32 / 44
第32話迎える者、迎えぬ者
しおりを挟む
ポチを連れて、草野家の門をくぐったのは、午後の陽が傾きはじめた頃だった。
「ただいま戻ったぞーい! 迷探偵、ポチ殿とともに凱旋す!!」
「そのテンションで叫ばれると、なんか誘拐犯が勝手に戻ってきた感じになるからやめてください!」
ミナのツッコミが入ったところで、
玄関から顔を出したのは依頼人・草野絵美だった。
「ポチ……! ポチっ!」
絵美は声を上げて駆け寄り、ポチを抱きしめた。
「よかった、無事で……ほんとによかった……!」
ポチは尻尾をふり、鼻を鳴らして絵美に顔をすり寄せた。
「感動の再会、じゃな」
「こういうとこだけ名言っぽく言うのやめましょう。普通にいい場面ですから!」
だが、その空気を打ち消すように、
奥の部屋からひとりの男性が現れた。
眼鏡をかけたスーツ姿の男。
絵美の夫、和哉だった。
「……戻ってきたのか。犬」
冷たい声だった。
「和哉さん……」
絵美が不安げに夫を見た。
ポチは彼の顔を見ると、ぴたりと動きを止めた。
「“ただいま”を言う相手が、そこじゃなかったということかのう」
マヨイがぽつりと呟いた。
「それ、詩的だけどちょっと怖いですよ!?」
和哉はしばらく無言だったが、
やがて深いため息をついて、言った。
「……犬が帰ってきたのはいいさ。
でも、家の中でまた問題を起こしたら、今度こそ処分する。わかったな」
「処分って……そんな……!」
絵美が青ざめる。
ポチは、まるでその言葉の意味を理解したかのように、
耳をしょんぼりと垂らして絵美の足元に身を寄せた。
ミナがそっとマヨイの袖を引いた。
「……なんか、変ですね」
「うむ、変じゃな。“この家に戻っても、帰る場所とは限らぬ”」
「だからそれ、名言っぽく言わないでください! 正論だけども!」
ふたりの目に、ポチの瞳の奥に浮かぶ“何か”が映っていた。
ただの帰巣本能ではない。
この家に戻る“意味”ポチが追っていたもの。
その真実に、迷探偵たちはもう少しでたどり着こうとしていた。
「ただいま戻ったぞーい! 迷探偵、ポチ殿とともに凱旋す!!」
「そのテンションで叫ばれると、なんか誘拐犯が勝手に戻ってきた感じになるからやめてください!」
ミナのツッコミが入ったところで、
玄関から顔を出したのは依頼人・草野絵美だった。
「ポチ……! ポチっ!」
絵美は声を上げて駆け寄り、ポチを抱きしめた。
「よかった、無事で……ほんとによかった……!」
ポチは尻尾をふり、鼻を鳴らして絵美に顔をすり寄せた。
「感動の再会、じゃな」
「こういうとこだけ名言っぽく言うのやめましょう。普通にいい場面ですから!」
だが、その空気を打ち消すように、
奥の部屋からひとりの男性が現れた。
眼鏡をかけたスーツ姿の男。
絵美の夫、和哉だった。
「……戻ってきたのか。犬」
冷たい声だった。
「和哉さん……」
絵美が不安げに夫を見た。
ポチは彼の顔を見ると、ぴたりと動きを止めた。
「“ただいま”を言う相手が、そこじゃなかったということかのう」
マヨイがぽつりと呟いた。
「それ、詩的だけどちょっと怖いですよ!?」
和哉はしばらく無言だったが、
やがて深いため息をついて、言った。
「……犬が帰ってきたのはいいさ。
でも、家の中でまた問題を起こしたら、今度こそ処分する。わかったな」
「処分って……そんな……!」
絵美が青ざめる。
ポチは、まるでその言葉の意味を理解したかのように、
耳をしょんぼりと垂らして絵美の足元に身を寄せた。
ミナがそっとマヨイの袖を引いた。
「……なんか、変ですね」
「うむ、変じゃな。“この家に戻っても、帰る場所とは限らぬ”」
「だからそれ、名言っぽく言わないでください! 正論だけども!」
ふたりの目に、ポチの瞳の奥に浮かぶ“何か”が映っていた。
ただの帰巣本能ではない。
この家に戻る“意味”ポチが追っていたもの。
その真実に、迷探偵たちはもう少しでたどり着こうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる