植物に愛された少年 〜捨てられ領地で、のんびり作った楽園がなぜか人を惹きつけます〜

KAORUwithAI

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第243話 癒しの光、繋がる命

王城の奥、普段は王族や重臣しか立ち入らぬ静謐な一室に、急ごしらえの治療所が設けられていた。
白布で仕切られた空間には、香草と清水の匂いが満ち、張り詰めた空気の中で人々が息を潜めている。

その中央、柔らかな寝台の上に横たわっているのは――人の少女の姿をした黒龍、ルーナだった。

呪符による人化は解かれていない。
細い肩、血の気を失った頬、時折苦しげに上下する胸。
だがその身に刻まれていた禍々しい呪印は、確かに弱まりつつあった。

「……ここまで損傷が深いとは」

王国随一と謳われる医師が、額に汗を浮かべながら呟く。
龍の治療など前例がない。人の理で組み上げられた医術は、ルーナの命の在り方を完全には捉えきれずにいた。

「脈はある。だが、生命力の流れが不安定だ……」

その言葉に、傍らで見守る者たちの表情が強張る。

シオンとシエラは一歩前に出て、静かに頷いた。

「……人の医術だけでは足りない」
「龍の命には、龍の力が必要です」

二人はそっとルーナの左右に立ち、慎重に手をかざす。
水と風の気配が柔らかく広がり、少女の体を包み込むように流れ始めた。

やがて、空気が変わる。

淡く、しかし確かな黄金色の光が、治療所全体を満たした。

「――陣を展開する」

静かな声と共に、ミュイが一歩前へ出る。
人の姿をした金龍は、床に描かれた魔法陣へと指先を伸ばし、複雑で美しい文様を空中に描いた。

光が降り注ぎ、魔法陣がゆっくりと回転を始める。

「これは回復ではない。“再生の補助”だ」
「生きようとする意志がなければ、効果は薄い」

その言葉に応えるように、茶龍フレイと赤龍クレハが、そっとルーナの傍へ膝をついた。

「……よく耐えたね、ルーナ」
「もう一人じゃない」

二人は優しく、だが確かな力で少女の体に手を置く。
龍同士にしか通じぬ波長が、静かに、深く流れ込んでいった。

その光景を、アルフは息を詰めるように見つめていた。

ゆっくりと近づき、ルーナの額に手を置く。
熱は低く、脈は弱い。それでも――確かに、生きている。

「……必ず助ける」
「君は、もう独りじゃない」

その言葉に、微かに、ルーナの睫毛が震えたように見えた。

ルカとルナは祈るように両手を胸の前で組み、ただ見守る。
剣を振るう時とは違う、どうすることもできない時間。
それでも、想いだけは決して離さぬように。

やがて、医師が静かに息を吐いた。

「……生命力が、戻っています」
「急激ではないが……確実に」

その一言に、治療所の空気がわずかに緩む。

周囲で控えていた王城の者たちは、言葉を失ったままその光景を見つめていた。
人と龍が並び、命を繋ぎ留めようとしている――それは、これまでの常識を根底から覆す光景だった。

その時、控えの兵が一通の手紙を携えて近づいてくる。

「アルフ様。ニーベル村より」

封を切った瞬間、懐かしい筆跡が目に飛び込んだ。
ノンナからの手紙だった。

――村は無事。
――森も、人も、皆変わらず待っている。

胸の奥に、張り詰めていたものが静かに溶けていく。

アルフは、そっと拳を握りしめた。

「……もう、誰にも」
「こんな目には、遭わせない」

その決意は、声に出さずとも確かな重みを持っていた。

治療所の外では、王城の鐘が静かに時を告げている。
戦いは終わった。だが――守るべき未来は、ここから始まる。

ルーナの胸が、かすかに上下する。

その小さな鼓動は、確かに“希望”だった。
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