『総理になった男』

KAORUwithAI

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第4部:政権奪取 - 総理就任

第157話 次の総理にふさわしい男

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 眠れない夜だった。
 総裁選出馬の打診を受けたその夜、議員会館の窓から見える国会議事堂の光は、いつもより鋭く、重く、冷たかった。

 坂本健人は、机の上に積まれた資料の束をぼんやりと眺め続けていた。
 “総裁選”――その二文字が脳裏に何度も浮かんでは消える。

(俺が……総裁? 本気で言ってるのか、城戸幹事長は)

 答えは出ないまま朝を迎えた。



 コンコン、と控えめなノックが響いた。

「坂本さん、入ります」

 扉を開けたのは真田だ。片手にはタブレット、もう片手には分厚い資料ファイル。
 その顔には、いつもの冷静さとは違う、わずかな緊張が残っていた。

「状況が……動き始めてます」

 短い言葉。だがその声に、坂本は胸の奥がざわつくのを感じた。

「何が起きた?」

 真田はタブレットを操作し、SNSの画面を坂本の前に示した。

「……見てください」

 そこには巨大な数字が並んでいた。
 トレンド上位には、

 #次の総理にふさわしい男
 #坂本総理
 #無所属からの挑戦

 という文字。

「……なんだこれ」

「発端は、党内の若手議員の投稿です」

 真田は読み上げた。

“日本を新しくするなら、この人しかいない。
私は坂本健人を、次の総理に推す。”

 ただの一投稿。
 だが、そこから火がついた。まるで乾いた草原に火を放ったように、数千、数万のリツイートが重なり、次々と賛同する議員が現れた。

「ほぼ一晩で、この騒ぎです」

「なんで、こんな……」

 坂本が言葉を失っていると、ドアが勢いよく開いた。

「健人! これ見ろ!」

 飛び込んできたのは田島だった。
 スマホ画面を突き出してくる。

「ニュース番組でもやってるぞ!」

 そこにはコメンテーターたちが騒然と語る映像が流れていた。

――「国民革新党の内部で、坂本議員を次期総理候補と見る声が急速に拡大しています」

――「支持率で言えば党内トップ。なんなら与党の看板より高い」

――「彼が総裁選に出れば、党の人気は一時的に跳ね上がる可能性がある」

 まるで他人事のように語られているが、指しているのは自分だ。

(次の総理……? 本当に俺のこと言ってるのか……?)



 昼過ぎ。
 控室にいた坂本のスマホが震えた。

――市長です。応援してます。あなたが立てば地元も本気になれる。

――地方議員連盟として、坂本さんを推薦したい。

――あなたの仕事ぶりは“政治家の理想”です。総裁選に出るべきだ。

 次々と届くメッセージ。
 いつの間にか、地方の議会までも動き始めていた。

「……こんなに?」

「ええ。これはもう“党内の異変”と呼べるレベルです」

 真田は淡々と言うが、その眼差しにはいつもの余裕がなかった。

「これは、世代交代を求める若手議員たちの“反乱”に近い動きです。
 古い体質の党では抑えられない、時代の流れですよ」

「反乱……?」

「あなたが変えてしまったんです。彼らの中の空気を」



 夕方。
 議員食堂。坂本が席に着くと、一斉に視線が集まった。

「……なんだ、これ」

 囁き声が聞こえる。

「あれが坂本……」
「本気で出るのか?」
「いや、まだ噂だろう」
「でも、彼なら……」

 そして、一人の高齢議員が近づいてきた。

「坂本君」

「は、はい」

 緊張が走る。

 高齢議員は静かに言った。

「……あんた、本当に“次”を狙えるよ」

 驚くほど柔らかい声音だった。
 皮肉でも、嫌味でも、牽制でもない。
 ただ純粋に、評価としての言葉。

「そんな……俺はまだ一年生で……」

「一年生かどうかは関係ない。
 人気というのはな、努力して得られるものじゃない。
 国民が“勝手に”寄せるものだ」

 そう言い残し、老人は去っていった。



 その夜。

 真田が静かに言った。

「坂本さん。これはもう“外の声”じゃありません。
 党内の中堅・若手は本気で、あなたを“次のリーダー”として見ています」

「俺なんかが……?」

「あなたじゃなければ、戦えないと考える議員が増えているんです」

 坂本は、窓の外を見た。
 国会議事堂が街の光に浮かび上がっている。
 総裁、総理――そんな言葉が、自分の人生に現実として迫ってくる。

(本当に俺に務まるのか……?)

 胸の奥で、期待と恐怖が同時に跳ねた。

(いや……ふさわしいかどうかを決めるのは――)

(国民だ)

 その瞬間、坂本の瞳に迷いが消えていった。



”総理にふさわしいと名乗る必要はない。
 そう思う人が一人でもいるなら、立つ資格は生まれる。
 リーダーは、自分でなるんじゃない。
 国民が選んだ瞬間に、なるんだ“
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