幼女革命

鼻太郎

文字の大きさ
1 / 4
アメリカ帰りの小英雄

新大陸にて

しおりを挟む
 私が死んだとき、神の声が降りてきて、私は兎のような生物を視認して、その後光の差す兎、いや、神とおもわしきモノから慇懃《いんぎん》に申し付けられた。
「お前ほど信心深い人間も少ないな、最近は特に。死してなお示現を見るか」
「ええ、まったく私は信心深い女でした」
 私は平然と、軍人然としているとすらいえるほど簡潔に答えた。自分が殺人事件で殺されたことはすでに自覚している。ということは、ここは神の裁判を受ける雲上か、そんなところだろう。
「ところで、愚痴を聞いてくれるかね」
「なんなりと」
 私は身体の自由を感じて、兎の前にひざまずいた。
「いかなる問題を貴女様は俎上《そじょう》にいただかれますか?」
「私の弟のことだ」
「神にも弟様がいらっしゃる?」
「私の弟も神だが、半端者なのに世界を好きなようにいじくり回して遊んでおる。今、私は神々の作る世界のプロトタイプとしてお前の生きていた地球世界を作っているが、弟はそれに無駄な創意工夫をして飾り立て、遊んでいるのだ。お前にはその世界に下って歴史を正してもらいたいのだが、どうだ」
「私に神の弟の邪魔をしろと? しかし、そんなことが可能なのでしょうか」
 私は星を食ったような話に半信半疑だったが、神の言うことは絶対だと思い直した。なにごとも御心のままに。聖母マリアが処女出産をしたように痛みに耐えようじゃないか。
「して、神の弟が世界に施した誤謬《ごびゅう》はいかなるものでしょうか」
「発想は貧弱だ。魔法の概念を実現してしまった」
「それは二十一世紀でしょうか」
「いや、弟が物見遊山を楽しんでいるのは十八世紀ごろのはずだ」
「もしや……十八世紀で楽しむ、というと、――フランス革命でしょうか」
「その通りだ」
 私は神の弟に犬糞で出来たホールケーキをぶちまけたくなった。敬虔な清教徒の私といえども、「神か、自由か」とまで啓蒙学者たちが唱えた人権の大時変、フランス革命を見物して操るとは、その神の弟であるがために悪趣味に過ぎる。
「いささか悪趣味が過ぎる事案かと思われますが」
「ふむ、そこで、だ。私の弟は、今人間としてフランスにいる。私から姿かたちを隠してな。お前には弟の世界に降り立って、弟を暗殺してほしいのだ」
 なるほど。これは大ごととなった。
「私に神の親族を暗殺せよ、と」
「お前は私の力で我が使徒とする。フランス革命期のヨーロッパに降り立ち、私の弟を殺せ」
「……反駁《はんばく》の一つもありません。しかし、悪趣味な神の弟……いうなれば神弟もいたものですね」
「まあ、お前以外にも刺客は送り込む予定だ。励んでくれ。では、往きたまえ、万歳《ヴレーヴ》」
「万歳《ヴレーヴ》」
 そして私の意識は横転し、前後左右も分からなくなり――。

 一般的に、フランス革命はフランス国王ルイ十六世が新世界の弱小国家アメリカの独立戦争に肩入れしたために、イギリスと対立するだけでなく財政破綻を起こし、それを正常化させるためにスイスの投資家ネッケルが財務大臣となって特権身分である聖職者と貴族から免税特権を奪おうとしたことから端を発する。
 つまりは「王と貴族の革命」だったのだ。
 それがいつの間にか、「平民の革命」となったわけである。
 だが、急ぐまでもなく、私は覚醒した時、まだ赤子で、言葉もほとんど分からず、ただただ「フランちゃん、お口開けて」と母親か乳母のような女性にあやされていることしか、感覚に無かった。
 聞こえたのは海鳴りでも地鳴りでもなく、気付いた時には私はいかにも赤ん坊らしく「ほぎゃあほぎゃあ」と泣いていたのだ。
 それが私のこの世界での姿、「フランソワーズ・リモー」の幼少期だったのだ。
 まさに口内に雷雲を放り込まれたような苦くも酸っぱい敗北感が、幼い私には漠然と感じられた。歩けるようになったらすぐに行動を起こそうと考えていた。
 
 ――それから数年。
 幼いながらも、私は神の使徒とされただけあって、魔力に優れた能力を持っていた。魔法が得意で、運動神経も高かった。
 私が生まれたのは元の世界とはところどころズレた歴史を歩んできたフランスであり、私は流行りのジャン=ジャック・ルソーら啓蒙主義学者たちのリベラルな思想に影響された弁護士、ハウバー・リモーの娘として生まれていた。
 ハウバーは元孤児で、身一つで弁護士となった、いわゆる小ブルジョワだ。
 私個人はといえば、父ハウバーのなけなしの金を使って新大陸アメリカへ渡り、余った金を統べて投じてアメリカ独立戦争を共に戦うための同志を探していた。
 この世界には、神弟の奴の発案で魔法があり、その魔法と言う火力が最大限発揮されるのは、よく訓練された「魔導騎兵」として、機動力を持った砲台、つまり戦車の真似事をする兵科としてあるべきだと私は考えていた。
 私がアメリカを目指して蒸気船に乗っている時、私は共に我が家のたった二人の侍従の中から、乳母のソラーニャを連れていた。私自身はまだ十歳にもなっていなかったが、見分を広げるためにと父は自由にさせてくれていた。
 おかげで私は故郷プロヴァンスの一部では、「小ブルジョワの金食い娘」と揶揄される有り様だった。
 なにはともあれ、アメリカの片田舎に到着した私は、私自身も地方出身とはいえ、この時代では世界一の強国であるフランスからやってきたということもあり、アメリカの貧乏臭さがなんとも慣れなかった。
 私は魔導騎兵を養成するためにカネで数人の魔法使いを雇い、魔導騎兵として数か月かけて育成し、いくつかの実戦を超え、軍功をちょこまかと上げて大陸軍から傭兵としてカネを受け取った。
 それを元手にさらに数人の魔導騎兵を育てるといううやり方を地道に続け、イギリス兵に畏怖されるために頭部と顔面を白い布で隠す幽霊のような軍装も相まって、いつしか私たちの部隊は名を広げていた。
 いわく、「オーケストラ」と。
 それが私たちの名前だった。
 その馬蹄の音が鳴り響くと、次には大規模魔術砲撃の砲撃音が連なり、戦場音楽となって相手を威圧することから、私たちはオーケストラと名付けられていたのだ。
 その部隊長である私は「マエストロ」と呼ばれていた。
 このオーケストラと、私のマエストロという肩書が、順当にアメリカがイギリスに勝てば、古郷フランスでの語り草になるだろうという打算もあっての日々だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...