愚者の恋

橋本かおす

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失恋

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 春のlineのトーク履歴を見てから一週間ほどが経った。私は彼女にスマホを見たことを言わず彼女とは平静を装って 過ごしていた。内心、絶望に打ちひしがれていたのだが、スマホを見たという事実を彼女に言うことはできなかった。


 彼女と会っているときもlineのトーク履歴の内容が頭から離れなかった。いつも好きだった彼女の笑顔が今では恨めしく思う。


 外面だけ良くして内心は私のことを馬鹿にしている…



 そんな思いがいつも私の中を渦巻いていた。


 精神的に不安定で耐えられなくなってきた私は、春にスマホを見たことを打ち明けた。そんなことをするなんて最低だと言われると思ったが、意外にも彼女の反応は違っていた。


 『ごめんね。あれは本気で言ってたんじゃないのよ。ちょっとノリというか盛りすぎて話しちゃっただけなの。許して』


 全てが嘘っぱちに聞こえた。あれはおそらく本音だ。彼女はまだいい人であろうとしてるんだ。でも私は彼女と別れる気にはなれなかった。私には彼女しかいなかった。


 結局、恋人としての関係は続いていた。昔と同じような恋人関係が戻ってきたらいいなと思ったが、そんなことになるはずもなかった。表面上は仲のいい恋人、でも明らかに亀裂が入っていた。


 私は春のことを全く信用できなくなっていた。当然、大学の授業など上の空、家に帰ってからもあの言葉が頭から離れなかった。


『こんな人なら付き合わなければよかった(笑)』


 高校の時から唯一信じられた女性である春。その彼女から今までのすべてを否定されたような発言。私の地獄の底まで落ちたような感覚はどのくらい続いただろうか。


 大学二回生の終わりごろだろうか。私と春の関係にピリオドが打たれた。春からのlineの内容はこんな感じだった。


『私、大学院に進学することにしようかなと思う。三回生から本格的に勉強しようと思うし時間も取れなくてお互いにストレスがたまるから別れたい』


 嘘だ。大学院の勉強なんて嘘に決まってる。私と別れたいだけなんだ。そんなことわかってたけど、私は別れることを了承した。多分このまま付き合っていてもうまくいかないと思った。


 彼女を失った私には何も残っていなかった。それからは何もやる気が起きず、ベッドに座り壁を眺め続ける日々が続いた。


 部屋には彼女の私物が残っていた。家に泊まっていったときに置いていた服だ。私はその服をそっとゴミ箱に入れると眠りについた。
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