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はじける
はじける6
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ヴィンセントは階段を上がったところで宿屋のメイドを捕まえ、ソフィアの部屋を尋ねた。そのメイドに部屋へと案内されドアの前で礼を言うと、すぐにドアをノックした。
「ソフィア?」
何度かノックをしても反応がない。耳を澄ませてみても、ソフィアが動いているような感じはなかった。ただ、カタカタと何かがぶつかっているような音がする。ソフィアは声を出せないので何かの合図かと思い、ヴィンセントはドアを開けてみた。
「ソフィア? 居ないのか?」
中へと入ってみると、もぬけの殻で先ほどの音の正体はカーテンが揺れて時折壁に当たっていたのだとわかった。
ヴィンセントが窓辺へと近づき、空いたままの窓から外を確認すると、強烈な西日の中、そう数は多くない行き交う人々の中にソフィアの背中を見た。服装も町の者とは違うし、何よりずっと見つめてきた背中だ、ソフィアだと確信した。
(窓から逃げ出したのか? ソフィアが?)
驚きから醒めると、ヴィンセントは踵を返し、部屋から飛び出した。つい先ほど登ってきた階段を駆け下りると、騒ぎが収束した大広間を抜けていく。
「おい、ヴィンセント! 一人でどこへ行くんだ!」
椅子を起こしていたレスリーに呼び止められたが、止まらずに「あとで話す!」と返して宿屋を出ていった。
ソフィアが何故部屋から出ていったかはわからないが、遠くに行ってしまいそうで気が急いた。港町メルンは数回しか来たことのないヴィンセントだったが、ソフィアが向かっているのは海の方角だということだけはハッキリしていた。
美しい夕焼けがあまりにも眩しすぎて、目を細めながら走った。
「ソフィア!」
呼びかけて止まる人がいたらソフィアだ。そう思って大声で呼ぶが、足を止めた婦人たちにはまるで見覚えがない。
一方、ソフィアは自分の名を呼ぶ声に気が付き、慌てて建物の陰に身を潜めていた。
(ヴィンセント様だったような気がするけれど……ここにいるはずがないわ。じゃあ、レスリー様? それともグレゴリー?)
レスリーなら隠れる必要はないが、万が一グレゴリーだったら何をするかわからないので出ていけない。
「ソフィア! どこにいる!」
また名を呼ばれて建物から顔を出した。やはりヴィンセントの声にそっくりだ。それが空耳だとしても、グレゴリーではないだろうと踏んで声がする方へと移動する。
刺すような西日に辺りを探し回る男性のシルエットが浮かぶ。顔ははっきり判別できないが、ソフィアはその人がヴィンセントだと確信した。ずっと密かに想いを募らせ見つめてきたのだから間違いない。ただ、その人はソフィアに気が付かずにまた走り出そうとしていた。
「ヴィ……ンセント様!」
呼び止めたい一心で声を上げると、これまでどう頑張っても出なかった声が出た。ソフィアはそのことに自分でも驚いたが、その人物もクルリと向きをかえて言った。
「ソフィア。声が、声が出るようになったのか?」
やはりヴィンセントだった。ソフィアは口に手を当てながら頷いた。
「ヴィンセント様がいらしたから、どうしても呼び止めたくて……」
久々の発声に声がかすれてソフィア自身もどかしい。ヴィンセントはソフィアのもとに歩み寄ってきた。
「そうか。それよりもソフィア、君に言いたいことがあるのだ」
ソフィアも言いたいことがあった。しかも、今なら言えるとも思って口を開く。
「私もです、ヴィンセント様。ずっと隠しておりましたが、私はヴィンセント様を心からお慕いしております。離れたくなく──」
ヴィンセントはソフィアの告白に破顔一笑して、手を伸ばした。ソフィアの手を取るとそのまま手の甲に口づけをした。
「先に言うとは。私が言いたかったのに。ソフィア、私は君を失いたくない。兄に渡すこともできない。私と改めて夫婦として生きていって欲しい。ソフィア、君を愛しているんだ」
そこでヴィンセントはキャサリンに言われたことを思い出して付け加える。
「少し前にクリスティンとは別れた。ソフィアだけを愛すと誓う。私と夫婦になってもらいたい」
ソフィアは呆然と立ち尽くしていた。何が起こっているのか、何を聞いているのか、ただ驚きで動けなくなっていた。
「私、あの……」
嬉しくてソフィアはどうにかなってしまいそうだった。でも、レスリーと事実婚をする約束をしてしまった事実にうろたえて答えられずにいた。
「レスリー様と事実婚をする約束をしてしまっていて……」
「それは反故にして大丈夫だ。レスリーが私にソフィアのもとに行けと言ったのだから」
レスリーの優しさにソフィアはとうとう感極まって泣き出した。
「ヴィンセント様、私……結婚してからずっと幸せでした。皆さん優しくてこんなに温かく接していただいたことがなくて──」
困った顔をしたヴィンセントがソフィアのことを抱き寄せた。
「これからはもっと幸せになるぞ。一番酷い男だった私もその輪に加わるからな」
ソフィアはもぞもぞとヴィンセントの胸の中から顔を上げて翡翠色の瞳を見つめて言う。
「ヴィンセント様の優しさは伝わっておりました。私が寝込んだときずっとついていてくださいましたから。ヴィンセント様、こんな私ですがもうヴィンセント様を諦めたくありません。ずっとお側にいさせてください」
「ソフィア?」
何度かノックをしても反応がない。耳を澄ませてみても、ソフィアが動いているような感じはなかった。ただ、カタカタと何かがぶつかっているような音がする。ソフィアは声を出せないので何かの合図かと思い、ヴィンセントはドアを開けてみた。
「ソフィア? 居ないのか?」
中へと入ってみると、もぬけの殻で先ほどの音の正体はカーテンが揺れて時折壁に当たっていたのだとわかった。
ヴィンセントが窓辺へと近づき、空いたままの窓から外を確認すると、強烈な西日の中、そう数は多くない行き交う人々の中にソフィアの背中を見た。服装も町の者とは違うし、何よりずっと見つめてきた背中だ、ソフィアだと確信した。
(窓から逃げ出したのか? ソフィアが?)
驚きから醒めると、ヴィンセントは踵を返し、部屋から飛び出した。つい先ほど登ってきた階段を駆け下りると、騒ぎが収束した大広間を抜けていく。
「おい、ヴィンセント! 一人でどこへ行くんだ!」
椅子を起こしていたレスリーに呼び止められたが、止まらずに「あとで話す!」と返して宿屋を出ていった。
ソフィアが何故部屋から出ていったかはわからないが、遠くに行ってしまいそうで気が急いた。港町メルンは数回しか来たことのないヴィンセントだったが、ソフィアが向かっているのは海の方角だということだけはハッキリしていた。
美しい夕焼けがあまりにも眩しすぎて、目を細めながら走った。
「ソフィア!」
呼びかけて止まる人がいたらソフィアだ。そう思って大声で呼ぶが、足を止めた婦人たちにはまるで見覚えがない。
一方、ソフィアは自分の名を呼ぶ声に気が付き、慌てて建物の陰に身を潜めていた。
(ヴィンセント様だったような気がするけれど……ここにいるはずがないわ。じゃあ、レスリー様? それともグレゴリー?)
レスリーなら隠れる必要はないが、万が一グレゴリーだったら何をするかわからないので出ていけない。
「ソフィア! どこにいる!」
また名を呼ばれて建物から顔を出した。やはりヴィンセントの声にそっくりだ。それが空耳だとしても、グレゴリーではないだろうと踏んで声がする方へと移動する。
刺すような西日に辺りを探し回る男性のシルエットが浮かぶ。顔ははっきり判別できないが、ソフィアはその人がヴィンセントだと確信した。ずっと密かに想いを募らせ見つめてきたのだから間違いない。ただ、その人はソフィアに気が付かずにまた走り出そうとしていた。
「ヴィ……ンセント様!」
呼び止めたい一心で声を上げると、これまでどう頑張っても出なかった声が出た。ソフィアはそのことに自分でも驚いたが、その人物もクルリと向きをかえて言った。
「ソフィア。声が、声が出るようになったのか?」
やはりヴィンセントだった。ソフィアは口に手を当てながら頷いた。
「ヴィンセント様がいらしたから、どうしても呼び止めたくて……」
久々の発声に声がかすれてソフィア自身もどかしい。ヴィンセントはソフィアのもとに歩み寄ってきた。
「そうか。それよりもソフィア、君に言いたいことがあるのだ」
ソフィアも言いたいことがあった。しかも、今なら言えるとも思って口を開く。
「私もです、ヴィンセント様。ずっと隠しておりましたが、私はヴィンセント様を心からお慕いしております。離れたくなく──」
ヴィンセントはソフィアの告白に破顔一笑して、手を伸ばした。ソフィアの手を取るとそのまま手の甲に口づけをした。
「先に言うとは。私が言いたかったのに。ソフィア、私は君を失いたくない。兄に渡すこともできない。私と改めて夫婦として生きていって欲しい。ソフィア、君を愛しているんだ」
そこでヴィンセントはキャサリンに言われたことを思い出して付け加える。
「少し前にクリスティンとは別れた。ソフィアだけを愛すと誓う。私と夫婦になってもらいたい」
ソフィアは呆然と立ち尽くしていた。何が起こっているのか、何を聞いているのか、ただ驚きで動けなくなっていた。
「私、あの……」
嬉しくてソフィアはどうにかなってしまいそうだった。でも、レスリーと事実婚をする約束をしてしまった事実にうろたえて答えられずにいた。
「レスリー様と事実婚をする約束をしてしまっていて……」
「それは反故にして大丈夫だ。レスリーが私にソフィアのもとに行けと言ったのだから」
レスリーの優しさにソフィアはとうとう感極まって泣き出した。
「ヴィンセント様、私……結婚してからずっと幸せでした。皆さん優しくてこんなに温かく接していただいたことがなくて──」
困った顔をしたヴィンセントがソフィアのことを抱き寄せた。
「これからはもっと幸せになるぞ。一番酷い男だった私もその輪に加わるからな」
ソフィアはもぞもぞとヴィンセントの胸の中から顔を上げて翡翠色の瞳を見つめて言う。
「ヴィンセント様の優しさは伝わっておりました。私が寝込んだときずっとついていてくださいましたから。ヴィンセント様、こんな私ですがもうヴィンセント様を諦めたくありません。ずっとお側にいさせてください」
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