『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

日常編

第48話「寒い夜には、ホットする」

カラン――。

　冷たい夜風と共に、仕事帰りの騎士がミッドナイトマートに姿を現した。
　鎧の表面にはうっすらと霜が降り、外套の肩には雪の粒が残っている。
　両手を擦り合わせながら、深く息を吐くたび、白い吐息がふわりと広がった。

　「いらっしゃいませ」

　レジに立っていたニナが笑顔で迎えると、騎士は軽く会釈し、店内をゆっくり歩き出した。
　惣菜コーナーを横目に通り過ぎ、まっすぐ向かったのはホットドリンクコーナーだ。

　そこには、湯気を立てるカップが整然と並び、香ばしいコーヒーや甘いミルクティー、そして濃厚なココアの香りが漂っている。
　騎士は一つ一つラベルを確認し、しばし迷った末にホットココアを手に取った。

　「……今夜は、これだな」

　レジに持っていくと、ニナが会計をしながらふと尋ねる。

　「お仕事終わりですか？」

　「ああ。今日は城門の見回りでな……風が骨まで染みる夜だった」

　「そんな日には、ココアはぴったりですよ。甘くて温かくて……心も“ホッと”します」

　騎士は小さく笑みを浮かべる。

　「温かい“ホット”と、安心する“ホッと”……両方くれる一杯か。いいな、その言い回し」

　会計を済ませ、店を出る前にふたを開ける。
　甘く濃厚な香りが一気に広がり、ひと口すすった瞬間、凍えた身体にじんわりと熱が満ちていった。

　「……うまい。まるで、この店そのものみたいだ」

　小さくそう呟き、外の寒さに負けぬ足取りで夜の街へ消えていった。

　「ありがとうございました。またお越し下さいませ」