32 / 250
第32話 酒、初しぼり
果樹園の実りを使い、ロックが酒造りを始めてから幾日かが過ぎた。
新しく建てられた酒造場には大きな木樽が並び、その前に立つロックはごつい手で蓋を外す。むわっと立ち上る香りに、彼の太い胸が震えた。
「……できたぞ! ニーベル村、初めての酒だ!」
その豪快な声は、村中に響き渡った。呼ばれるように人々が広場へと集まり、息を弾ませながら酒造場を覗き込む。樽から汲み上げられた酒は、黄金色に輝き、熟れた果実の甘い香りが辺りを包んだ。
木の杯が順々に配られ、皆が一斉に口をつける。
ひと口含んだ瞬間、ざわめきがどよめきに変わった。
「……う、旨い!」
「なんだこれは……王都の酒場でも口にしたことがない味だ!」
芳醇な香りと柔らかな舌触りに、村人たちは思わず顔を見合わせ、歓声を上げる。
子どもたちには果汁ジュースが振る舞われ、元気いっぱいに「かんぱーい!」と声を揃えた。
笑顔が広場いっぱいに広がり、村はまるで祝祭の場のように熱気に包まれる。
そんな中、杯を掲げたカノンが挑発的に笑った。
「ふふん、これくらいなら水みたいなものね」
「戯け! 前に潰れたのはお主だろうが!」
ノンナが負けじと応じ、二人は火花を散らすように杯をぶつけ合う。
「妄言を吐くな! あの時はお主が机に突っ伏していたではないか!」
「それはあんたが先に寝たからでしょ!」
売り言葉に買い言葉。
村人たちは腹を抱えて笑い、精霊たちまでがきらきらと光りながら二人の周りを舞った。
「こらこら、二人とも! 村中の笑い者になるだろ!」
慌てて止めに入るアルフもまた、格好の笑い種にされるのだった。
焚き火の炎がぱちぱちと弾け、肉の香ばしい匂いが漂う。
シーナとラファは料理を運び、ルカとルナは豪快に串焼きを並べ、サリーは子どもたちにジュースを配って回る。
誰もが笑い、歌い、語り合う――。
それは、ニーベル村が「生き延びる場所」から「文化を育む場所」へと変わった象徴のようだった。
この賑やかな宴の噂は、あっという間に外へ広がっていった。
数日後、屈強な体つきの男が村を訪れる。
「俺は鍛冶屋だ。この村なら腰を据えて暮らせそうだ。武器も農具も、必要なら作ってやる」
また別の日には、薬箱を抱えた女性がやって来る。
「学び舎があると聞きました。子どもたちが学べるのなら、私はここで医術を教え、暮らしたい」
新たに鍛冶場が建ち、診療所が形を成し始める。村は、確実に「生きるため」から「豊かに暮らすため」へと進化しつつあった。
その夜。
杯を片手に空を仰いだアルフは、深く息を吐く。
「酒が……この村の産業になるかもしれない。知識も、技術も、人も……。もう、ここは生き延びるだけの場所じゃない」
肩に舞い降りた精霊たちが、光を揺らして頷くように寄り添った。
アルフの胸の内で、小さな確信が芽吹き始めていた。
朝、鍛冶場からカンカンと金属を打つ音が響き渡る。
鍛冶屋の男、ガルドは分厚い腕を振るい、真っ赤に焼けた鉄を槌で叩きしめていた。
見物していた子どもたちは目を丸くし、
「すごい! 火花が散ってる!」と歓声を上げる。
アルフも足を止めて眺めていた。
「ガルドさん、もう新しい鍬を?」
「ああ。ここの畑は土が柔らかいが、それでも良い道具があればもっと楽になる」
完成した鍬は軽く、持ちやすく、力を入れずに土を掘り返せるよう工夫されていた。
村の農民たちはそれを手に取り、驚きの声を漏らす。
「これなら腰を痛めずに済む!」
「ありがてえ……!」
ガルドはにかっと笑い、汗を拭った。
「お前さんの育てる作物に負けないくらい、俺もいい道具を作ってやるよ」
新しく建てられた酒造場には大きな木樽が並び、その前に立つロックはごつい手で蓋を外す。むわっと立ち上る香りに、彼の太い胸が震えた。
「……できたぞ! ニーベル村、初めての酒だ!」
その豪快な声は、村中に響き渡った。呼ばれるように人々が広場へと集まり、息を弾ませながら酒造場を覗き込む。樽から汲み上げられた酒は、黄金色に輝き、熟れた果実の甘い香りが辺りを包んだ。
木の杯が順々に配られ、皆が一斉に口をつける。
ひと口含んだ瞬間、ざわめきがどよめきに変わった。
「……う、旨い!」
「なんだこれは……王都の酒場でも口にしたことがない味だ!」
芳醇な香りと柔らかな舌触りに、村人たちは思わず顔を見合わせ、歓声を上げる。
子どもたちには果汁ジュースが振る舞われ、元気いっぱいに「かんぱーい!」と声を揃えた。
笑顔が広場いっぱいに広がり、村はまるで祝祭の場のように熱気に包まれる。
そんな中、杯を掲げたカノンが挑発的に笑った。
「ふふん、これくらいなら水みたいなものね」
「戯け! 前に潰れたのはお主だろうが!」
ノンナが負けじと応じ、二人は火花を散らすように杯をぶつけ合う。
「妄言を吐くな! あの時はお主が机に突っ伏していたではないか!」
「それはあんたが先に寝たからでしょ!」
売り言葉に買い言葉。
村人たちは腹を抱えて笑い、精霊たちまでがきらきらと光りながら二人の周りを舞った。
「こらこら、二人とも! 村中の笑い者になるだろ!」
慌てて止めに入るアルフもまた、格好の笑い種にされるのだった。
焚き火の炎がぱちぱちと弾け、肉の香ばしい匂いが漂う。
シーナとラファは料理を運び、ルカとルナは豪快に串焼きを並べ、サリーは子どもたちにジュースを配って回る。
誰もが笑い、歌い、語り合う――。
それは、ニーベル村が「生き延びる場所」から「文化を育む場所」へと変わった象徴のようだった。
この賑やかな宴の噂は、あっという間に外へ広がっていった。
数日後、屈強な体つきの男が村を訪れる。
「俺は鍛冶屋だ。この村なら腰を据えて暮らせそうだ。武器も農具も、必要なら作ってやる」
また別の日には、薬箱を抱えた女性がやって来る。
「学び舎があると聞きました。子どもたちが学べるのなら、私はここで医術を教え、暮らしたい」
新たに鍛冶場が建ち、診療所が形を成し始める。村は、確実に「生きるため」から「豊かに暮らすため」へと進化しつつあった。
その夜。
杯を片手に空を仰いだアルフは、深く息を吐く。
「酒が……この村の産業になるかもしれない。知識も、技術も、人も……。もう、ここは生き延びるだけの場所じゃない」
肩に舞い降りた精霊たちが、光を揺らして頷くように寄り添った。
アルフの胸の内で、小さな確信が芽吹き始めていた。
朝、鍛冶場からカンカンと金属を打つ音が響き渡る。
鍛冶屋の男、ガルドは分厚い腕を振るい、真っ赤に焼けた鉄を槌で叩きしめていた。
見物していた子どもたちは目を丸くし、
「すごい! 火花が散ってる!」と歓声を上げる。
アルフも足を止めて眺めていた。
「ガルドさん、もう新しい鍬を?」
「ああ。ここの畑は土が柔らかいが、それでも良い道具があればもっと楽になる」
完成した鍬は軽く、持ちやすく、力を入れずに土を掘り返せるよう工夫されていた。
村の農民たちはそれを手に取り、驚きの声を漏らす。
「これなら腰を痛めずに済む!」
「ありがてえ……!」
ガルドはにかっと笑い、汗を拭った。
「お前さんの育てる作物に負けないくらい、俺もいい道具を作ってやるよ」
あなたにおすすめの小説
仲間を勇者パーティーから追放したら、実は有能だったらしい。俺が。〜ざまあされて隠居したいのに、いつの間にか英雄にされていた件〜
果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
ラルド=ヤメタイーナは勇者を辞めたい。魔王討伐の使命とか正直面倒くさいし、魔族と戦うのだって怖いし。
しかし、勇者に選ばれてしまった以上、魔王討伐に動かねばならない使命があって――
「だったら、有能な仲間を追放して、無能勇者としてざまあされればよくね?」
さっそく理由をつけて有能な仲間を追放し、パーティーメンバーの反感を買ってパーティー解散を狙うラルドだったが。
実は追放された有能な仲間は、潜入して命を狙っていた魔族で。
反感を買うつもりが、有能な勇者と勘違いされて周囲からの好感度がどんどん上がっていき――!?
これは、勇者なんて辞めたいダメダメ主人公が、本人の意図せぬ結果を出して最強の勇者に上り詰める、勘違い英雄譚である。
※本作はカクヨムでも公開しています。
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未(ことぶき・あゆみ)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【概念剥奪】でポイ捨て無双。~最弱の収納スキルが覚醒したので、聖剣も魔王もゴミ箱に捨てて伝説の竜姫とスローライフ~
寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「収納しかできない無能な荷物持ちなど、我がパーティーには不要だ。消えろ、ゴミめ」
勇者パーティーの仲間だと思っていた奴らから突きつけられたのは、冷酷な追放宣告だった。
俺の持つスキルは、物を出し入れするだけの最弱スキル《収納》。
だが、死の淵でその真の力が覚醒する。
それは、物質だけでなく、この世のあらゆる事象を収める――【概念剥奪】。
「……悪いな。お前たちの『才能』も『聖剣』も、全部俺がポイ捨て(収納)しちゃったよ」
奪った概念は自由自在。
魔王の絶大な魔力も、勇者の無敵の加護も、俺の前ではただの不用品。
すべてを奪い取り、俺は辺境の地で伝説の竜姫と悠々自適なスローライフを始めることにした。
一方で、最強の荷物持ちを失った元パーティーは、装備もスキルも枯渇して破滅の道を突き進む。
「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう手遅れだ。
俺の収納スペースに、お前たちの居場所なんてこれっぽっちも残っていないんだから。
これは、世界に捨てられた男が、世界そのものを収納して無双する逆転劇。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜
グリゴリ
ファンタジー
木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。
SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。
祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。
恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。