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第3部:旋風 - 国民支持のうねり
第144話 “しがらみを断ち切る政治”
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支持団体が自ら解散を宣言してから、まだ数日しか経っていないというのに、永田町の空気は明らかに変わっていた。
坂本健人の名を耳にするたび、議員たちは口をそろえてこう言った。
「本当にやるとはな……」
「若いくせに、ずいぶん大胆だ」
「いや、大胆というより無鉄砲じゃないか?」
揶揄なのか賞賛なのか、判別できない声が混じり合う。
ただ一つ確かなのは、健人の“行動”が政治家たちに衝撃を与えたという事実だった。
支持団体――票田と資金源を握る強大な組織。
多くの議員がその傘に入ることで初めて選挙に勝ち、議席を維持している。
そこを自ら断ち切った政治家など、ほとんど前例がない。
永田町の喧騒をよそに、健人は議員会館の自室で真田と田島と向き合っていた。
「しがらみを作らないってのは、つまり……戦い続けるってことだよな」
健人の問いは、自分自身に向けての確認に近かった。
真田はゆっくり眼鏡を押し上げ、静かに言った。
「その通りです。団体を後ろ盾にしないということは、そのぶん議場で孤独になります。官僚との関係も、企業や団体との調整も、すべて“ゼロベース”。――総理になった時を考えるなら、むしろ正しい判断かもしれませんがね」
田島が少し不満げに唇をとがらせる。
「なんで政治ってさ、まず“誰と組むか”から始まるわけ? 国民のために動こうって人が、なんで後援会とか業界とかの顔色ばっか気にしなきゃいけないんだよ」
健人は苦く笑った。
「それが“普通”だからだろうな。でも……俺は普通の政治をしに来たわけじゃない」
静かな決意がその場の空気に染み込む。
* * *
その日の午後、事務所に一本の電話が入った。
地元で力を持つ業界団体からで、丁寧な文言の裏にははっきりとした“意図”が読み取れた。
――長期的な関係を築きたい。
――補助金や政策について意見交換したい。
言葉こそ柔らかいが、それはつまり「貸しを作りたい」という申し入れだった。
「健人、どうする?」
田島が眉をひそめる。
「会うよ」
健人の返事は即答だった。
「しがらみを断つって決めた以上、何をどう断ち切るのか……ちゃんと見て、向き合わなきゃいけない」
* * *
翌日、議員会館の応接室。
業界団体の代表らしいスーツの男が二人、笑顔を浮かべて健人の前に座っていた。
最初こそ他愛のない世間話だったが、やがて本題に入ると空気が変わった。
「――というわけでしてね。我々の業界、次年度の補助金が大幅に削られそうなんですよ。まあ、坂本先生のお力添えをいただければ、なんとか……」
「先生ほど誠実な議員は滅多にいませんからな。ぜひ、今後も良い関係を」
二人は笑顔を崩さない。
だがその笑顔は、どこか“条件”の匂いをまとっていた。
健人はその視線を真正面から受け止め、静かに切り出した。
「すみません。率直に伺いますが……その“良い関係”というのは、政策を業界に合わせるという意味ですか?」
一瞬、空気が止まった。
「い、いやいや、もちろんそんなつもりでは……!」
「ただ我々としても、業界を守るためには……」
「政策ってのは、誰か特定の人や団体のためじゃなくて、社会全体のために作るものだと思っています」
健人の声は、柔らかいが揺るがなかった。
「ですので――“貸し借り”はしません。良いと思う政策には協力しますし、違うと思えば反対します。それは誰が相手でも変わりません」
二人の顔から、笑顔がゆっくりと引きつっていく。
「若いねえ、坂本先生」
「理想だけで政治が回ると思ったら大間違いだよ」
皮肉を残して、二人は足早に部屋を出ていった。
ドアが閉まった瞬間、田島が爆発する。
「なんだよあいつら! 政治を何だと思ってんだよ!」
「政治を……『取り引き』だと思ってるんだよ」
健人は静かに言った。
「でも、俺は違う。取り引きじゃなくて、未来のためにやるんだ」
その言葉に、真田が珍しく口角を上げた。
「坂本さん……あなたのそういうところが、私があなたを支えようと思った理由ですよ」
田島が横から茶化す。
「なに急に褒めてんだよ真田~。気持ち悪いぞ」
「うるさい、仕事に戻れ」
小さな笑いが三人の間に流れた。
重い現実の中でも、こうした時間が健人を支えていた。
* * *
夜。
健人は議員会館の部屋で、ノートPCを開いた。
今日の出来事を整理しながら、ゆっくりと言葉を打ち込んでいく。
《誰かのための政治じゃなく、社会全体のための政治をやる。
しがらみには屈しない。》
投稿して数分後、SNSの反応が急激に伸び始めた。
《あなたについていきたい》
《こんな政治家を待ってた》
《しがらみを断ってくれ。誰よりも》
支持の声だけでなく、厳しい意見も来る。
《けんと、あんまり強気で行きすぎるな》
《政治は現実だぞ》
《敵を増やすだけじゃないか?》
健人は一つひとつ目を通し、深く息を吐いた。
「しがらみを断つっていうのは、敵を作ることじゃない。孤独と向き合う覚悟を持つってことなんだな……」
その時、外から声が聞こえた。
「坂本さん!」
驚いて窓の外を見ると、議員会館の前で数名の市民が横断幕を掲げていた。
“しがらみに負けるな”
“あなたの政治を信じています”
数人が、まっすぐ健人の部屋の方向に
向かって頭を下げた。
健人は胸に手を当てた。
こんな小さな声の積み重ねが、政治を変える力になる。
彼はそれを確かに感じていた。
「ありがとう……。俺は、必ず前に進むよ」
その夜、健人は誰よりも静かに、しかし誰よりも強い意志でノートを開き続けた。
”しがらみを断ち切るというのは、敵を作ることじゃない。
誰にも縛られず、市民だけを見る覚悟を持つことだ“
坂本健人の名を耳にするたび、議員たちは口をそろえてこう言った。
「本当にやるとはな……」
「若いくせに、ずいぶん大胆だ」
「いや、大胆というより無鉄砲じゃないか?」
揶揄なのか賞賛なのか、判別できない声が混じり合う。
ただ一つ確かなのは、健人の“行動”が政治家たちに衝撃を与えたという事実だった。
支持団体――票田と資金源を握る強大な組織。
多くの議員がその傘に入ることで初めて選挙に勝ち、議席を維持している。
そこを自ら断ち切った政治家など、ほとんど前例がない。
永田町の喧騒をよそに、健人は議員会館の自室で真田と田島と向き合っていた。
「しがらみを作らないってのは、つまり……戦い続けるってことだよな」
健人の問いは、自分自身に向けての確認に近かった。
真田はゆっくり眼鏡を押し上げ、静かに言った。
「その通りです。団体を後ろ盾にしないということは、そのぶん議場で孤独になります。官僚との関係も、企業や団体との調整も、すべて“ゼロベース”。――総理になった時を考えるなら、むしろ正しい判断かもしれませんがね」
田島が少し不満げに唇をとがらせる。
「なんで政治ってさ、まず“誰と組むか”から始まるわけ? 国民のために動こうって人が、なんで後援会とか業界とかの顔色ばっか気にしなきゃいけないんだよ」
健人は苦く笑った。
「それが“普通”だからだろうな。でも……俺は普通の政治をしに来たわけじゃない」
静かな決意がその場の空気に染み込む。
* * *
その日の午後、事務所に一本の電話が入った。
地元で力を持つ業界団体からで、丁寧な文言の裏にははっきりとした“意図”が読み取れた。
――長期的な関係を築きたい。
――補助金や政策について意見交換したい。
言葉こそ柔らかいが、それはつまり「貸しを作りたい」という申し入れだった。
「健人、どうする?」
田島が眉をひそめる。
「会うよ」
健人の返事は即答だった。
「しがらみを断つって決めた以上、何をどう断ち切るのか……ちゃんと見て、向き合わなきゃいけない」
* * *
翌日、議員会館の応接室。
業界団体の代表らしいスーツの男が二人、笑顔を浮かべて健人の前に座っていた。
最初こそ他愛のない世間話だったが、やがて本題に入ると空気が変わった。
「――というわけでしてね。我々の業界、次年度の補助金が大幅に削られそうなんですよ。まあ、坂本先生のお力添えをいただければ、なんとか……」
「先生ほど誠実な議員は滅多にいませんからな。ぜひ、今後も良い関係を」
二人は笑顔を崩さない。
だがその笑顔は、どこか“条件”の匂いをまとっていた。
健人はその視線を真正面から受け止め、静かに切り出した。
「すみません。率直に伺いますが……その“良い関係”というのは、政策を業界に合わせるという意味ですか?」
一瞬、空気が止まった。
「い、いやいや、もちろんそんなつもりでは……!」
「ただ我々としても、業界を守るためには……」
「政策ってのは、誰か特定の人や団体のためじゃなくて、社会全体のために作るものだと思っています」
健人の声は、柔らかいが揺るがなかった。
「ですので――“貸し借り”はしません。良いと思う政策には協力しますし、違うと思えば反対します。それは誰が相手でも変わりません」
二人の顔から、笑顔がゆっくりと引きつっていく。
「若いねえ、坂本先生」
「理想だけで政治が回ると思ったら大間違いだよ」
皮肉を残して、二人は足早に部屋を出ていった。
ドアが閉まった瞬間、田島が爆発する。
「なんだよあいつら! 政治を何だと思ってんだよ!」
「政治を……『取り引き』だと思ってるんだよ」
健人は静かに言った。
「でも、俺は違う。取り引きじゃなくて、未来のためにやるんだ」
その言葉に、真田が珍しく口角を上げた。
「坂本さん……あなたのそういうところが、私があなたを支えようと思った理由ですよ」
田島が横から茶化す。
「なに急に褒めてんだよ真田~。気持ち悪いぞ」
「うるさい、仕事に戻れ」
小さな笑いが三人の間に流れた。
重い現実の中でも、こうした時間が健人を支えていた。
* * *
夜。
健人は議員会館の部屋で、ノートPCを開いた。
今日の出来事を整理しながら、ゆっくりと言葉を打ち込んでいく。
《誰かのための政治じゃなく、社会全体のための政治をやる。
しがらみには屈しない。》
投稿して数分後、SNSの反応が急激に伸び始めた。
《あなたについていきたい》
《こんな政治家を待ってた》
《しがらみを断ってくれ。誰よりも》
支持の声だけでなく、厳しい意見も来る。
《けんと、あんまり強気で行きすぎるな》
《政治は現実だぞ》
《敵を増やすだけじゃないか?》
健人は一つひとつ目を通し、深く息を吐いた。
「しがらみを断つっていうのは、敵を作ることじゃない。孤独と向き合う覚悟を持つってことなんだな……」
その時、外から声が聞こえた。
「坂本さん!」
驚いて窓の外を見ると、議員会館の前で数名の市民が横断幕を掲げていた。
“しがらみに負けるな”
“あなたの政治を信じています”
数人が、まっすぐ健人の部屋の方向に
向かって頭を下げた。
健人は胸に手を当てた。
こんな小さな声の積み重ねが、政治を変える力になる。
彼はそれを確かに感じていた。
「ありがとう……。俺は、必ず前に進むよ」
その夜、健人は誰よりも静かに、しかし誰よりも強い意志でノートを開き続けた。
”しがらみを断ち切るというのは、敵を作ることじゃない。
誰にも縛られず、市民だけを見る覚悟を持つことだ“
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