植物に愛された少年 〜捨てられ領地で、のんびり作った楽園がなぜか人を惹きつけます〜

KAORUwithAI

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第58話 祭り、再び

ニーベル村の広場はざわめきに包まれていた。数日前から準備を進めてきた祭り――新たに加わった仲間たちを歓迎するための大きな催しである。

 露店にはロックが用意した果実酒の樽がずらりと並び、甘い香りが漂う。ドワーフの工夫で作られた鉄板の上では肉が豪快に焼かれ、香ばしい煙が上がる。仕立屋の一家は色とりどりの布で屋台を飾り、薬師夫婦は薬草を使った飲み物を差し出していた。子どもたちは顔を紅潮させ、村人は皆どこか誇らしげだった。

最初の催しは綱引き。
 片側には屈強なオーガ二人、もう片側には人間の若者十人。縄の中央に赤布が結ばれ、観客の精霊たちがくるくると舞いながら応援する。

「本当にやるのか? 倒されても知らないぞ」オーガの一人が豪快に笑う。
「負けない!」若者たちは歯を食いしばり、汗をにじませる。

 開始の合図とともに縄がきしむ。圧倒的な力に人間側は引きずられそうになるが、子どもたちの声援が響く。最後にルカとルナが加わり、姉妹の気迫に縄が一気に引き戻された。結果は引き分け。勝ち負けよりも互いを称え合い、手を握る光景に、拍手と笑いが広がった。

続いて獣人の踊り子たちが登場。太鼓の響きに合わせ、しなやかに舞い、毛並みが夜灯りに揺れる。サリーが弓を手に軽やかに輪に加わり、観客を魅了した。

 一方その隅では、酒比べが始まっていた。ロックが誇る果実酒を手に、挑戦者たちが次々と杯を空けていく。
「これは……甘さの奥に、深い渋みがあるな!」
「ロック、お前本当にやりやがったな!」

 ノンナもひょっこり加わり、カノンと睨み合いながら杯を重ねる。
「また潰れるのはお前だぞ、カノン」
「ふん、あの時は偶然よ」
 二人のやり取りに大笑いが起こり、精霊までもがくるくる舞って囃し立てた。

やがて祭りの終盤、カノンとシオンが舞台に立った。
「少し、余興を見せてあげる」カノンが片目をつむる。
「派手にやろうか」シオンが頷き、両手を掲げた。

 青龍の力で呼ばれた水滴が宙に浮かび、無数の光を帯びて夜空に舞い上がる。その周囲からはカノンが操る花々が咲き、光をまとった花弁が雨のように降り注いだ。精霊たちは歓声を上げ、舞い踊る。

 村人は息を呑んだ。王都の劇場でも見られぬ奇跡――それが今、目の前で繰り広げられているのだ。子どもたちの目は輝き、大人たちの顔には驚きと感動が交錯した。

舞台を見上げながら、アルフは深く息を吐いた。
「……ここは、本当に奇跡だ」
 追放され、一人きりで立っていた場所が、いまや笑顔と歌声に満ちている。精霊も、多種族も、古代龍すらも共にある。この光景を守らずして何を守るのか。

 隣でノンナがささやく。
「奇跡は放っておけば消える。守る覚悟が要るわ」
「分かってる。……必ず守る」

 だが、その華やかな光景を冷たい瞳で見つめる影があった。
 人混みに紛れて杯を傾ける男。笑みを作ってはいるが、目は村の隅々を鋭くなぞっている。

「古代龍、精霊、人間、獣人……まるで混沌の楽園だ」
 彼の胸中に浮かぶ言葉は、称賛ではなく警戒。教会が潜り込ませた密偵だった。

 光の花弁が舞い落ちる中、男は静かに呟く。
「やはり“異端”だ。このままでは教会の威信が揺らぐ」

 群衆の喧騒に紛れ、男の影は音もなく村を離れていった。祭りの歓声と笑いの裏で、確かに次の嵐の芽が育っていた。

夜更け、祭りの余韻がまだ広場に漂うころ、一人の男が村を後にした。
 背中に負った小袋には、村で目にした光景を事細かに書き記した報告書が入っている。

「古代龍が二体……いや、三体か? 精霊たちは人間と共に暮らし、子どもと戯れていた。さらに“奇跡の果実酒”……これでは民が虜になるのも当然だ」

 男は険しい顔をして呟きながら、夜道を急ぐ。村の歌声と笑い声がまだ耳に残っていたが、それは警鐘として響いていた。

数日後、教会の大聖堂。荘厳な柱に囲まれた会議の間に、司祭や神官たちが集められていた。
 密偵の報告が朗読されると、室内はざわめきに包まれる。

「古代龍が人と共に暮らす村など前代未聞だ!」
「精霊が舞い踊り、病すら癒す草が育つ……これは神の奇跡ではないのか?」

 穏健派の神官、ベネディクトが口を開く。
「彼らは異端などではない。むしろ神が与えた祝福の場として慎重に見守るべきだ」

 だが強硬派の司祭が机を叩き、声を荒げた。
「甘い! 民があの村に心を奪われれば、教会の権威は失墜する! 我らが神の奇跡を証明するためにも、“異端”として処分すべきだ!」

 重苦しい沈黙が落ちる。結論はまだ出ない。だが会議の空気は確実に「討伐」へと傾きつつあった。ベネディクトは歯を食いしばり、机の下で拳を握り締める。

一方その頃、ニーベル村ではいつも通りの日々が始まっていた。
 子どもたちは学び舎で声をそろえ、文字を習い、数字を数えている。
 果樹園では果実が豊かに実り、ロックは新しい酒の仕込みに取り掛かっていた。

 鍛冶場からは鉄を打つ音が響き、薬草園ではラファと薬師夫婦が並んで薬の調合をしている。市場には露店が立ち並び、笑顔で物々交換が行われていた。

 シオンは子どもたちに水を操る遊びを教え、カノンは精霊と共に畑の管理をしている。サリーは狩りに出て獲物を村へ持ち帰り、姉妹は若者に剣と魔法を指南していた。

 アルフはその光景を屋敷の窓から見下ろし、静かに息を吐いた。
「……みんな笑ってる。この笑顔を守るためなら、どんな敵だって退けてみせる」

だが、その笑顔に影が忍び寄っていることを、まだ村人たちは知らなかった。
 遠く離れた大聖堂では「次の一手」を巡る議論が続き、やがて村に新たな試練を呼び寄せることになるのだった。
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