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第4部:政権奪取 - 総理就任
第157話 次の総理にふさわしい男
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眠れない夜だった。
総裁選出馬の打診を受けたその夜、議員会館の窓から見える国会議事堂の光は、いつもより鋭く、重く、冷たかった。
坂本健人は、机の上に積まれた資料の束をぼんやりと眺め続けていた。
“総裁選”――その二文字が脳裏に何度も浮かんでは消える。
(俺が……総裁? 本気で言ってるのか、城戸幹事長は)
答えは出ないまま朝を迎えた。
◆
コンコン、と控えめなノックが響いた。
「坂本さん、入ります」
扉を開けたのは真田だ。片手にはタブレット、もう片手には分厚い資料ファイル。
その顔には、いつもの冷静さとは違う、わずかな緊張が残っていた。
「状況が……動き始めてます」
短い言葉。だがその声に、坂本は胸の奥がざわつくのを感じた。
「何が起きた?」
真田はタブレットを操作し、SNSの画面を坂本の前に示した。
「……見てください」
そこには巨大な数字が並んでいた。
トレンド上位には、
#次の総理にふさわしい男
#坂本総理
#無所属からの挑戦
という文字。
「……なんだこれ」
「発端は、党内の若手議員の投稿です」
真田は読み上げた。
“日本を新しくするなら、この人しかいない。
私は坂本健人を、次の総理に推す。”
ただの一投稿。
だが、そこから火がついた。まるで乾いた草原に火を放ったように、数千、数万のリツイートが重なり、次々と賛同する議員が現れた。
「ほぼ一晩で、この騒ぎです」
「なんで、こんな……」
坂本が言葉を失っていると、ドアが勢いよく開いた。
「健人! これ見ろ!」
飛び込んできたのは田島だった。
スマホ画面を突き出してくる。
「ニュース番組でもやってるぞ!」
そこにはコメンテーターたちが騒然と語る映像が流れていた。
――「国民革新党の内部で、坂本議員を次期総理候補と見る声が急速に拡大しています」
――「支持率で言えば党内トップ。なんなら与党の看板より高い」
――「彼が総裁選に出れば、党の人気は一時的に跳ね上がる可能性がある」
まるで他人事のように語られているが、指しているのは自分だ。
(次の総理……? 本当に俺のこと言ってるのか……?)
◆
昼過ぎ。
控室にいた坂本のスマホが震えた。
――市長です。応援してます。あなたが立てば地元も本気になれる。
――地方議員連盟として、坂本さんを推薦したい。
――あなたの仕事ぶりは“政治家の理想”です。総裁選に出るべきだ。
次々と届くメッセージ。
いつの間にか、地方の議会までも動き始めていた。
「……こんなに?」
「ええ。これはもう“党内の異変”と呼べるレベルです」
真田は淡々と言うが、その眼差しにはいつもの余裕がなかった。
「これは、世代交代を求める若手議員たちの“反乱”に近い動きです。
古い体質の党では抑えられない、時代の流れですよ」
「反乱……?」
「あなたが変えてしまったんです。彼らの中の空気を」
◆
夕方。
議員食堂。坂本が席に着くと、一斉に視線が集まった。
「……なんだ、これ」
囁き声が聞こえる。
「あれが坂本……」
「本気で出るのか?」
「いや、まだ噂だろう」
「でも、彼なら……」
そして、一人の高齢議員が近づいてきた。
「坂本君」
「は、はい」
緊張が走る。
高齢議員は静かに言った。
「……あんた、本当に“次”を狙えるよ」
驚くほど柔らかい声音だった。
皮肉でも、嫌味でも、牽制でもない。
ただ純粋に、評価としての言葉。
「そんな……俺はまだ一年生で……」
「一年生かどうかは関係ない。
人気というのはな、努力して得られるものじゃない。
国民が“勝手に”寄せるものだ」
そう言い残し、老人は去っていった。
◆
その夜。
真田が静かに言った。
「坂本さん。これはもう“外の声”じゃありません。
党内の中堅・若手は本気で、あなたを“次のリーダー”として見ています」
「俺なんかが……?」
「あなたじゃなければ、戦えないと考える議員が増えているんです」
坂本は、窓の外を見た。
国会議事堂が街の光に浮かび上がっている。
総裁、総理――そんな言葉が、自分の人生に現実として迫ってくる。
(本当に俺に務まるのか……?)
胸の奥で、期待と恐怖が同時に跳ねた。
(いや……ふさわしいかどうかを決めるのは――)
(国民だ)
その瞬間、坂本の瞳に迷いが消えていった。
”総理にふさわしいと名乗る必要はない。
そう思う人が一人でもいるなら、立つ資格は生まれる。
リーダーは、自分でなるんじゃない。
国民が選んだ瞬間に、なるんだ“
総裁選出馬の打診を受けたその夜、議員会館の窓から見える国会議事堂の光は、いつもより鋭く、重く、冷たかった。
坂本健人は、机の上に積まれた資料の束をぼんやりと眺め続けていた。
“総裁選”――その二文字が脳裏に何度も浮かんでは消える。
(俺が……総裁? 本気で言ってるのか、城戸幹事長は)
答えは出ないまま朝を迎えた。
◆
コンコン、と控えめなノックが響いた。
「坂本さん、入ります」
扉を開けたのは真田だ。片手にはタブレット、もう片手には分厚い資料ファイル。
その顔には、いつもの冷静さとは違う、わずかな緊張が残っていた。
「状況が……動き始めてます」
短い言葉。だがその声に、坂本は胸の奥がざわつくのを感じた。
「何が起きた?」
真田はタブレットを操作し、SNSの画面を坂本の前に示した。
「……見てください」
そこには巨大な数字が並んでいた。
トレンド上位には、
#次の総理にふさわしい男
#坂本総理
#無所属からの挑戦
という文字。
「……なんだこれ」
「発端は、党内の若手議員の投稿です」
真田は読み上げた。
“日本を新しくするなら、この人しかいない。
私は坂本健人を、次の総理に推す。”
ただの一投稿。
だが、そこから火がついた。まるで乾いた草原に火を放ったように、数千、数万のリツイートが重なり、次々と賛同する議員が現れた。
「ほぼ一晩で、この騒ぎです」
「なんで、こんな……」
坂本が言葉を失っていると、ドアが勢いよく開いた。
「健人! これ見ろ!」
飛び込んできたのは田島だった。
スマホ画面を突き出してくる。
「ニュース番組でもやってるぞ!」
そこにはコメンテーターたちが騒然と語る映像が流れていた。
――「国民革新党の内部で、坂本議員を次期総理候補と見る声が急速に拡大しています」
――「支持率で言えば党内トップ。なんなら与党の看板より高い」
――「彼が総裁選に出れば、党の人気は一時的に跳ね上がる可能性がある」
まるで他人事のように語られているが、指しているのは自分だ。
(次の総理……? 本当に俺のこと言ってるのか……?)
◆
昼過ぎ。
控室にいた坂本のスマホが震えた。
――市長です。応援してます。あなたが立てば地元も本気になれる。
――地方議員連盟として、坂本さんを推薦したい。
――あなたの仕事ぶりは“政治家の理想”です。総裁選に出るべきだ。
次々と届くメッセージ。
いつの間にか、地方の議会までも動き始めていた。
「……こんなに?」
「ええ。これはもう“党内の異変”と呼べるレベルです」
真田は淡々と言うが、その眼差しにはいつもの余裕がなかった。
「これは、世代交代を求める若手議員たちの“反乱”に近い動きです。
古い体質の党では抑えられない、時代の流れですよ」
「反乱……?」
「あなたが変えてしまったんです。彼らの中の空気を」
◆
夕方。
議員食堂。坂本が席に着くと、一斉に視線が集まった。
「……なんだ、これ」
囁き声が聞こえる。
「あれが坂本……」
「本気で出るのか?」
「いや、まだ噂だろう」
「でも、彼なら……」
そして、一人の高齢議員が近づいてきた。
「坂本君」
「は、はい」
緊張が走る。
高齢議員は静かに言った。
「……あんた、本当に“次”を狙えるよ」
驚くほど柔らかい声音だった。
皮肉でも、嫌味でも、牽制でもない。
ただ純粋に、評価としての言葉。
「そんな……俺はまだ一年生で……」
「一年生かどうかは関係ない。
人気というのはな、努力して得られるものじゃない。
国民が“勝手に”寄せるものだ」
そう言い残し、老人は去っていった。
◆
その夜。
真田が静かに言った。
「坂本さん。これはもう“外の声”じゃありません。
党内の中堅・若手は本気で、あなたを“次のリーダー”として見ています」
「俺なんかが……?」
「あなたじゃなければ、戦えないと考える議員が増えているんです」
坂本は、窓の外を見た。
国会議事堂が街の光に浮かび上がっている。
総裁、総理――そんな言葉が、自分の人生に現実として迫ってくる。
(本当に俺に務まるのか……?)
胸の奥で、期待と恐怖が同時に跳ねた。
(いや……ふさわしいかどうかを決めるのは――)
(国民だ)
その瞬間、坂本の瞳に迷いが消えていった。
”総理にふさわしいと名乗る必要はない。
そう思う人が一人でもいるなら、立つ資格は生まれる。
リーダーは、自分でなるんじゃない。
国民が選んだ瞬間に、なるんだ“
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