植物に愛された少年 〜捨てられ領地で、のんびり作った楽園がなぜか人を惹きつけます〜

KAORUwithAI

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第242話 帰還、それぞれの胸中

王都の外壁が見え始めた頃、街道の空気が目に見えて変わった。

ざわめき。
人の気配。
遠くから聞こえてくる、抑えきれない声。

「来たぞ……!」

誰かの叫びを合図にしたように、街道の両脇へ人々が集まり始める。
農民、商人、職人、旅人――
王都に暮らす者たちが、噂を聞きつけ、真偽を確かめるように集まってきていた。

「教会を止めたって……」
「黒龍を救い出したって本当か?」
「王都軍が一緒に動いたらしいぞ」

不安と期待が入り混じった視線が、一行に向けられる。

先頭を歩くアルフの姿を認めた瞬間、空気が変わった。

「――アルフレート様だ!」
「ニーベル村の……!」

歓声が上がる。

拍手。
掲げられる手。
誰かが「英雄だ!」と叫び、それに続く声が連なっていく。

アルフは、思わず足を止めかけた。

自分に向けられる視線の多さに、戸惑いが先に立つ。
称賛。
期待。
そして――恐れ。

その理由は、すぐにわかった。

「……あれ、龍か?」

人々の視線が、アルフの背後へ集まる。

人の姿をしたルーナ。
その両脇を支えるカノン、シオン、シエラ。
さらに後方には、フレイとクレハの姿もある。

「黒龍……?」
「本当に……生きてる……」

ざわり、と空気が揺れる。

一歩、後ずさる者。
思わず子どもを庇う親。
しかし同時に、別の声も上がった。

「……怪我してる」
「ひどい……あんな姿……」

ルーナの蒼白な顔。
歩くたびにわずかに揺れる身体。

それを見たとき、恐れは同情へと変わっていく。

「助けられたんだな……」
「アルフレート様に……」

囁きが、次第に怒りを帯びた声へ変わる。

「許せない」
「神を名乗って……あんなことを」
「もう教会は信用できない」

王都軍の兵士たちが、街道の両脇に展開し、声を張り上げる。

「騒ぐな!」
「危険はない、落ち着け!」

その声に、人々は我に返り、距離を保つ。

アルフは歩きながら、胸の奥で静かに考えていた。

(戦いは終わった……だが)

終わったのは、戦闘だけだ。
傷ついた信仰。
揺らいだ秩序。
恐れと怒りを抱えた人々。

やるべきことは、まだ山ほどある。

城門が近づくにつれ、空気はさらに重くなる。

巨大な門が開かれ、
王都の中枢――王城へ続く道が現れた。

石畳の上に落ちる足音が、やけに大きく響く。

「……ここからだね」

ルカが低く呟く。

ルナは無言で頷いた。

城門をくぐった瞬間、民衆の喧騒は一気に遠ざかる。
代わりに、冷えた静けさが一行を包み込んだ。

王城へ向かう通路。
そこに立ち並ぶ近衛兵たちの視線は、鋭く、慎重だった。

龍たちは落ち着かない様子で、アルフの近くに寄る。

「大丈夫だ」

アルフは、そっと声をかける。

「ここは、敵じゃない」

その言葉に、フレイが小さく息を吐き、クレハが視線を逸らした。

「……人の城は、やはり慣れぬ」

「無理もない」

アルフはそう返す。

やがて、見覚えのある人物がこちらへ歩いてくる。

「アルフ様!」

クレオスだった。

すでに王への報告を終えたのだろう。
その顔には疲労と、覚悟が浮かんでいる。

「報告は済んだ」

「王は?」

「激怒しておられた。……だが、それ以上に、重く受け止めている」

アルフは小さく頷いた。

「そうか」

ほどなく、王城の医師団が姿を現す。

「黒龍殿はこちらへ」

穏やかだが、緊張を含んだ声。

アルフは一瞬、ルーナを見る。

「すぐ戻る。必ず」

ルーナは、かすかに微笑んだ。

「……信じてる」

医師たちに支えられ、ルーナは王城内の治療施設へと運ばれていく。

その背を見送りながら、アルフは深く息を吸った。

「皆……ありがとう」

仲間たちへ向き直る。

「ここまで、誰一人欠けずに来られたのは、みんなのおかげだ」

ルカとルナは顔を見合わせ、照れたように視線を逸らす。
カノンは腕を組んだまま、短く言った。

「当然だ」

シオンとシエラも、静かに頷いた。

ほどなく、近衛兵が告げる。

「王の命により、アルフ殿および同行者は、王城内での静養と事情聴取を受けていただく」

拒む理由はない。

むしろ、それは必要な時間だった。

戦いの余韻を整理し、
責任を明確にし、
次へ進むための準備をするための。

アルフは、王城の高い天井を見上げる。

(ここからが、本当の意味での“後始末”だ)

英雄として迎えられながらも、
その肩には、確かな重みが乗っている。

それでも――

守った命がある。
救えた存在がある。

それだけは、誇っていい。

王都の空の下、
アルフは静かに、次の覚悟を胸に刻んだ。
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