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忍び寄る影編
第29話「見えない通行人」
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深夜。
カラン、と扉が開き、冷たい夜気とともに商人が姿を現した。顔はやつれ、外套の裾や靴には泥がこびりついている。いつもの調子はなく、眉間に深い皺を刻みながら、棚を慌ただしく回り、保存食や干し肉、水筒を次々とかごに投げ込んでいった。
やがてカウンターにかごを置いた商人は、息を吐き出すようにして小声を漏らした。
「……王都からの街道で、荷馬車が夜に止められそうになったんだ」
レンは「いらっしゃいませ」と声をかけたまま手を動かしていたが、その言葉に指先がわずかに止まりそうになる。視線だけで続きを促すと、商人はさらに唇を引き結び、声を潜めた。
「姿は見えなかった。だが……風の音じゃない。もっと重い“何か”が横を通った。……車輪が軋んで、馬が暴れそうになってな」
淡々とした言葉とは裏腹に、その瞳は怯えで揺れていた。
袋詰めをしていたニナが思わず身を乗り出す。
「それって……人じゃないんですか?」
商人は首を横に振る。
「人なら、姿があるはずだ。足音も声もなく、ただ冷たい影みたいに気配だけが横切った。……あんなもの、見たことがない」
その場に冷気が広がったような錯覚が走る。蛍光灯の光がやけに白く、冷蔵庫の低い唸り音が耳に残る。
会計を終えると、商人は袋を抱え「助かったよ」とだけ呟き、足早に扉の外へと消えた。
カラン――閉じる音がひどく重く響き、店内に再び沈黙が落ちる。
ニナが小さく息を飲み、レンの横顔を見上げた。
「……影、なんでしょうか」
レンは返事をせず、ただ無意識に入口の方を見つめ続けていた。
(“重い何か”……確かに、何かが迫ってきている)
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
口から出た声は平静だったが、その裏にある緊張は隠しようがなかった。
カラン、と扉が開き、冷たい夜気とともに商人が姿を現した。顔はやつれ、外套の裾や靴には泥がこびりついている。いつもの調子はなく、眉間に深い皺を刻みながら、棚を慌ただしく回り、保存食や干し肉、水筒を次々とかごに投げ込んでいった。
やがてカウンターにかごを置いた商人は、息を吐き出すようにして小声を漏らした。
「……王都からの街道で、荷馬車が夜に止められそうになったんだ」
レンは「いらっしゃいませ」と声をかけたまま手を動かしていたが、その言葉に指先がわずかに止まりそうになる。視線だけで続きを促すと、商人はさらに唇を引き結び、声を潜めた。
「姿は見えなかった。だが……風の音じゃない。もっと重い“何か”が横を通った。……車輪が軋んで、馬が暴れそうになってな」
淡々とした言葉とは裏腹に、その瞳は怯えで揺れていた。
袋詰めをしていたニナが思わず身を乗り出す。
「それって……人じゃないんですか?」
商人は首を横に振る。
「人なら、姿があるはずだ。足音も声もなく、ただ冷たい影みたいに気配だけが横切った。……あんなもの、見たことがない」
その場に冷気が広がったような錯覚が走る。蛍光灯の光がやけに白く、冷蔵庫の低い唸り音が耳に残る。
会計を終えると、商人は袋を抱え「助かったよ」とだけ呟き、足早に扉の外へと消えた。
カラン――閉じる音がひどく重く響き、店内に再び沈黙が落ちる。
ニナが小さく息を飲み、レンの横顔を見上げた。
「……影、なんでしょうか」
レンは返事をせず、ただ無意識に入口の方を見つめ続けていた。
(“重い何か”……確かに、何かが迫ってきている)
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
口から出た声は平静だったが、その裏にある緊張は隠しようがなかった。
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