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第244話 王の審問、教会の贖罪
王城の大広間――謁見の間は、張り詰めた静寂に包まれていた。
高い天井に掲げられた王国の紋章、その下に据えられた玉座には、国王が静かに座している。だがその眼差しには、隠しきれぬ怒りが宿っていた。
やがて重厚な扉が開かれ、白衣を纏った一団が姿を現す。
中央に立つ白髪の老人――教会総本山の教皇であった。
広間にいた廷臣、騎士、そしてアルフたちは一斉に視線を向ける。
教皇はゆっくりと歩み寄り、玉座の前で膝をついた。
「……この度の惨事、誠に痛恨の極み。亡くなった者たちの魂に、深き哀悼を捧げます」
その声は老いてなお澄んでいたが、重い悔恨が滲んでいた。
だが王の表情は動かない。
「哀悼の言葉だけで済むと思うな、教皇」
低く、しかし広間の隅々まで響く声。
空気が一瞬で凍りついた。
「国を揺るがす禁忌――龍血を用いた呪法。あれは何だ」
王の声は怒りを抑え込んでいたが、それがかえって恐ろしかった。
教皇は顔を伏せたまま答える。
「……大司祭の暴走にございます。教義を歪め、異端討伐の名のもとに禁忌へと手を染めた」
「暴走、だと?」
王の拳が玉座の肘掛けを強く打つ。
乾いた音が広間に響いた。
「国中を巻き込み、龍を捕らえ、命を奪い、神をも冒涜した行為が“暴走”で済むと思うか!」
廷臣たちが息を呑む。
誰一人として声を上げられない。
教皇は静かに頭を垂れた。
「……弁解の余地はございません」
その一言に、王の怒りがさらに燃え上がる――かと思われたが、王は目を閉じた。
しばしの沈黙。
やがて王はゆっくりと口を開く。
「教会は、国の支えでもある。だが今回の行為は、信仰ではなく狂気だ」
教皇は深く頷いた。
「……ゆえに、改革を行います」
広間がざわめく。
「強硬派は全て粛清。禁忌の呪法は封印。教義を見直し、二度と同じ過ちを繰り返さぬと誓いましょう」
王は教皇を鋭く見つめた。
「言葉ではなく、行動で示せ」
「無論にございます」
教皇は深く頭を下げた。
その時、レクターが一歩前へ出た。
「陛下……お許しを」
王は視線を向ける。
「私は、この戦いを止めることができなかった」
レクターの声は低く、悔恨に満ちていた。
「教会に疑念を抱きながらも、決断が遅れた。その結果、多くの血が流れた」
広間が静まり返る。
「……責は、私にもあります」
王はしばらく黙っていた。
やがて、静かに言った。
「お前は、戦った。止めようとした。その事実は変わらぬ」
レクターは頭を下げた。
その様子を、アルフは黙って見ていた。
言葉を挟むこともなく、ただ全てを受け止めるように。
王は再び教皇へ向き直る。
「残る強硬派はどうする」
「全員、国外追放といたします」
「二度とこの国の地を踏ませるな」
「承知いたしました」
教皇は深く頭を下げた。
王はゆっくりと立ち上がった。
その瞬間、広間の空気が変わる。
王は玉座から降り、まっすぐに歩き出した。
向かった先――アルフ。
広間の全員が息を呑む。
王はアルフの前で立ち止まり――
頭を下げた。
ざわめきが広がる。
王が、臣下でもない一人の少年に頭を下げたのだ。
「龍を救い、国を救った。……感謝する」
静かな、だが真摯な声だった。
「お前がいなければ、この国は取り返しのつかぬ罪を背負っていた」
アルフは一瞬、言葉を失った。
やがて静かに答える。
「……俺は、守りたかっただけです」
「それができる者は少ない」
王は顔を上げた。
「龍も、人も、この国の命だ。お前はそれを守った」
アルフは何も言わなかった。
ただ、深く息を吐いた。
王は周囲を見渡し、宣言する。
「禁忌は二度と許さぬ。
この国は――人も龍も共に生きる国である」
その言葉は、重く、そして強かった。
広間の誰もが頭を垂れる。
教皇もまた、静かに祈るように目を閉じた。
長き戦いは終わった。
だがそれは終わりではない。
過ちを越え、新たな道を歩むための――始まりであった。
アルフは静かに立っていた。
その背には、確かな未来が宿っていた。
高い天井に掲げられた王国の紋章、その下に据えられた玉座には、国王が静かに座している。だがその眼差しには、隠しきれぬ怒りが宿っていた。
やがて重厚な扉が開かれ、白衣を纏った一団が姿を現す。
中央に立つ白髪の老人――教会総本山の教皇であった。
広間にいた廷臣、騎士、そしてアルフたちは一斉に視線を向ける。
教皇はゆっくりと歩み寄り、玉座の前で膝をついた。
「……この度の惨事、誠に痛恨の極み。亡くなった者たちの魂に、深き哀悼を捧げます」
その声は老いてなお澄んでいたが、重い悔恨が滲んでいた。
だが王の表情は動かない。
「哀悼の言葉だけで済むと思うな、教皇」
低く、しかし広間の隅々まで響く声。
空気が一瞬で凍りついた。
「国を揺るがす禁忌――龍血を用いた呪法。あれは何だ」
王の声は怒りを抑え込んでいたが、それがかえって恐ろしかった。
教皇は顔を伏せたまま答える。
「……大司祭の暴走にございます。教義を歪め、異端討伐の名のもとに禁忌へと手を染めた」
「暴走、だと?」
王の拳が玉座の肘掛けを強く打つ。
乾いた音が広間に響いた。
「国中を巻き込み、龍を捕らえ、命を奪い、神をも冒涜した行為が“暴走”で済むと思うか!」
廷臣たちが息を呑む。
誰一人として声を上げられない。
教皇は静かに頭を垂れた。
「……弁解の余地はございません」
その一言に、王の怒りがさらに燃え上がる――かと思われたが、王は目を閉じた。
しばしの沈黙。
やがて王はゆっくりと口を開く。
「教会は、国の支えでもある。だが今回の行為は、信仰ではなく狂気だ」
教皇は深く頷いた。
「……ゆえに、改革を行います」
広間がざわめく。
「強硬派は全て粛清。禁忌の呪法は封印。教義を見直し、二度と同じ過ちを繰り返さぬと誓いましょう」
王は教皇を鋭く見つめた。
「言葉ではなく、行動で示せ」
「無論にございます」
教皇は深く頭を下げた。
その時、レクターが一歩前へ出た。
「陛下……お許しを」
王は視線を向ける。
「私は、この戦いを止めることができなかった」
レクターの声は低く、悔恨に満ちていた。
「教会に疑念を抱きながらも、決断が遅れた。その結果、多くの血が流れた」
広間が静まり返る。
「……責は、私にもあります」
王はしばらく黙っていた。
やがて、静かに言った。
「お前は、戦った。止めようとした。その事実は変わらぬ」
レクターは頭を下げた。
その様子を、アルフは黙って見ていた。
言葉を挟むこともなく、ただ全てを受け止めるように。
王は再び教皇へ向き直る。
「残る強硬派はどうする」
「全員、国外追放といたします」
「二度とこの国の地を踏ませるな」
「承知いたしました」
教皇は深く頭を下げた。
王はゆっくりと立ち上がった。
その瞬間、広間の空気が変わる。
王は玉座から降り、まっすぐに歩き出した。
向かった先――アルフ。
広間の全員が息を呑む。
王はアルフの前で立ち止まり――
頭を下げた。
ざわめきが広がる。
王が、臣下でもない一人の少年に頭を下げたのだ。
「龍を救い、国を救った。……感謝する」
静かな、だが真摯な声だった。
「お前がいなければ、この国は取り返しのつかぬ罪を背負っていた」
アルフは一瞬、言葉を失った。
やがて静かに答える。
「……俺は、守りたかっただけです」
「それができる者は少ない」
王は顔を上げた。
「龍も、人も、この国の命だ。お前はそれを守った」
アルフは何も言わなかった。
ただ、深く息を吐いた。
王は周囲を見渡し、宣言する。
「禁忌は二度と許さぬ。
この国は――人も龍も共に生きる国である」
その言葉は、重く、そして強かった。
広間の誰もが頭を垂れる。
教皇もまた、静かに祈るように目を閉じた。
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だがそれは終わりではない。
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アルフは静かに立っていた。
その背には、確かな未来が宿っていた。
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