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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!
Chapter 21
しおりを挟む俺と天馬がいい感じにラブラブになっていく一方で、水嶋さんと白石さんの天馬争奪戦は相変わらずで、言い合いの内容があからさまになっていく一方だった。
正直、俺の目の前で二人に天馬の争奪戦を繰り広げられてしまうと、俺的には口を挟みたくて仕方なくもあるんだけれど、天馬が完全にスルーしてしまっているから、俺も無視を決め込むことにした。
もちろん、一臣や光稀も余計なことは一切言わない。
ただ、目の前で繰り広げられる二人の言い合いは黙って見過ごすわけにもいかないのか、二人の言い合いをやめさせようとする動きは見せる。主に一臣が。
光稀は最初に白石さんの肩を持って以来、気持ち的には白石さんの味方ではあるんだろうけれど、ぶっちゃけ自分には全く関係がないと言っても過言ではない二人の争いに、積極的に関与するつもりは更々ないらしく、二回目以降の二人の言い争いには我関せず顔である。
まあ、あまりにも二人が言い合いをやめない時は、二人に対して苦言を呈することもあるけれど。
光稀が口を挟むと、それまで嫌味の応酬をしていた二人もピタッと言い合いをやめてしまうから凄い。まさに鶴の一声というやつである。
ちなみに、天馬も二人を止めるつもりが全くないわけじゃないんだけれど、何せ二人は天馬の取り合いをしているわけだから、天馬本人に口を挟まれると余計にお互いを罵り、蹴落とそうとする気持ちが働いてしまうようで、火に油を注ぐだけだった。
当然、どちらのことも選ばない天馬にとばっちりがいくことも多いから、一臣や光稀に
『天馬は口を挟まない方がいい』
と止められてしまい、それ以来は極力二人の言い合いに口出ししないようにと、二人の会話そのものを聞かない振りをすることにしてしまったわけだ。
実際、天馬が口を挟まなければ、二人の言い合いも頗る感じが悪いだけで、騒々しいものにはならなかった。
水嶋さんと白石さんのバトルに対する俺達四人の対応はそんな感じ。
では、水嶋さんと一緒にいる安西さんや、白石さんと一緒にいる後藤さんの反応は? と言うと……。
安西さんは水嶋さんの気性が荒くて喧嘩腰な性格はよく知っているのか、こんな光景は日常茶飯事、という顔だった。
これは俺の勝手なイメージだけど、モデル業界ってお互いにライバル意識が強そうで、人間関係が殺伐としていそうだもんね。ちょっとした言い合いや嫌味の応酬なんてしょっちゅう起きているのかもしれない。本当、俺の勝手なイメージでしかないけれど。
でも、水嶋さんや安西さんのようにモデル同士として知り合っても仲良くなれたりするわけだから、殺伐とした人間関係ばかりでもないんだろうな。俺には一生知ることのない世界だからよくわからないけれど。
一方、後藤さんの方はというと、新しく始まったばかりの大学生活で、いきなり自分の連れが連日言い争いを繰り広げる(巻き込まれる?)環境に、そろそろ限界に近いストレスを感じているようだった。
そりゃそうだよね。普通はこんな環境なんてストレスでしかなく、後藤さんの心境が一番まともだと思う。
なんか俺、大学生になってからどんどん後藤さんに対する苦手意識が薄れて、好感度が大幅にアップしているような気がするよ。
それもそのはず。だって、俺の周りにいる女の子の中で、唯一共感ができて気持ちがわかるのって後藤さんなんだもん。
わりとはっきりものを言うし、男勝りなところがある後藤さんだから、案外水嶋さんとは気が合うんじゃないかと思っていたけれど、そういうわけではないらしい。
で、その現状に不満を抱えている後藤さんは、どうにかこの状況を打破できないものか……と考えたんだろう。
「思うに、私達にはもっと特別な交流というものが必要だと思うのですよ」
女の子抜き状態の俺達を捕まえるなり、至って真剣な顔で言ってきたから、俺達は一瞬なんのことかさっぱりわからなかった。
既にキャンパス内では充分過ぎるほどの交流を持ち、大学生活の中に女の子の姿なんて求めていなかった俺達四人は、知らない間に行動を共にするようになっている女の子達の存在を持て余しているくらいなのに。
そもそも、彼女たちが俺達と行動を共にしていなければ、水嶋さんと白石さんが天馬のことで争う必要もないのにさ。
とは言っても、お互いに天馬を狙っているとわかっている以上、自分を差し置いて相手に天馬を近づけさせたくはないのだろうから、どちらも天馬から引かない状態になっているのだろう。おかげで俺達はいい迷惑である。
で、俺達が若干迷惑だとさえ感じている相手とこれ以上……それも、特別な交流が必要だと言われても、俺達はそれを求めてはいないのである。
だがしかし、俺達にとっては唯一無害であるとも言え、己のキャンパスライフに俺達と同じような不満を抱えている後藤さんの話なら、少しくらい聞いてあげようという気持ちにはなる。
それはみんなも同じなのか
「特別な交流って? 具体的にはどういう交流が必要だと思っているの?」
後藤さんの言葉を端から突っ撥ねるわけではなく、詳しく聞いてあげようと聞き返したのは光稀だった。
後藤さんの言う特別な交流をしてみることで、水嶋さんと白石さんの仲が多少は改善されるのであれば、俺達も協力しないではない。
「それはもう至ってシンプル。みんなで一緒に遊びに行くの」
「……………………」
後藤さんは「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに胸を張って答えたけれど、それを聞いた俺達四人はあからさまにがっかりした顔を見せてしまった。
いやいや。俺達にも悪気があったわけじゃないんだけれど、後藤さんの言う“特別な交流”が、ただ普通に遊びに行くだけの、極々一般的な交流方法だとわかるとね。ちょっと拍子抜けしちゃうっていうか、がっかり感は否めない。
高校時代にハチャメチャな劇の台本を書いてきたことがある後藤さんだから、何やらとんでもない企画を考えているのかと思っちゃった。
それに、後藤さんに「みんなで一緒に遊びに行こう」だなんて提案されちゃったら、先日、水嶋さんからのダブルデートの誘いを必死に断ろうとした俺としては、その意味がなくなってしまう気がしなくもない。
大体、顔を合わせればすぐに険悪になっちゃう水嶋さんと白石さんが、一緒に遊びに行ったからって急に仲良くなるものなの? そこに天馬も一緒にいるとなると、下手すれば益々二人が険悪になりそうな気もするんだけれど。
「いやさ。仮にみんなで遊びに行ったとして、それであの二人の関係が改善されるとはちょっと……」
そこは一臣も俺と同じ考えに至ったようで、後藤さんの提案に苦笑いになった。
っていうか、それくらいのことは後藤さんにもわかりそうなものなんだけど……。
「改善しなくてもいいの。目的はあの二人の関係を良好にすることじゃないから」
「は?」
え? え? どういうこと? だって今、特別な交流が必要だって言ったのは後藤さんだよね?
水嶋さんと白石さんの険悪な関係を改善することが目的じゃないのだとしたら、一体なんのための交流なの?
「ちょっと待って。目的が二人の関係改善じゃないなら、なんで僕達がみんなで遊びに行かなくちゃいけないの?」
まさにその通りである。一体俺達、なんの目的があって男女八人で遊びに行かなくちゃいけないの?
賢い光稀でもその理由はちょっと思いつかなかったようで、珍しく困惑したような顔で後藤さんに聞き返した。
後藤さんからの答えが気になっているのは質問を浴びせた光稀だけじゃないはずだ。後藤さんから「みんなで遊びに行こう」と誘われた俺達四人が四人とも、心の中で“どういうこと?”と思っている。
「八人っていう大人数で、そこそこ人が集まる場所に遊びに行けば、あの二人は絶対にお互いや私達の目を盗んで高杉と二人っきりになろうとするでしょ?」
「えっと……まあ……そうだね……」
「そこを高杉にはあえてあの二人と二人っきりになってもらって、タイミングを見計らって二人をそれぞれ振って欲しいわけよ」
「えっ⁈」
「だって、二人の争いの元は高杉じゃん。争いの元を断てば、二人が争う理由がなくなるでしょ?」
「そ……そうだけど……」
なんと。二人の関係を改善するどころか、天馬に二人揃って振ってもらう計画だった。
(それ、もう交流じゃなくて決別じゃん。八人組解消に向けての最後の交流じゃん)
一緒に遊びに行った先で片想い中の天馬に振られてしまっては、あの二人も天馬の前で天馬の取り合いなんてできなくなるのは事実だし、天馬から距離を取るようになるとも思うから、現状を打破する方法といえば方法になるのかもしれないけれど……。
それって天馬に掛かる負担が大きいし、後藤さんは自分の友達が天馬に振られてしまうことはいいのだろうか。女の子同士の友情とは一体……。
「ん? 何? 桐生。何か言いたそうな顔ね。もしかして、私のこと“友達甲斐のない冷たい奴”だと思った?」
「へ? い……いや……そういうわけじゃ……」
ど……どうしてまた俺だけピンポイントで攻撃を……。俺だけじゃなくて他の三人も……いや、一臣と光稀は俺と同じような顔をしていると思うのに。
やっぱりこの四人の中では俺が一番ポーカーフェイスが下手くそで、一番わかりやすいから突っ込まれやすいのかな。
だけど、突っ込むならまず俺より先に天馬じゃない?
俺の話を聞いて、辛うじて水嶋さんが自分のことを好きだという自覚はついたものの、相変わらず白石さんの気持ちには全く気付いていない天馬は、どうして自分が水嶋さんだけでなく、白石さんまで振らなければいけないのかが本当にわからないって顔できょとんとしているんだから。
「そりゃね、私だってちょっと冷たいし薄情なんじゃないかって思うけどさ。高杉ってあの二人のどちらとも付き合う気なんて更々ないんでしょ? だったら二人に無意味な争いなんてして欲しくないし、それで私がストレスを感じるのもどうなのかな? って思うのよ。友達の見込みのない片想いを傍観しているより、早々に諦めさせて次の恋に進めさせる方が優しさだと思うしさ」
「な……なるほど……」
「それに、高杉達にとってもあの二人の言い合いはいい迷惑でしょ? 私、自分と一緒にいる人間が人様に迷惑掛けるとか無理なのよ。たまにとか、ちょっとならいいのよ? 私だって人に迷惑掛けちゃうことくらいあるし。でもさ、あの二人の場合は周りの迷惑になるってわかっててもやってる迷惑行為だよね? そういうのはどうしても無理」
「そうなんだ……」
後藤さんが天馬に水嶋さんと白石さんのことを振って欲しいと言い出した時は、一体何事かと驚いてしまったけれど、ちゃんとした理由を聞くと納得しかなかった。
しかも、自分のためだけじゃなく、白石さんや俺達のことまで考えた結果、そうした方がいいと思い至った後藤さんのことは責められない。
俺達なんて、それとなく二人の仲裁に入ったり、全くの知らん顔を決め込むかだけで、これといった解決策なんて考えたこともなかったもんね。
「高杉には面倒を掛けるけど、それが全員にとって一番いい方法なんじゃないかと思うんだけど。どうかな?」
「……………………」
どうかな? と聞かれても。この場合、俺達四人の中の誰に決定権があるんだろう。
もちろん、一日の間に自分に好意を寄せている女の子を二人も振らなくちゃいけない天馬に決定権があるんだよね?
「確かに、このままあの二人に天馬を巡って好き勝手争われても困るっちゃ困るよね」
「うん。天馬に二人のどちらとも付き合う気がないことは明らかだし。だったら天馬には早々に二人のことを振ってもらって、二人を楽にしてあげるのもアリかもね。その後の僕達の大学生活も平和になるし」
「でしょ?」
あ……あれ? 決定権は天馬にあるんじゃないの? なんか天馬の意思に関係なく、後藤さん、一臣、光稀の間で勝手に話が進んでしまっているような気がするんだけど……。
「ってことだから、天馬。この際だから思いきって二人とも振っちゃいなよ」
「はあ⁈」
どうやら決定権は天馬にあるわけではないらしい。後藤さんの提案に賛同してしまった一臣と光稀は、後藤さんの案に乗っかるつもり満々である。
いやさ。俺達はただ普通に遊びに行くだけだから気が楽だけど、なんの前触れもなく、いきなり《水嶋さんと白石さんを振れ》というミッションを与えられた天馬は“冗談じゃない”って感じだよね。
正直、俺も後藤さんの案は悪くないと思ってしまったけれど、天馬が嫌だと思っているのなら、三人に無理強いはして欲しくないんだけど。
「ちょっと待て。亜美はまだしも、なんで俺が白石まで振らなきゃいけないんだ?」
「あ」
天馬……それ、多分言わない方が良かった失敗発言だよ。
俺や一臣や光稀は、天馬が恋愛事に疎くて鈍いことはわかりきっているけれど、高校二年生の時にしか天馬と一緒に過ごしていない後藤さんは、天馬が恋愛に疎いことも鈍いことも知らないと思う。
天馬は何もしていなくてもクラスでは目立つ存在ではあったけれど、後藤さんは天馬と特別親しかったわけでもないから、天馬の性格もおおまかにしか知らないはずだから。
案の定
「は?」
あれだけ連日目の前で自分の奪い合いをされているというのに、天馬が白石さんの気持ちに全く気付いていないことを知った後藤さんは、信じられないものを見るような目で天馬をギロッと睨み付けた。
後藤さんからしてみれば、自分のストレスの元凶とも言える天馬が、水嶋さんと白石さんの争いの理由をわかっていないとなると、それはもう腹立たしくもなるよね。
「ちょっと高杉。正気? あんたさ、いつもあの二人がなんで私達の前で言い争いをしているのかがわかっていないとか言うつもり?」
「ん? それはあれだろ? 亜美が初対面で白石に嫌な絡み方をしたから白石が怒ってるんだろ? 虫呼ばわりとかされてたし」
「……………………」
まあ……間違っていないと言えば間違っていないけど、その虫呼ばわりも天馬に付き纏う虫って意味で言われていたんだけどね。
水嶋さんと白石さんの二人が争っている根本的な意味が全くわかっていない天馬に、後藤さんは絶句した。
絶句した後
「ねえ。高城と藤岡に聞きたいんだけど、高杉には笑いのセンスがないの? それとも、本気で今言った通りのことを思っているの?」
何故か天馬と一緒に住んでいる俺ではなく、一臣と光稀に尋ねたりする。
多分、一緒に住んでいながら天馬にそこを気付かせなかった俺も、天馬と同類に見られてしまったんだろうな。
でも、白石さんは水嶋さんと違って天馬への気持ちをそこまであからさまにアピールしていないから、勝手に天馬に伝えるのはダメだと思ったんだよね。
それに、水嶋さんの気持ちを天馬に自覚させたのは俺なんだから、そこはちゃんと評価してもらいたいものである。
「あー……。天馬はちょっと鈍いっていうか、恋愛事に関してはポンコツだから」
「鈍いとかポンコツで済むレベル? 私的にはドン引きなんだけど」
「だからまあ、あの二人が天馬のことを早々に諦めることは本当に賛成だし、正解だと思っているんだよね」
「本当ね」
何やら後藤さんの突拍子のない一言から始まった会話だったのに、後藤さん、一臣、光稀の三人がすっかり意気投合してしまい、俺と天馬の二人はやや置いてけぼりである。
こうなってしまうと、最早俺達男四人と後藤さん達女の子四人の計八人で遊びに行くことは確定だよね。
「いいよ。後藤さんの提案に乗ってあげる。その代わり、他の三人に内緒でもっと入念な打ち合わせはしておこうね。どうせならその計画、確実に目的を果たしたいでしょ?」
「もちろんっ!」
あー……。結局天馬の希望も聞かれないまま、男女八人で遊びに行くことが決まっちゃったよ。
「天馬……」
俺は天馬のことが心配になって、不安そうな顔になりながらすぐ隣りに立っている天馬の横顔を見上げると、俺の視線に気付いた天馬は困った顔で俺を見下ろしてきて
「面倒臭いことになったな」
困り過ぎて笑うしかない、といった苦笑いになって俺に言ってきた。
せっかく俺と天馬の日常がいい感じにラブラブしてきたと思っても、俺と天馬を邪魔するものはそう簡単に消えてなくなってはくれないんだな。
俺と天馬が何にも邪魔されることなく、心置きなくイチャイチャラブラブするためには、俺達にとって邪魔になる存在を全て排除する必要があるのかもしれない。
応援ありがとうございます!
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