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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!
Chapter 22
しおりを挟む「智加は白石が俺に気があることを知っていたのか?」
天馬にとっては“面倒臭い”でしかなく、俺にとっても全く望ましくない予定が立ってしまった日の夜。
水嶋さんだけでなく、白石さんまでもが自分のことを好きだと知った天馬は、未だに納得ができないといった顔で俺に聞いてきた。
「えっと……うん。実は知ってた……」
これは別に天馬に隠し事をしていたわけじゃなくて、普通は知っていても言い触らしてはいけないことだと思うから、俺は後ろめたさを感じなかった。むしろ、白石さんのいないところで勝手にバラしちゃっていいのかな? ってことの方が後ろめたく感じてしまうほどだった。
ただ、本当に気が付いていなかった天馬に事実を伝えることには、少しだけ気まずさを感じてしまう。
本当にもう……どうして今の今まで気付かなかったんだろう。
高校時代はまだ気付かなくても仕方がないところはあった。傍から見ると白石さんの天馬に対する気持ちは明らかだったと思うけれど、白石さんの好き好き攻撃は水嶋さんと比べて随分と控えめだったから。水嶋さんからの好き好き攻撃にも気付かない天馬なら気付けなくて当然かな? って思えるし。
でも、大学生になって、水嶋さんと出逢った後の白石さんを見ていれば
『もしかして、白石って俺のことが好きなのか?』
くらいには思わざるを得ない状況に陥ると思うんだけどな。
だってあの二人、どっちが天馬に相応しいかを言い争っていて、明らかに天馬の奪い合いをしているんだもん。
そんな二人の会話をすぐ傍で聞いているのに、二人の気持ちに気付かない天馬を知ると、今日の後藤さんの反応だってわからなくはないよね。
ひょっとして、一臣や光稀に二人の言い争いに口を挟まないように忠告されて以来、二人の言い争いそのものを“聞いていない振り”とかじゃなくて、本当に全く聞いていなかったのかな。耳に入ってきたらどうしても気になっちゃうだろうし、口を挟みたくもなるだろうから。
だからって、あの二人の嫌味の応酬を完全にスルーするなんて不可能って気もするけれど。
「そうなのか……。だから智加は後藤だけじゃなくて白石も苦手って言ったんだな。ようやく理解した。でも俺、白石に好かれるようなことをした記憶なんてないんだけどな。なんで好きになられたんだろう……」
天馬は俺まで白石さんが天馬のことを好きであると知っていた事実に軽くショックを受けている様子だったけれど、黙っていた俺を責めるつもりは毛頭ない様子でもあった。
なんでって……それはまあ
『天馬が格好いいからだよ』
としか言いようがない気もするけれど、誰もが認めるイケメンなのに天馬本人がそのことを全く鼻にかけていないところとか、自分がイケメンだと気付いてもいない自然な感じとか、飾らない性格なんかも好ましかったんじゃないかな。
正直、俺も最初は天馬の容姿に思いっきり惹かれて好きになっちゃった口だけど、天馬の内面を知れば知るほど、素朴で飾らない素直な人柄がいいなって、益々惹かれていったりもしたし。
「ちなみに、白石っていつから俺に気があったんだ?」
「え? えっと……それは直接本人に聞いたことがないからちょっと……」
「じゃあ、智加はいつ頃から白石が俺に気があることに気が付いていたんだ?」
「そ……それなら、高校に入ってわりとすぐだったかな。一年生のゴールデンウィークが明ける頃にはなんとなく……。確信に変わったのはもう少し後だったけど」
「え。そんなに前からなのか?」
「うん」
「はぁ……全然気が付かなかった……」
実際のところ、俺も一体いつから白石さんの中で天馬が“好きな人”として認定されるようになったのかはよくわからない。でも、入学早々同じクラスになった天馬のことを、白石さんが最初から気に入っていたことだけはすぐにわかった。
俺が天馬からの質問に思ったままを答えると、俺の言葉を鵜呑みにしてしまった天馬は愕然とした顔になる。
うーん……天馬って本当に人からの好意に疎いし鈍いな。
高校入学早々、俺を含めて天馬に特別な感情を抱いた女の子は沢山いたと思うのに、その誰の気持ちにも気付かなかったんだから。
俺や一臣や光稀は天馬と一緒につるんでいたせいか、クラスの女の子達から結構天馬の話を聞かれていたりもしたんだけどな。
もちろん、中には一臣や光稀狙いの女の子もいたけれど、残念ながら俺狙いの女の子はただの一人もいなかった。
どうやら俺、女の子の目から見て、そういう対象としては見られないらしい。別にいいんだけど。
(あれ? でも天馬、俺が天馬のことが大好きだって気持ちには気付いてたっぽいけど……)
天馬の鈍さに“しょうがないんだから……”という気持ちになっていた俺は、ふと、前に聞いた天馬の言葉を思い出した。
俺のことは付き合う前からちゃんと好きになってくれていたらしい天馬だけど、俺にその話をしてくれた時、天馬は俺が天馬のことを大好きっぽいって自分の口で言っていた。
ってことはつまり、天馬も人からの好意に気が付く時もあるってことだよね?
天馬の話だと、俺の“大好き”がどういう意味での“大好き”なのかまではわかっていなかったみたいだけど、少なくとも俺からの好意ははっきりと自覚していたみたいだし。
天馬が自分に向けられる好意に気付く時と気付かない時の差ってなんだろう。
確かに、俺の天馬に対する大好きっぷりは見ていてわかりやすかったとは思うけど、それを言ったら「私と付き合いなさい!」感が全面的に押し出されている水嶋さんの気持ちにも気付いて良さそうだし、アピールの仕方やアプローチの掛け方が比較的俺とよく似ている白石さんからの好意にも気付きそうなものなのに。
「ねえ、天馬」
「んー?」
呆然としているからなのか、気が抜けているからなのかがわからない感じでソファーに深く腰を下ろした天馬の隣りに、俺は遠慮がちにちょこんと腰を下ろすと
「天馬は水嶋さんや白石さんの気持ちには気付かなかったのに、どうして俺が天馬のことが大好きだってことには気が付いたの?」
ほんの少しだけ天馬との距離を詰めながら、俺と水嶋さんや白石さんとの違いを知りたがった。
果たして、天馬からはどんな返事が返ってくるんだろう。
やっぱり
『智加はわかりやすいからな』
って答えだったりするのかな?
「ああ。それはだな……」
どうやら天馬には俺の疑問に応えるための回答がちゃんと用意されているらしい。
願わくば、俺がわかりやすい、以外の回答が聞きたいものである。
「俺が智加からどう思われているのかが気になっていたからだと思うぞ」
「へ?」
あれ? 俺がわかりやすいから……って答えじゃない?
「俺、基本的には人からどう思われているのかなんて全然気にしないし、自分の周りにいる人間全てから好かれようとも思っていないんだけどな。でも、そのぶん自分が気になる相手からはどう思われているのかが結構気になるみたいでな。それが好きな相手ともなると尚更だったらしい」
「……………………」
えっと……それはつまり、天馬は俺のことが好きで気になるから、俺にどう思われているんだろう……と気にした結果
『どうやら智加は俺のことが大好きっぽい』
という結論に至ったと……そういうこと?
「え? え? じゃあ、俺が天馬にどう思われているんだろうって死ぬほど気になっていた時に、天馬も俺からどう思われているのかが気になってたってこと?」
「まあ、そうなるな」
「そんな……」
何それ。それこそ俺、全然気が付かなかった衝撃の事実だよ。
天馬は人からの好意に気付かない天才ではあるけれど、自分の好意を人に気付かせない天才でもあるの?
俺にどう思われているのかが気になって、俺の気持ちに気が付いたってことは、天馬も相当俺のことを注意深く観察してたってことだよね。
(なんか……ちょっと恥ずかしい……)
一体俺のどういうところを見て、天馬に
『こいつ、俺のことが大好きだな』
と思われたんだろう。
それを考えると思い当たる節が多過ぎて本当に恥ずかしくなる。
「だからかもしれないけど、白石が俺に気があるなんてことには全然気が付かなかった。俺の中じゃ智加にどう思われているかの方が気になって、それ以外の人間からどう思われているのかなんて気にする余裕はなかったからな」
「そ……そんなに気になってたの? 俺にどう思われているんだろうって……」
「そりゃ気になるだろ。自分の好きな奴なんだから」
「う……うん。そうだね……」
自分は天馬にとってどういう存在で、どう思われているのかが気になって夜も眠れないことがあった俺としては、天馬の気持ちがよくわかるけど……。
ここでまた新たな疑問。
天馬はそれほど俺を好きだと思う気持ちを認識していたのに、俺に気持ちを伝えようって気持ちはなかったのかな?
「あ……あのっ……」
「うん?」
「あ……あぅー……」
ど……どうしよう。そこを天馬に聞いてみたいんだけど
『天馬は俺に告白するつもりはなかったの?』
なんて聞いたら、なんかちょっと天馬を責めているようにも思われちゃうよね。
「どうした? 何か聞きたいことがあるなら遠慮しなくていいぞ」
「えっと……うん……」
俺の性格をよく知る天馬は、俺が言いたいことを言い出せずにこうなってしまうことがよくあることをわかっているから、そういう時は必ず俺に言いたいことを言わせようとしてくる。
恋人同士なんだから遠慮するな。ってことなんだろうし、俺も天馬とはなんでも言い合える仲になりたいから、天馬に促された時は勇気を出して、なるべく言いたいことや聞きたいことを口にするようにしている。
「んとね、天馬って俺が思いもしなかったほど前から俺のことを好きになってくれていたみたいだけど、俺に気持ちを伝えようって思ったことはあったの?」
なるべく嫌な言い方にならないように、細心の注意を払って言葉を選んだ俺だったけれど――。
「今“んとね”って言ったか?」
「へ?」
「智加の“んとね”って可愛いな」
天馬はわりとどうでもいいところで嬉しそうな顔をした。
いやいや。天馬に可愛いって言ってもらえるのは嬉しいけれども。
「……………………」
「っと……。そうそう。俺が智加に告白するつもりがあったかどうかだったな」
「うん」
もう……真面目な話をしているかと思ったら急に話を脱線させちゃうんだから。
って気持ちが思わず顔にちょっと出ちゃったのかな? 別に怒ったわけじゃないし、責めたわけでもないから気にしないで欲しい。
天馬がうっかり気を取られてしまうほど、俺の「んとね」が良かったのかもしれないけれど、それはまた別の機会にしてもらわなくちゃ。
でも、天馬は「えっとね」より「んとね」の方がお好みだという情報は頭の片隅に留めておこう。今の「んとね」はたまたま出てしまった子供っぽい口調だから、また使えるかどうかはわからないけれど。
「もちろん、ずっと悩んでいたし、告白するつもりではあったよ。散々悩んだ挙げ句、高校を卒業するタイミングでって思ってたんだけどな。そしたら、智加の方から先に告白してきたから、ああ……先越されたな……って」
「そうだったんだ」
あー……その気持ちもすっっっごくよくわかる。俺も天馬に告白する直前まで“本当に今言っちゃってもいいのかな?”ってずっと不安だったもん。
天馬とは高校卒業を機に会えなくなる。とかだったら、むしろ卒業式を待たずに、合格発表の直後に天馬に告白していたかもしれないけれど。
「でも、俺と付き合うことになったすぐ後の天馬って、あんまり俺のことが好きって感じじゃなかったよね?」
高校生活の終わりと同時に、今度は恋人同士として付き合っていくことになった俺達ではあったけれど、俺を好きだったわりには天馬の愛情表現はあまりにも希薄だったように思う。俺と付き合えて嬉しいって感じも全然しなかったし。
だから俺、天馬はどういうつもりで俺と付き合ってくれたんだろう……って、ずっと不思議だったくらいなんだよね。
「それはまあ……智加に先を越されちゃったから“俺も好きだった”って言うのが格好悪くてさ。ついつい気のない素振りを取ってしまったんだ」
「なっ……!」
「あれでも俺、内心は結構浮かれてたんだぞ。男の智加と付き合うならもうちょっと男らしくなった方がいいのかと思って、密かに筋トレとかしてみたし」
「天馬が筋トレっ⁈」
な……なんだよ、それ。確かにめちゃくちゃ浮かれてる感じがするエピソードで俺はもうびっくりだよ。
天馬がちょいちょい明かしてくる子供っぽくて可愛い発想ってなんなの? 散々俺を悩ませた挙げ句、最終的に俺をキュン死させる心積もりでもあるの?
しかも、密かに筋トレって……。だから、一緒に暮らし始めてすぐに偶然見てしまった天馬の上半身裸の姿が、高校の時に見た身体つきより男らしくて、逞しくなっていたんだ。
面倒臭がりで運動もそんなに好きじゃない天馬が、俺と付き合うからって理由で肉体改造に乗り出すとかってさ……可愛過ぎん? って話だよ。
なんかもう、思っていた以上に天馬が俺をしっかり好きだったことに、俺は悔しさすら覚えてしまうほどだよ。
「それに、智加は俺にとって初めてできた恋人だったからな。どう接していいのかがよくわからないところもあって、素っ気ない態度でカムフラージュしていたところもある」
「カムフラージュ上手過ぎじゃない? 俺、天馬のそんな心の葛藤になんて全然気が付かなかったよ」
「そうか? でもほら、智加は男だからあんまりべたべたされるのは嫌なのかもしれない、とか、俺とどういうことがしたいんだろう、とか。そういうのがわからなかったからな。自分の本心を隠すついでにさり気なく探りを入れてみようかと」
「直接聞いてくれても良かったのに」
「付き合って早々あれこれ質問攻めにしたら、がっついてるみたいで格好悪いだろ。ただでさえ智加に先を越されて格好がつかないのに」
「そんなこと思ってたんだ」
探り……入れられていたのかな? あんまり探られていた感じはしなかったけど。
でも、初めての恋人への接し方もよくわからなかったんだから、どうやって探りを入れたらいいのかもよくわからなかったはずだよね。
ああ、ほんと……俺と付き合い始めたばっかりの頃の天馬がそんなに初々しくて可愛いエピソード満載だったなら、その当時に知りたかったよ。そしたら俺、天馬の初々しくて可愛い姿に毎日悶絶していたと思う。
「だけど、あんまり構える必要はなかったみたいだな。智加は俺とくっつくのが大好きみたいだし、俺とはエッチなこともしたかったみたいだから」
「うぅ……」
事実ではあるけれど言葉にされると恥ずかしい。なんか俺が天馬に甘えたがり屋のエッチ大好き人間みたいに聞こえちゃう。
まあ……間違ってはいないのかもしれないけれど。
「じゃ……じゃあ、天馬も俺とくっついたり、エッチなことしたいと思ってたの?」
俺の本音ばかりが暴かれるのは不公平だから天馬の本音も暴こうとしたら、天馬は別段恥ずかしがる様子もなく
「もちろんだろ。そもそも、俺は修学旅行の風呂で智加の裸を見て、自分が智加を好きだと自覚したんだぞ。智加を性的な目で見るのは当然だろ」
なんて返事を返してきた。
「そ……そうだったんだ……」
どうやら俺、高校の修学旅行以来、天馬からは性的な目で見られていることもあったらしい。修学旅行万歳。
「最近になってようやく俺と智加も恋人同士っぽい感じになってきたけど、少し前までは友達に毛が生えたくらいのものだったんだよな」
「本当だね。俺も天馬もあんまり積極的な方じゃないもんね」
今みたいに適度……よりもちょっと強めな時もあるけれど、いい感じにイチャイチャラブラブするようになった俺達は、付き合い始めた頃を思い出すと、ちょっとだけ懐かしい気持ちになったりもした。
言っても、まだほんの一、二ヶ月前の話って感じではあるんだけどね。
天馬と付き合い始めたのが三月の頭。三月も終わりに近づく頃には天馬との共同生活がスタートして、四月の後半には天馬と同じスーパーでバイトを始め……。
そのバイトを始めたことがきっかけで、天馬が水嶋さんと再会することになり、水嶋さんと天馬が再会したゴールデンウィーク以降、俺と天馬の仲も急速に発展していった。って感じだったよね。
今は五月も終わりの頃だから、本当に俺と天馬が恋人らしくなれたのって最近過ぎる話で、恋人らしいことをし始めてから一ヶ月も経っていないんだよね。
「まあな。やっぱり好きな相手には嫌われたくないからな。どうしても臆病になって、積極的になれないところはある」
「そうだね。俺もその気持ちは物凄くよくわかるよ」
天馬の言った言葉は本当にその通りで、俺は自分に酷いことをしてくる人間よりも、好きな人の方がよっぽど怖いんじゃないか……と思う時がある。
好きだから失いたくないって気持ちが強いし、絶対に嫌われたくないって思ってしまうから。
特に、俺みたいに天馬のことが大好きで仕方がない人間は、天馬がいないと生きて行けないとすら思ってしまうから、好きな人の存在が余計に怖くなってしまうことがある。
「はぁぁぁ~……」
「え? え? 何? どうしたの? 急に……」
お互いがお互いのことを好きだという気持ちを再確認し、こうして今、想いが通じ合って付き合えていることに対する喜びを噛み締めているのかと思いきや……。
突然天馬が大きな溜息を吐いて、俺をぎゅうっと抱き締めてきたから、俺はびっくりしてしまった。
「いやさ。そう考えると亜美や白石を振るのもなぁ……って、ちょっと思う。自分が智加に振られたくなくて臆病になっていた時期があるから、好きな人に振られたくない人間の気持ちってわかるし」
「あー……」
なるほど。そうだよね。やっぱりそうなっちゃうよね。なんかあの場では成り行きでそういう話になっちゃったけど。
「ねえ、天馬」
「んー?」
「天馬が乗り気じゃないなら、みんなには悪いけどあの話は断ろうよ」
「え?」
「そりゃ俺も最初に話を聞いた時は、いい案かも? って思っちゃったけどさ。どう考えても天馬に掛かる精神的負担が大きいし、そもそも人を振るって行為を計画として立てちゃっていいのかな? って気がするもん。もちろん、あの二人の言い争いは早くなんとかしなきゃって思ってるけど」
そう。そうなのだ。よくよく考えてみたら、あの話はやっぱりちょっとおかしいのである。
いくら水嶋さんと白石さんの言い争いに困っているからって、計画的に二人を天馬に振ってもらおうだなんて。
「意外だな。確かに、智加はあの場で一臣や光稀ほどあからさまに後藤に賛同している感じではなかったけど、気持ち的には乗り気だと思っていたのに」
「そんなことないよ。最初に後藤さんの計画を聞いた時から、天馬に負担が掛かるならやめて欲しいって思ったし。水嶋さんや白石さんは俺にとっての恋敵にはなるけれど、天馬に振られればいいとまでは思ってないもん」
「そっか。優しいんだな、智加は。益々好きになりそうだ」
「そんな……。二人が天馬に振られればいいとは思っていないけど、天馬に近付いて欲しくないとは思っているから、俺ってそんなに優しくなんかないと思うよ?」
「いいや。智加は優しいよ。俺のこともちゃんと心配してくれただろ?」
「それは当たり前じゃん」
天馬は俺を抱き締めている腕の力を少しだけ強くして、より一層俺をぎゅうぅって抱き締めてくると
「でも、今ので決心ついたかも」
と言った。
決心とは? 一体何の決心がついたんだろう。まさか……。
「あまり乗り気じゃないことは事実だけど、俺も今の状態がずっと続くのはどうかと思うし、智加のことが好きで、智加と付き合っている以上、智加以外の人間からの好意には応えられないからな。あの二人が俺に好きな奴がいることくらいは知らせておいた方がいいと思うんだよ。その方が智加も安心できるだろ?」
「う……うん。それはそうだけど、でも……」
やっぱりその決心か。でも、それで天馬が気持ち的に沈んじゃわないかが心配だよ。
天馬は俺のことを“優しい”って言ったけど、俺なんかより天馬の方がずっと優しいもん。いくら好きじゃない相手でも、嫌いというわけでもない相手……それも、女の子を一日のうちに二人も振るなんて絶対に精神的苦痛を伴うよ。
「心配するな。あくまでもそういう話をする流れになったら、俺も自分の気持ちを伝えようと思うだけで、積極的に二人を振るつもりはないよ。どのみち、俺があの二人から告白されるようなことがあれば、その時は俺もあの二人を振ることにはなるんだから」
「ならいいけど……。でも、あんまり天馬に負担が掛かることはしなくていいからね」
「うん。ありがとう、智加」
天馬が自分でそうするって決めたなら俺も反対はしないけど、本当に大丈夫かな。俺としてはやっぱりちょっと不安が残る。
でもまあ、天馬はこれまでにも数多くの女の子から告白され、振ってきた過去を持つ男だからな。女の子を振ってしまう罪悪感には多少の慣れがあるのかもしれない。
だけど俺は知っている。よく見ていないと気付かない程度ではあるけれど、女の子を振った後の天馬が、いつも少しだけ気持ちが沈んでしまっていることを。
だから、今回もきっと気持ちが沈んじゃうんだろうなって思うと、俺も心配せずにはいられないって感じなんだよね。
「そうだ。今回の計画で俺が二人に自分の気持ちをそれとなく伝えることができたら、智加と心置きなく恋人同士の時間を堪能できるようになるわけだから、その記念にちゃんとしたセックスでもするか」
「はわぁっ⁈」
な、な、な、な……なんかいきなり唐突過ぎるエッチのお誘い⁈ 天馬がそんなことを言い出すなんて思っていなかったから、俺、物凄く度肝を抜かれちゃったよ。
「だってほら。知らなかったならまだしも、白石まで俺に気があるって聞いたら気になるだろ。知らん顔して智加とイチャイチャしてるのもなんか後ろめたいし」
「う……」
そこは認める。天馬より先に二人の気持ちを知っていた俺は、何食わぬ顔で天馬と付き合っていることに罪悪感や後ろめたさを常に感じていた。でも、だからって……。
「だけど、二人に俺の気持ちを伝えた後なら、俺が二人に罪悪感や後ろめたさを感じる必要はないだろ。俺の中ではひとまず決着がついた話になるんだから」
「な……なるほど。確かにそうなるね」
納得した。
俺や天馬が水嶋さんや白石さんに罪悪感や後ろめたさを感じてしまうのは、二人の気持ちを知っているのに、素知らぬ顔でしれっと俺達が付き合っていることを申し訳なく思う気持ちがあるからだ。
だけど、直接的ではなくて間接的にでもいいから、天馬が二人に
『俺には好きな奴がいるからお前らとは付き合えない』
という気持ちを伝えれば、二人の気持ちに知らん顔をしているわけでもなくなり、俺や天馬が感じる罪悪感や後ろめたさをも薄れてくれると……そういうわけなんだな。
で、二人に気兼ねすることなく俺とイチャイチャできるようになった記念に初エッチもしてしまおうと……そういう話の流れだったんだな、きっと。
「俺と智加ってエッチなことはするようになったけど、ちゃんとしたセックスってまだだろ? でも、どのタイミングでしようかって悩んでたりもするんだよな」
「そ……そうなの?」
「そりゃそうなるだろ。俺にとっても智加にとっても初体験になるんだから。俺としてはちょっとでもいいから特別感を出したい」
「そ……そうなんだ……」
意外だ。天馬がそんなところを気にしていたなんて。
俺なんて、もう身体の準備は万端なのに、いつになったら天馬は最後までシてくれるんだろう……って、物足りなさを感じ始めているだけなのに。
初めて天馬とエッチなことをして以来、毎日とまではいかないまでも、俺と天馬は結構な頻度でエッチなことをするようになっている。
おかげで今ではすっかり中で気持ち良くなれちゃうし、天馬からの愛撫は全部気持ちいいと感じてしまうくらい、天馬専用の感じやすい身体になってしまっている。
天馬にいっぱい“気持ちいい”を教え込まれた俺の身体は、天馬に触れられるだけではもう物足りなくて、天馬と一つになる瞬間を待ち焦がれるようになった。
だから
「あー……。でも、智加との初めてをミッション成功のご褒美みたいにするのも良くないか。だったら智加との初めては今度の計画遂行の報酬として貰うんじゃなくて、また別の……」
「いいよっ! ご褒美にしてくれてもっ! 俺も頑張った天馬に何かご褒美あげたいしっ!」
一度は俺とエッチしてくれる気になった天馬が、理由が相応しくないと考え直し、俺とのエッチを先延ばしにしそうになった時は慌てて止めてしまった。
俺だって普通に天馬と初エッチするよりは、何かしらの特別感が出るものなら出したいもん。その方が気持ち的にも絶対に盛り上がるし。
今回の計画を無事に天馬が遂行できたら、俺と天馬が感じる罪悪感や後ろめたさが解消されるだけでなく、俺との初エッチのご褒美が付いてくるとなれば、天馬のモチベーションも下がらずに済むのかも……って思うし。
果たして、俺との初エッチが天馬にとってのご褒美になるのかどうかはよくわからないけれど。
「いいのか?」
「うん、いい。天馬が今度の計画で二人を振るまでには至らなかったとしても、二人に自分の気持ちをそれとなく伝えることができたらエッチしよ」
「智加……」
天馬からのエッチのお誘いにエッチのお誘いで返す俺に、天馬は一瞬息を呑んだようにも見えた。
でも、俺ももうこれ以上待てそうにないって感じなんだもん。俺との初めてを大事にしてくれようとする天馬の気持ちは凄く嬉しいんだけど、俺は今すぐにでも天馬とエッチしたいくらいだもん。チャンスを逃して先送りにはしたくない。
天馬はちょっとだけ悩んでいる様子だったけれど、自分の中で答えが出ると
「わかった。じゃあ、俺があの二人を振らないまでも、俺にはちゃんと好きな奴がいるって話を二人にすることができたら、その……ちゃんとしたのを……シような」
最後は少し照れ臭そうにしながら言ってくれた。
最初に「エッチしよう」って誘ってきたのは天馬なのに。いざ約束になった途端、急に照れるのとか可愛過ぎるからやめて欲しい。俺の方が天馬を押し倒して襲いたくなっちゃうじゃん。
っていうか、俺にも“襲いたい”願望があるあたり、俺も男って証拠なのかな。俺が天馬を襲っている姿なんて全く想像ができないけれど。
「うんっ」
照れてる天馬が可愛いし、エッチの約束をしてもらえて嬉しいしで、俺は大きく首を縦に振って頷くと、天馬にぎゅっと抱き付いた。
なんかさ、今この瞬間の俺の気持ちの盛り上がりも結構なものがあって、このまま天馬と初エッチでも全然構わないって感じではあるよね。
でも、何かしらの目標達成と引き換えに初エッチとか、もっと気持ちが盛り上がりそうだし、どうなるんだろう……って、待っている間のドキドキ感もちょっと味わってみたい。
だから、今すぐ天馬と初エッチ、ってならなくても、俺はちょっとくらい我慢できる気持ちになってきた。
俺が天馬に抱き付くと、俺を抱き締めていた天馬の腕が少しだけ下に下がってきて、俺の腰に緩く巻き付いてきたから
「天馬……初エッチまでエッチなことはお預けなの?」
天馬の腕が巻き付いてきた腰の奥がきゅぅん……ってなってしまう俺が不安そうな声で聞いてみると――。
「ん? いいや。本番前の予行演習ならいくらでも」
と返してくれた。
天馬の言葉に明らかにホッとした顔になる俺を見て小さく笑う天馬は、そのまま俺を腰から抱き寄せるようにしてきて、すかさず俺の唇を甘く優しく奪ってくれた。
「ぁ、んっ……」
天馬の唇に俺の唇を奪われた瞬間、一瞬にして上がってしまう体温に目眩を起こしそうになる。
キスだけでこんなにも早く身体が反応してしまうんだから、実際に天馬とちゃんとしたエッチをした後の俺の身体ってどうなっちゃうのかな。
それが今からちょっと怖くもあり、楽しみでもある。
それにしても、まさか後藤さんの言い出した計画が、俺と天馬の初エッチにまで関係してくるとは思わなかったよ。世の中って本当に何がどうなるかがわからないものだよね。
「ベッド行く?」
たっぷりと俺の唇を堪能した後に聞いてきた天馬に
「うん。ベッド行く……」
と、蕩けきった顔で答える俺は、天馬との初エッチを待つ時間がもう我慢できなくなってしまいそうだった。
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