廃城の泣き虫アデリー

今野綾

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病③

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 寝ていろと言われてもどこも悪くないのに横になっているのは、実はかなりしんどいのだとアデリーは知ることになった。寝返りを百回うっても、朝にならないどころか夕方にもならない。ベッドで悶絶に近い寝返りを繰り返して、とうとう起き上がった。どうせ誰も来ないのだから、部屋で縫い物をしようと決めたのだ。

 服を着たアデリーは縫いかけのシーツを取るとベッドに腰を下ろして縫い始めた。二枚のシーツを縫い合わせれば藁を詰められる。そうなると冬は藁入の暖かい布団で眠れることになるのだ。アデリーのはもうそうしてあるが、後から来た人たちのはまだシーツのままだ。

 過去を振り返ると前に使っていたアデリーの布団は羽毛入だった。今考えると、恐ろしく贅沢な物だ。

(皆……父様、母様、生きているわよね。幽閉されていたり──いいえ、きっとどこかに逃げ出して隠れ住んでるわ)

 アデリーだって逃げられたのだし、きっと家族全員生きているはずだ。

 そこで思い出し、服のポケットに手を突っ込んだ。ニコラスから貰った付け襟を入れっぱなしにしていたのだ。

 生地は綿だが、繊細な刺繍が施されている。ツタのように見えるが小麦の穂をイメージした刺繍に、小さな花が散りばめられていた。

「もうすぐ冬か……あの時はまだ夏が始まったばかりだったのに」

 生きることに夢中だったから、瞬く間に月日が流れていた。こんなに家族と離れていたなんて、今頃になって驚かされる。それと共に空恐ろしくなった。家族に会えない月日が流れていく。

「おい、アデリー」

 扉の向こうでアデリーの名を呼ぶのは、間違いなくダグマだ。アデリーはロセに指摘された自分の想いを思い出して、顔が熱くなっていた。

「体調が悪いって聞いたが、もしかして悪化したのか?」

 直ぐに返事をしないアデリーに焦れ、ダグマが「入るぞ」と宣言して扉を開けた。

 起きて縫い物をしていたのを見られてしまったが、ここで背に隠しても無意味だと布はそのままに顔を向けた。

「おいおい、真っ赤じゃねぇか。なんで寝てないんだ」
「でも、そんなに悪くなくて──」

 モゴモゴと言い訳をするアデリーに「冗談だろ。そんな真っ赤な顔をして」と、ダグマはアデリーから縫いかけのシーツを取り上げた。

「助けたばかりの時も高熱出したろ? ちゃんと寝てなきゃまた酷く寝込むぞ」

 半ば無理矢理に押し倒してアデリーを寝かせると、布団を被せた。

「ベッラが心配してたから見に来たら……」

 アデリーは布団で半分顔を隠したまま「ベッラさんに会っていたんですか?」と、聞いてしまった。

「会ってた? まぁ、会ったけど。罠に兎がかかってたんで持っていっただけだぞ? なんでそんなこと聞く」

 ほんとその通りだ。アデリーは自分でもなんて意味のないことを聞いたのだろうと後悔した。

「この頃、仲が良いのかなって……」

 もうアデリーは自分の口の中にシーツを突っ込んでしまいたかった。次から次へとどうしようもないことを言う口先が憎い。

「ん──、あ、わかったぞ」

 ポンと閃いたように手を叩いたダグマが「腕輪か」とまさしく核心をついてきた。この先を聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちでアデリーの心は葛藤していた。それなのにダグマは間髪容れずに言った。

「売ったぞ。ベッラがいたく気に入ってな。欲しいと言うもんだから。別に構わないだろ?」

 プレゼントした訳ではなかったらしい。胸をなで下ろす。

「あの、はい。もちろん、私の手からは離れたものですので構わないです」

 そこで話は終わるのかと思ったら、ダグマは意外な提案をしてきた。

「残りの装飾品なんだが、ニコラスに託してもらえないか?」
 思わず息を呑みながら声が漏れる。
「え」
「ベニートが鉄鉱石やら鉱石を必要としてるが、それにはかなりの金が必要だ。そこで、アデリーの持ってるあれと交換する形で手に入れてもらおうかと思うんだが。もちろん、嫌なら断ってもらって構わん。アデリーの装飾品で鉱石を購入して、ベニートに加工させて、製品を売る。鉱石の三倍以上の値が付くから、材料費を引いた分を折半。要するに簡単に言えば、金貨一枚で材料を買って、加工して売れたら金貨三枚。それをベニートの取り分、金貨一枚を引いた残りがアデリーの元に戻ってくる訳だ」
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