妻の部屋の皿

K.シラギ

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妻の部屋の皿

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 足元から鋭い音がした。私は冷える何かを感じつつ下を見る。
「やってしまった…。」
 そこには花柄の梱包紙に包まれた四角い箱がおちている。
 もちろん落とした張本人である私はその中身を知っているし、用意したのも私だ。私が落としたものは皿だ。ただの皿じゃあない、彼女へのプレゼントである世界に一つだけの皿だ。だからこそ落とした時の鋭い音が耳の中で反響する。
 心が揺れるのを感じつつ手に取ってみる…とその時、後ろから彼女が出てきた。私は慌ててそれを背に隠し彼女に目を向けた。
「何してるの?」
って聞かれてもどう答えればいいか…。いや、せっかくのプレゼント用の皿、しかも渡すことは言っていないものを割ったかもしれないなんてカッコ悪くて言えやしない。まぁ素直に言えば呆れ顔をしつつ笑ってくれるだろうことはわかるが、しかし大切なものなのだからビシッと決めたいのが男心ってもんではないだろうか。
 私の揺れる心を感じたのだろうか、彼女は怪訝な顔をしつつも部屋へ戻っていった。

「さて、どうするか。」
目の前には大中小綺麗に3つにわかれた皿がある。彼女と集まる時間まで数時間だが、流石に割れた皿を渡すわけにはいかないだろう。せっかく用意したプレゼントだがしかたない、何か代わりになるもんでも買ってくるか…。

 そして時間は流れ、夕食を食べ終えた私たちは食後の会話を楽しんでいた。すると彼女から
「はい、これ。今日は私たちの記念日でしょう?」
なんと手作りのマフラーをプレゼントしてくれた。いわく今日は記念日だから、気合を入れて編んだという。確かに、刺繍が施されていて落ち着きつつも華やかである。そんな彼女のプレゼントはとても嬉しい、嬉しいのだが、それと同時に若干の後ろめたさで心が揺れる。私は目線を外しながら、
「実は私も用意したんだ」
と言って先ほど買ったちょっといいとこのチョコレートセットを渡す。新しく買うとなるとお菓子くらいしか思いつかなかったのだ。それでも近くで買えるところの中では奮発したほうだ。彼女はありがとうと言いながら受け取ろうとするが、その際疑問に思ったのだろう
「その指、どうしたの?」
と聞いてきた。その言葉に私は目が泳ぎ挙動不審になる。言葉につまり波立つ心に気づいたのか、じっと見つめる彼女。そんな彼女に私は折れ、実は…と話し始める。



 それから数年後、赤子が賑やかなある一家の妻の部屋には、不恰好な皿が飾ってあるという。
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