詩《うた》をきかせて

生永祥

文字の大きさ
8 / 54

☆第8話 気になる人

しおりを挟む
「倉松紅さんの詩、素敵よね。でも今の小夜子には少し大人の本ではないかしら?」

 そう言って、小夜子が胸に握りしめている本を優しく見つめる。

「うーん。でもまぁ、読んだら、何かしら得るものがあるでしょう。それって大切なことだから、私がとやかく言うことではないわね。……本当に喜んでもらえて良かったわ」 

 当初「小夜子にはまだ早いのではないか」と、少し考え込んでいた夏季だったが、今では納得がいったのか、にこりと優しく明るく笑う。

 しばらく微笑んでいると、夏季は何かを思い出したのか、突然「あ!」と叫んで、小夜子の方に向き直ってこう言った。

「その他にも気になる本があるのなら、また注文しておくけれど。何かあるかしら?」

 先程本を取り出した、棚の下の方にある木製の引き出しから、分厚い本のリストを取り出すと、夏季はそれを小夜子の方に差し出した。

 しばらくそのリストを黙って眺めていた小夜子は、突然何かを思い出したのか、「あ!」と大きな声で叫ぶと、急いで夏季の両肩に自身の両の手を置いた。

 150センチメートルにも届かない小夜子が、170センチメートル近くある夏季の両肩に両手を置こうとすると、踵が地面から少し浮く。

 ふらふらと足下をふらつかせながら「あのね、なっちゃん、あのね!」と必死に叫ぶ小夜子に、「小夜子、ちょっと、落ち着きなさいな」と半ば呆れながら、夏季はふらふらして覚束ない小夜子の踵を地面に着地させた。

 そして顔を真っ赤にして興奮する小夜子を落ち着かせると、夏季は小夜子の方にチラリと目をやった。

「……また、お目当ての詩人を見つけたのね?」

 そう言いながら夏季は、先程レジの横の台の上に置いた本の山に手をかける。

 胸の前で拳を作り、それを前後に激しく振る小夜子に夏季は苦笑した。

 そんな夏季の様子に気が付かずに、小夜子は振っている拳の速度を上げると、唐突に夏季にこう切り出した。

「うん!あのね、この間市立図書館で見つけたの。天野柚木也さんっていう人なんだけどね」
「天野柚木也?」
「うん!あ!なっちゃん、知っているのかなぁ?」

 早口でまくしたてるかのように話す小夜子とは対照的に、夏季は急に静かになった。

 そして目の前で山積みになっている本の表紙を、夏季はじっと黙って見つめていた。

 しばらく黙り込んでいた夏季が、その山の一番上に置かれていた本の表紙を、ゆっくりと右手の人差し指でなぞる。

 レジの横に小さなストーブを置き、室内に暖房をかけてはいるものの、冬の外気によって冷やされた店内は、ひんやりとしていて時折寒く感じた。

「小夜子はその詩人が気になるの?」

 本に触れていた右手を、今度は自身の右頬にあてながら夏季が呟く。

 夏季の頬にあてられた、白くて細くて長い指に見惚れていた小夜子は、急にハッとすると、頭を数回前後に激しく振って、慌てて夏季に返事をした。

「う、うん!そうなの!」

 しばらく視線を天井に向けて、何か考え事をしていた夏季が、おもむろに口を開いた。

「そうなのね。そうしたらまた、本を注文しておいてあげるわ」

 そう言うと夏季は、棚の奥から分厚い伝票サイズの本の注文票を取り出して、小夜子の前に差し出した。

「ここに名前と連絡先を書いてくれるかしら?」と言いながら、夏季は本の注文票の名前の欄と、連絡先の欄を右手の人差し指で指差す。

――何か私、変なことを言ったのかなぁ?

 いつもより抑揚がない声で話す夏季を不思議に思いながら、小夜子は差し出された本の注文票に、自分の名前と自宅の電話番号を記入した。

 その心はまるでさざなみが立ったかのようで、波が立った小夜子の心は中々落ち着く事が出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

哲子67歳★恋して焦げて乱れ咲き♪

obbligato
恋愛
67歳、二次元大好き独身女子のぶっとんだ恋愛劇。 ※哲子は至って真面目に恋愛しています。

そうして君は僕を知る

琉慧
恋愛
 人は誰しも、他人には明かす事の出来ない悩みを持っている。 綾瀬優紀も例に漏れず、とある悩みを抱える高校生であった。  悩みとは、誰かに打ち明け、共感を得る事によって状態が好転する場合もある。 しかし彼の場合、自らの抱える悩みを打ち明かしたとしても、誰からも共感される事など無いだろう。  だから彼は語らない。 その頑なな黙秘が自分を騙し続ける行為であると知りながらも。 「僕は私(ぼく)を認めない」

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...