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モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

Chapter 30

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「…………広いな」
「うん。広いね……」
 一臣から受け取った部屋の鍵でドアを開け、中に入ってみた俺と天馬の第一声はそれだった。
 さすが日本が誇る大企業、高城グループが保有するホテルのデラックスルーム。部屋の広さはもちろん、室内の造り、調度品や装飾品も豪華だし、ベッドも物凄く大きい。
 俺が今まで泊まったことがある数少ないホテルの中で、一番広かったのは一家四人で泊まったファミリー向けのホテルの一室だったけれど、その時の部屋よりも、今、こうして天馬と二人だけで泊まるここのデラックスルームの部屋の方が広いとは何事なんだろう。一般庶民の俺としては、逆に落ち着かない気分にさせられてしまう。
 まあ、落ち着かないのは分不相応な部屋だけではないんだけどさ。
 むしろ、今こうして俺と天馬が同じホテルの一室に存在していること自体、そして、その理由や目的こそが、無駄に広すぎるデラックスルームというものを余計に落ち着かなく感じさせている……と思う。
 これがただ単純に、旅行客として泊まりに来たホテルの部屋が豪華だったのなら、俺もそれなりにテンションが上がり、滅多に味わえない贅沢気分を楽しめたかもしれないのにな。だけど――。
「風呂でも入れてくるか」
「えっ⁈」
「どうした? 智加も入りたいだろ? 風呂」
「あ、うぅ……うん……」
「?」
 天馬と初エッチするために、こんな豪華な部屋を宛がわれているのかと思うと、それはもう色々な意味で物凄く構えちゃうよ。
 今日は朝早くから遊園地に行って動き回ったし、さっき廊下で光稀が「早くお風呂に入りたい」なんて言っていたから、天馬も“お風呂に入りたい”って思っただけだよね。
 それなのに、俺ってば変に意識しちゃって恥ずかしいな。
「はぁ~……」
 荷物をテーブルの上に置き、お風呂を入れに行った天馬の姿が見えなくなると、俺はソファーの上に腰を下ろして、気持ちを落ち着かせるための大きな深呼吸をしてみた。
「落ち着け、落ち着け……。別にエッチなことをするのが初めてってわけじゃないし。天馬だって今日は疲れているんだから、本当に今日初エッチをするとは……」
 自分で自分を落ち着かせようと、自分自身に言い聞かせる俺は、自分の言った言葉にハッとなって顔を上げた。
 そうだよ。天馬だって疲れているのに、俺はその場の流れで当たり前のように天馬にお風呂を入れに行かせちゃって……。
 ここは俺がお風呂を入れに行かなきゃいけないところだったよね。このホテルに泊まること自体が、天馬へのご褒美サプライズなわけだし。
「っ……」
 俺は慌ててソファーの上から跳ねるように立ち上がると、天馬が消えて行ったドアの向こうへと走った。
「あぅ……」
 しかし、時既に遅し。天馬は栓をしたバスタブに蛇口を捻ってお湯を溜め始めた後だった。
「ん? なんだ? 智加。どんな風呂なのかが気になって見にきたのか?」
「ううん……」
 今日一日、何かと天馬に世話を焼かせてしまっている俺は、ここでもなんの役にも立たなかった自分にがっかりである。
 あからさまにしょんぼりした顔になり、天馬の言葉にふるふると首を横に振る俺に、天馬は不思議そうな顔で首を傾げた。
「いやね、今日は俺が天馬のためにお風呂を入れてあげたかったなって……」
 黙っていても絶対に理由を聞かれちゃうから、聞かれる前に俺が何にしょんぼりしているのかを白状すると、それを聞いた天馬は小さく笑って
「なんだ、それ。可愛いな」
 と言った。
 俺としては、天馬に「可愛い」と言ってもらえるような場面でもないんだけれど。
「にしても、広い風呂だよな」
「へ? あ、うん。そうだね」
 部屋も広ければ、当然お風呂も広いデラックスルームだった。
 この部屋に入った直後は、まだ部屋の中を見渡す余裕があったのに。今はそんな余裕すらもなくなってしまっている自分に気が付いた。
 自分で自分を落ち着かせようとしていたあの時間はなんだったんだ。まるで無駄な時間だったじゃん。
 あんな無駄なことをしている暇があったなら、本当、俺が天馬に代わってお風呂を入れにくれば良かったんだ。
 お風呂を入れる。なんてことは、ほんの些細な日常的な動作の一つだけれど、その些細な日常を行うことで、俺の気持ちも逆に落ち着いてくれていたかもしれないのにさ。
「ホテルのお風呂ってユニットバスのイメージが強いけど、デラックスルームにもなるとお風呂とトイレは別々なんだね」
 天馬に言われて改めて見渡した浴室は確かに広かった。バスタブなんて大人四人くらいなら余裕で入れちゃいそうだし、身体を洗うスペースもバスタブと同じくらいに広々としている。
 浴室にここまでスペースを使うあたりが、ホテルならではって感じがするよね。余程の拘りでもない限り、一般家庭の浴室はここまで広くはならないもん。
「そりゃまあ、デラックスとつけば風呂とトイレは別だろ。たまに普通の客室でも風呂とトイレが別々なホテルがあるけど、広さとしてはここの半分もなかったな」
「ふーん……そうなんだ」
 一体いつ、誰と一緒に泊まったホテルのお風呂とトイレが別々だったの? と聞きたくなったけれど、子供の頃に家族旅行で泊まったホテルとか、小・中学校で行った修学旅行先のホテルがそうだったんだろう。言われてみれば、俺もデラックスルームじゃなくてもお風呂とトイレが別々のホテルに泊まったことがある。ここはヤキモチを焼くところではない。
「でも、こんなにデカい風呂でもお湯が溜まるまでにそんなに時間は掛からなさそうだ。結構な勢いでお湯が出てくる」
「本当だ」
 天馬が浴室に向かってからまだ二、三分しか経っていないと思うけど、来てすぐに蛇口を捻っただろうから、蛇口から出るお湯は二、三分の間でバスタブの三分の一近くを満たす湯量があるってこと か。
 いっぱいになるまではトータルで十分くらいってところかな。今、こうして俺と天馬が見ている間にも、もうもうと湯気を立てて流れ出るお湯が、大きな浴槽の中を満たしていく。
「風呂が入ったら智加から入りな」
「え?」
「だって智加、今日は色々と大変だっただろ?」
 これは最早お決まりみたいな会話になってしまっているのだけれど、いつものノリで俺に一番風呂を譲ってくれようとする天馬に
「ううん。俺より天馬の方が大変だったもん。今日は天馬が先に入って」
 俺は一番風呂を譲り返した。
 今日ばかりは俺が天馬より先にお風呂に入るわけにはいかないよ。
「でも俺、そんなに言うほど自分が大変だったとは思ってないし、疲れているわけでもないんだが……」
「ダメ。今日は天馬が先なの。そこは絶対に譲らないんだからね」
 それでも、なかなか首を縦に振ってくれない天馬に、俺も頑固な姿勢を崩さないでいると
「だったら一緒に入るか?」
 と言われてしまい
「え……」
 俺の心は一瞬揺れた。
 付き合い始めたばかりの頃は、天馬と一緒にお風呂に入れる日を夢見ていたりもしたけれど、今では俺と天馬が一緒にお風呂に入ることも、そんなに珍しいことではなくなりつつある。
 それというのも、俺と天馬がエッチなことをするようになってから、エッチなことをした後は大体いつも一緒にお風呂に入るようになったからである。
 だから、今更天馬と一緒にお風呂に入ることが恥ずかしいわけではないし――全く恥ずかしくないわけでもない――、俺としても天馬と一緒にお風呂に入りたい気持ちはあるのだけれど……。
「……………………」
 ここで俺が迷ってしまうのは、今夜、俺と天馬が本当に初めての夜を迎えるのだとしたら、お互いに裸になるのはベッドの上がいいな……という、俺の個人的な願望からだった。
 ちゃんとしたセックスをまだしていないというだけで、それに近い行為、その直前までは経験済みで、お互い裸になった姿を見たり、見られたりしているのに今更? と思われてしまうかもしれないけれど、やっぱり好きな人と初めて一つになる瞬間は特別だと思うから、今更でも初めてっぽい初々しい感じにはしたい。エッチする前に一緒にお風呂に入っちゃったら、裸になるドキドキ感も半減しちゃうし。
 ――とまあ、俺はそんなことを考えているわけだけど、そもそも天馬はどういうつもりでいるんだろう。
 一臣や光稀があれだけあからさまに話題にしたから、天馬もそのことを意識していないわけじゃないと思う。
 でも、こうして俺と二人きりになっても、天馬が全くその話題に触れてくれないから、俺としては“どうなの?”って気になってしまう。
 正直、俺はこの部屋に入るまでは天馬との初エッチは今日のことにはならないと思っていた。遊園地から真っ直ぐ家に帰っていたのであれば、そういう展開もあるかもしれないと、心のどこかで期待してしまう自分がいたのかもしれない。
 だけど、帰りにホテルのレストランで食事をすることになって、今日の帰宅が遅くなるとわかった時点で、明日は普通に大学があると思っていた俺は、天馬との初エッチのことは一旦忘れることにした。
 ところが、その帰りに寄ったホテルには最初から泊まることになっていて、そのホテルの部屋の中には、外泊の予定なんてなかった俺と天馬のために着替えまで用意してあるという。更には、にわかには信じられないタイミングで、明日の大学は創立記念日でお休み。
 おまけに、一臣の言葉を素直に信じるのであれば、この部屋は俺と天馬が恋人同士としての初めての夜を迎えるために用意された部屋らしいから、そうなってくると、当然俺の頭の中は天馬との初エッチのことでいっぱいになっちゃうし、その気にもなってくる。
 でも、俺と違ってなんかすっかり落ち着いちゃっている天馬はどうなのかな? って……。
 もちろん、俺的にはここまでお膳立てされているなら、天馬との初体験を経験したいと思っているけれど、天馬に無理強いはしたくない。
 天馬は今日、前半は絶叫マシーンを怖がる俺の面倒を見てくれながらも、後藤さんに言われて水嶋さんや白石さんともきっちり二回ずつ絶叫マシーンに一緒に乗り、後半は気を失った俺を気にしながら与えられた任務を遂行して、その後はずっと俺の傍にいて、俺を気遣ってくれていた。
 天馬は「そんなに言うほど自分が大変だったとは思ってない」って言ったけど、自分でも気付かないうちに気疲れみたいなものはしていると思う。
 そもそも、女の子を立て続けに二人も振った後で、俺とエッチする気分になれるかどうかもわからないしさ。
 だから、天馬にその気がなかったら、それは仕方がないと思っている。その場合は、今ここで天馬と一緒にお風呂に入る誘いを受けてしまって、今夜はそれで終わりにしてもいい。
 でも
「ううん。せっかく大きなお風呂なんだから、天馬もゆっくりお風呂に浸かって今日の疲れを癒してよ」
 天馬も俺と初エッチをするつもりがあるのであれば、やっぱりここは別々にお風呂に入ることを選びたい俺だった。
 最初はさり気なく遠慮しておいてから
「そ……それに、ほら。もしかしたら後で一緒に入るかもしれない……でしょ?」
 天馬がどういうつもりでいるのかを、これまたさり気なく(?)探ってみたりする。
 天馬が俺と初エッチをするつもりがあるのなら、この意味はわかるだろうし、それなりの反応を見せてくれるよね?
「……………………」
 天馬は一瞬きょとんとなり、上目遣いで天馬の様子を窺う俺をまじまじと見下ろしてきたけれど――。
「っ!」
 俺の言った言葉の意味を理解するなり、ちょっとだけ顔を赤く染めて、それを誤魔化すように、視線を俺から斜め上の天井の方へと向けた。
 どう見ても明らかに照れている天馬の反応に、俺は内心
(可愛いっ!)
 大悶絶である。
「ん……まあ……智加がそう言うなら、お言葉に甘えて先に入らせてもらうよ」
「ぅ……うん……」
 おっと……それってつまり、天馬にも俺と初エッチをするつもりがあるってことでいいのかな?
 もし、天馬に全くその気がなかったとしたら、正直者の天馬は
『いやいや。今日はお互いに疲れているから、さっさと風呂に入って寝よう。初めてのセックスはまた別の機会でもいいだろう?』
 くらいは普通に言ってくる。
 でも、そういうことを言ってこなかったということは、つまり……。
(ついに、俺と天馬が恋人同士としての一線を越える日が……)
 ってことになるんだよね?
 天馬と初めてエッチなことをした日から、ずっとこの日を待ち侘びていた俺は、いよいよその日が来たとなると自然と胸が高鳴る。
「っていうか、風呂が入るまでにもうちょっと時間が掛かるから、一度風呂場から出るか」
「そ……そうだね」
 遠回しではあるけれど、俺の口から
『エッチするんだよね?』
 と言われたも同然の天馬は、平然を装おうとするものの、どうしても少しぎこちなくなってしまうらしかった。
 そういう俺も、自分の方から天馬を誘うようなことを言ってしまったことが今になってめちゃくちゃ恥ずかしい。
 当人同士の間でその話題に触れたことによって、急にお互いを意識して緊張してしまう俺と天馬は、激しい水音を立てて浴槽を満たしていくお風呂場から出ると、ひとまず部屋の中でお風呂が入るまで待つことにした。
 だけど、そうゆっくりする間もなくお風呂が入ってしまうだろうから、あんまり落ち着いた気分にもならなかった。
 天馬は部屋の中を一通り見て回ってから
「じゃあ先に入ってくるな」
 クローゼットの中に入っていたバスローブ――クローゼットの中にはバスローブとパジャマの二種類が二着ずつ用意されていた――を手に、数分前に出てきたばかりの浴室へと再び歩いて行った。
 気持ちがそわそわして落ち着かない俺は
「行ってらっしゃい……」
 たかがお風呂に入りに行くだけの天馬にそう声を掛けて、浴室のドアが閉まる音がしたと同時に
「はぁぁぁぁ~……」
 緊張でどうにかなってしまいそうな感情を、大きな溜息と一緒に吐き出した。
 初めて天馬とエッチなことをした時も物凄くドキドキしたし、緊張もしたけれど、こんなに息が詰まりそうな緊張感は初めてかも。この緊張感とドキドキ感は、天馬に告白した時と似ている気がする。
「あぁ~……俺、本当に大丈夫かなぁ?」
 ずっとこの日を待ち望んでいたわりには、いざとなったら不安で仕方がない。
 一人でジッとしているのも落ち着かないから、無駄に部屋の中をうろうろと歩き回ってしまう俺は、ベッドの枕元にラッピングを施された袋が二つ並んでいることに気が付いた。
 こんな袋の存在にはたった今気が付いたよ。
「何かな?」
 気付いてしまうと今度は中身が気になる。
 俺はベッドに近付いて行くと、手を伸ばして二つある袋のうちの一つを手に取ってみた。
 袋の口を結んでいるリボンには、見覚えのある光稀の字で《智加へ》と書いてある。
 ということは、もう一つの袋は天馬宛てってことか。
「一体いつの間に……」
 一臣がお父さんから急遽夕飯に誘われたのって、昨日の話なんじゃなかったっけ? 急な予定変更にもあっという間に対応できてしまう光稀は光稀で凄いよね。
 たまたま手に取ってみた袋が俺宛てだったのは良かった。俺宛ての袋なら開けてみてもいいよね。
 ちなみに、天馬宛ての袋は手をつけていない状態で枕元に置いたままである。
 お風呂に入る前に部屋の中を見て回っていた天馬だから、袋の存在に気付いていないはずはないと思うけれど、別に急いで中を確認するほどのものじゃないと判断したのかな。
 もしくは、俺がお風呂に入っている間の暇潰しとして取っておいたのかも。
 どちらにせよ、今は何か気を紛らわせるものが欲しい俺は、ベッドの端に腰掛け、袋の口を閉めているリボンを解いてみた。
「あ……」
 中に入っていたのは光稀が言っていた俺達の着替えだった。
 どこかで買ってきたらしい新品のTシャツ、パンツ、靴下の三点セットが、買ってきたままの状態で袋の中に詰められていた。
 なんかさ、この三点セットだけでも充分立派な贈り物になるよね。あの二人はどれだけ俺達にご褒美を与えるつもりなんだろうか。
「でも、お風呂に入る前に見ておいて良かった。見ていなかったら、お風呂上がりにパンツを……」
 気を紛らわせるために独り言が多くなってしまう俺は、そこまで言ってハッとなる。ハッとなって、枕元に袋の口がリボンで閉じられたままの天馬の着替えが入った袋を見た。
 そう言えば、天馬って浴室にはバスローブだけ持って向かったような……。
「……………………」
 それってつまり、お風呂上がりの天馬はバスローブの下に何も身に着けていないと……そういうことになる?
 そもそも、バスローブとパジャマの二種類が用意されていたのに、天馬がバスローブを選んだことが意外だったんだよね。天馬なら絶対にバスローブじゃなくてパジャマの方を選ぶと思っていたのに。
(どうせすぐ脱ぐから、脱ぎやすいバスローブを選んだってこと? それって……それって……)
 天馬は俺と初エッチする気満々ってこと?
「あぁっ! 心臓がっ!」
 実際に天馬がどういうつもりでバスローブを選んだのかは定かではない。ひょっとしたら、お風呂上がりに身体を拭くのが面倒臭いから、着ているだけで身体から水気を吸い取ってくれるバスローブを選んで、身体が乾いてからパジャマに着替えるつもりなのかもしれないし。
 パンツだってバスローブを着るならお風呂上がりにすぐ穿く必要はないから、俺がお風呂に入っている間にパンツを穿いて、バスローブからパジャマに着替えるつもりなのかもしれないよね。
 でも、天馬的には俺が天馬とエッチする気でいると思っているから、そのための面倒な工程を省くための選択をしたとも考えられる。
 そして、もしそうだったとしたら、天馬も俺とエッチする気になっているということだから、俺の心拍数も爆上がりになるというもの。
「うぅ……こんなことならジッと座って、天馬がお風呂から出てくるのを待っていれば良かった……」
 たまたま目に付いた袋の中を確認したことで、まさか余計に緊張することになるとは思っていなかったよ。
 でもさ、よくよく考えてみれば、俺って天馬のことになるとすぐにあれこれ妄想したり、考えちゃうのが癖みたいになっているから。気持ちを落ち着けたいなら、何もせず、何も考えないでいることが一番だったよね。
 天馬と付き合えることになったんだから、もうあれこれ妄想をする必要なんてないとは思うのに、高校の三年間でついてしまった癖は、なかなか直ってくれないんだよね。
「っていうかさぁ……天馬とエッチすることばっかりに気がいっちゃっててスルーしてたけど、普通に考えたら、天馬のバスローブ姿なんて絶対ヤバいじゃん」
 お風呂上がりにバスローブを着ている人の姿なんて、映画やドラマ、もしくはアニメの中でくらいしか見たことがない俺は、そんな非日常的なバスローブを身に纏った天馬を想像しただけでももうヤバい。
 俺が着たら確実にてるてる坊主みたいになりそうなバスローブも、天馬には絶対に似合うもん。
「あ……後で写真を撮らせてもらおうかな……」
 緊張はしているものの、自分の欲望にもしっかり忠実な俺は、この先二度と拝むことができないかもしれないバスローブ姿の天馬を、自分のスマホの中の天馬コレクションの中に加えたいと思ってしまう。
 だがしかし――だ。それから数分後にお風呂から出てきた天馬を一目見た途端、そんな願望はどこへやら……。
「じゃっ……じゃあ俺っ……お風呂に入ってくるねっ!」
 酷く慌てた様子でクローゼットからバスローブだけを引っ掴み、まるで天馬から逃げるようにしてバスルームへと駆け込んだのであった。


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