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はじける
はじける7
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「なんというか、我々は谷底から関係をスタートさせた。今はやっと谷から這い上がってきたと思っている。ソフィアもそう思わないか?」
ソフィアは涙を拭って、思わず笑ってしまった。その通り、本当にやっと地上についたような有り様だ。
「はい。でも長い間もがきここまで参りましたので、この先何も怖くはありません」
ヴィンセントは目を細めてソフィアを解放し、自分の肘を曲げるとソフィアがそこに手をかけるのを待った。ソフィアはその気配をくんで、手を差し入れた。そんな当たり前のことがソフィアにはとても嬉しかったし、ヴィンセントもソフィアの手が触れると微笑みかけてうなずいてみせた。
「さて、宿屋に戻ろう。やりたいことがある」
「私もレスリー様に謝罪をせねばなりません」
「奇遇だな。私もレスリーに用があるのだ」
美しい港町を並んで歩きながらソフィアはこの日を一つ残らず記憶に残しておきたいとあたりをゆっくり見渡した。カモメが建物の屋根で羽を休めているし、石畳を猫がのんびり横切っていった。
「美しい町です」
呟くとヴィンセントが足を止めて、ソフィアの視線をうかがった。
「確かに。毎年来ても良いかもしれないな。結婚記念日に」
「結婚記念日……それは今日ですか」
ソフィアが問えば「ああ、今日だ。私たちは今日から始めるのだから」と、ヴィンセントが断言した。
二人で揃って宿屋に戻ると、レスリーが見知らぬ男たちと食事を共にしていた。その数、おおよそ十人。大きなテーブルにぎゅうぎゅうになって酒を飲み交わしていた。
「お、きたきた。その様子じゃうまくいったようだね」
レスリーは上機嫌で手招きする。
「レスリー、ほんの少し居ない間に知り合いを増やしすぎだろ」
ヴィンセントが呆れて言うのを聞き、大所帯の中にいる赤ら顔の男がビールの入った杯を掲げた。
「こちらのレスリーさんに乾杯だ! 聞けば貴族らしいが、こんな親しみを感じる貴族はこれまでいなかった」
男の赤ら顔を見ていたとき、ヴィンセントの乗ってきた馬車の御者が近づいてきて、ヴィンセントに何やら耳打ちをした。ヴィンセントはうなずいて何か指示を出していた。
「ここにお集まりの諸君、この二人が我が家の弟のヴィンセントとその妻ソフィアだ。こんな美男美女の夫婦がこれまでいたか? よくよく眺めて、土産話にするといい」
レスリーはとにかくご機嫌だった。ソフィアは過剰な言葉に頬を染めたが、ヴィンセントはソフィアを見下ろし「確かに妻は世界一の美女なのだ。皆のもの、今夜はついていたな」と皆を煽る。そしてソフィアには「しかし、皆が見ているソフィアは私だけを見ていると思うと私は世界一の幸せ者だな」と小声で話しかけた。
一度姿を消していた馬車の御者が何かを持ってやってきた。それをヴィンセントは受け取り、中身を確認した。それから、一同に対し声を張る。
「さて、ここにいる皆に証人になってもらおう。特にレスリーには立会人になってもらわねば」
そう告げると箱からまばゆいネックレスを取り出した。ソフィアはそのネックレスに見覚えがあった。真紅のルビーが仄暗い店内でも存在感を発揮する。
「おお……」
男たちがどよめき、直ぐに口を閉じた。それもそのはず、ヴィンセントが留め具を外しソフィアの首にネックレスを回しはめたのだ。
「この先、何があろうとも一緒にいて欲しい。そして、この先何があろうとも私はソフィアのそばにいることを誓う」
ソフィアはヴィンセントが何を始めたのか理解した。結婚式の誓いを今ここでやり直しているのだ。
「ヴィンセント様のお傍におります。この先何が起ころうとも」
ソフィアが応えるとヴィンセントが屈み込み誓いのキスをした。
その夜、男たちはヴィンセントに酒を振る舞われ大いに盛り上がり、レスリーは二人を祝福したあとソフィアにこんなことを言った。
「結婚おめでとう。それに声が出るようになったのはダブルでめでたい。これは惜しいことをしたな。美しくて気立てもいい、しかも声まで可愛らしい子を嫁にすることができなかった。もしヴィンセントに愛想つかすようなことがあったら、私のことを思い出してくれよな。いつでも颯爽と君を攫いに行くからね」
ウィンクで締めくくるレスリーにソフィアはうっすら涙を浮かべて笑う。
「レスリー様の優しさは私の目標でございます。ご迷惑おかけしました。私も次は何かの際に大芝居をうたせてください」
ソフィアの言葉にレスリーが家族としてそっと抱擁すると、いつから近くに居たのかヴィンセントが「抱擁は一分までにしてくれ」と言い、三人で笑い合う。
(なんて幸せな時間なのかしら。私にも家族が出来たのだわ)
ソフィアは笑顔を交わしながら幸せに浸るのだった。
ソフィアは涙を拭って、思わず笑ってしまった。その通り、本当にやっと地上についたような有り様だ。
「はい。でも長い間もがきここまで参りましたので、この先何も怖くはありません」
ヴィンセントは目を細めてソフィアを解放し、自分の肘を曲げるとソフィアがそこに手をかけるのを待った。ソフィアはその気配をくんで、手を差し入れた。そんな当たり前のことがソフィアにはとても嬉しかったし、ヴィンセントもソフィアの手が触れると微笑みかけてうなずいてみせた。
「さて、宿屋に戻ろう。やりたいことがある」
「私もレスリー様に謝罪をせねばなりません」
「奇遇だな。私もレスリーに用があるのだ」
美しい港町を並んで歩きながらソフィアはこの日を一つ残らず記憶に残しておきたいとあたりをゆっくり見渡した。カモメが建物の屋根で羽を休めているし、石畳を猫がのんびり横切っていった。
「美しい町です」
呟くとヴィンセントが足を止めて、ソフィアの視線をうかがった。
「確かに。毎年来ても良いかもしれないな。結婚記念日に」
「結婚記念日……それは今日ですか」
ソフィアが問えば「ああ、今日だ。私たちは今日から始めるのだから」と、ヴィンセントが断言した。
二人で揃って宿屋に戻ると、レスリーが見知らぬ男たちと食事を共にしていた。その数、おおよそ十人。大きなテーブルにぎゅうぎゅうになって酒を飲み交わしていた。
「お、きたきた。その様子じゃうまくいったようだね」
レスリーは上機嫌で手招きする。
「レスリー、ほんの少し居ない間に知り合いを増やしすぎだろ」
ヴィンセントが呆れて言うのを聞き、大所帯の中にいる赤ら顔の男がビールの入った杯を掲げた。
「こちらのレスリーさんに乾杯だ! 聞けば貴族らしいが、こんな親しみを感じる貴族はこれまでいなかった」
男の赤ら顔を見ていたとき、ヴィンセントの乗ってきた馬車の御者が近づいてきて、ヴィンセントに何やら耳打ちをした。ヴィンセントはうなずいて何か指示を出していた。
「ここにお集まりの諸君、この二人が我が家の弟のヴィンセントとその妻ソフィアだ。こんな美男美女の夫婦がこれまでいたか? よくよく眺めて、土産話にするといい」
レスリーはとにかくご機嫌だった。ソフィアは過剰な言葉に頬を染めたが、ヴィンセントはソフィアを見下ろし「確かに妻は世界一の美女なのだ。皆のもの、今夜はついていたな」と皆を煽る。そしてソフィアには「しかし、皆が見ているソフィアは私だけを見ていると思うと私は世界一の幸せ者だな」と小声で話しかけた。
一度姿を消していた馬車の御者が何かを持ってやってきた。それをヴィンセントは受け取り、中身を確認した。それから、一同に対し声を張る。
「さて、ここにいる皆に証人になってもらおう。特にレスリーには立会人になってもらわねば」
そう告げると箱からまばゆいネックレスを取り出した。ソフィアはそのネックレスに見覚えがあった。真紅のルビーが仄暗い店内でも存在感を発揮する。
「おお……」
男たちがどよめき、直ぐに口を閉じた。それもそのはず、ヴィンセントが留め具を外しソフィアの首にネックレスを回しはめたのだ。
「この先、何があろうとも一緒にいて欲しい。そして、この先何があろうとも私はソフィアのそばにいることを誓う」
ソフィアはヴィンセントが何を始めたのか理解した。結婚式の誓いを今ここでやり直しているのだ。
「ヴィンセント様のお傍におります。この先何が起ころうとも」
ソフィアが応えるとヴィンセントが屈み込み誓いのキスをした。
その夜、男たちはヴィンセントに酒を振る舞われ大いに盛り上がり、レスリーは二人を祝福したあとソフィアにこんなことを言った。
「結婚おめでとう。それに声が出るようになったのはダブルでめでたい。これは惜しいことをしたな。美しくて気立てもいい、しかも声まで可愛らしい子を嫁にすることができなかった。もしヴィンセントに愛想つかすようなことがあったら、私のことを思い出してくれよな。いつでも颯爽と君を攫いに行くからね」
ウィンクで締めくくるレスリーにソフィアはうっすら涙を浮かべて笑う。
「レスリー様の優しさは私の目標でございます。ご迷惑おかけしました。私も次は何かの際に大芝居をうたせてください」
ソフィアの言葉にレスリーが家族としてそっと抱擁すると、いつから近くに居たのかヴィンセントが「抱擁は一分までにしてくれ」と言い、三人で笑い合う。
(なんて幸せな時間なのかしら。私にも家族が出来たのだわ)
ソフィアは笑顔を交わしながら幸せに浸るのだった。
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