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☆第8話 気になる人
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「倉松紅さんの詩、素敵よね。でも今の小夜子には少し大人の本ではないかしら?」
そう言って、小夜子が胸に握りしめている本を優しく見つめる。
「うーん。でもまぁ、読んだら、何かしら得るものがあるでしょう。それって大切なことだから、私がとやかく言うことではないわね。……本当に喜んでもらえて良かったわ」
当初「小夜子にはまだ早いのではないか」と、少し考え込んでいた夏季だったが、今では納得がいったのか、にこりと優しく明るく笑う。
しばらく微笑んでいると、夏季は何かを思い出したのか、突然「あ!」と叫んで、小夜子の方に向き直ってこう言った。
「その他にも気になる本があるのなら、また注文しておくけれど。何かあるかしら?」
先程本を取り出した、棚の下の方にある木製の引き出しから、分厚い本のリストを取り出すと、夏季はそれを小夜子の方に差し出した。
しばらくそのリストを黙って眺めていた小夜子は、突然何かを思い出したのか、「あ!」と大きな声で叫ぶと、急いで夏季の両肩に自身の両の手を置いた。
150センチメートルにも届かない小夜子が、170センチメートル近くある夏季の両肩に両手を置こうとすると、踵が地面から少し浮く。
ふらふらと足下をふらつかせながら「あのね、なっちゃん、あのね!」と必死に叫ぶ小夜子に、「小夜子、ちょっと、落ち着きなさいな」と半ば呆れながら、夏季はふらふらして覚束ない小夜子の踵を地面に着地させた。
そして顔を真っ赤にして興奮する小夜子を落ち着かせると、夏季は小夜子の方にチラリと目をやった。
「……また、お目当ての詩人を見つけたのね?」
そう言いながら夏季は、先程レジの横の台の上に置いた本の山に手をかける。
胸の前で拳を作り、それを前後に激しく振る小夜子に夏季は苦笑した。
そんな夏季の様子に気が付かずに、小夜子は振っている拳の速度を上げると、唐突に夏季にこう切り出した。
「うん!あのね、この間市立図書館で見つけたの。天野柚木也さんっていう人なんだけどね」
「天野柚木也?」
「うん!あ!なっちゃん、知っているのかなぁ?」
早口でまくしたてるかのように話す小夜子とは対照的に、夏季は急に静かになった。
そして目の前で山積みになっている本の表紙を、夏季はじっと黙って見つめていた。
しばらく黙り込んでいた夏季が、その山の一番上に置かれていた本の表紙を、ゆっくりと右手の人差し指でなぞる。
レジの横に小さなストーブを置き、室内に暖房をかけてはいるものの、冬の外気によって冷やされた店内は、ひんやりとしていて時折寒く感じた。
「小夜子はその詩人が気になるの?」
本に触れていた右手を、今度は自身の右頬にあてながら夏季が呟く。
夏季の頬にあてられた、白くて細くて長い指に見惚れていた小夜子は、急にハッとすると、頭を数回前後に激しく振って、慌てて夏季に返事をした。
「う、うん!そうなの!」
しばらく視線を天井に向けて、何か考え事をしていた夏季が、おもむろに口を開いた。
「そうなのね。そうしたらまた、本を注文しておいてあげるわ」
そう言うと夏季は、棚の奥から分厚い伝票サイズの本の注文票を取り出して、小夜子の前に差し出した。
「ここに名前と連絡先を書いてくれるかしら?」と言いながら、夏季は本の注文票の名前の欄と、連絡先の欄を右手の人差し指で指差す。
――何か私、変なことを言ったのかなぁ?
いつもより抑揚がない声で話す夏季を不思議に思いながら、小夜子は差し出された本の注文票に、自分の名前と自宅の電話番号を記入した。
その心はまるで漣が立ったかのようで、波が立った小夜子の心は中々落ち着く事が出来なかった。
そう言って、小夜子が胸に握りしめている本を優しく見つめる。
「うーん。でもまぁ、読んだら、何かしら得るものがあるでしょう。それって大切なことだから、私がとやかく言うことではないわね。……本当に喜んでもらえて良かったわ」
当初「小夜子にはまだ早いのではないか」と、少し考え込んでいた夏季だったが、今では納得がいったのか、にこりと優しく明るく笑う。
しばらく微笑んでいると、夏季は何かを思い出したのか、突然「あ!」と叫んで、小夜子の方に向き直ってこう言った。
「その他にも気になる本があるのなら、また注文しておくけれど。何かあるかしら?」
先程本を取り出した、棚の下の方にある木製の引き出しから、分厚い本のリストを取り出すと、夏季はそれを小夜子の方に差し出した。
しばらくそのリストを黙って眺めていた小夜子は、突然何かを思い出したのか、「あ!」と大きな声で叫ぶと、急いで夏季の両肩に自身の両の手を置いた。
150センチメートルにも届かない小夜子が、170センチメートル近くある夏季の両肩に両手を置こうとすると、踵が地面から少し浮く。
ふらふらと足下をふらつかせながら「あのね、なっちゃん、あのね!」と必死に叫ぶ小夜子に、「小夜子、ちょっと、落ち着きなさいな」と半ば呆れながら、夏季はふらふらして覚束ない小夜子の踵を地面に着地させた。
そして顔を真っ赤にして興奮する小夜子を落ち着かせると、夏季は小夜子の方にチラリと目をやった。
「……また、お目当ての詩人を見つけたのね?」
そう言いながら夏季は、先程レジの横の台の上に置いた本の山に手をかける。
胸の前で拳を作り、それを前後に激しく振る小夜子に夏季は苦笑した。
そんな夏季の様子に気が付かずに、小夜子は振っている拳の速度を上げると、唐突に夏季にこう切り出した。
「うん!あのね、この間市立図書館で見つけたの。天野柚木也さんっていう人なんだけどね」
「天野柚木也?」
「うん!あ!なっちゃん、知っているのかなぁ?」
早口でまくしたてるかのように話す小夜子とは対照的に、夏季は急に静かになった。
そして目の前で山積みになっている本の表紙を、夏季はじっと黙って見つめていた。
しばらく黙り込んでいた夏季が、その山の一番上に置かれていた本の表紙を、ゆっくりと右手の人差し指でなぞる。
レジの横に小さなストーブを置き、室内に暖房をかけてはいるものの、冬の外気によって冷やされた店内は、ひんやりとしていて時折寒く感じた。
「小夜子はその詩人が気になるの?」
本に触れていた右手を、今度は自身の右頬にあてながら夏季が呟く。
夏季の頬にあてられた、白くて細くて長い指に見惚れていた小夜子は、急にハッとすると、頭を数回前後に激しく振って、慌てて夏季に返事をした。
「う、うん!そうなの!」
しばらく視線を天井に向けて、何か考え事をしていた夏季が、おもむろに口を開いた。
「そうなのね。そうしたらまた、本を注文しておいてあげるわ」
そう言うと夏季は、棚の奥から分厚い伝票サイズの本の注文票を取り出して、小夜子の前に差し出した。
「ここに名前と連絡先を書いてくれるかしら?」と言いながら、夏季は本の注文票の名前の欄と、連絡先の欄を右手の人差し指で指差す。
――何か私、変なことを言ったのかなぁ?
いつもより抑揚がない声で話す夏季を不思議に思いながら、小夜子は差し出された本の注文票に、自分の名前と自宅の電話番号を記入した。
その心はまるで漣が立ったかのようで、波が立った小夜子の心は中々落ち着く事が出来なかった。
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