幼女革命

鼻太郎

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アメリカ帰りの小英雄

ドーフィネ州三部会

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 全国三部会の開催「公示」はすでに行われ、フランス全土で選挙活動を始めようかどうかという話になっている。だが、あくまで「公示」であって「公布」ではないとするのが国王政府の方針だ。ようするに、
「ネッケルめ、怯えてやがる」
 私は馬で走りながら北を見た。すでにヴェルサイユは糸杉の森で見えなくなっていた。
「ネッケルからすれば、国王に貴族へ譲歩しろというのが全国三部会だ。国王の説得が難航しているな。いざという時、胆が据わっていないから、平民には政治が出来ないと貴族たちに馬鹿にされるんだ。あの平民大臣め、地金が出たな」
 私がドーフィネの州都グルノーブルに着いた頃、すでに街中では相次ぐパン不足と財政破綻による物価高騰で人々の人いきれに苛立ちが満ち満ちていた。
 イゼール川を南東に進むと、いよいよグルノーブル市街地は荒れ果てていた。
 私がすぐに目指したのはグルノーブル中心に位置するポール・ミストラル公園だった。すでにそこでは州都兵隊と民衆がにらみ合っていた。
 そこへ我らがオーケストラの戦場仕込みの音楽が馬蹄音となって突っ込み、まっすぐに私が先頭を走って兵隊と民衆の間にいきなり爆竹のごとく破裂魔法で威力の無い衝撃魔砲撃をぶっ放すと、でんとその場に陣取った。ここまでは良い。だが、この私、フランソワーズ・リモーには、決定的な欠点があった。
 ――演説映えしないのだ。
 外見そのものもたかが十歳にもならない子供であるし、演説映えしないということは言論の場において急所たり得るほどの難点だった。
 広場に陣取った魔導騎兵五十騎が何者かとすぐに両者から声が上がった。そこで私は顔に被せた白布を取って、市民ではなく兵隊たちになるべく大声で、ほとんど悲鳴のような金切り声を発した。
「国王とネッケルがいつまでも貴族との交渉をしていて、この片田舎のグルノーブルにはまともな選挙活動も抑えられ、いざ占拠が始まったとてそれはフランスの国難を救うとしてもいつこのグルノーブルそのものを救ってくれると言うのか。王はこの国の宝だ。だが、貴族の陰謀と言うキーワードはすでに語られ回って庶民も常に頭を悩ませている。ならば、グルノーブルのことはグルノーブルが決めようではないか。いますぐドーフィネ州三部会を組織し、全国三部会の先例たらんと私はここにグルノーブルからドーフィネ州三部会の選挙を始めることを宣言する。兵隊と庶民がにらみ合っていたようだが、兵隊の諸君だって同じフランス人なのだ。それも庶民出身がほとんどだ。なにせこのフランスは人口の九割七分が平民なのだから。さあ、今ここにいるのは、そう、兵隊と、一般市民である。どちらもアメリカ流に言えば同じ『市民』に違わない。その他には貴族も聖職者もいない。政治のために戦おうとしているのはまさに市民たちそのものなのだ。であるならば、三部会を市民のための戦場としてあつらえることに、私はいささかも疑念はない。さあ、同じ市民同士だ。貴族と聖職者が来る前に代表者六百人を決めてしまおうではないか!」
 私の演説の直後、雨の上がった池の水面のごとく静まった群衆が、あきらかに動揺して、私に誰かが声を上げた。
「お前は誰だ」
 そこで私はがなった。
「つい先日アメリカから帰ってきた、フランソワーズ・リモーだ!」
 アメリカ帰りか……と、群衆が目の色を変えた。いかにもオーケストラは小規模ながら戦功のある英雄なのだ。いや、小英雄というべきか。
 いかにアメリカ帰りとはいえ、あの両世界の英雄と謳われるラ・ファイエットのようには有名でないが、一目置かれるべき存在だ。
 群衆はこの時にようやくコントロールの取れたものとなり、私を中心に集会がその日から連日続き、一日目に私は重要なことの二つをすぐさま採択させてしまった。もし特権階級が反対すれば千以上の群衆で圧死させる体制を整えてのことだ。
 一つ目は州三部会は第三身分、つまり平民が六百。第一身分の聖職者と第二身分の貴族はそれぞれ三百が定数だとした。
 もう一つは、議決は部会ごとに決めて三身分が一票ずつ持つのではなく、全議員が一票を持って頭数投票をできるようにすること。
 そして、文句があれば私たちオーケストラが群衆を率いて暴動を起こすと言って脅し続けた。
 そうして枠組みが整った後は、さっそくドーフィネ州三部会を開催することで既成事実を作り、私は周りから議長にと進められても断って副議長の片割れに落ち着き、その形だけの肩書を背負って、今度は返し刀で北部フランス、ヴェルサイユへと突撃した。
 もちろん、ネッケルに入れ知恵をして、全国三部会をドーフィネ形式に則《のっと》って行わせるためだ。
 全国三部会には一六一四年方式の、貴族と聖職者有利の方式と今起こしたばかりにドーフィネ方式、どちらかが選ばれるだろう。そこが初めの天王山だ。
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