『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第146話 党への所属を受けるかどうかの葛藤

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 国民革新党・幹事長、城戸。
 選挙戦の最中、一度は“取り込みたい”という空気で近づいてきた男が、今度は全く違う姿で坂本健人の前に現れた。
 あの日の応接室とは違う。
 今日は党本部の重厚な扉をくぐり、正式な場、正式な空気の中での面会だった。

 そして――
 「評価した上での打診」であることを、どこまでもはっきりと示してきた。

 圧力ではなく、温度のある敬意。
 下手に出るわけでもない、淡々とした事実の提示。
 だがそこには確かに、政治家としての坂本健人を「認める眼差し」があった。

 党本部を後にしたとき、胸の奥は静かにざわついていた。
 田島は歩きながら、何度も健人を見た。
「……どんな気持ちなんだよ、健人」

「わからない……まだ、整理できてない」

 それしか言えなかった。



 議員会館に戻った途端、部屋の空気はいつもより重く感じた。
 机の上には、市民から届いた手紙が積まれている。
 封筒を一つ開くと、手書きの丸い字が目に入る。

 ――無所属だから応援しました。
 ――しがらみのない政治をしてほしい。
 ――子どもの医療法案、泣きながら読みました。

 坂本は一枚一枚、ゆっくりと目を通す。
 無所属として歩んできたこの数年。
 厳しさと孤独の連続だったが、同時に「最も大切な声」と出会えた時間でもあった。

 そんな健人の背中に、真田が静かに声をかけた。

「……健人さん。私は、どちらの選択でも支えます」

「……真田」

「ただ、あなたがどちらを選んでも、これは日本の政治を動かすターニングポイントになります。どうか、その意味だけは忘れないでください」

 真田の言葉は、余計な感情を含まず、ただ事実としてまっすぐだった。

「俺は……無所属でここまで来た。でも、政権の中に入れば、もっと動かせる……そう言われた」

「その通りでしょう。けれど、無所属だから届いた声もあるはずです」

「わかってる」

 坂本は肩を落とし、ゆっくりとその場に腰を下ろした。



 夜。
 健人は議事堂の外へ出て、ひとり歩き始めた。

 ライトアップされた国会議事堂は、まるで巨大な城だった。
 あの「怪物」の壁を叩き続けてきた日々。
 何度も痛い目を見ながら、それでも叫び続けた。

「無所属だからこそ、届く声があった……」

 風が頬を冷たく撫でる。
 歩き出す足取りは、なぜか重い。
 コンビニの明かりが見えたので、健人はなんとなく中に入った。

 ペットボトルの水を手に取り、レジへ向かったその時――
 店員の大学生らしき若者が顔を上げた。

「あの……坂本さん、ですよね?」

「あ、あぁ……」

「応援してます。ずっと動画見てました。でも……ひとつ聞いていいですか?」

「うん」

「政党に入ったら……変わっちゃうんですか?」

 若い瞳のまっすぐさが、胸に刺さった。
 健人は返語につまる。何も言えない。
 変わるのか。変わらないのか。
 変わらないと、どうやって証明すればいい?

「……ありがとう。言葉、大事にする」

 それだけ言って店を出た。
 胸の中に、重い石が沈んでいた。



 深夜。議員会館の部屋で、田島が突然やってきた。
 缶コーヒーを二つ差し出し、どかっとソファに座る。

「なぁ健人。正直に言うぞ」

「……何?」

「どっち選んでも地獄だ。無所属のままでいれば壁だらけ。党に入れば、しがらみの山だ」

「……だよな」

「でもよ――どっちなら前に進めるかは……お前、もうわかってんだろ?」

 坂本は言葉を失った。
 田島の瞳は、あの日と同じだった。
 無所属で出馬した夜、無謀だと笑われながら肩を叩いてくれた、あの時の目。

「俺はよ、健人。お前がぶれない限り、どこまでもついてくから」

 田島はそれだけ言って、部屋を出ていった。

 健人はしばらく動けなかった。



 午前1時。
 真田がノックもなく入ってきた。
 静かにファイルを机に置く。

「党に入った場合のメリットとデメリットをまとめました。感情ではなく、構造で判断できるように」

「……ありがとう」

「坂本さん。あなたがどちらを選んでも、私はあなたの秘書官でいるつもりです」

 健人は気づいていた。
 真田は誰よりも冷静だが、誰よりも健人の“政治の根”を信じている。
 その重さが胸に刺さる。

 それから健人は、夜通し資料を読み続けた。
 無所属のままでは見えない壁。
 党に入れば見える道。

 政権の中に入らなければ、実現できない改革もある。
 しかし、党所属はどうしても“しがらみ”を伴う。

「俺は……何を守りたいんだ……?」

 資料を閉じたとき、窓の外が薄く明るくなっていた。

 健人は眼を閉じ、深く息を吸った。



 スマホが震えた。
 画面にはニュース速報。

《坂本健人 与党入りの可能性 党本部関係者語る》

「…………!」

 健人はスマホを握りしめる。
 決めていない。
 誰にも話していない。
 なのに、もう“既成事実化”されようとしている。

「これは……俺自身が決めなきゃいけない」

 健人は机に置いたノートを開いた。
 その一番上に、力強く書き込んだ。

――俺が所属するのは、国民だ。

 その一行を書き終えたあと、健人は静かに目を閉じた。
 まだ答えは出ていない。
 しかし、この言葉が答えの“核”になることだけは、確かだった。

「……国民の声を聞こう。もう一度、原点に戻るんだ」

 健人は椅子から立ち上がり、夜明けの空を見つめた。

 こうして次の一手が決まった。

 ――48時間、生配信で国民と向き合う。



”立場を選ぶんじゃない。
立場の中で、誰のために立つかを選ぶんだ。
無所属でも、党所属でも――
俺が守るのは、市民の声だけだ“
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