モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

藤宮りつか

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番外編 モノグサ男子の恋

    モノグサ男子の恋(13)

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「いやもう、ほんと凄かったよな、今日の天馬」
「俺、一体なんのイベントなのかと思って、わざわざ屋上まで見に行っちゃったよ」
「俺も」
 卒業式後の俺への告白イベントは、卒業祝賀会の席でも話題にされてしまい、俺は非常に気分が悪かった。
 あのイベント――俺はそう言いたくないのだが、後半になるにつれ、そう表現せざるを得なくなっていった――は、いつの間にやら学校中に知れ渡り、面白半分に見に来る奴や、俺に告白するつもりのない女子まで列に並んだりして屋上は大盛況。本当にただのイベント会場みたいな有り様になっていた。
 そうなってくると、最初は「好きです」の告白ばかり受けていた俺も、「卒業おめでとうございます」だの「一度お話してみたかったんです」なんていう、告白以外のことを言ってくる女子の相手までいちいちしなければならなくなった。
 正直、告白するわけじゃないなら列に並ばないで欲しい、とも思ったが、相手を傷つけずに済むという点においては、告白されるよりも、ただ俺の卒業を祝ってくれたり、一言二言会話を交わすだけで満足してくれる相手の方が楽ではあった。
 屋上で開催されていた告白イベントは、当然智加、一臣、光稀の耳にも入り、三人がその様子を見に来たりもしたわけだけど、一向に終わりそうにないイベントに三人は飽きてしまったのか、少し離れた場所に座り込み、俺が全ての女子への対応を終わらせるまでの間、時折俺の様子を眺めながら、三人で全く関係のない話をしているようだった。
 本当なら、卒業式が終わったら一度家に帰り、少しのんびりしてから夕方の卒業祝賀会に出席しようと思っていたのに。
 わけのわからないイベントのせいで、一度家に帰る時間がなくなってしまった俺だった。
「っていうかさ、天馬って高校生活の中で一体何人の女子から告白されたんだよ。一年の時から頻繁に呼び出しを受けては告白されてたよな?」
「頻繁ってほどに呼び出されてはいなかったと思うし、その人数まで憶えてない」
「いやいや。自分に告白してきた女子の数を憶えていられないくらいに告白されてるんだから、“頻繁じゃない”とは言わせないぞ」
「それな。まあ、仮に憶えていたとしても、今日の一件でわからなくなっただろうけどな」
 卒業祝賀会は某中華料理店の座敷で行われ、制服ではなく、私服で参加している生徒が多かった。ほとんどの生徒が一度家に戻り、夕方になってから祝賀会に参加しているからだろう。
 そんな中、学校から直接祝賀会の会場に来た俺と智加は、制服姿のまま並んで座っているから、浮いていると言えば浮いている存在なのかもしれない。
 もちろん、他にも制服姿の人間もいることはいるのだが、私服姿の生徒の中に上手くまぎれている感じがして、あまり浮いているようには見えなかった。
「でも、そんだけ告白されてきたにも関わらず、高校では誰とも付き合わなかったんだよな。もったいない」
「ひょっとして、誰か本命がいたりするの? もしくは、校外に彼女がいたりとか?」
「そういう話はやめてくれ。好きじゃないんだ」
 全く。何が悲しくて、卒業を祝う席で色恋沙汰の話に巻き込まれなくちゃいけないんだ。今は卒業を祝う会なんだから、もっと高校生活の楽しかった思い出について盛り上がって欲しいものだ。
 そりゃまあ、学校の中で起こったことは全て高校生活の思い出になるわけだから、学校で行われた告白劇も立派な思い出にはなるんだろうが、俺にとってはあまりいい思い出にはならないから、できれば振って欲しくない話題なのだ。
「否定するでも肯定するでもない。どっちかわからない返答とは卑怯な」
「桐生は何か知ってるんじゃないの? 高校の三年間をずっと天馬と一緒に過ごしてるんだからさ」
「へ? ぉ、俺?」
 でもって、俺から情報を聞き出せないからって、俺に代わって智加から俺の情報を聞き出そうとするのはやめて欲しいものである。聞いたところで智加だって答えられないぞ。
 何せ智加は知らないんだからな。俺の本命は智加で、高校の修学旅行以来、俺がずっと智加のことを想い続けているだなんてことは。
「そうそう。何かあるだろ。天馬が人に隠してる秘密」
「って言われても……天馬に秘密なんてないと思うんだけど……」
 いつも俺と一緒に行動を共にしている智加も、俺の浮いた話や女の影を見聞きしたことがないから、聞かれた質問には自信がなさそうに答えていた。
 答えた直後、不安そうな顔になって俺をちらりと見上げてくる智加が可愛い。
「えー? そうなの? つまらないなぁ。いつも天馬と一緒にいる桐生なら、俺達が知らない天馬の秘密をいっぱい知ってるだろうと思ったのに」
「ご……ごめんね。何も知らなくて……」
 俺が女性問題のことで智加に隠し事をしているわけではなく、俺には本当に女性問題に関しての隠し事がないというのに。期待していた返事を得られなかった相手は残念がり、相手の反応に申し訳なさを感じた智加は自動的に謝ってしまった。
 こいつら……無駄に智加に罪悪感を与えて、智加に謝らせるとは何事だ。許せん。
「智加が謝る必要なんてないだろ。知ってる知らない以前に、俺に秘密なんてないんだからな」
 とりあえず、智加に責められる必要はないと主張したつもりだった俺は
「それってそんなに堂々と主張することか? 言い換えれば、自分にはこれまで付き合ったことのある女性なんていなくて、早い話が“自分は童貞だ”って言ってるようなものだぞ?」
 逆に何故か呆れられてしまった。
 この年頃の男はなんでもかんでもすぐそういう話に持って行くよな。別に俺がいつ童貞を捨てようが、それは俺の自由だろう。
 もっとも、智加のことが好きで、智加のことを性的な目で見ている俺は、智加で童貞を捨てたいという願望を持ってはいるが。
「そういうお前は経験済みなのか?」
 あまりこの場に相応しい会話ではないと思ったものの、言われっぱなしなのもなんだから聞き返してやると
「うっ……それはまあ……想像にお任せってやつだよ」
 という、決まり悪そうな返事が返ってきた。
 そういうものだろう。高校生にもなれば性体験を経験している奴もいるにはいるが、未経験という人間もそこそこいるものだ。高校生のうちに童貞を捨てられなかったとしても、別に恥ずかしい話ではない。
 なんて、ちょっと呑気なことを考えていたら――。
「お? 何々? お前らなんの話してるの? なんか今、童貞とか経験済みとか聞こえてきたけど」
「天馬もそういう話とかすんの? 俺も混ぜてよ」
 俺達の会話を耳聡みみざとく聞きつけた数人の男子が、俺達の会話の中に混ざってきた。
 どうしてこのタイミングで聞かれたくない単語を聞かれてしまったんだか。最近の俺は運でも悪いのか?
 クラスの一員として、俺もそれなりにクラスメイトとは仲良くしてきたわけではあるものの、基本的には智加とずっと一緒にいたのだから、この祝賀会でものんびりまったり智加と高校生活を振り返りたかった。
 そりゃまあ、少しくらいは他の人間と交流してもいいが、話の内容が色恋沙汰になるのは勘弁して欲しい。
「そういや、天馬の浮いた話なんて聞いたことがないよな。モテる男の恋愛事情とか知りたいわ」
「だから、俺に浮いた話なんかないんだって」
「嘘つけ。この歳になって“何もない”なんてことはないだろ。しかも、あんだけ女子にモテてたんだから」
「ない」
「いや。俺は信じない」
「勝手にしろ」
 新たに加わった顔ぶれのせいで、またしても同じような会話の繰り返しが面倒臭い。
 それに、人見知りをする智加はあまり大人数が得意ではないから、いつも一緒に行動している人数以上――つまり、四人以上の集団になると、急に口数が少なくなってしまいもする。
 おまけに、その中にあまり親しくしたことがない相手が混ざっていようものなら、落ち着かなさそうにそわそわもする。
「じゃあさ、天馬の好みのタイプってどんな子? それくらいは教えてくれてもいいだろ? 実はずっと気になってたし」
「俺の好みのタイプなんか聞いてどうするんだよ」
 俺でもあまり話をしたことがない相手に、興味津々な顔で距離を縮めて来られた俺は反射的に身体を引いてしまい、その結果、智加と身体が触れ合うことになったのだが、俺に相手が詰め寄って来ると、俺の隣りにいる智加とそいつの距離も縮まることになってしまう。
 智加はそのことが少し怖かったのか、俺の肩が智加の肩に触れたと同時に、俺の制服の裾をキュッと掴んできた。
 男ばかりの集団に囲まれている状況は好ましくないが、俺に頼ってくる智加の反応が可愛いから良しとしよう。
「それはまあ、今後の参考として? 一応聞いておこうかな? っていう……」
「俺の好みのタイプが、お前の今後の参考になるとは思えないんだが」
「いいから教えろって。気になるんだよ」
「はぁ……」
 どうしてそんなものが気になるんだか。俺の好みなんてどうでも良くないか?
 そもそも、好みのタイプを聞かれたところで、俺は自分の好みのタイプなんてわからない。そんなものは今まで考えたことがなかった。
 しかし、智加のことを好きになった俺だから、俺の好みのタイプは智加、ってことにはなるのだろう。
 だが、そんなことを馬鹿正直に答える必要はない。
「タイプとはちょっと違うかもしれないが、俺にとって“一緒にいても面倒臭くない”が絶対条件ではあるな」
「あー……天馬って面倒臭がりだもんな」
「おう」
 まずは具体的なタイプではなく、俺が相手に好感を持つ絶対条件を話したら、その場にいた全員から酷く納得した顔をされてしまった。
 どうやら俺は、周囲の人間から余程の面倒臭がりだと思われているらしい。
 まあ、事実だから構わないが。
「顔の好みは? 可愛い系と綺麗系だとどっちが好みなわけ?」
 今度は別の奴から矢継ぎ早に質問が飛んできた。
 なんだってそう俺の好みに興味津々なんだ。俺にはさっぱりわからない。
「可愛い系……かな。多分……」
 多分、ではなく、絶対、ではあるのだが、そこはあえて曖昧にしておく。俺が無類の可愛いもの好きであることを知られないためと、万が一にもないとは思うが、俺の好きな相手を特定されないためだ。
「可愛い系かぁ……。天馬は綺麗系が好みだと思ったんだけどな。ちょっと意外かも」
「でもほら、天馬ほどの長身イケメンにもなると、女子は全員可愛い系になるのかもよ?」
「なるほど。ありえるな」
「具体的には、どう可愛いのが好みなわけ?」
「はあ? そこまで言うのか?」
「いいじゃん。高校生として俺達とこういう話をするのも今日が最後なんだからさ。ここは思いきってぶっちゃけトークしようぜ」
「~……」
 いくら高校生最後だからって、果たしてこいつらとぶっちゃけトークをする必要はあるのか? という疑問はある。
 しかし、大学付属でもない公立高校に通う生徒の進路にもなると、見事に全員バラバラって感じでもあるからな。今ここにいるクラスメイトの中で、俺と同じ大学に進学したのは智加を除くと確か二人……いや、三人だったかな? とにかく、今ここにいる人間のほとんどが、四月からはそれぞれ別々の場所で新生活を始めることになる。
 もっとも、学年全体になると四月からも引き続き顔を合わせる人数も増えるだろうが、その数だってたかが知れていると思う。
 そうなると
(最後くらいは多少面倒臭い話にも付き合ってやるか……)
 という情け心も出てくるというものだ。今日が終わってしまえば、次にこいつらと会うのはいつになるかわからないんだからな。
「どうって言われてもな……。なんていうか、思わず抱き締めたくなるような可愛さ? ついつい構ってやりたくなったり、絶対に守ってやらないと、って思えるような奴かな。あと、笑顔が可愛くて、存在自体が癒される奴」
 全部智加のことである。今言った特徴は、全て何度も俺にそう思わせてきた智加の可愛さである。
 それにしても、具体的に自分の好みを口にするのって、思った以上に恥ずかしいものなんだな。たまには……と思ったが、早くもこういう話をやめたくなってきた。
「なんだよ、天馬。恋愛には全然興味ない、みたいな顔をしてるわりには、彼女とイチャイチャしたい願望はあるんじゃん」
「今の話を聞いたら、天馬と付き合いたいと思う女子がまた増えそうだよな」
「たとえば? たとえばうちのクラスで言ったら、どういう女子がそれに近いわけ?」
「は? うちのクラス?」
 うちのクラスで、と言われた瞬間、智加のことを言われているのかと思って気持ちが焦ったが、続く“女子”という単語に、そうではないとわかってホッとした。
「うちのクラスの女子か……」
 ぶっちゃけた話、俺はうちのクラスの女子を異性として意識していないし、恋愛対象としても見ていないのだが。
(ここは形だけでも興味がある振りをしておいた方がいいんだろうな……)
 なので、うちのクラスで貸し切りになっている座敷を見渡してみたが、これと言って目に留まるような女子は一人もいなかった。
 この場合、俺はどう答えたらいいのだろうか。
 普通に
『うちのクラスにはいないな』
 でいいのか?
 だが、うちのクラスには現在俺が片想い中の智加がいる。「うちのクラスにはいない」では、智加を好きな自分を否定するみたいで少し嫌だ。
 かと言って、誰か適当な女子の名前を挙げて、本命である智加の前で、智加以外の人間を自分の好みにしてしまうのも、それはそれで嫌だった。
(うーん……どうしたものか……)
 答えに迷う俺が、時間稼ぎに視線を彷徨さまよわせていると
「そんなに迷うか? ま、うちのクラスの女子って結構レベルが高いと思うから、迷うっちゃ迷うかもしれないけど」
「でもさ、うちのクラスの女子と言ったら、やっぱり……なあ?」
「だよな」
 何やら周りが勝手に盛り上がり始めた。
 どうやら、こいつらの中では「うちのクラスの女子と言えば」という人物が決まっていて、しかも、その人物は全員の中で一致しているようだった。
 俺はそういう情報には滅法疎いから、それが誰なのかは見当もつかない。
 だが
「白石とかどうなの? うちのクラスだけじゃなく、学校中の男子から人気があるじゃん。天馬ほど目立ったモテ方はしてないけど、うちの学校で女版天馬と言えば、白石って感じだよな」
 そう言われたことで、それが白石のことだと初めて知った。
「白石か……」
 白石杏里。俺とは一年の時と三年でクラスが一緒になり、何度か会話を交わしたこともある。そんなに親しい間柄というわけでもないのに、俺のことは「天馬君」と下の名前で呼んでくることが、若干違和感だったりもする。別に嫌というほどでもないが。
 白石が男子に人気があることはなんとなくわかっていたが、俺が白石に興味がないせいか、白石の男子からの人気具合なんて、わりとどうでもいいことだった。
「そうだなぁ……」
 どうなの? と聞かれたら、答えに迷っていた俺は改めて白石に視線を向けてみるしかない。
 少し離れた場所で女子同士で話をしている白石を眺めていると、自分に向けられる視線に気が付いたのか、こっちを見てきた白石と目が合ってしまった。
 俺と目が合うなり、白石は少し驚いた顔になったものの、すぐさま愛想のいい笑顔になって俺に笑いかけてくる。
 話していた内容が内容なだけに、白石に笑いかけられてもなんだか気まずい。
「ほらほら。あの笑顔、可愛くね? 癒されるじゃん」
「あれが自分の彼女だったら……と思うと幸せだよな」
 白石に視線を向けていたのは俺だけでなく、俺の周りにいる人間は全員白石のことを見ていた。
 なので、白石に注目していた人間の全員が、こっちに向かって笑顔を見せる白石に沸いたのだが、俺は特になんとも思わなかった。
 ついでに言うと、俺の隣りで同じく白石を見ている智加も、反応は他の男子と違っていた。不安そうな顔をして、俺の制服を掴んだままになっている手に力が入ったみたいだったが、智加は一体何を不安がっているんだ?
 高校生活の中であまり女子とやり取りをしたことがない智加からしてみれば、女子と目が合うことは戸惑うだけなのかもしれない。
「俺は特に何も。確かに可愛いのかもしれないが、俺の好みではないな」
 ここにいるほぼ全員が白石のことを可愛いと思っているのに、この発言はどうかと思ったが、事実だから仕方がないだろう。
 案の定
「マジ? あれが好みじゃない男がいるのかよ。お前、どんだけストライクゾーン狭いの?」
「どう見たって可愛いだろ」
「天馬の好みってわかんねー」
 俺は男子からの総攻撃を受ける羽目になったわけだが、俺を責める野郎共の顔はどことなく嬉しそうでもあった。
(ひょっとして……)
 その顔と反応を見てピンときた。
 白石は学年でも数少ない、俺と同じ大学に進学した生徒の中の一人だ。高校に引き続き、大学でも白石と一緒になる俺に、白石とは同じ大学に通えなかったこいつらは、探りを入れてきているのではないだろうか。
 一体なんの探りかと言えば、俺に白石に気があるかどうかの探りだ。俺が白石に特別な感情を持っていれば、大学に入ってから白石に告白するとでも思っているのかもしれない。
(だから、俺に色恋沙汰の話を振ってきたのか?)
 今日、この後で智加に告白するつもりでいる俺には、百パーセントありえない話だ。
「ってことは、つまり天馬は白石を恋愛対象としては見ていない、ってことだな?」
「ああ」
「よっしゃーっ! 一番厄介なライバルが減った!」
「天馬と白石って春から同じ大学に通うからさ。天馬が白石のことをどう思っているのかが、ずっと気になってたんだよな」
「最後に白石に対する天馬の気持ちが聞けて良かったよ」
 やっぱりな。一番知りたかったところはそこかよ。だったら回りくどい聞き方をせず、最初からそう聞け。
 女は女で面倒臭いが、男も男でわりと面倒臭いな。
「いやさぁ~、ほんとそこが気掛かりで、それを聞かないままに卒業するのは心苦しかったんだよな」
「卒業後、白石と同じ大学に通うことができる天馬は、いくらでも俺達を出し抜けるからな。その天馬が白石狙いだったらと思うと、白石推しの俺達としては気が気じゃないよな」
「数年後の同窓会なんかで“付き合ってる”だとか“結婚する”なんて話は聞きたくないもんな」
「天馬にその気がなくてホッとしたよ」
「ああ、そうかよ」
 俺に白石を狙っているかどうかを確認するがために、俺は人前で自分の好みを口にするという、はずかしめを受けたのかと思うと遣る瀬ない。
 が、俺が白石に対して特別な感情を持っていないことがわかれば、これ以上俺の好みについて追究されることもないだろう。そこだけは良かった。
「ねー。なんか男子だけで盛り上がってるみたいだけど、せっかく最後なんだからさ。もっとみんなで一緒に盛り上がろうよ」
 俺達の集団が一際大きな盛り上がりを見せたせいか、それまでわりと仲良しグループで固まっていたクラスメイト達も、みんなで一緒に騒ぎたいという気持ちになったらしい。
 先程、俺達の視線が向けられていた白石達のグループの女子がそう言い出し
「おー。それもそうだな」
 これはチャンスとばかりに、白石狙いの男子が数人、白石達のグループへと移動していった。
(これでやっと静かになる……)
 せっかくの卒業祝賀会なのに、ちっとも智加と喋ることができなかった俺がホッとすると、あちこちに散って行く男子に智加も安心したのか、俺の制服を掴んでいた手をようやく離した。
 別にそのまま掴んでくれていても構わなかったんだけどな。
 俺の制服から手を離した智加は、自然と智加に視線を向けてしまう俺に向かって
「天馬は女子にも男子にも人気だね」
 と、クソ可愛いはにかみ笑顔で言ってきたから、俺の方から思わず智加を抱き締めそうになってしまった。
 これだよ。この思わず抱き締めたくなる可愛さ。俺をこんな気持ちにさせるのは智加くらいのものだ。
 こんなに可愛い智加がいつもすぐ傍にいるのに、俺が他の人間に目移りするはずがない。周りの人間がどれだけ他の誰かのことで騒いでいたとしても、俺の興味の対象は智加ただ一人だし、俺にとっては智加がこの世の中で一番可愛い。
 この祝賀会が終わったら、俺は智加に告白するつもりでいるのだが
(智加を是が非でも俺のものにしたい……)
 と思ってしまう、さもしい俺の運命は如何に……である。



 ところが、運命……いや、世の中というものは俺にとってとことん上手く行かないようで、散々時間を掛けて智加に告白する決意や計画を固めたにも関わらず、夜の公園で二人きりになった智加に、俺は告白することができなかった。
 それは何故かと言うと、俺が智加に告白するよりも先に、智加の方が俺に告白をしてきたからだった。
 智加とはずっと友達以上の関係を望んでいた俺にとって、智加からの告白はもちろん嬉しかったし、驚きもしたのだが、それと同時に
(こんな展開になるんだったら、今までの俺は一体……)
 と、言葉では言い表せない虚しさを感じた。
 好きな相手には自分から、という、男としてのプライドというか、面子も丸潰れと言った感じで、ただただ自分が格好悪かった。
 一瞬、智加のことは一度振ってしまって、改めて自分から告白し直そうかとも思ったほどだ。
 しかし、せっかく智加が勇気を出して告白しれくれたのに、振るだなんてもったいない。それに、俺に振られた智加が傷つくのだって目に見えている。
 自分の勝手な都合で智加を傷つけるなんてことは、とてもじゃないが俺にはできなかった。
 だから、俺の出した答えは
「じゃあ付き合う?」
 という、何やら曖昧で、あまり男らしくないものであった。


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