植物に愛された少年 〜捨てられ領地で、のんびり作った楽園がなぜか人を惹きつけます〜

KAORUwithAI

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第32話 酒、初しぼり

果樹園の実りを使い、ロックが酒造りを始めてから幾日かが過ぎた。
 新しく建てられた酒造場には大きな木樽が並び、その前に立つロックはごつい手で蓋を外す。むわっと立ち上る香りに、彼の太い胸が震えた。

「……できたぞ! ニーベル村、初めての酒だ!」

 その豪快な声は、村中に響き渡った。呼ばれるように人々が広場へと集まり、息を弾ませながら酒造場を覗き込む。樽から汲み上げられた酒は、黄金色に輝き、熟れた果実の甘い香りが辺りを包んだ。

木の杯が順々に配られ、皆が一斉に口をつける。
 ひと口含んだ瞬間、ざわめきがどよめきに変わった。

「……う、旨い!」
「なんだこれは……王都の酒場でも口にしたことがない味だ!」

 芳醇な香りと柔らかな舌触りに、村人たちは思わず顔を見合わせ、歓声を上げる。
 子どもたちには果汁ジュースが振る舞われ、元気いっぱいに「かんぱーい!」と声を揃えた。
 笑顔が広場いっぱいに広がり、村はまるで祝祭の場のように熱気に包まれる。

そんな中、杯を掲げたカノンが挑発的に笑った。
「ふふん、これくらいなら水みたいなものね」
「戯け! 前に潰れたのはお主だろうが!」

 ノンナが負けじと応じ、二人は火花を散らすように杯をぶつけ合う。
「妄言を吐くな! あの時はお主が机に突っ伏していたではないか!」
「それはあんたが先に寝たからでしょ!」

 売り言葉に買い言葉。
 村人たちは腹を抱えて笑い、精霊たちまでがきらきらと光りながら二人の周りを舞った。
「こらこら、二人とも! 村中の笑い者になるだろ!」
 慌てて止めに入るアルフもまた、格好の笑い種にされるのだった。

焚き火の炎がぱちぱちと弾け、肉の香ばしい匂いが漂う。
 シーナとラファは料理を運び、ルカとルナは豪快に串焼きを並べ、サリーは子どもたちにジュースを配って回る。
 誰もが笑い、歌い、語り合う――。
 それは、ニーベル村が「生き延びる場所」から「文化を育む場所」へと変わった象徴のようだった。

この賑やかな宴の噂は、あっという間に外へ広がっていった。
 数日後、屈強な体つきの男が村を訪れる。

「俺は鍛冶屋だ。この村なら腰を据えて暮らせそうだ。武器も農具も、必要なら作ってやる」

 また別の日には、薬箱を抱えた女性がやって来る。
「学び舎があると聞きました。子どもたちが学べるのなら、私はここで医術を教え、暮らしたい」

 新たに鍛冶場が建ち、診療所が形を成し始める。村は、確実に「生きるため」から「豊かに暮らすため」へと進化しつつあった。

その夜。
 杯を片手に空を仰いだアルフは、深く息を吐く。
「酒が……この村の産業になるかもしれない。知識も、技術も、人も……。もう、ここは生き延びるだけの場所じゃない」

 肩に舞い降りた精霊たちが、光を揺らして頷くように寄り添った。
 アルフの胸の内で、小さな確信が芽吹き始めていた。

朝、鍛冶場からカンカンと金属を打つ音が響き渡る。
 鍛冶屋の男、ガルドは分厚い腕を振るい、真っ赤に焼けた鉄を槌で叩きしめていた。
 見物していた子どもたちは目を丸くし、
「すごい! 火花が散ってる!」と歓声を上げる。

 アルフも足を止めて眺めていた。
「ガルドさん、もう新しい鍬を?」
「ああ。ここの畑は土が柔らかいが、それでも良い道具があればもっと楽になる」

 完成した鍬は軽く、持ちやすく、力を入れずに土を掘り返せるよう工夫されていた。
 村の農民たちはそれを手に取り、驚きの声を漏らす。
「これなら腰を痛めずに済む!」
「ありがてえ……!」

 ガルドはにかっと笑い、汗を拭った。
「お前さんの育てる作物に負けないくらい、俺もいい道具を作ってやるよ」
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