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番外編 モノグサ男子の恋

    モノグサ男子の恋(5)

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 さて、一年間で行われる主な学校行事と言ったらなんだろうか。
 学校によって様々ではあるのだろうが、うちの高校の場合は去年の経験からして、四月の身体測定及びスポーツテスト。そして、一学期の中間テストが終わった五月下旬に体育祭。六月下旬に期テスト前の息抜きのように組み込まれている遠足。
 二学期に入ると十月に合唱コンクールがあって、十一月には文化祭。三学期は一月の終わりにマラソン大会……という感じだった。
 まあ、細かく言ったらもう少し色々とあったりもするのだが、丸一日授業が潰れるという意味では、今挙げた行事くらいのものだろう。
 正直、俺はこうした学校行事を“楽しもう”と思う人間ではなく、むしろ“面倒臭い”と思ってしまうタイプの人間であるから、周りの人間たちがわいわいと盛り上がっていても、わりと我関せず顔でスルーしているわけである。が――。
「とりあえず、修学旅行も四人一緒のグループになれて良かったよね」
「本当だね。修学旅行のグループ分けがくじ引きや出席番号順じゃなくて良かったよね」
「まあ、修学旅行なんて学校行事の中でも最大イベントって感じだから、ある程度は生徒を楽しませてあげようって配慮はされているんじゃないの? 修学旅行のグループって結構重要だし」
「でも、中学の時は出席番号順だったよね? 俺は小学校の時もそうだったけど」
「学生にとっては高校生が最後の修学旅行になるし、高校生にもなると、修学旅行のグループくらい自分達で決めさせて欲しい、ってなるものなんじゃない? 先生も下手に生徒の反感を買いたくはないだろうから、そのへんは生徒の自由にさせた方がいいと思ってるんだよ」
「なるほどね」
 今年は高校生活の中でも一度しかない修学旅行があるから、そこだけは俺も我関せず顔というわけにはいかなかった。
 と言っても、どんな学校行事だろうと、自分もこの学校の生徒、クラスの一員である以上は、全くの我関せず顔を貫き通すわけにもいかないんだけどな。
 この学校に通っている以上、学校の定めた行事に“参加しない”という選択肢はないのだから。
 それに、高校に入ってからというもの、俺はこうした学校行事もそれなりに楽しめるようになっていた。
 何故ならば、学校行事に参加している智加を眺めているのが楽しいからだ。
 智加はどの学校行事にも一生懸命取り組んでいるようだから、その一生懸命で健気な姿を見ると、俺の心は癒されるのである。
『いやいや。それは学校行事を楽しんでいるわけじゃなくて、ただ智加の姿を見て楽しんでいるだけなのでは?』
 と言われてしまえば、その通りである。俺にとっては健気で愛らしい智加の姿を見られるのであれば、学校行事なんて二の次である。
 去年にしても今年にしても、身体測定ではどの項目でももじもじして恥ずかしそうにしていた姿がいじらしかったし、スポーツテストや体育祭では、体力がないなりにも一生懸命頑張っている姿が健気で可愛かった。頑張る智加を全力で褒めてやりたい気分になったものだ。
 そして、合唱コンクールではあまり目立ちたくないのに身長の関係で最前列のど真ん中になってしまい、恥ずかしさのあまり泣きそうな顔になりながらも、口を大きく開けて一生懸命歌う姿が俺の庇護欲を容赦なく刺激してきたから、今年もその姿が見られるのかと思うと、今から楽しみでしかない。
 更に、忘れてはいけないのが去年の文化祭である。
 去年の文化祭では、たぬきの耳と尻尾をつけさせられて、うどんを運ぶ姿がただの愛玩動物でしかなかった。
 去年の文化祭。俺達のクラスは《きつねとたぬき亭》という、うどんを提供する模擬店をやったのだが、その名の通り、メニューはきつねうどんとたぬきうどん、それと梅と昆布のおにぎりしか扱っておらず、きつねうどんはきつね役の人間が、たぬきうどんはたぬき役の人間がそれぞれ提供する仕組みになっていた。
 もちろん、全員が全員きつね役とたぬき役に振り分けられるわけではなく、配膳係になった人間のみがきつね役とたぬき役に振り分けられたのだが――。
 ここでポイントなのが、配膳係になった智加に割り振られた役がきつねではなくたぬきだったこと。
 きつね役とたぬき役は当時のクラス委員が適当に決めたのだが、智加にきつね役ではなくたぬき役に割り振ったあたり、なかなかいい仕事をするクラス委員だと、俺は感心したものである。
 人見知りで引っ込み思案な智加は、自分が配膳係になってしまったことを当然嫌がっていたのだが、自分がたぬきの耳と尻尾をつけて商品を運ばなくてはいけないと知るなり、顔面蒼白になって絶句していた。
 だがしかし、実際にたぬきの耳と尻尾を装着した智加は、他のどのたぬき役よりたぬきだったし、尋常じゃなくクソ可愛かった。
 ちなみに、俺は配膳係ではなく、うどんを作る係に回されていたのだが、注文を受け、完成したたぬきうどんを智加が取りにくるたびに、たぬきに扮した智加を小脇に抱え、連れて帰りたくなっていたものである。
 それほど智加たぬきは可愛かったのだ。もちろん、たぬき役に扮した智加の写真もいっぱい撮ってやった。
 智加は
『やめてよぉ~っ! 恥ずかしいから撮らないでぇ~っ!』
 と騒いでいたが、他にもいろんな人間から写真を撮られていたから、みんな智加のことを“ベスト・オブ・たぬき”と思っていたに違いない。
「でもさ、修学旅行のグループが男女混合っていうのはちょっと面倒臭いよね」
 ……っと。そう言えば俺達は今、修学旅行の話をしているんだったよな。
 先日、一学期の期末テストが終わり、一気に解放的な空気になった俺達二年C組では、今朝のホームルームで修学旅行のグループが決定した。
 修学旅行自体は夏休みが終わり、二学期に入ってから行くことになっているのだが、二学期に入ってからわりとすぐに行くことになる修学旅行のグループは、夏休み前に決めてしまった方がいいだろう、ということになり、今朝そのグループが確定したのである。
 高校生活最大の学校行事でもある修学旅行の話が具体的に進み始めたことによって、俺達の思考もついつい修学旅行に囚われてしまい、今日の二年C組はわりと朝から修学旅行の話で持ちきりだったりする。
 俺もその例外ではなかったらしく、修学旅行をはじめ、学校行事というものについて思考を巡らせている間に、去年の文化祭での智加の愛らしいたぬき姿を思い出し、一人悦に浸ってしまっていた。
「まあね。でもほら、学校ってところは何かと男子と女子を絡ませてこようとしてくるところがあるじゃん。あからさまに身体能力に差が出る体育の授業は別として、それ以外のところでは必ずと言っていいほど、男女混合のグループを作らせてくるし」
「男女交際を推進しているわけでもあるまいのにね」
「わからないよ? 僕達がいい大人になる頃には、もっと深刻化しているかもしれない少子化問題について、今の学校は学生に恋愛をさせたい方針なのかもしれないよ?」
「まさか。恋愛したところで、すぐに子作りって話になるわけでもない俺達に、学校もそこまで考えてはいないでしょ」
 って……。修学旅行の話から何故少子化問題に? 修学旅行のグループ分けの話から少子化問題に発展する一臣と光稀がよくわからない。
(この二人の思考は自由だな)
 大体、恋人がいるからといって、少子化問題に一切貢献しない相手と付き合っているこの二人に、少子化問題について語る権利もなさそうではある。
「それはそうと、修学旅行のグループって、最初に男子と女子で四人ずつのグループを作らせておいて、後から男子と女子のグループにそれぞれくじを引かせて、一緒になるグループを決めさせたよね? どうしてそういう決め方になったんだろう」
 放っておいたらこのまま一臣と光稀が少子化問題談議に花を咲かせると心配になったのか、それまで黙って二人の話を聞いていた智加が、修学旅行のグループ分けに関する話へと戻した。
 うんうん。智加にはまだ少子化問題なんて早過ぎる議題だもんな。多分、智加は未だに赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものだと信じている人種に違いない。
 それはさておき、今智加が口にした疑問については、俺もやや気になるところがあった。
 最初に修学旅行のグループ決めについて、我がクラス委員、後藤麻美から説明を受けた俺は
『まず、最初に男子と女子にそれぞれ四人一組のグループを作ってもらうから』
 と言われ、内心ホッとしたりもした。
 三人一組でもなく、五人一組でもなく、四人一組。それならば、いつものメンバーであっという間にグループの完成だ。
 ところが、後藤も最初に「まず」と言ったように、それだけで修学旅行のグループが決定するわけではなかった。
『で、その後で男子と女子のどのグループ同士が一緒になるか、そこはくじ引きで決めるからね』
 と続き、俺は大変がっかりしたものだった。
 まあ、当然と言えば当然だった。俺はこれまでに小学校、中学校で修学旅行を経験しているが、その中で男子だけ、女子だけ、で構成されるグループ分けになったことは一度もない。
 生徒の中に異性がいない男子校や女子校ならば話は別だが、俺はこのことあるごとに男子と女子を混ぜようとしてくる学校のやり方には大いに不満がある。
 そもそも、同じ部屋で寝るわけでもないし、一緒にお風呂に入るわけでもない女子と、同じグループで行動するメリットなんかないだろ。一緒のグループにする必要性も全く感じない。
「それはさ、そうしないといつまで経っても男女混合のグループが決まらないからだよ」
 智加の疑問にそう答える光稀は、何か事情を知っている様子であった。
「え? どうして?」
「だって、うちのクラスには天馬がいるから。女子はほぼ全員と言っていいほど、天馬と一緒のグループになりたがるでしょ? そうなると、せっかく男女それぞれで四人一組のグループを作ったところで、男女合わせた八人グループを作る時に揉めに揉めて、いつまで経っても男女混合のグループが決まらないじゃん」
「そっか……それもそうだね」
「先に男子と女子でそれぞれグループを作らせておいたのも、目当ての異性と同じグループになれなくても、仲のいい友達同士は同じグループになれたんだからいいでしょ? 的な計算があるのかもね」
 こらこら。何もわかっていなさそうな顔をした智加を捕まえて、光稀はなんの話をしているんだ。
 何やら俺の名前が出てきているが、修学旅行のグループ決めに俺は関係ないだろ。
「なるほど……」
 光稀がもっともらしい顔で堂々と智加に適当な説明をするから、純粋無垢な智加も光稀の言葉を素直に信じているじゃないか。
(全く……この二人……特に光稀は、智加に余計なことを吹き込む傾向にあるよな……)
 智加が人を疑うことを知らない素直な人間であることをいいことに、智加に対して余計な発言が多いようにも思える光稀をしげしげと見詰めていると
「そんなことより、智加……」
 俺からの視線にお構いなしの光稀は智加の耳に唇を寄せ、あからさまに内緒話をするような仕草で、智加に向かって何事かを囁いた。
 すると
「なっ……! な、なな、何言ってるの?! 俺は別にそんな……そんなこと考えたりなんかしてないもんっ!」
 智加は一瞬にして顔を真っ赤にさせて、わたわたと手を振りながら、光稀に向かって必死の反論を始めた。
 おい。智加に何を言った。智加を今にもはちきれんばかりの真っ赤に熟れたプチトマトみたいにして。俺が試しに齧ってみたくなるじゃないか。
「ふふふ。智加の反応は初々しくて可愛いね。ね、天馬」
「急に話を振ってくるな。一体智加に何を言ったんだ」
「んー? 別に変なことは言ってないよ。ただ、修学旅行と言えば、智加にも物凄ぉ~く楽しみなイベントがあるんじゃないかと思ってさ。その話を振ってみただけ」
「物凄く楽しみなイベント?」
 なんだそれ。さっぱりわからん。
 と言うより何より、俺は光稀が智加に何を言ったのかが全然聞こえなかったから、智加が真っ赤になって取り乱す理由も、智加が物凄く楽しみなイベントというやつも、全く見当がつかないんだが。
「天馬はさ、智加の家で夕飯をご馳走になったことがあるみたいだけど、智加の家に泊まったことはあるの?」
「は?」
 なんだなんだ。今度は急にえらく話が飛んだな。
 一学期が始まったばかりの日に、智加から「今度は是非うちで夕飯を」と誘われた俺は、そこから今日までの間に二度ほど桐生家で夕飯をご馳走になっていた。
 が、そのことと修学旅行とに、一体なんの関係があるという。
 しかも、智加の家に泊まったことがあるか、だって?
「いや。ないけど」
 夕飯をご馳走になるだけでも充分に恐縮ものなのに、更に泊まらせてもらうわけにはいかないだろ。それはさすがに気が引け過ぎる。
「なんだ。お泊りはまだなんだ」
「いずれ俺が智加の家に泊まるような言い方をするな。そんな予定はないから。さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないだろ」
「でも、誘われてるんじゃないの? 夏休みになったら泊まりにおいで、って」
「ん……まあ……」
 そう。そういうお誘いを確かに受けてはいるが。
 一年生もそろそろ終わろうかという頃に智加の家を訪問した俺は、以後、桐生家の人々とは着実に交流を深めていっている。
 おかげで俺は智加の家庭環境についての調査も順調に進んでいっているわけなのだが、智加だけでなく、智加の家族とまで仲良くなり過ぎてしまうと、自分がうっかり智加のことでとんでもないことを口走ってしまいそうで怖くもある。
 智加の家族はどういうわけだか全員俺に好意的で、いい人達だからな。うっかり気が弛んでしまうと、それこそ
『智加を俺にください』
 とか言ってしまいそうな勢いなのである。
 もちろん、この発言の意味としては、可愛い智加をうちに連れて帰って、俺専用の愛玩動物として日々愛でたい、という願望の表れでしかないわけだが、おそらくそういう意味では取ってくれないであろう智加の家族からは、ドン引きされること間違いなしだろう。
 そんなわけだから、せっかくのお誘いではあるのだが、智加の家族と一緒に過ごす時間が増えていくことは、俺の中ではちょっと考えものだったりもするのである。
「修学旅行に行く前に、一度お言葉に甘えて智加の家にお泊りしておいた方がいいんじゃないの?」
「は? なんでだ」
 だから、どうしてそこで修学旅行の話に戻るんだ。俺が智加の家に泊まることと、修学旅行にどういう関係がある。
 最近、俺には光稀の言っていることの意味がわからないことが多々あるぞ。
「え? だって、心の準備ってものが必要じゃない?」
「なんの?」
「もちろん、一日中智加と一緒に過ごす心の準備だよ」
「……………………」
 それ、必要か?
 確かに、俺と智加が丸一日一緒に過ごす機会なんて滅多にないと言えばない。
 が、現在平日は一日の半分近くを智加と一緒に過ごしているし、去年の夏休みに四人で高城家の別荘に泊まりに行った時は、一日中どころか二泊三日分の長さを智加と一緒に過ごしている。今更智加と一日中一緒に過ごすことに、心の準備をする必要はないだろう。
「必要ない」
「そう? でもほら、修学旅行では智加と一緒にお風呂に入ったり、一緒の部屋で寝たりするんだよ? ちょっとドキドキしたりしない?」
「しないだろ」
 一体なんのドキドキだ。俺が智加の裸を見て興奮するとでも思っているのか? 智加と同じ部屋で寝るからといって、智加のことを俺専用の抱き枕よろしく、大事そうに抱き締めて眠るとでも?
 いやいや、ないだろう。百歩譲って、智加のことを俺専用の抱き枕よろしく、大事そうに抱き締めて寝ることはあったとしても、智加の裸に興奮はない。そんなものに興奮したらただの変態になるし、俺が相当ヤバい奴になってしまう。
「えー? 本当に?」
「疑われる意味がわからない。なんなら俺が全裸の智加の身体を全身隈なく洗ってやったとしても、全く問題がないくらいだ」
 光稀がどういうつもりでこんなことを言ってきているのかは知らないが、俺には疑われる理由などどこにもない。
 それを主張するために、実際にそんなことをするつもりがない言葉で、光稀を説得しようとしたのだが――。
「ああそう。そうなんだ」
 光稀は何故かにっこりと笑い
「ねえ、智加。天馬がね、修学旅行のお風呂では智加の身体を全身隈なく洗ってくれるそうだよ」
 まだ若干赤い顔のまま、一臣と話をしている智加に向かって、そう言い放った。
「え?」
 智加は最初何を言われたのかがわからない顔をしていたが
「え……えぇっ⁈」
 光稀の言った言葉を理解するなり、再び顔を真っ赤にして、盛大に狼狽えた。
 何故わざわざ智加に言う。絶対に言わなくても良かったことだよな?
 俺がそんなことを言ったと知れば、智加が驚くのは当然だし、そもそも、今のは俺が言ったというよりは光稀に言わされた感すらある。
 それなのに、その俺の発言をわざわざ智加に伝えるとか……ただの嫌がらせでしかない悪の所業にも思える。
「そっ……そんなっ! はっ……恥ずかしいからそんなことしなくてもいいよぉ~っ!」
 まあ、俺にそう言われてめちゃくちゃ恥ずかしがる智加の姿は可愛くて、俺の目は喜んでいるんだけどな。
「へー。意外と天馬も積極的じゃん。智加、せっかくだから天馬に全身隈なく洗ってもらったら?」
 で、一臣も光稀の言う言葉にすぐ乗っかるのはやめていただきたい。
 しかも、そんな言い方をされたら、俺が是が非でも智加の身体を全身隈なく洗いたがっている危ない奴だと思われるじゃないか。そんなことは断じてないのに。
 更に、一臣は
「俺は俺で光稀の全身を隈なく洗ってあげるし」
 ここぞとばかりに調子に乗った発言をしてしまい
「うん。やめてね。全力で拒否するから」
 光稀からはにこやかに断固拒否の姿勢を取られていた。
 自業自得とはいえ、自分の恋人から明らかに拒否される一臣がちょっと可哀想である。
 こういう場面を見せられると
(この二人は本当に付き合っているのか?)
 と疑いたくなってしまうが、この二人は付き合う前も、付き合ってからも、大体ずっとこんな感じだ。
 むしろ、付き合う前は光稀の一臣に対する態度はもっと酷かったから、こうして笑顔で接してもらえるだけ、随分とマシになったというものだ。
(それはさておき……だ)
 そもそも、俺達は最初、修学旅行のグループについての話をしていなかったか? それなのに、それがどうして修学旅行の風呂という、ピンポイントなうえ、かなりどうでもいい話にスポットが当たってしまったのだろうか。
 この四人の中に、積極的に女子と仲良くしようとするタイプの人間はいないから、修学旅行中、できるだけ女子と関わらないように俺達だけで修学旅行を楽しむ計画でも話し合うのかと思っていたんだけどな。
 それがどうして風呂の話。全く理解ができない。とんでもなく無駄な話に時間を使ってしまった気分にすらなる。
「そう言えばさ、僕達って最初はなんの話をしていたんだっけ?」
 一臣に塩対応を取ったことで、ようやく光稀もまともな話に戻ろうと思ったらしい。
 もう少し早くそこに気付いてくれていれば、俺が智加の身体を全身隈なく洗いたがっている変態にならずに済んだというのに。



 その後。俺達四人は修学旅行を楽しむための計画について話し合ったりもしたのだけれど、その話し合いが本格化していくのは二学期になってからになりそうだった。
 そして、この時の俺はまだ知らなかった。
 この時、全くの時間の無駄だと感じていた光稀の話が、実は全くの時間の無駄ではなく、俺にとってはちゃんと考慮しておくべき重要な点であったということを……。
 修学旅行初日の夜。俺は自分が今までとんでもない勘違いをしていたことを、自分の行動で思い知らされることになる。


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