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そしてヴェルサイユと戦争だ
森を焼け
しおりを挟む私はヴェルサイユに入ると、パリにはあまりない森に目を付けた。
どうせこのままアメリカ帰りだ、ドーフィネ州三部会副議長だと名乗っても、国王やネッケル財務長官には無視されるだろう。
ところで、国王は錠前弄りと狩猟が趣味だと聞く。このヴェルサイユでも、遠くから犬の声がするからには、やはり連日国王をはじめとする貴族が狩猟で猪でも追っているのだろう。あれは猟犬の吠える声に違いない。
ヴェルサイユの森は国王の愛着ある庭というわけだ。
ここで一戦、小さな戦場をこしらえるのが肝要、と私は見た。
「お前ら、森の木々を魔砲撃で打ち倒せ」
「は?」
ビギン・ダランが間抜け面でこちらを見てから、さすがにそれはまずいと私を掣肘《せいちゅう》しようとしたが、私自ら自慢のバカでかい魔力で一気に辺り一面の木々を焼いてしまった。
「マエストロ! ヴェルサイユと戦争するつもりですか!」
ビギン・ダランたちが悲鳴を上げる。
だが私は冷静に微笑み、涼しい顔をして言う。
「いいや、これは国王陛下を守っているのだ。それに他の内閣や、ネッケル財務長官すらも守るために、私は魔砲撃訓練をしているだけだ。傭兵が木を的に魔砲撃を訓練することは誰でも知っている。国王陛下のお側であるヴェルサイユでこそ、怠けてはいられない。訓練に精進せねば。だろう、ビギン?」
魔導刀を振りかざし、辺り一面を炎の砲撃で焼き払う私に、乳母のソラーニャがさすがに止めに入ろうとする。だが、それを小隊長の一人、アウシュツ准尉が止める。若い女性ながら、私の側役の一人だった。ビギン・ダラン伍長と同じ、「アメリカ組」である。私の率いる「オーケストラ」の中で、「フランス組」は国王こそが民衆を導くと信じている。良くも悪くも反貴族的であって、親国王派なのだ。
一方「アメリカ組」はルイ十六世を真っ向から否定している。だから、ソラーニャなどのフランス組は私の暴挙に驚いたが、アメリカ組は進んで従った。
「マエストロ、ヴェルサイユと一戦構えますか」
私はどす黒い笑みを浮かべた。
「アメリカ帰りの軍事ブルジョワと表立って国王が敵対するはずがない。せっかくルイ十六世の肝いりの政策で膨大な戦費を費やして勝ち取ったアメリカ独立なのに、イギリスに睨まれるだけでなく、戦功ある軍事ブルジョワの我々を潰せばアメリカが黙っていない。イギリスとアメリカを敵に回せばあの戦争には何の意味もなくなるからな。だから、私たちは決して弾圧されない。我々はただ暴れまわって、ネッケルを引っ張り出せればいい。国王陛下まで引っ張り出そうというわけではない。さあ、ヴェルサイユと戦争だ」
「ヴルーヴ! マエストロ、ヴルーヴ!」
オーケストラが今度こそ一致団結して森を砲撃し始める。
音に誘われるように貴族たちが森から現れ、怒号を上げてきた。
「ここは王侯貴族御用達の狩猟場だぞ! お前ら分かって、がっ……」
貴族が能書きを垂れている間に、私はアウシュツ少尉に私は「あの寄生虫を撃ち殺せ」と命じて、アウシュツ少尉が魔砲撃で貴族たちを吹き飛ばした。
しばらく小競り合いが続くと、貴族たちは逃げ出し、その代わりに街道をフランス国王に命じられたか、フランス衛兵隊が中隊規模で押し寄せてきたが、私はフランス衛兵隊に手を出すつもりはなかった。
むしろ自ら将校下士官たちを率いて乗り込んだ。
「オーケストラの方々ですね。なぜ貴族の方々を殺害しているのか、なんらかの定見でもありましたら弁明を」
フランス衛兵隊が慎重に言葉を選んだ。なにせオーケストラはいわば騎兵機動力を持った砲門が五十門並んでいるようなわけで、いかに国王直属のフランス衛兵隊といえど、簡単に敵に回せるわけがないのだ。
「オーケストラなど、ヴェルサイユにはいない。オーケストラが現れるとしたら、それは国王陛下の招集によるものである。オーケストラがやってくるのはいつのことでしょうな」
「……なるほど。マエストロ殿は一介の傭兵の分際で国王陛下にお目通り叶うとでも?」
「失礼、貴殿はこの中隊の指揮官のようですが、お名前は?」
「チューラッハ中尉だ」
「チューラッハ中尉、国王陛下は公然とスイス人とドイツ人の傭兵を主戦力としているではありませんか。同じフランス人であるあなた方が我々をなかなか攻撃できないのは、あなた方だってそういう外国人傭兵に敵愾心《てきがいしん》を持っているからだろう。……チューラッハ中尉、腹を割って話そう。諸君らが守っているのは国王陛下であって、貴族ではない。そして、スイス人やドイツ人の傭兵と同じく、我々もアメリカ帰りの傭兵だ。利害関係は国王陛下のこと以外はどうでもいいという点でまったく一致している。我々はネッケル財務長官と会うだけでも、もう森は焼かない。つまりはお互いに落としどころと言うものを提示し合おうというわけだ。分かるだろう、フランス人同志よ」
「……早急にネッケル財務長官へ面会を俎上《そじょう》に上げて吟味してもらおう。それまで、この騒動はひとまず名実ともに無いものとして鎮静化願いたい」
「ああ、もちろんだ」
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