が覚めた。
 窓の外はまだ薄暗く、都心の空は青と灰色の境目をたゆたっている。眠気はある。しかし胸の奥には、なぜだか得体の知れないざわつきがあった。

 ――今日、世論調査の結果が出る。

 政治家になって以来、数字に振り回されることを避けたいと思っていた。けれど同時に、数字が人の心の“動き”を表すのも事実だ。
 健人はスーツに袖を通し、ネクタイを締める。鏡の中の自分は、かつてのバイト時代からは想像もできない表情をしていた。疲れもあるが、何より“覚悟”の色が濃くなっている。

 議員会館を出て国会へ向かう道、真田が隣で歩きながら言った。

「今日の発表、注目です。支持率だけで政治は動きませんが……世論は、政治家の背中を押す力になります」

「うん。でも、数字に酔いたくはないな」

「それが一番危険なのを、あなたはよく知っていますから」

 真田の言葉に健人は小さく笑った。

 国会議事堂の正門前にはいつもより多くの記者が集まっていた。カメラマンやスタッフが慌ただしく動き、モニター付きの車両が停まっている。
 情報番組の中継準備だろう。今日の世論調査が特集されるのは知っていたが、ここまで注目が集まるのは健人にとって予想外だった。

「すごい数だな……」

「期待……もありますが、同時に警戒もありますね」と真田が淡々と言った。

 控室に入ると、田島が朝食のサンドイッチ片手にテレビをつけた。

「健人! そろそろ来るぞ!」

 スタジオでは司会者が「最新の政党支持率ランキング」を紹介し始めていた。
 画面には、与党の国民革新党が29%、野党第一党の自由共和党が17%、その他の政党がずらりと並ぶ。

 健人はそこまで特別な気持ちにはならなかった。
 しかし次の瞬間、画面に“異質な枠”が現れた。

『坂本健人(個人)支持率 8.7%』

 田島が真っ先に叫んだ。

「うおおおおいっ! 見ろ健人!! 政党より高ぇぞ!!」

「……あ」

 健人は言葉を失った。
 スタジオの空気が一変し、解説者が驚いたように笑みを浮かべる。

『一人の無所属議員が政党支持率に並ぶ、あるいは超える数字を出すのは極めて異例です』

『これは政党政治の構造を揺るがす可能性すらある“現象”ですね』

 “現象”という言葉に、健人の心臓が少しだけ強く脈を打った。

 ――俺が、政党を超える数字を出している……?

 手のひらにじんわり汗が滲んでいた。

「やべぇよ……健人、“坂本健人”って名前だけで政党と勝負してんだぞ。これもうスターだろ……!」

「落ち着け、田島。スターなんかじゃない」

 健人は苦笑しながらも、画面から目を離せなかった。

 テレビの中では街の声が紹介されていた。

『政党より坂本さんを信用できる』
『無所属だからこそしがらみがなくていい』
『一番身近に感じる政治家。国会議員っぽくないのが逆にいい』

 その言葉に、健人は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 政治家として評価されたことはこれまで少ない。むしろ批判や嘲笑、圧力の方が多かった。
 だけど――努力は誰かの心に届いていた。

「……嬉しいけど、怖い数字でもあるな」

「でしょうね」と真田が頷く。「数字には必ず“期待”が付いてきます。期待は信じる人の数だけ重くなる。あなたが抱える責任も、今日からさらに増える」

「わかってる。俺の名前じゃなく、応援してくれる人の気持ちに恥じないようにしないと」

 健人の表情は、決意の影で引き締まっていた。

 その頃、国会の廊下でもさまざまな声が飛び交っていた。

「見たか? 坂本のあれ……」
「無所属で8.7%って、政党より高いじゃないか」
「これはちょっと……面白くないな」

 与党側は明らかに警戒し、野党側も複雑な視線を送ってくる。
 健人が通り過ぎると、ひそひそ声が耳に入った。

「政党政治に楔を打つ気か? 彼は」

「いや、ただの人気取りかもしれん」

「どちらにせよ、無視できる存在じゃなくなったな」

 その視線は、かつて感じた冷たさとは違っていた。
 “敵として”でも、“脅威として”でも、“仲間として”でもない。
 ただ、“注目せざるを得ない存在”として、健人は見られ始めていた。

 ――目立つつもりはなかった。でも、結果として目立ってしまった。

 こんな力が欲しくて国会に来たわけではない。
 ただ、市民の声を届けたいだけだった。

 控室に戻ると、全国からメッセージが届いていた。

『坂本さんに会って政治に興味持ちました』
『あなたを見て、投票行動が変わりました』
『今の政治に不満ばかりだったけど、希望が見えました』

 その一つひとつを読み、健人は深く息を吐いた。

「……俺、ここまで来たんだな」

 田島が隣で肩を叩いた。

「健人、お前はただ真っ直ぐやっただけだよ。俺たちと一緒に。な?」

 健人は静かに笑った。

「ありがとう。でもここからだよ。“支持率”なんかじゃなくて、“結果”で応えていく」

 窓の外を見ると、国会議事堂が午後の陽に照らされていた。
 その姿はいつもより少しだけ近く見える。

 健人は胸元のバッジに触れながら心の中で呟いた。

 ――政党を超えた数字は、俺ひとりのものじゃない。
   支えてくれた声、救いを求める声、俺を信じてくれた声……
   全部が積み重なってできた“重み”だ。

 拳に力がこもる。

「よし……ここからもっと、やってやる」

 その決意は静かだが、確実に大きな波となって広がっていく気がした。



”人気は光じゃない。
照らされる先に、責任という影が生まれる。
その影から逃げない者だけが、政治家と呼ばれる“
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