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番外編 モノグサ男子の恋
モノグサ男子の恋(14)
しおりを挟む今思うと、最初にあんな曖昧な返事をしてしまったことが間違いだったんじゃないかと思う。
せっかく智加が勇気を出して
「俺っ、天馬が好きっ!」
と言ってくれたのだから
『俺も智加のことがずっと好きだったよ』
くらいは言えば良かった。
それなのに
「じゃあ付き合う?」
では、俺が智加のことを好きだという気持ちがちっとも伝わっていない。伝わっていないどころか、あまり智加に興味を持っていなかった人間みたいな印象を与えてしまったかもしれない。
ただでさえ、俺は智加に自分の気持ちを隠す癖がついてしまっているのだから、自分の気持ちを伝えられる時は伝えておかないと、ちゃんと伝えるタイミングを失ってしまうじゃないか。
自分でもそう思ってしまうのだから、案の定、俺が智加の告白を受け入れた時は智加もびっくりしている様子だった。
多分、智加にはこの一年半もの間、俺が密かに胸に秘めていた智加への気持ちが全く伝わっていなかったんだろうな。
「ほ……本当に俺と付き合ってくれるの?」
半信半疑に聞き返してくる智加に
「ああ」
とだけ答える俺も愛想がなかった。
内心、その場で逆立ちするなり、小躍りするなりしてもいいくらいに浮かれていた癖に。
「なんてことが、俺にもあったんだよなぁ……」
あれから時は過ぎ、俺と智加が付き合い始めてから、もうすぐ五ヶ月が過ぎようとしていた。
最初はそれまでの友達同士となんら変わり映えのしない付き合い方をしていた俺と智加も、付き合い始めて五ヶ月も経つと、さすがにちょっと……いや、かなり恋人同士らしくなってきたものである。
俺と智加はこの五ヶ月の間に、恋人同士としての一通りを済ませてしまってもいた。
これには少なからず――どころか、一臣と光稀のお節介やら協力やらが大いに関係しているわけなのだが、一番大きかったのは、俺と智加が大学生活を始めるにあたり、ルームシェアという形で一緒に暮らすようになったことが最大の理由だったんだろう。
もっとも、その機会を与えてくれたのは一臣であり、最初にそんな話が俺の耳に入ってきた時は
『いくら智加と一緒に住めるからとはいえ、家賃なしはさすがに気が引ける』
と、あまり乗り気になれなかったりもしたんだけどな。
しかし、最初は俺と同じ気持ちだった智加が、一臣や光稀の巧みな言葉に籠絡されて俺を説得してきたうえに、一臣の父親にまで
『天馬君。どうか一臣の誘いを受け入れてやってはくれないかね? 父親としても、可愛い末息子が実家を離れて暮らすことには懸念も多いのだよ。一臣の傍に信頼できる友人が一人でも多くいてくれれば、私の心配や不安も少しは和らぐのだがね』
と言われてしまっては、逆に断るほうが失礼だという気がしてきて、一臣からの誘いを受けることにしたのであった。
父親だけでなく、家族全員が一臣のことを溺愛しているのは知っているが、可愛い末息子のためなら大学の近くにマンションを一棟建ててしまい、その一室を無償で他人に提供するだなんて……。
全くもって、金持ちの金の使い方は庶民の俺にはよくわからない。
何はともあれ、そんな経緯があって恋人関係を結んでから一ヶ月もしないうちに、智加との共同生活が始まることになってしまった俺は、自分が智加の恋人として、どう振る舞っていいのかもまだ定まっていない状態でもあったから、あまり手放しで喜べないところがあった。
嬉しい気持ち半分。不安に思う気持ち半分。って感じだったかな。せっかく智加と恋人同士になれたのに、一緒に暮らし始めたことで智加に幻滅されたり、嫌われたくはなかったから。
だが、智加は急遽一緒に住むことになった俺に幻滅することも、嫌悪感を抱くこともなく、むしろ意外にも積極的だった。
ルームシェアを始めてから間もなく、俺と智加の間で“おはよう”と“おやすみ”のキスが習慣になったのも、智加が言い出したことだった。
異性に対しては頗る消極的で、色恋沙汰には疎いどころか、まだ早いんじゃないか? とさえ思っていた智加が、心の中では俺と恋人らしいことをしたくでうずうずしている姿は、智加の前でどう振る舞っていいのかを悩んでいた俺に、勇気と自信を与えてくれもした。
と言うより何より、何も知らない純粋無垢なお子様だと思っていた智加が思いの外にいやらしかったことに、俺は意外性と喜びを感じてしまった。
智加が俺と健全な関係だけでは満足しないと知るや否や、それまで自分の中で抑えつけていた欲望が、徐々に解放されていくのも感じた。
それでも、智加に先を越されてしまった敗北感や、智加に無断でファーストキスを奪ってしまった罪悪感が邪魔をして、なかなか自分の本心を晒すことができない俺もいた。
しかし、智加が俺を思い浮かべて自慰行為に耽っていると知った時は、さすがに俺も我慢ができなかったんだよな。
あの時は、まさか智加が俺をオカズにヌいているとは思わなくて、「智加もAVなんか見るのか……」と思ったくらいだ。
それが実際にはどうだ。智加は俺を思い浮かべながら、その小さくて可愛い手で一生懸命自らを慰めていたのだから、俺に我慢をしろと言うほうが無理な話だ。
結局、その日のうちに智加とは疑似セックスのようなものまでした俺は、そこからどんどん歯止めが利かなくなっていったようにも思う。
「なあに? 天馬。今何か言った?」
七月某日の夜。現在、俺のために夕飯を作ってくれている智加が、我が家の台所に立っている。
明日から大学が夏休みに入る俺と智加は、これから約二ヶ月間、誰にも邪魔されることなく恋人同士の時間を過ごせることに、お互いうきうきしてもいた。
智加と恋人同士になってから、初めての夏休みでもある。
もちろん、夏休み中もバイトはするし、実家にも帰省する予定ではあるが、大学に行かなくてもいいぶん、智加と二人きりで過ごす時間が圧倒的に増えることは事実だ。
明日から始まる長い夏休みを智加とどう過ごそうか……と、夕飯ができるまでリビングのソファーに座ってのんびり考えていた俺は、いつの間にやら智加との様々なエピソードを思い出し、懐かしい気持ちになっていたようだ。
まだそんなに遠い過去の話でもないというのに妙に懐かしく感じてしまうのは、あの頃とは比べものにならないくらい、俺と智加の関係が変わったことと、俺が智加への気持ちを素直に口にすることができるようになったからだろうな。
昔を懐かしみ、思わず口から洩れてしまっていた俺の独り言を耳にした智加は、料理の手を止め、大きくてキラキラ光る愛らしい瞳を俺に向けてきた。
先日、俺達の中ではもうお馴染みになりつつある白玉スイーツ専門店のキャラクター、白玉ちゃんのエプロンを着けて台所に立っている智加が可愛過ぎる。
俺に白玉ちゃんグッズを買い与えられるたびに智加は大層ご立腹するのだが、なんだかんだとちゃんと使ってくれているところがまた愛おしい。
「いや、別に。こうしてのんびりリビングで寛ぎながら、智加を眺めているのも幸せだと思ってさ。ついつい幸せの独り言が出てしまったみたいだ」
「えー? 何それ」
智加は俺の言葉に「何それ」と言いながらも、顔は物凄く嬉しそうだった。
俺からの愛情表現が大好きな智加は、少しでも俺の愛を感じられる発言を耳にすると、いつもこうした嬉しそうで幸せそうな顔をする。
「そう言う天馬は、休みの日にリビングで寛ぎながら、お嫁さんの手料理の完成を待つ旦那さんみたいで、俺に新婚気分を味わわせてくれて幸せなんだけどね」
「ほう……」
俺が「智加の姿を眺めているだけで幸せだ」と言ったお返しなのだろうか。智加は智加で、俺と一緒に過ごす空間が「幸せ」だと言う。
(お互いに思うところは一緒ってことか)
一見タイプの違う二人に見えるだろうが、俺と智加は似ているとことも結構あるもので、お互いがお互いに求めていることだとか、一緒にいて感じることなんかはわりと同じであることが多い。
そもそも、俺と智加がかなり前からお互いに好き合っていたにも関わらず、恋人同士になるまでに時間が掛かってしまったのも、二人揃って同じようなことで思い悩んでいたからだ。
そういう意味では、俺達は似た者同士のお似合いカップルなのかもしれない。
好きな相手と一緒に暮らしていることで“新婚生活みたいだ”という感想を抱いてしまうのも、俺と智加の感性が同じだからだろうな。
台所に立つ智加を見て、俺が幸せを感じてしまうのも、智加が自分の嫁のように思えたからだった。
付き合い始めてまだ五ヶ月のカップルが、同棲している事実より新婚生活を思い浮かべているあたり、妄想力が豊かって感じもするけどな。
俺にしても智加にしても片想い期間が長かったせいで妄想力が鍛えられ、恋愛に関しては夢見がちな思考になってしまったのかもしれない。
まあ、それでも本人達が幸せならいいと思う。
それに、智加も俺との生活に新婚生活を重ねているのだとしたら、俺もそれっぽい振る舞いをしても構わないということだ。結婚したばかりの夫婦が、どんな新婚生活を送っているのかは知らないが。
でもまあ、好きな相手とどんな風に過ごしたいかなんて、人それぞれだよな。
要するに、好きな相手とどんな風にイチャイチャしたいかってだけの話だから、決まりなんてものはない。
「って、なんか俺、浮かれて図々しい発言しちゃってるよね。俺が天馬のお嫁さんになんてなれるわけがないのに」
俺は智加のことを図々しいだなんて思わなかったのに、智加は自分の発言が浮かれついでの失言だと思ったのか、慌てて俺から視線を逸らせると、気まずさを取り繕うように、せっせと手を動かし始めた。
全く……。相変わらず控えめな性格だよな。
俺と付き合っていて、セックスまでした仲なのに、智加にはまだ俺に愛されている自信がないのだろうか。
確かに、俺と智加が事実上の夫婦になることはできないが、だからと言って、俺と智加がずっと一緒にいられない理由にはならない。
お互いがお互いのことを好きでいて、一緒にいたいと思う限り、俺と智加の関係は続いて行くんだ。一生別れる気がないのであれば、俺にとっての智加は生涯の伴侶となる。
もちろん、俺と智加はまだ付き合い始めたばかりと言ってもいい段階で、そんな先のことまではなんとも言えないが、少なくとも、今の時点で俺に智加と別れる気はゼロだった。
むしろ、一生一緒にいたいと思っているくらいだから、俺にとっての智加は最早俺の嫁だった。
それほど俺に愛されているというのに、当の本人である智加は、いまいち俺の愛の深さがわかっていないようである。
これはもう、俺がもっと智加に対する愛情表現を頑張るしかないな。今でも結構頑張っているつもりではあるが。
「でも、俺……ひゃんっ!」
俺は夕飯作りに没頭している振りをする智加に音もなくそっと歩み寄ると、俺に気付かず何かを言い掛ける智加を後ろからふんわりと腕の中に包み込んだ。
「てっ……天馬?」
智加はびっくりした顔で俺を振り返ってきたが、狼狽えながらも智加の瞳はうっとりとした様子だった。
「そんなことはないよ。現時点で、智加は俺にとっての可愛い嫁だ」
智加の見せた表情で、俺と智加の間に甘い空気が流れたのに任せて、俺が歯の浮くようなセリフを口にしてみると
「天馬……」
智加のうっとりとした表情は更にうっとりと恍惚としたものに変わり、今にも俺に身を委ねてきそうだった。
智加のこの何も知らなさそうで純粋無垢に見える癖に、すぐに俺を求めてくるところが堪らなくいい。
ギャップ萌えとでも言うのだろうか。見た目はこんなに可愛くて幼いのに中味はちゃんとエッチなんだな、って思うとテンションが上がる。
自分が智加から愛されていて、求められていることもわかるから、喜びも倍増って感じだしな。
「ず……ズルいよ、天馬。そんなこと言われちゃったら、俺、夕飯作るどころじゃなくなっちゃう……」
「ん? そうなのか? じゃあ、夕飯は後にするか」
「え?」
智加に俺がどれだけ智加のことを愛しているのかをわからせようと思って、台所に立つ智加の邪魔に入った俺だったが、智加に触れると我慢ができなくなるのは俺も一緒で、せっかく智加が夕飯を作ってくれているというのに、夕飯よりも先に智加を頂きたくなってしまった。
「でっ……でもっ……ご飯作ってる途中だし……」
「途中って言っても、後はそこの材料を炒めるだけだろ? 炒める前なら中断は可能だ」
「そっ……そうかもしれないけどぉ……」
自分の発言がきっかけになり、こういう展開になってしまったことに智加は大いに戸惑ったけれど、智加を抱き締める俺の腕の中からは逃げようとしなかった。
長い片想い期間を終え、晴れて恋人同士になった俺と智加は、肉体的な関係を持ったことで、更にお互いを強く求めるようになったのだと思う。
言ってしまえば、何かとイチャイチャしたい時期なんだろう。
智加と付き合い始めたばかりの頃は、自分の振る舞いや智加への態度に悩んでいた俺が嘘のようだ。
「俺は今すぐ智加を頂きたい」
少し前までは、とても自分の口から発せられる言葉とは思えないようなことも、平気で口にできるようになっている自分には少し驚く。
それでも、智加と一緒に過ごす時間が長くなれば長くなっていくほど、それが普通になっていくようにも思う。
「ぉ……俺だって……今すぐ天馬が欲しいと思ってるよ」
結局、お互いの気持ちが一致してしまうと夕飯は後回しになってしまうわけで、俺はそのまま智加を抱き上げるとリビングのソファーに移動した。
智加をソファーの上に下ろし、智加の上に覆い被さると、どちらからともなく熱い口づけの応酬が始まった。
おそらく、出逢った瞬間から始まっていたであろう俺の恋は、散々遠回りをした挙げ句に実を結び、現在幸せまっしぐら――という感じである。
この先、俺と智加の恋の行方がどこに向かうのかはわからないけれど
(このままずっと智加と一緒にいられたらいいな……)
と思う俺だった。
――完――
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