モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

藤宮りつか

文字の大きさ
11 / 50
モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

Chapter 11

しおりを挟む
 


 初めて繋いだ天馬の手は大きくて、温かかった。
 その感触はお風呂から出た後もそう簡単には消えなくて、再び俺を幸せな気持ちにさせてくれもするけれど……。
「さっきも言ったけど、亜美は幼稚園と小学校の頃の幼馴染みなんだ。性格は昔からあんな感じ。一人娘だから親に甘やかされて育ったんだろうな。やたらと自信過剰で我儘なんだ。なんでも自分の思い通りにならないと気が済まないタイプって感じだな」
 やっぱり水嶋さんのことが少し気になってしまうから、家に帰った後、改めてどういう人で、天馬とはどういう仲だったのかを聞いてみることにした。
 向こうは天馬から俺の話を聞いて、多少は俺のことを知っている風なのに、俺が水嶋さんのことを何も知らないのもなんか嫌だったし。
 二人ともお風呂を出た後、天馬が和菓子屋さんのおばちゃんから貰ったというちまきと柏餅を熱いお茶と一緒に食べながら、寝る前の一時をリビングで天馬とまったり過ごすことになった。
 天馬も俺が水嶋さんのことを聞いてくることは予想していたのか、俺からの
『水嶋さんってどんな人?』
 という質問に特に嫌な顔をするでもなく、面倒臭がる様子もなく普通に答えてくれた。
「天馬のこと、初恋の相手だって言ってたけど……」
「そうらしいな。でも、子供の頃の話だし、俺は亜美のことはなんとも思っていなかったからな。家がすぐ近くだったからそれなりに仲良くはしていたと思うけど、亜美に特別な感情は一切ないよ」
 天馬の口振りを聞けば、天馬が水嶋さんのことを本当になんとも思っていないことがわかって安心もするけれど、だからって全く不安や心配がないわけでもないんだよね。
 だって、あの水嶋さんの天馬に対する態度。あれはただの幼馴染みって感じではなかったし、昔の初恋の相手に対する態度ともちょっと違うと思う。
(多分、水嶋さんは今も天馬のことが好きなんじゃないかな……)
 もちろん、天馬と会わなかった八年間の間に、天馬以外の誰かを好きになったことはあるだろうし、誰かとお付き合いしたこともあると思う。性格はあんなだけど水嶋さんって可愛いし。可愛い子の我儘ってある程度は許されるものだから、水嶋さんが異性からモテなかったとは考えにくい。
 だけど、現在フリーの身で、八年振りに再会した天馬を一目見て、子供の頃よりずっと格好良くなったであろう天馬に水嶋さんの初恋の熱も再熱したんじゃないかな。
 水嶋さんが現在フリーの身かどうかは知らないけれど。
「でも水嶋さん、将来天馬が水嶋さんをお嫁さんにするって……」
「言ってないよ。亜美がしつこく“してくれ”って騒いでいただけで、俺は一度も承諾してない」
「それっていつ頃の話?」
「幼稚園から小学校低学年くらいまでかな。さすがにその後は騒がなくなったけど」
「水嶋さんって引っ越しするまでの間、ずっと天馬のことが好きだったの?」
「さあな。俺もいつも亜美と一緒だったわけじゃないし、亜美とは別々のクラスになることもあったから、亜美がいつ、誰を好きだったのかは詳しく知らないな。亜美はあんなだから、俺以外の男子ともわりと仲が良かったし」
「そうなんだ……」
 まあ、あの容姿なら天馬同様、子供の頃からモテる部類に属していたんだろうな。天馬は水嶋さんのことをなんとも思っていないって言うけど、一般的な男子の目からみたら水嶋さんって可愛いと思われる女の子だし。
「水嶋さんと天馬が仲良くなったのって、天馬が水嶋さんにとって初恋の相手だったから?」
「どうだろうな。それもあるかもしれないけど、もともとうちの母親と亜美の母親が仲良くて、亜美とは家族ぐるみの付き合いもしていたからな。親同士が“将来結婚すればいい”みたいなことも言っていたから、それを聞いた亜美がその気になっただけかもしれない」
「家族ぐるみの付き合い……」
 それってつまり、天馬と水嶋さんは親公認の仲だってことだよね。
 水嶋さんからしてみれば、自分が好きだって言っている相手のことを親から「結婚すればいい」って言われれば、そりゃその気にもなっちゃうよね。天馬が水嶋さんに「嫁にしてやる」って言ったと勘違いもしちゃうかも。その頃ってまだ子供だったし。記憶が自分の都合のいいように改竄かいざんされたところはあるかもしれないもんね。
「ち……ちなみに天馬、水嶋さんとは一体どこまでの関係だったの?」
「どこまでの関係? 関係も何も、ただの幼馴染みってだけで、それ以外の関係なんてないだろ。子供だったんだし」
「そ……そうだよね。あはは……」
 いやいや。でもほら。家族ぐるみの付き合いをしている男女の幼馴染みってさ、本人達の意思とは関係なく、色々一緒にやらされたりするじゃん。お母さん達がお喋りしている間に一緒にお昼寝とか、遊びに行った時は手を繋がされたり、何かの拍子に一緒にお風呂に入れられるとか……。
 初恋、幼馴染み、家族ぐるみの付き合い。って聞けば、誰だってそういう発想になるでしょ。それくらい、その三つのキーワードは強力なパワーワードみたいなものなんだから。
 天馬が言うには、水嶋さんは水嶋家の可愛い一人娘のようだから、いくら子供同士とは言え、大事な一人娘を男の子と一緒にお風呂になんか入れさせないのでは? という期待もしなくはないけれど、水嶋さんが子供の頃からああいう性格なのであれば、自分の親に
『私、天馬が好き』
 くらいは言っていただろう。そして、それを聞いた水嶋さんのご両親は可愛い一人娘を喜ばせるため、むしろ積極的に水嶋さんと天馬を絡ませようとしたとも考えられる。
(まさか、天馬のファーストキスって水嶋さんだったりするんじゃ……)
 ありえない話ではない。というよりも、その可能性は大いにある。
 今日一日、それもほんの十分そこいらの間で俺が知った水嶋亜美という人物は、如何にもそういうことをしてしまいそうな人物だった。
 大体、幼稚園の頃から「〇〇君が好き」とか「お嫁さんして」とか言う子は総じてマセているものだ。そういう子はまだ年端もいかない幼稚園や小学校低学年くらいの頃にファーストキスを体験していたりするものだ。
(まだ何も知らない子供天馬を捕まえてなんて羨ましいっ! 俺だってまだ何もしてないのにっ!)
 天馬と水嶋さんがキスをしたことあるかもって考えただけでも腹が立つし、面白くない。もちろん、天馬に水嶋さんとキスしたいなんて気持ちは全然なかったのだとは思うけど、あの水嶋さんに天馬の唇が奪われたのだとしたら、俺は嫉妬の炎で身を焦がしそうだよ。
『天馬は水嶋さんとキスしたことあるの?』
 思いきって単刀直入にそう聞いてみようかとも思ったけれど、天馬の返事が怖くてそれも聞けない。
 だから代わりに
「でもほら、家族ぐるみの付き合いをしていたんなら、みんなで一緒に遊びに行ったり、旅行に行ったこととかあるんじゃない? その時、水嶋さんと一緒にお風呂に入ったこととかは……」
 そっちを聞いてみることにした。
 この答えはこの答えであまり聞きたくもないのだけれど、キスした、してない、を聞くよりはまだダメージが少ない。それに、この返答次第で、天馬と水嶋さんがキスをしたのか、していないのか、もなんとなくわかってしまうような気がする。
 一緒にお風呂に入ったことがある仲なのであれば、多分キスも経験しているだろうな。
「俺は全然覚えてないけど、そういうこともあったみたいだな。前に亜美と一緒に風呂に入ってる写真を見たことがある」
「ああそう……」
 入ってた。しかも、ご丁寧に写真まで残ってるんだ。その写真、俺は絶対に見たくない。たとえそれが貴重な天馬の入浴ショットであろうとも。
 ああ……でもそうか。一緒にお風呂に入ったことはあるんだ。ならキスもしてる……っていうか、されちゃってるよね。
(キスした経験があるなら、もったいぶらずに俺にもぶちゅってしちゃってよねっ!)
 で、そういう思考に行き着く。ま、当然と言えば当然だよね。だって俺、まだ天馬とキスしてないし。
「なんだ? 智加。今日はやけにあれこれ聞いてくるな。そんなに亜美のことが気になるのか?」
「おぐ……」
 軽くショックを受けた顔をする俺を不思議そうに見詰めてきながら、天馬は笹の葉を剥いたばかりのちまきで俺のほっぺたを突いてきた。
 食べ物……食べ物で攻撃を……。
「安心しろ。俺は本当に亜美のことはなんとも思っていないから。そもそも、あんな女と付き合うのは御免だ。どう考えても面倒臭いでしかないだろ。普通に会話をしているだけでも若干面倒臭いのに」
「でも、俺の目から見たら仲良さそうに見えたよ? お互いに気心知れた仲って感じで」
「智加にはあれが仲良さそうに見えたのか。俺、わりと本気で面倒臭がっていたんだけどな」
「あはは……」
 俺だって天馬が面倒臭そうにしているとは思っていたけどさ。でも、面倒臭そうにしていつつも、天馬が水嶋さんのことを嫌っている感じには見えなかったから、これが二人にとっての当たり前なのかなって……。
 俺にはあんな風に思いっきり言いたいことを言い合えるような相手がいないから、相手に遠慮することなく、なんでも言い合える仲ってちょっと憧れる。言葉を選ばないってことは、それだけ相手のことを信頼している証拠のようにも思えるし。
(って……なんか俺、最近うじうじ悩んでばっかりだよね……)
 天馬との関係が思うように進展しなくてもやもやしちゃうのはわかるけど、ちょっと悩みすぎって感じ。テンションの浮き沈みも激しいし。あんまりうじうじ悩んでばかりいると、そのうち天馬に鬱陶しいと思われちゃうよね。
「智加ってさ……」
「え……」
 俺のほっぺたを突いてきたちまきをもぐもぐ食べながら、天馬がジッと俺を見詰めてくるからギクッとしてしまう。
 ひょっとして俺、早速天馬に鬱陶しいと思われた?
「もしかして、ヤキモチ焼きなのか?」
「へ?」
 ヤ……ヤキモチ焼き?
(何を今更……)
 まさか今更そこを聞かれるとは思っていなかった。そんなもの、口で説明するまでもなくそうに決まってるじゃん。
 だって天馬だよ? 誰もが振り返るイケメンで、女の子からもモテモテの天馬だよ? そんな天馬相手に俺がヤキモチを焼かないとでも?
 いやいや、ないでしょ。仮に天馬の恋人が俺じゃない他の誰かだったとしても、天馬が女の子と一緒にいたら絶対にヤキモチ焼いちゃうよ。天馬ったら本当に自分がモテる自覚がないんだから。
「そっ……そんなの今更だよっ!」
「ってことは、ヤキモチ焼きなのか」
「うぅ……」
 くぅ……天馬の前でそれを認めるのも物凄く恥ずかしい話ではあるけれど、天馬ってこういうことは絶対に言わなきゃ気付かないだろうし、俺がヤキモチ焼きだって知ったら、天馬も少しは女の子との接し方を考えてくれるかもしれない。
 ああっ! でもっ! 天馬的にヤキモチ焼きな恋人ってどうなの⁈ 面倒臭いってなる⁈ 俺、自分がヤキモチ焼きだって認めない方が良かった⁈
「て……天馬は自分の恋人がヤキモチ焼きってどう? 面倒臭い?」
 不安になったから聞いてみた。
「いいや。大丈夫みたいだ。智加がヤキモチ焼きだって聞いても“可愛いな”としか思わなかった」
「そ……そう?」
 どうやら大丈夫らしい。面倒臭いと思うどころか可愛いと思ってもらえるなら、少しくらいはヤキモチを焼いても問題はなさそうだよね。
 でも、あんまり度が過ぎると天馬も“面倒臭い”ってなっちゃうだろうから、ほどほどにしておかないと。ちょっとでも目を離すとすぐ女の子に捕まっちゃう天馬に、俺がどこまで我慢できるかは謎だけど。
「あ。ひょっとして、智加が後藤と白石のことが苦手なのも、俺に女の子と一緒にいて欲しくないからなのか?」
「う……」
 図星だけど今ここでそれを言う? いずれバレていたことだとは思うけど、なんかちょっと気まずい。
「なんだ。そうだったのか。智加は可愛いな」
「可愛いって……俺にとっては笑い事じゃないんだからね」
 照れ隠しのため、あえて拗ねたような膨れっ面になる俺を見て、天馬は微笑ましそうに笑っているけれど、俺にとっては本当に笑い事ではなかった。
 だって、これからは後藤さんや白石さんだけじゃなく、水嶋さんまで大学で俺達に絡んで来ることになるんでしょ? それって俺的には凄く憂鬱。
 っていうか、お互い天馬に特別な感情を抱いている者同士の白石さんと水嶋さんが顔を合わせても大丈夫なものなんだろうか。
 その場合、白石さんの俺に対する敵対心みたいなものは薄れてくれるかもしれないけれど、俺の目の前で二人に天馬の奪いを始められたりなんかしたら、それはそれで胃が痛くなりそうな話だよね。
「安心しろ。俺が可愛いと思っているのは智加だけだ。だから、智加がヤキモチを焼く必要はないよ」
「天馬……」
 俺が拗ねた顔をしたからだろうか。天馬は俺を甘やかすことにしたらしい。
 この急に訪れる飴と鞭の飴タイムに、俺は物凄くキュンとしちゃうんだよね。
「でも……だって……天馬ってモテるんだもん。俺としてはヤキモチだって焼いちゃうよ……」
「うーん……自分ではそんなにモテている自覚はないんだけどな」
 如何にも恋人らしいヤキモチを焼く俺に対しても、天馬の無自覚っぷりは健在だった。
 それまではどうだか知らないけれど、高校時代にあれだけ数多くの女の子から告白されてきておいて何を言う。あれで「モテていない」と言ってしまったら、天馬にとって何が「モテる」になるんだろう。
 俺なんて今までの人生の中で女の子から告白されたことなんて一度もないよ。モテないっていうのは俺みたいな人間のことを言うんだ。
「そんなことないよ。天馬はモテるの。それに、俺は天馬とは高校になってからの付き合いしかないもん。それ以前の天馬を知ってる相手にはヤキモチ焼いちゃうよ。この人は俺の知らない天馬を知っているんだなって思うと悔しいし」
「なんだそれ。益々可愛いな」
「~……」
 何やら天馬は全部「可愛い」で済ませてしまうけど、せめて自分がモテるという自覚くらいは持って欲しい。天馬に「可愛い」って言われるのは嬉しいけど。
「ん」
「え? 何?」
 全く。天馬は本当に自分がどれほど罪な男かが全然わかっていないんだから……と、俺が不満そうに唇を尖らせていると、天馬が俺の横顔にスマホを突き出してきたから、俺の視線は自然とスマホの画面へと移ってしまう。
 そして、天馬が俺に向かってかざしているスマホの画面を見た瞬間の俺は――。
「はぅわぁっ⁈」
 口で説明できないほどの変な奇声を上げ、物凄い勢いで天馬の手からスマホを奪い取り、スマホの画面を食い入るようにガン見した。
 こ……これはっ……!
「俺と智加が出逢う前の時間は今更一緒に過ごしようがないけど、昔の写真ならいくらでも見せてやるよ」
 子供の頃の天馬の写真だ。俺が頭の中で勝手に妄想し、よだれまで垂らしそうになっていた本物の子供天馬の写真だ。
(かっ……かっ……)
 可愛いぃ~っ! 俺が想像していた可愛さの遥か上を行く可愛さだよ。こんな可愛い子供が世の中に存在してもいいの? 俺、目の前にこんな可愛い子がいたら誘拐したい衝動に駆られちゃうかもしれない。
「なんか……そこまでガン見されるとちょっと恥ずかしいな。でも、あんまり変わってないだろ? 今よりかなりガキ臭い顔ではあるけれど」
「ガキ臭い⁈ 何言ってるのっ! これは可愛いって言うんだよっ!」
「そ……そうか?」
「そうっ!」
 天馬は自分の照れ隠しで言ったつもりのセリフに、俺が鼻息荒く反論してきたことにちょっとびっくりしたみたいだけれど、こんな愛らしいお子様に“ガキ臭い”なんて言葉は俺が許しません。それがたとえこの写真に写っている張本人、ここから成長した後の天馬本人であったとしても。
(あぁ~……ほんと可愛いぃ~。抱き締めたい~)
 写真は全部で三枚あったけど、そのどれも全部あますところなく可愛かった。
 赤ちゃん時代の天馬の写真はお母さんに抱っこされている時の写真なのか――天馬メインで撮られているため、天馬を抱っこしている人物の顔は写っていない――、自分を抱っこしてくれている人の腕の中で安心しきった顔をして、指を咥えている写真だった。はい、可愛い。
 で、幼稚園時代の天馬の写真はお遊戯会か何かの写真かな? 天馬は頭の上に紙で作った王冠を被っていて、肩にはマントを付けさせられている写真だった。多分、王子様だな。もしくは王様。わかります。写真を撮られた天馬の顔はちょっと不満そうである。
 この頃の天馬はまだ可愛いでしかない感じではあるものの、既に王子様(もしくは王様)の衣装を完璧に着こなしている感もあり、さすがとしか言いようがない。これも可愛い。
 最後に小学生時代の写真だけど、これは小学校中学年くらいの写真かな。この頃になると、だいぶ“可愛い”から“格好いい”になりつつある。でも、まだ可愛い。
 家族と動物園に行った時の写真と見た。ふれあい広場でうさぎを抱っこしている写真だった。うさぎと張り合う可愛さを誇る天馬に俺歓喜。
 はあ……もうほんと、見れば見るほど全部可愛い。今より全体的に丸みがあって、手足もちょっとだけぷにぷにしてて……。
 でも、俺より全然丸くないし、顔も今の天馬の面影がしっかり見て取れる。それなのにすっごく子供っぽくて可愛い顔をしているものだから、俺が子供時代の天馬の写真にメロメロになっちゃうのは仕方ないって話だよ。
(子供の頃の天馬ってこんなに可愛かったんだ……)
 こんな写真を見せられちゃうと、この時代を天馬と一緒に過ごした水嶋さんには益々ジェラシーだけど、幸い写真の中にいるのは天馬一人だけだから、俺の嫉妬心がそこまで掻き立てられることもなかった。
「ねえ……天馬……」
「どうした?」
「この写真、俺のスマホにも送って」
「え……いや、まあ……別にいいけど……。どうするんだ?」
「待ち受けにする」
「ダメ。だったら送らない」
「あ~んっ!」
 言うと思った。俺が子供天馬の写真の使い道を言ったら、天馬は絶対に嫌がると思ったよ。でも、天馬の肖像権を考えて正直に告白したのにさ。天馬のケチっ!
「自分の子供の頃の写真を人のスマホ画面の待ち受けになんかされたら恥ずかしいだろ」
「うぅ……わかった。じゃあ待ち受けにはしないって約束する。だから送って。疲れた時とかに見て癒されたい」
「癒されるか? こんなもんで。まあ、待ち受けにしないって言うなら送ってやる」
「やった!」
 子供天馬の写真ゲット! 待ち受けにはできないけど、これから一日に何度も見て毎日癒されよう。
 俺は天馬にスマホを返すと、自分のスマホを取り出して天馬が送ってくれた子供天馬の写真が無事俺のスマホに送られてきたかどうかを確認した。
 間違いなく目当ての写真が三枚とも送られてきたことを確認すると、早速保存をし、満足しきった顔でスマホのスイッチを切ろうとした俺は――。
「ん」
「え?」
 俺に向かって手を差し出している天馬にきょとんとなった。
 えっと……その手はなんでしょうか?
「え? じゃないだろ。次は智加の写真見せろよ」
「はっ!」
 しまったーっ! 天馬じゃなくて俺の方が忘れてたっ! お互いに子供の頃の写真を見せ合おうって話っ!
 だって、天馬の写真があまりにも可愛かったんだもん。興奮し過ぎて俺のスマホの中にも自分の子供の頃の写真が送られてきていることなんて忘れちゃってたんだもん。
「いや……俺の写真はちょっと……とてもじゃないけど見せられるものでは……」
「は? どんな写真だよ。そう言われたら逆に気になる」
「あぅ……でも、ほんと……見ても何も面白いものとかないし……天馬みたいに可愛い写真でもないから……」
「いいから見せてみろ」
「あっ!」
 天馬の写真は見せてもらっておいてなんだけど、俺に送られてきた三枚の写真を天馬に見られたくない。
 だから、どうにかして天馬に俺の写真は諦めてもらおうと思ったのに、天馬は俺の手からひょいとスマホを奪ってしまい、ロックを掛けていない俺のスマホの画面を手慣れた手つきでタップ、スクロールした。
(くそー……こんなことならスマホの画面ロックの設定をしておけば良かった)
 我ながら自分のセキュリティーの甘さにうんざりする。
 でも、スマホを起動させるたびに毎回パスワードや暗証番号を入れるのが本当に面倒臭くて……。
 天馬は俺のスマホの中から俺の子供の頃の写真が収められている場所を探し当てると、早速俺の子供の頃の写真を画面いっぱいに表示させ……。
「っ⁈」
 まず驚いた……ようだった。
「……………………」
 そして、そのままじっくりと俺の写真を表示させていく天馬の顔は、驚きの顔から段々とにやけ顔になっていき……。
「くっ……くくくっ……」
 ついには笑い始めた。
「ちょっと! なんで笑うの⁈」
 いやいや。俺だってこの写真を見たら笑われるんだろうとは思っていたよ。でもさ……。
(本当に笑うことないじゃんっ!)
 実際に目の前で笑われるとめちゃくちゃ恥ずかしいし、普通に傷つく。
「いや、だって……くくっ……あははっ! めちゃくちゃ可愛いじゃないかっ!」
「もーっ!」
 それって褒めてるの⁈ 馬鹿にしてるの⁈ どっち⁈
「なんでこんな全部和菓子なんだ?」
「知らないよっ!」
「特にこれ。この頭に葉っぱ乗せられてる写真なんか完全にそこにある柏餅と一致じゃないか。クソ可愛い。しかも、この写真の智加、心なしか不安そうで悲し気な顔をしているのはなんでなんだ? 柏餅にされて“食べられる?”って不安になったのか? それとも、柏餅にされたのが悲しかったのか?」
「うーっ! わかんないっ! お兄ちゃんは兜なのに、なんで俺は柏餅なの? っていう不安と悲しみの現われなんじゃない⁈」
「あー……もうほんと可愛すぎる。こんなのがその辺うろうろしていたら絶対連れて帰って保護するな。ははは。マジで可愛い」
 天馬に「可愛い」を連発してもらえるのは嬉しいけど、あまりにも天馬が俺の写真を見て笑うものだから素直に喜べない。
 っていうか俺、こんなに笑う天馬を見るのも初めてなんだけど? 天馬も爆笑とかするんだ……って驚いているくらいだよ。
 全く。同じ恋人の子供の頃の写真を見た者同士の反応がどうしてここまで違うの。“可愛い”って感想は一緒なのに、片や大悶絶。片や大爆笑だもん。嫌になっちゃうよ。
「もうっ! 天馬ってば笑い過ぎっ! もういいでしょ? スマホ返してっ!」
 俺のスマホを自由自在に操り、三枚の写真を何度も見直す天馬に拗ねた俺は、手を伸ばして天馬からスマホを奪い返そうとしたが――。
「ちょっと待て待て」
「あっ!」
 俺が天馬から自分のスマホを取り戻す前に、天馬は俺のスマホから自分のスマホに俺の子供時代の写真を三枚とも送信してしまった。
「ちょっ……やだよっ! 消してっ!」
「なんで? 智加だって俺の写真を自分のスマホに入れただろ」
「それはっ……天馬の写真が物凄く可愛いから、寝る前とかに見て癒されようかと……」
「俺も智加の写真を見て癒されたい」
「なっ……! それって癒されるというより笑うためでしょっ!」
「そんなことはない。俺はこの智加の写真にめちゃくちゃ癒された。毎日だって見たい」
「くっ……」
 物は言いよう。天馬にそんな風に言われると俺も弱い。
 俺にとっては記憶から消し去ってしまいたいほどの黒歴史写真でも、天馬が俺の写真に癒しを感じてくれて、毎日だって見たいと思ってくれたことはやっぱり嬉しい。
 それに、天馬の子供の頃の写真をスマホに送ってもらった俺は、天馬に俺の写真を欲しいと言われてしまったら拒否権なんてないって感じだし。
「それに、この写真は保険にもなるだろ?」
「保険? なんの?」
「万が一、智加が俺の写真を待ち受け画面に設定しようものなら、俺も智加の写真を待ち受けにする」
「なっ……!」
 ま……まさか……天馬が俺の写真を欲しがる本当の理由ってそれなのでは? 俺、天馬の甘い言葉に騙されてる?
「ま、言ってしまえば人質ならぬ餅質もちじちだな」
「餅質って……」
 そんな言葉はない。なんでわざわざ“人質”から“餅質”に言い直したの? 写真の中の俺があまりにも餅が過ぎるから、とても人間扱いなんてできないってこと?
 今でさえあまり人間扱いされない俺は、天馬と出逢う前の子供時代ですら、人として見てもらえないのか。
「わかったら変な気を起こすなよ? お餅」
「おもっ……」
 ああ……また……。また俺の新しい呼び名が増えたじゃん。どっちも似たようなものではあるけれど。
 天馬は新しく増えた俺の呼び名に上機嫌だったけど、これ以上天馬に和菓子扱いされたくない俺は
「お餅って呼ばないでっ!」
 天馬に向かって悲痛な声で訴えるのであった。



 しかし、その後の天馬は事あるごとに俺のことを「お餅」と呼び、俺を「お餅」と呼ぶたびに、俺のほっぺたを突いてきたり、俺の頭を撫でてきたりと散々俺を甘やかしてきた。
 何故和菓子扱いされている時の方が、そこはかとなくイチャイチャ感が生まれてくるのだろうか……。
 そこはちょっとよくわからないのだけれど、天馬に甘やかされることが大好きな俺は、和菓子扱いされることで天馬とイチャイチャできることを内心喜んでしまうのであった。
 天馬と恋人同士になって初めて過ごすゴールデンウィークはいいことも悪いこともあったものの
すこぶる可愛い天馬の子供時代の写真を手に入れることができたのは何よりの収穫だった)
 と、心からそう思う俺であった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...