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再会
再会1
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ソフィアたちはなんとか冬を越し、今ではドレスの注文をとって生計を立てていた。侯爵令嬢が町娘たちのドレスを縫ってくれるという評判は上々だ。確かにヴィンセントは婿養子なのでソフィアは侯爵のままだが、今の生活はどこを切り取っても貴族であるとは言い難かった。
あばら家の庭には人参、玉ねぎなど食べられるものが植えられ、ラズベリーは出来るだけ収穫しジャムにして売ったりした。
そんな生活を送る中、キャサリンが妊娠した。ソフィアは大喜びしたが、キャサリンは申し訳無さそうに「侍女が一人しかいないのに…ごめんなさい」と謝った。
「謝らないで頂戴。赤ちゃんが生まれるなんてこんな幸福なことあるかしら。知っての通り私は家事を一通りこなせるから任せておいて」
キャサリンはそれでも困った表情のまま「こんなこと母が生きていたら許されなかったわ」と言い、元気がない。キャサリンの母親はシューマン家の家政婦長だった人だ。ソフィアの母親代わりでもあった。
「いいえ、大喜びしてくれるのに決まっているわよ」
「フィフィに迷惑をかけなければね」
ソフィアはキャサリンを抱きしめて「迷惑じゃないわ。私の家事能力が上がるんですもの。私、家族なんて縁がなかったでしょう? キャシーの子供なら私の家族同然だもの。本当にうれしいわ」と励ました。
心から喜んでいるソフィアにキャサリンもやっと笑顔を取り戻して「喜んでくれて嬉しいわ」と涙ぐんだ。
そんな中、ある日大きなお腹を抱えてキャサリンが駆けてきた。
「フィフィ! 大変よ」
二回目の冬を迎え、新年が刻々と近づいていたある日、キャサリンが慌てて家の中へと飛び込んできた。手には封筒があり、縫い物をしていたソフィアは横目で見ながら、「走ってはダメでしょ。また請求書?」とのんびり答える。
「違うわよ、バトラー家から手紙が来たのよ」
一年以上なんの音沙汰もなかったのだから、確かにそれは大事件だ。持っていた針を針山に戻すと、手を出した。そこにキャサリンが手紙を置く。見守られながら封を開けて手紙を広げた。
「これは……困ったわ」
「なんて書いてあるの?」
「王室主催の新年会があるからパーティーに参加するために家に来るようにということみたい。着ていくドレスがないのによりによって王室主催のパーティーだなんて……」
二人とも言葉がなく、互いを見つめ合う。窮地だ。お金があれば至急ドレスを用意できるが──いや、そもそもドレスをもっていようが──とにかくそんな余裕はなかった。
でも、これまで何の連絡も寄こさなかったバトラー家からアクションがあったことは、幸いだったかもしれない。キャサリンの為にもなんとか支援を要請したいと考えているところだったのだ。きっと家庭教師だったグレゴリーが居れば、起死回生案を見つけてくれただろうが、グレゴリーはもう居なかった。キャサリンと共に家庭教師だったグレゴリーはソフィアの心の支えだった。父の行いで世の中の人が全てそっぽを向く中、二人が人としての愛情や常識を授けてくれたのだ。
「ドレスはないけれど、行ってみるわ」
キャサリンはソフィアの手を咄嗟に握った。
「ダメよ……もうこれ以上フィフィに悲しい思いをしてほしくないわ」
平民より劣ったドレスで、男爵家とはいえ大いに成功している家に赴くのは確かに苦行だった。ソフィアは空いている手をキャサリンの手の上に重ねた。
「ねぇ、私はキャシーのお腹の子を見たいし、元気に育ってほしいのよ。私はこのまま……もしかしたら子供も持てないかもしれないもの。だからね、どんなに惨めでも構わない。あちらに行って、もう少し生活がマシになるように交渉してくる。キャシーだって私の立場ならそうするでしょう?」
キャサリンはもうほとんど泣いていた。真っ赤になった目は潤み、唇が震えている。
「そうかもしれないけど…辛いわ。この先どんなに貧しくなっても、私はフィフィについていく。それに五年後、きっぱり離縁してもらって、いい相手を探しましょう。私だってフィフィの子供を見たいもの」
ソフィアはふんわり微笑んでいた。
「不思議ね。苦しいことばかりなのに、キャシーとベンが居てくれるから全然苦じゃないの。しかもここに小さな愛すべき赤ちゃんが加わると思うと幸せで仕方ないわ」
キャサリンはとうとう涙をぼろぼろと流して、手の甲でそれを拭った。
「もう、フィフィってば泣かせないでよ」
「キャシーそれは違うわ。最近涙もろいって言っていたでしょ? それに、お腹が空いて仕方がないのでしょう?」
泣き笑いをしたキャサリンが「その通りよ! お茶の時間にしましょう。スコーンを焼いておいたの。頭の中はいつだって食べ物のことばかりよ」と、冗談を言ってからキッチンへとお茶の用意をしに行った。
(そうよ。今更どんなことだって恥ずかしくないわ。私には守りたいものがあるんですもの)
たとえ、ソフィアにまるで興味がない夫が結婚式でベールすら上げなかったとしても、結婚式にそのまま置き去りにされても耐えられた。
着古したドレスを見下ろしてから、窓の外を見やった。葉のない木々が寂しく風に揺れていた。窓の横にはドライフラワーの鈴蘭があり、寂しそうに壁に掛けられている。
(まるで好かれてないんですもの、恐れることなんてないのよ)
今夜は雪が降りそうだ。薪はもう節約したくない。キャサリンの体を冷やすことにならないように、お金が、支援が必要だった。
あばら家の庭には人参、玉ねぎなど食べられるものが植えられ、ラズベリーは出来るだけ収穫しジャムにして売ったりした。
そんな生活を送る中、キャサリンが妊娠した。ソフィアは大喜びしたが、キャサリンは申し訳無さそうに「侍女が一人しかいないのに…ごめんなさい」と謝った。
「謝らないで頂戴。赤ちゃんが生まれるなんてこんな幸福なことあるかしら。知っての通り私は家事を一通りこなせるから任せておいて」
キャサリンはそれでも困った表情のまま「こんなこと母が生きていたら許されなかったわ」と言い、元気がない。キャサリンの母親はシューマン家の家政婦長だった人だ。ソフィアの母親代わりでもあった。
「いいえ、大喜びしてくれるのに決まっているわよ」
「フィフィに迷惑をかけなければね」
ソフィアはキャサリンを抱きしめて「迷惑じゃないわ。私の家事能力が上がるんですもの。私、家族なんて縁がなかったでしょう? キャシーの子供なら私の家族同然だもの。本当にうれしいわ」と励ました。
心から喜んでいるソフィアにキャサリンもやっと笑顔を取り戻して「喜んでくれて嬉しいわ」と涙ぐんだ。
そんな中、ある日大きなお腹を抱えてキャサリンが駆けてきた。
「フィフィ! 大変よ」
二回目の冬を迎え、新年が刻々と近づいていたある日、キャサリンが慌てて家の中へと飛び込んできた。手には封筒があり、縫い物をしていたソフィアは横目で見ながら、「走ってはダメでしょ。また請求書?」とのんびり答える。
「違うわよ、バトラー家から手紙が来たのよ」
一年以上なんの音沙汰もなかったのだから、確かにそれは大事件だ。持っていた針を針山に戻すと、手を出した。そこにキャサリンが手紙を置く。見守られながら封を開けて手紙を広げた。
「これは……困ったわ」
「なんて書いてあるの?」
「王室主催の新年会があるからパーティーに参加するために家に来るようにということみたい。着ていくドレスがないのによりによって王室主催のパーティーだなんて……」
二人とも言葉がなく、互いを見つめ合う。窮地だ。お金があれば至急ドレスを用意できるが──いや、そもそもドレスをもっていようが──とにかくそんな余裕はなかった。
でも、これまで何の連絡も寄こさなかったバトラー家からアクションがあったことは、幸いだったかもしれない。キャサリンの為にもなんとか支援を要請したいと考えているところだったのだ。きっと家庭教師だったグレゴリーが居れば、起死回生案を見つけてくれただろうが、グレゴリーはもう居なかった。キャサリンと共に家庭教師だったグレゴリーはソフィアの心の支えだった。父の行いで世の中の人が全てそっぽを向く中、二人が人としての愛情や常識を授けてくれたのだ。
「ドレスはないけれど、行ってみるわ」
キャサリンはソフィアの手を咄嗟に握った。
「ダメよ……もうこれ以上フィフィに悲しい思いをしてほしくないわ」
平民より劣ったドレスで、男爵家とはいえ大いに成功している家に赴くのは確かに苦行だった。ソフィアは空いている手をキャサリンの手の上に重ねた。
「ねぇ、私はキャシーのお腹の子を見たいし、元気に育ってほしいのよ。私はこのまま……もしかしたら子供も持てないかもしれないもの。だからね、どんなに惨めでも構わない。あちらに行って、もう少し生活がマシになるように交渉してくる。キャシーだって私の立場ならそうするでしょう?」
キャサリンはもうほとんど泣いていた。真っ赤になった目は潤み、唇が震えている。
「そうかもしれないけど…辛いわ。この先どんなに貧しくなっても、私はフィフィについていく。それに五年後、きっぱり離縁してもらって、いい相手を探しましょう。私だってフィフィの子供を見たいもの」
ソフィアはふんわり微笑んでいた。
「不思議ね。苦しいことばかりなのに、キャシーとベンが居てくれるから全然苦じゃないの。しかもここに小さな愛すべき赤ちゃんが加わると思うと幸せで仕方ないわ」
キャサリンはとうとう涙をぼろぼろと流して、手の甲でそれを拭った。
「もう、フィフィってば泣かせないでよ」
「キャシーそれは違うわ。最近涙もろいって言っていたでしょ? それに、お腹が空いて仕方がないのでしょう?」
泣き笑いをしたキャサリンが「その通りよ! お茶の時間にしましょう。スコーンを焼いておいたの。頭の中はいつだって食べ物のことばかりよ」と、冗談を言ってからキッチンへとお茶の用意をしに行った。
(そうよ。今更どんなことだって恥ずかしくないわ。私には守りたいものがあるんですもの)
たとえ、ソフィアにまるで興味がない夫が結婚式でベールすら上げなかったとしても、結婚式にそのまま置き去りにされても耐えられた。
着古したドレスを見下ろしてから、窓の外を見やった。葉のない木々が寂しく風に揺れていた。窓の横にはドライフラワーの鈴蘭があり、寂しそうに壁に掛けられている。
(まるで好かれてないんですもの、恐れることなんてないのよ)
今夜は雪が降りそうだ。薪はもう節約したくない。キャサリンの体を冷やすことにならないように、お金が、支援が必要だった。
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