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第3部:旋風 - 国民支持のうねり
第146話 党への所属を受けるかどうかの葛藤
しおりを挟む国民革新党・幹事長、城戸。
選挙戦の最中、一度は“取り込みたい”という空気で近づいてきた男が、今度は全く違う姿で坂本健人の前に現れた。
あの日の応接室とは違う。
今日は党本部の重厚な扉をくぐり、正式な場、正式な空気の中での面会だった。
そして――
「評価した上での打診」であることを、どこまでもはっきりと示してきた。
圧力ではなく、温度のある敬意。
下手に出るわけでもない、淡々とした事実の提示。
だがそこには確かに、政治家としての坂本健人を「認める眼差し」があった。
党本部を後にしたとき、胸の奥は静かにざわついていた。
田島は歩きながら、何度も健人を見た。
「……どんな気持ちなんだよ、健人」
「わからない……まだ、整理できてない」
それしか言えなかった。
◆
議員会館に戻った途端、部屋の空気はいつもより重く感じた。
机の上には、市民から届いた手紙が積まれている。
封筒を一つ開くと、手書きの丸い字が目に入る。
――無所属だから応援しました。
――しがらみのない政治をしてほしい。
――子どもの医療法案、泣きながら読みました。
坂本は一枚一枚、ゆっくりと目を通す。
無所属として歩んできたこの数年。
厳しさと孤独の連続だったが、同時に「最も大切な声」と出会えた時間でもあった。
そんな健人の背中に、真田が静かに声をかけた。
「……健人さん。私は、どちらの選択でも支えます」
「……真田」
「ただ、あなたがどちらを選んでも、これは日本の政治を動かすターニングポイントになります。どうか、その意味だけは忘れないでください」
真田の言葉は、余計な感情を含まず、ただ事実としてまっすぐだった。
「俺は……無所属でここまで来た。でも、政権の中に入れば、もっと動かせる……そう言われた」
「その通りでしょう。けれど、無所属だから届いた声もあるはずです」
「わかってる」
坂本は肩を落とし、ゆっくりとその場に腰を下ろした。
◆
夜。
健人は議事堂の外へ出て、ひとり歩き始めた。
ライトアップされた国会議事堂は、まるで巨大な城だった。
あの「怪物」の壁を叩き続けてきた日々。
何度も痛い目を見ながら、それでも叫び続けた。
「無所属だからこそ、届く声があった……」
風が頬を冷たく撫でる。
歩き出す足取りは、なぜか重い。
コンビニの明かりが見えたので、健人はなんとなく中に入った。
ペットボトルの水を手に取り、レジへ向かったその時――
店員の大学生らしき若者が顔を上げた。
「あの……坂本さん、ですよね?」
「あ、あぁ……」
「応援してます。ずっと動画見てました。でも……ひとつ聞いていいですか?」
「うん」
「政党に入ったら……変わっちゃうんですか?」
若い瞳のまっすぐさが、胸に刺さった。
健人は返語につまる。何も言えない。
変わるのか。変わらないのか。
変わらないと、どうやって証明すればいい?
「……ありがとう。言葉、大事にする」
それだけ言って店を出た。
胸の中に、重い石が沈んでいた。
◆
深夜。議員会館の部屋で、田島が突然やってきた。
缶コーヒーを二つ差し出し、どかっとソファに座る。
「なぁ健人。正直に言うぞ」
「……何?」
「どっち選んでも地獄だ。無所属のままでいれば壁だらけ。党に入れば、しがらみの山だ」
「……だよな」
「でもよ――どっちなら前に進めるかは……お前、もうわかってんだろ?」
坂本は言葉を失った。
田島の瞳は、あの日と同じだった。
無所属で出馬した夜、無謀だと笑われながら肩を叩いてくれた、あの時の目。
「俺はよ、健人。お前がぶれない限り、どこまでもついてくから」
田島はそれだけ言って、部屋を出ていった。
健人はしばらく動けなかった。
◆
午前1時。
真田がノックもなく入ってきた。
静かにファイルを机に置く。
「党に入った場合のメリットとデメリットをまとめました。感情ではなく、構造で判断できるように」
「……ありがとう」
「坂本さん。あなたがどちらを選んでも、私はあなたの秘書官でいるつもりです」
健人は気づいていた。
真田は誰よりも冷静だが、誰よりも健人の“政治の根”を信じている。
その重さが胸に刺さる。
それから健人は、夜通し資料を読み続けた。
無所属のままでは見えない壁。
党に入れば見える道。
政権の中に入らなければ、実現できない改革もある。
しかし、党所属はどうしても“しがらみ”を伴う。
「俺は……何を守りたいんだ……?」
資料を閉じたとき、窓の外が薄く明るくなっていた。
健人は眼を閉じ、深く息を吸った。
◆
スマホが震えた。
画面にはニュース速報。
《坂本健人 与党入りの可能性 党本部関係者語る》
「…………!」
健人はスマホを握りしめる。
決めていない。
誰にも話していない。
なのに、もう“既成事実化”されようとしている。
「これは……俺自身が決めなきゃいけない」
健人は机に置いたノートを開いた。
その一番上に、力強く書き込んだ。
――俺が所属するのは、国民だ。
その一行を書き終えたあと、健人は静かに目を閉じた。
まだ答えは出ていない。
しかし、この言葉が答えの“核”になることだけは、確かだった。
「……国民の声を聞こう。もう一度、原点に戻るんだ」
健人は椅子から立ち上がり、夜明けの空を見つめた。
こうして次の一手が決まった。
――48時間、生配信で国民と向き合う。
”立場を選ぶんじゃない。
立場の中で、誰のために立つかを選ぶんだ。
無所属でも、党所属でも――
俺が守るのは、市民の声だけだ“
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